阿佐野店の土曜日。
開店から一時間ほどが経ち、店内には家族連れや子どもたちの姿が増えていた。
イベントコーナーでは、矢水がマイクを片手に準備を進めている。
「まもなくビンゴ大会を開催いたします!」
店内によく通る声が響いた。
その声を聞いた浜谷は思わず足を止める。
「矢水さん、すごいなぁ……。」
隣で景品を並べていた古坂が笑う。
「イベントの日の矢水さんは別人だからね。」
「別人ですか?」
「見てれば分かるよ。」
しばらくすると、イベント開始の時間になった。
「皆さーん、お待たせしました!」
「ビンゴ大会を始めます!」
子どもたちから拍手が起こる。
矢水は一人ひとりと目を合わせながら、笑顔でルールを説明していく。
「小さいお友達も、お父さんお母さんと一緒に楽しんでくださいね!」
その優しい声に、緊張していた子どもも笑顔になる。
浜谷はメダルコーナーからその様子を見ていた。
(すごい……。)
(みんな自然と矢水さんの方を見てる。)
ビンゴが始まる。
「最初の数字は……二十三!」
「あったー!」
「ないー!」
店内は大盛り上がり。
矢水は当たりが出るたびに、
「おめでとうございます!」
「惜しいですね!」
「次があるかもしれませんよ!」
と、テンポよく声を掛けていく。
その声につられて、周りのお客様も笑顔になる。
イベント終了後。
浜谷は景品を片付けている矢水に声を掛けた。
「矢水さん。」
「お疲れさまでした。」
「お疲れさまです。」
「さっきのイベント、本当にすごかったです。」
矢水は少し驚いたような表情を浮かべた。
「そうですか?」
「はい。」
「お客様みんな楽しそうでした。」
矢水は照れくさそうに笑う。
「ありがとうございます。」
「でも、実は最初は全然しゃべれなかったんですよ。」
「えっ?」
浜谷は思わず聞き返した。
「本当ですか?」
「はい。」
「初めてマイクを持った日は、緊張で声が震えちゃって……。」
「今じゃ想像できません。」
「私もそう思います。」
二人は思わず笑った。
そこへ細井と樋口もやって来る。
「浜谷くん。」
「今日のイベント見た?」
「もちろんです。」
樋口は親指を立てる。
「矢水さん、かっこよかった!」
「アザッす!」
矢水は苦笑いする。
「そんな大したことじゃないですよ。」
すると古坂も加わる。
「いやいや。」
「お客様をあんなに笑顔にできるのって、本当にすごいよ。」
高村も大きくうなずいた。
「イベント担当は、お店の雰囲気をつくる大事な仕事だからね。」
「矢水さんにぴったりよ。」
矢水は少し照れながら頭を下げた。
「ありがとうございます。」
その時、インカムから茂田の声が聞こえた。
「イベント、大成功だったニダ?」
高村が笑って答える。
「大成功です。」
「今日は矢水さんが大活躍でした。」
少し間が空く。
そして茂田が言った。
「今日はまさに……。」
「ザ・ヤミズショータイムだったニダ!」
インカムの向こうで笑い声が聞こえる。
樋口も思わず笑った。
「そのタイトル、いいですね!」
矢水は顔を赤くしながら首を振る。
「やめてくださいよ〜。」
「恥ずかしいです。」
営業終了後。
浜谷は店内を見回した。
イベントが終わったあとも、お客様は笑顔でゲームを楽しんでいる。
子どもたちは景品を抱え、保護者も楽しそうに写真を撮っていた。
(ゲームセンターって、ゲームをする場所だけじゃない。)
(誰かが笑顔になれる時間をつくる場所なんだ。)
今日、その時間をつくっていたのは矢水だった。
店内を明るくする声。
安心できる笑顔。
お客様を自然と引き込む空気。
そのすべてが、阿佐野店には欠かせない力だった。
だから今日もまた、イベントが始まると誰かがこう言う。
「さあ、ショータイムの始まりですよ。」
その言葉どおり、阿佐野店には今日もたくさんの笑顔が広がっていた。