阿佐野店は午後の営業中。
浜谷はメダルコーナーで作業をしていると、ふとクレーンコーナーの方が気になった。
「あれ……?」
古坂が一つのクレーンゲームの前で腕を組み、じっと景品を見つめている。
いつもの笑顔はない。
真剣な表情のまま、一歩も動かない。
(どうしたんだろう……。)
浜谷は近づこうとしたが、その雰囲気に少しためらった。
すると、通りかかった細井も古坂に気付く。
「あれ?」
「古坂さん、どうしたの?」
返事がない。
古坂は景品だけを見つめ続けている。
「……。」
細井は浜谷の方を見る。
「怒ってる?」
「いや……。」
「僕もそう思いました。」
そこへ樋口がやって来た。
「何してるの?」
細井が小声で言う。
「古坂さん、怒ってるかも。」
「えっ!?」
樋口も思わず古坂の方を見る。
「嘘でしょ?」
「古坂さんが?」
さらに高村まで集まってきた。
「どうしたの?」
「古坂さんが怒ってるらしいです。」
「えぇ?」
普段いつも笑顔の古坂。
そんな古坂が怒るなんて、誰も見たことがない。
スタッフ全員が少し離れた場所から様子をうかがう。
「……。」
古坂はやっぱり動かない。
「浜谷くん。」
細井が小声で言う。
「行ってきて。」
「なんで僕なんですか!」
「一番話しやすいでしょ。」
「いやいやいや……。」
浜谷は深呼吸を一つすると、恐る恐る古坂の隣へ立った。
「あの……。」
「古坂さん?」
古坂はゆっくり浜谷の方を向く。
「ん?」
「何か……ありましたか?」
数秒の沈黙。
浜谷はゴクリと唾を飲む。
古坂は真剣な顔のまま、クレーンゲームの中を指差した。
「この子。」
「え?」
「右に五センチずらした方が、もっとかわいく見えると思う。」
「……。」
浜谷は一瞬固まった。
「……え?」
古坂は続ける。
「ほら。」
「隣の子と間隔が狭いでしょ?」
「少し右に寄せた方がお客さんから見やすいし、この子もかわいく見えるの。」
浜谷は後ろを振り返る。
「皆さん。」
「怒ってませんでした。」
「景品の配置を考えてただけです。」
「えっ?」
細井たちも集まってくる。
古坂は景品を少しだけ動かした。
「ほら。」
「こっちの方がかわいいでしょ?」
みんなで見比べる。
「あっ。」
樋口が思わず声を上げた。
「本当だ。」
高村も優しく笑う。
「さっきより見栄えがいいわね。」
細井は苦笑いした。
「びっくりしたぁ。」
「本気で怒ってるのかと思った。」
古坂は目を丸くする。
「えっ?」
「なんで?」
「だって古坂さん、すっごく真剣な顔してたんですよ。」
「そう?」
古坂は少し照れ笑いを浮かべた。
「景品のこと考えてると、つい夢中になっちゃうんだよね。」
その言葉に浜谷は納得した。
(だから古坂さんの景品コーナーは、いつもきれいなんだ。)
その時、インカムから茂田の声が聞こえた。
「みんな集まって何してるニダ?」
細井が笑いながら答える。
「古坂さんが怒ったと思ったら、景品の配置を考えてただけでした!」
少し間が空く。
そして茂田が一言。
「冨美子は職人ニダ。」
古坂は照れくさそうに笑った。
「そんなことないよ〜。」
「いや、あります。」
浜谷が笑顔で言う。
「古坂さんほど景品のことを考えてる人、僕は知りません。」
古坂は少し恥ずかしそうに笑う。
「ありがとう。」
その笑顔を見て、みんなはようやく安心した。
「もう!」
細井は笑いながら言う。
「次から真剣な顔してたら、また怒ってると思っちゃいますよ!」
「それは困るなぁ。」
店内には、いつもの笑い声が戻っていた。
今日も阿佐野店では、それぞれが自分の仕事に真剣だからこそ、小さな勘違いが生まれる。
そして、その勘違いさえも笑いに変えてしまう。
それが、ファンステージの日常だった。