阿佐野店は営業もひと段落し、浜谷はメダルコーナーでメダル補充をしていた。
ケースいっぱいにメダルを補充しながら、エラーが出ていないか一台ずつ確認していく。
「よし……これで大丈夫。」
すると、背後から細井が声をかけてきた。
「浜谷くんってさぁ。」
「メンテナンスできるの、いいよね。」
「え?」
浜谷は少し驚いて振り返る。
「僕ですか?」
「うん!」
「エラーも直せるし、機械の中も触れるじゃん。」
「私、機械の中なんて見ても何が何だか分からないもん。」
「かっこいいなって思う。」
浜谷は照れくさそうに笑った。
「いや、まだまだですよ。」
「生田さんや大澤さんには全然追いつけません。」
「僕なんて、教えてもらいながらやっとです。」
細井は感心したようにうなずく。
「それでもすごいよ。」
「私にはできないもん。」
その会話を近くで聞いていた樋口が笑いながら近づいてきた。
「私は細井ちゃんがうらやましい!」
「えっ、私?」
「接客が上手なんだもん。」
「お客さんとすぐ仲良くなるじゃん。」
「この前も常連さんと楽しそうに話してたし。」
細井は慌てて首を横に振る。
「そんなことないよ。」
「私は樋口さんみたいに明るく話せないですよ。」
「アザッす!」
樋口は照れ笑いを浮かべる。
「いやいや、私なんて勢いだけだから!」
「でも、その勢いがお客様を笑顔にしてるじゃないですか。」
浜谷がそう言うと、樋口は少し照れくさそうに笑った。
そこへ景品補充を終えた古坂もやって来た。
「何のお話?」
樋口が答える。
「みんな、お互いにうらやましいところを話してたんです。」
「へぇ。」
古坂は少し考えてから言った。
「私は高村さんかなぁ。」
「いつも落ち着いてて、どんなお客様にも優しく対応してる。」
「私、たまに慌てちゃうから。」
すると、高村がちょうど通りかかる。
「何か呼ばれた気がしたわ。」
事情を聞いた高村は、優しく笑った。
「私は古坂ちゃんよ。」
「景品の飾り付け、本当に上手だもの。」
「どう並べたらかわいく見えるか、いつも考えてるでしょう?」
古坂は思わず笑う。
「えぇ〜!」
「そんなことないですよ〜!」
「あるある。」
樋口も細井も大きくうなずく。
「古坂さんのコーナー、すごく見やすいですもん。」
「ぬいぐるみもかわいく並んでるし。」
古坂は少し照れながら頭をかいた。
「好きだからやってるだけなんだけどね。」
「お客様が『かわいい!』って言ってくれるとうれしくて。」
その言葉に浜谷は思った。
(だから古坂さんのコーナーは、いつも明るく見えるんだ。)
その時、インカムから茂田の声が聞こえた。
「みんな何の話してるニダ?」
浜谷が答える。
「みんな、お互いに『すごいな』って話をしてました。」
「なるほどニダ。」
少し間が空く。
「みんな隣の芝生は青く見えてるニダ。」
「でも、みんな違うからいいニダ。」
「誰かと同じじゃ、お店は回らないニダ。」
その言葉に、その場のみんなが静かにうなずいた。
営業終了後。
帰り支度をしながら浜谷は今日のことを思い返していた。
細井はメンテナンスができる自分をうらやましいと言った。
樋口は細井の接客を。
古坂は高村の接客を。
高村は古坂の景品づくりを。
そして、自分もまた、生田や大澤の技術に憧れている。
(みんな、自分にはないものを持っている。)
(だからこそ、誰かをすごいと思えるんだ。)
そう考えると、不思議と少しだけうれしくなった。
誰かに憧れる気持ちも、自分を認めてもらえる喜びも、この店にはちゃんとある。
それぞれ得意なことが違う仲間がいるからこそ、阿佐野店は今日も笑顔であふれているのだった。