原町中央店へ1週間だけ戻った浜谷はいつものように開店準備が始まる。
景品を並べ直し、テストプレイを終え、メダルゲームを立ち上げ、店内を一周する浜谷。
その横で茂田が景品を抱えながら声を掛けた。
「琉くん。」
「はい。」
「その景品こっちお願いニダ。」
(……ん?)
浜谷は一瞬だけ手を止めた。
「ありがとうございます。」
返事をしながら首をかしげる。
(最近、茂田さんニダ多くない……?)
元々よく言う人だ。
だから今日は特に多いだけだろう。
そう自分に言い聞かせた。
開店。
店内に子どもたちの笑い声が広がる。
クレーンゲームには親子連れ。
メダルコーナーでは常連のおじいちゃんたち。
いつもの原町中央店だった。
その時。
インカムから石村の声が聞こえる。
「石村、向かいまーす。」
(普通だ。)
浜谷は安心した。
しかし数秒後。
石村がお客様の前で頭を下げる。
「お待たせしましたニダ。」
「こちらですねニダ。」
「ありがとうございニダ。」
浜谷の動きが止まる。
(……今、言ったよね?)
石村は何事もなかったように接客を続ける。
浜谷は目をこする。
「気のせい……?」
メダルコーナーを見る。
山神が常連のお客様と話していた。
「おぅ。」
(よかった……。)
だが。
「おぅニダ。」
「え?」
浜谷は二度見した。
その横では日村がメダルゲームを開けている。
「アリガトゴザイマス…ダ。」
(ん?早口で聞き取れなかった…でもきっと…)
「浜谷くん。」
「メダルお願いニダ。」
「日村さんまで!?」
日村は真顔だった。
「どうしました?」
「いや……今……」
「早くお願いニダ。」
「増えてる!!」
違和感が少しずつ広がっていく。
そこへ高崎がぬいぐるみを抱えて走ってきた。
「琉くーん!」
「このぬいぐるみニダ補充お願い!」
「そこに付けるんですか!?」
高崎は首をかしげる。
「何言ってるニダ?」
「普通ニダ。」
「普通じゃないですよ!!」
その横を藤屋が書類を持って歩いてくる。
「浜谷くん。」
「報告します。」
「景品補充、完了しました。」
(藤屋さんは大丈夫……。)
「以上ニダ。」
「やっぱりぃぃぃ!!」
藤屋は首をかしげる。
「何か問題ありましたニダ?」
「全部問題です!!」
クレーンゲームでは相馬がお客様対応をしていた。
「もう少し右から狙ってみてくださいニダ。」
「きっと取れるニダ。」
「相馬さんも!!」
男の子が笑う。
「うんニダ!」
母親。
「頑張ってねニダ。」
浜谷は絶叫した。
「親子まで感染してる!!」
その直後。
インカム。
「大沼、大丈夫ニダ。」
「混ざってるぅぅぅ!!」
さらに川原が小走りでやってくる。
「浜谷さん!」
「次何すればいいですか!?」
「景品補充?」
「接客?」
「掃除?」
(正常だ……!)
「それとも……ニダ?」
「最後だけ付けるな!!」
浜谷は思わず叫んだ。
店内が静まり返る。
全員が浜谷を見る。
「み、みんな……気付いてないんですか?」
沈黙。
茂田が首をかしげる。
「何がニダ?」
石村。
「どうしたニダ?」
山神。
「おぅニダ。」
日村。
「大丈夫ですニダ。」
高崎。
「休憩するニダ?」
藤屋。
「報告しますニダ。」
相馬。
「無理しちゃダメニダ。」
大沼。
「大沼、大丈夫ですニダ!」
川原。
「浜谷さんも言うニダ!」
浜谷は一歩後ずさる。
「やめてください……。」
その瞬間。
店内放送が流れる。
『本日もご来店ありがとうございますニダ。』
『本日のイベントはニダ祭りですニダ。』
「やっぱりぃぃぃ!!」
お客様まで変わり始める。
「すみませんニダ。」
「景品取れないニダ。」
「両替お願いニダ。」
「トイレどこニダ。」
「ありがとうございましたニダ。」
小さな子ども。
「ママ、あれ欲しいニダ!」
母親。
「今日は一個だけニダ。」
父親。
「約束したニダ。」
赤ちゃん。
「にだー!」
「赤ちゃんまでぇぇぇ!!」
インカムも侵食される。
「レジ応援お願いします。」
「了解ニダ。」
「了解ニダ。」
「メダル補充ニダ。」
「クレーン対応ニダ。」
「休憩入りニダ。」
浜谷は耳を塞ぐ。
「うるさぁぁぁぁい!!」
その時。
メダルゲームからエラー音。
ピーピーピー!!
「浜谷くん!メダルエラーお願いニダ!」
浜谷が走る。
画面を見る。
【NIDA ERROR】
「なんだこれはぁぁぁ!!」
振り返ると、茂田が静かに立っていた。
「もう遅いニダ。」
「ニダは……感染するニダ。」
その瞬間。
スタッフの名札が光る。
石ニダ
山ニダ
日ニダ
高ニダ
藤ニダ
相ニダ
大ニダ
川ニダ
浜谷だけがそのままだった。
「名前まで侵食されてる!!」
逃げるしかない。
浜谷は店を飛び出す。
「阿佐野店なら!」
タクシーへ飛び乗る。
「ファンステージ阿佐野店まで!」
運転手が笑う。
「了解ニダ。」
「運転手ぅぅぅ!!」
阿佐野店。
浜谷は自動ドアを勢いよく開けた。
「助けてください!」
最初に出迎えたのは樋口だった。
「いらっしゃいませ。」
「助かった!」
「……ニダ。」
「助かってなかった!!」
高村が歩いてくる。
「浜谷くん。」
「今日はメダルお願いニダ。」
「高村さんまで!」
工具を持った大澤。
「工具片付けるニダ。」
「基板交換するニダ。」
矢水がイベントコーナーから手を振る。
「浜谷さん!」
「イベント始まるニダ!」
「風船配るニダ!」
休憩室から古坂。
「景品いっぱい入荷したニダ!」
「古坂さんまでぇぇぇ!!」
さらに細井が顔を出す。
「浜谷くん!」
「この景品可愛いニダ!」
「一緒に補充するニダ!」
「細井さんも!?」
最後に生田が工具箱を持って入ってくる。
「お疲れさまニダ。」
「いい修理だったニダ。」
「今日は新しい修理教えるニダ。」
浜谷は膝から崩れ落ちた。
「阿佐野店まで終わってる……。」
七人がゆっくり近付いてくる。
「ニダ。」
「ニダ。」
「ニダ。」
「ニダ。」
「ニダ。」
「ニダ。」
「ニダ。」
じり……
じり……
「浜谷くんも言うニダ。」
「一回だけでいいニダ。」
「言ったら楽になるニダ。」
「仲間になるニダ。」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
実家へ電話する。
「助けて、お袋!」
『ご飯食べたニダ?』
友達から連絡がくる。
『飲みに行くニダ。』
テレビを見る。
『今日の全国ニダニュースニダ。』
天気予報。
『ニダ確率ニダ十パーセント。』
CM。
『ニダニダカードローン!』
動画。
『高評価よろしくニダ!』
SNS。
#ニダ
浜谷は絶叫した。
「世界が終わったぁぁぁぁぁ!!」
空が暗くなる。
雲を突き破り、巨大な茂田が現れる。
「すべて……ニダになるニダ。」
地球がゆっくり回転する。
日本が消え、
世界が消え、
最後には地球そのものが巨大な「ニダ」の文字へ変わった。
「やめてくれぇぇぇぇぇ!!」
ガバッ!!
浜谷は勢いよく飛び起きた。
「はぁ……はぁ……。」
休憩室だった。
「夢……?」
安心した、その時。
目の前には石村。
「浜谷くん。」
浜谷は恐る恐る顔を上げる。
石村は真顔で言った。
「休憩終わったニダ。」
浜谷の悲鳴が原町中央店中へ響き渡った。
「夢じゃなかったぁぁぁぁぁ!!!」