七月。
ファンステージ原町中央店では、毎年恒例の七夕イベントが開催されていた。
店内には笹が飾られ、色とりどりの短冊が風に揺れている。
今年のイベントは、小学校二年生までを対象にした「お菓子プレゼント」。
受付を担当するのは、浜谷だった。
「いらっしゃいませ!」
「イベントはこちらで受け付けています!」
最初は少し緊張していたものの、子どもたちの笑顔に囲まれながら、浜谷も自然と笑顔になっていた。
「ありがとうございました!」
「また遊びに来てね!」
順調だった。
少なくとも、その時までは。
⸻
昼過ぎ。
一組の親子が受付へやって来た。
「イベントお願いします。」
お父さんの隣には、小学校四年生くらいの男の子が立っている。
浜谷は笑顔で声を掛けた。
「ありがとうございます。」
「恐れ入りますが、こちらのイベントは小学校二年生までのお子様が対象となっております。」
その瞬間。
父親の表情が変わった。
「は?」
「なんでだよ。」
浜谷は落ち着いて説明する。
「申し訳ございません。」
「イベントの対象年齢が決まっておりまして……。」
しかし父親は語気を強める。
「そんなの知らねぇよ!」
「子どもなんだからいいだろ!」
周囲のお客様も何事かと振り返る。
浜谷は必死に頭を下げた。
「申し訳ございません。」
「決まりとなっておりますので……。」
父親はさらに声を荒らげる。
「融通きかねぇな!」
「お前、クソだな。」
その一言が浜谷の胸に突き刺さる。
言葉が出ない。
どう対応すればいいのか分からない。
それでも、お客様を一人にしてはいけない。
浜谷は震える手でインカムのボタンを押した。
「受付応援、お願いします……。」
声が少し震えていた。
するとすぐに、
『茂田、向かうよ。』
『石村、向かいます。』
二人の声が耳に届いた。
⸻
数秒後。
茂田と石村が受付へ駆けつける。
茂田は穏やかな笑顔で一礼した。
「お待たせして申し訳ございません。」
「店長の茂田です。」
父親は苛立ったまま言う。
「この子だけ参加させればいい話だろ!」
「なんでダメなんだ!」
茂田は表情を変えず、静かに答えた。
「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。」
「ですが、このイベントは小学校二年生までのお子様を対象としてご案内しております。」
「皆さま同じルールでご参加いただいておりますので、今回だけ特別という対応はできません。」
石村も隣で静かに続ける。
「ご期待に添えず申し訳ありません。」
「ご理解いただけますと幸いです。」
二人は感情的になることなく、最後まで丁寧に説明を続けた。
父親はしばらく不満そうな表情を浮かべていたが、
「……もういい。」
そう言い残し、男の子の手を引いて店を後にした。
店内は再び静けさを取り戻した。
⸻
受付が落ち着くと、浜谷は大きく息を吐いた。
「すみません……。」
「何もできませんでした。」
茂田は首を横に振る。
「そんなことないよ。」
「ちゃんとルールを説明できてたよ。」
「ルールの中でしっかりと説明したんだね。」
石村も笑顔を見せる。
「困った時に応援を呼べた。」
「それだけで十分。」
「一人で抱え込まなかったのは正解だったよ。」
浜谷は少しだけ表情を緩めた。
「……ありがとうございます。」
⸻
閉店後。
営業を終えた事務所。
浜谷は今日の出来事を思い返していた。
「あの言葉……ちょっとショックでした。」
「僕はクソなんですかね……」
茂田は優しく笑う。
「浜谷くんはクソなんかじゃない」
「接客をしていると、嬉しいこともあれば悲しいこともあるニダ。」
「でもね。」
「一人で抱え込まなくていい。」
石村もうなずく。
「俺たちは同じ店で働く仲間だから。」
「困った時は、何度でも呼んでいい。」
その言葉を聞き、浜谷はゆっくりとうなずいた。
「はい。」
店内の照明が一つ、また一つと消えていく。
接客には、笑顔だけでは乗り越えられない日もある。
それでも仲間が支えてくれる。
浜谷はその温かさを胸に刻みながら、静かに帰路についた。
この出来事、今でも鮮明に覚えています。
めちゃくちゃ怖かった……
でもこの出来事で茂田さんはじめスタッフの皆さんと絆が深まって、一皮剥けたなと!
ちなみにですが、登場人物は全員モデルがいますが、名前は変えていますよ