原町中央店で過ごした一週間。
久しぶりのホーム店舗での勤務は、思っていた以上にあっという間だった。
営業終了を知らせる店内放送が流れる。
お客様を見送り、店内の片付けが始まる。
浜谷も景品を整え、簡単な清掃を済ませると、インカムを外した。
「お疲れさまでした。」
「お疲れー。」
聞き慣れたやり取りが、店内に響く。
ロッカーで着替えを済ませ、制服を丁寧に畳む。
一週間だけとはいえ、久しぶりにこのロッカーを使った。
学生時代から何度も開け閉めしたロッカー。
その懐かしさに、小さく笑みがこぼれる。
荷物を持って事務所へ向かうと、茂田が売上書類をまとめていた。
「琉くん。」
「はい。」
「明日からまた阿佐野店お願いニダ。」
「分かりました。」
浜谷は素直にうなずく。
「今週、本当にありがとうございました。」
茂田は首を横に振る。
「いやいや。」
「助かったニダ。」
「原町は久しぶりだったけど、全然ブランク感じなかったよ。」
「阿佐野店で頑張ってる成果が出てたニダ。」
その言葉に浜谷は少し照れ笑いを浮かべた。
「ありがとうございます。」
茂田は笑顔のまま続ける。
「また人が足りない時は呼ぶから、その時はこっちもよろしくね。」
「もちろんです!」
そのやり取りを聞いていた石村が、書類を置いて近付いてきた。
「浜谷くん。」
「はい。」
「阿佐野店でも頑張れよ。」
「はい!」
「向こうで覚えたこと、また原町で見せてくれ。」
「はい!」
石村は満足そうにうなずいた。
「今度来た時は、もっと驚かせてくれ。」
「頑張ります!」
その横でインカムを片付けていた山神が、いつもの調子で一言。
「おぅ。」
「気を付けてな。」
「ありがとうございます。」
短い言葉だった。
でも、その一言が山神らしくて、浜谷は思わず笑顔になる。
高崎も景品補充を終えて戻ってきた。
「琉くん!」
「また応援終わったら帰っておいで。」
「はい。」
「またお願いします。」
「今度はイタズラの腕も上げとくから!」
「それは遠慮します!」
二人は思わず笑い合った。
休憩室には、いつもと変わらない笑い声が響く。
誰も大げさな別れはしない。
応援勤務は、この会社では珍しいことではない。
「また来週。」
そんな感覚の方が、みんなにはしっくりくるのだ。
荷物を持った浜谷は、事務所を出た。
帰る前に、もう一度だけ店内を歩く。
クレーンゲームコーナーでは、川原がお客様対応をしていた。
「少々お待ちください!」
景品を整え、お客様へ笑顔で声を掛ける。
その姿を見て、浜谷は自然と笑みを浮かべた。
川原が浜谷に気付き、小さく手を振る。
「浜谷さん!」
浜谷も手を振り返す。
「お疲れさまです。」
「また阿佐野店ですね。」
「うん。」
「また来ます!」
川原は笑顔でうなずく。
「待ってます!」
「次来るまでには、もっと成長しておきます!」
浜谷も笑う。
「僕も負けませんよ。」
短いやり取りだった。
でも、お互いが少しずつ前へ進んでいることが伝わる、そんな会話だった。
出口へ向かう途中、浜谷は店内をゆっくり見渡す。
初めてアルバイトとして働いた店。
たくさん失敗して、たくさん助けてもらった場所。
そして今は、安心して帰ってこられる場所。
一方、阿佐野店は新しいことに挑戦し、自分を成長させてくれる場所だった。
どちらも今の浜谷には欠かせない。
自動ドアの前で立ち止まり、店内へ向かって一礼する。
「お先に失礼します。」
事務所の方から、いつもと変わらない声が返ってきた。
「お疲れさまー!」
「お疲れ!」
「また来週!」
浜谷は笑顔で振り返る。
「お疲れさまでした!」
自動ドアがゆっくりと閉まる。
ほんの一週間だった。
でも、その一週間で改めて気付くことができた。
原町中央店は、自分が育った場所。
阿佐野店は、自分を育て続けてくれる場所。
二つの店舗を行き来しながら、浜谷は今日も少しずつ、一人前のスタッフへと近づいていくのだった。