朝の阿佐野店では開店準備を終え、スタッフたちはそれぞれの持ち場へ向かっていた。
その時、浜谷がふとつぶやく。
「あれ?」
「茂田さん、いませんね。」
細井が笑う。
「今日はまだ見てないね。」
樋口も辺りを見回す。
「さっきまで事務所にいたような……。」
高村が苦笑した。
「でも、茂田さんって本当にじっとしてないもの。」
「気づいたら違う場所にいるのよ。」
その頃。
原町中央店では電話対応。
十分後には阿佐野店で原町中央店の売り上げを確認して、
さらに景品コーナーではお客様へ声を掛け、
その後は事務所で書類仕事。
誰も気付かないうちに、また別の場所へ向かっている。
「店長、どこですか?」
「さっきメダルコーナー。」
「いや、倉庫。」
「今は事務所じゃない?」
スタッフの証言はバラバラだった。
昼休憩。
浜谷たちは休憩室で笑っていた。
「もうクイズですね。」
細井が言う。
「店長だ〜れだ?」
「正解した人には景品なし!」
樋口も笑う。
「私、三回すれ違いました!」
その時、インカムが鳴る。
「浜谷く〜ん。」
茂田の声だった。
「お客様対応お願いニダ〜。」
「はい!」
浜谷が売場へ向かう。
すると茂田はすでに別のお客様を案内していた。
「ありがとうございました〜!」
笑顔でお辞儀をすると、そのまま今度は電話が鳴る。
「はい、ファンステージ阿佐野店です。」
休む間もない。
浜谷はその姿を静かに見つめていた。
営業終了後。
片付けを終えた休憩室。
高村がふと話し始めた。
「茂田さんって、店長に見えないってよく言われるのよ。」
「見た目も若いし、ノリも軽いし。」
古坂もうなずく。
「お客様にも、高村さんが店長ですか?って聞かれてますもんね。」
みんなが笑う。
茂田も照れ笑いした。
「よくあるニダ。」
浜谷はゆっくり立ち上がった。
「でも。」
みんなの視線が集まる。
「僕たちは知ってます。」
「茂田さんが、誰よりも仕事のことを考えていること。」
「原町中央店と阿佐野店。」
「二つのお店を任されながら、毎日走り回って。」
「スタッフ一人ひとりのことも、お客様のことも、ちゃんと見てくれて。」
「僕たちは、茂田さんが頑張っているところを、いっぱい見てきました。」
少し照れくさそうに笑う。
「茂田さんがいたから、僕はこのバイトを続けてこられました。」
「そして、これからも続けていきます。」
休憩室が静まり返る。
茂田は少し驚いた表情を浮かべる。
そして、優しく微笑んだ。
「……ありがとニダ。」
それだけだった。
でも、その一言には、照れくささと嬉しさが詰まっていた。
古坂が微笑み、高村もうなずく。
細井は「浜谷くんらしいね」と小さく笑った。
その日、みんなは改めて思った。
店長とは、店長室にいる人ではない。
誰よりも店のために動き、
誰よりも仲間のことを考え、
誰よりもお客様を大切にする人。
阿佐野店そして原町中央店の店長は――
やっぱり、茂田さんしかいなかった。