とある日の阿佐野店。
「おはようございます!」
「おはよう、浜谷くん。」
樋口が笑顔で迎える。
「今日からまた応援勤務、よろしくね。」
「よろしくお願いします!」
レジでは高村が手を振る。
「今日も忙しくなりそうだから、一緒に頑張りましょうね。」
「はい!」
その横を工具箱を持った大澤が通り過ぎる。
「後でメンテ、一件お願い。」
「分かりました!」
イベントコーナーでは矢水が風船を膨らませていた。
「浜谷さん、おはよう!」
「今日も風船いっぱい作りますよ!」
「手伝います!」
浜谷は思わず笑顔になる。
(やっぱり阿佐野店は落ち着くな。)
そんなことを考えていると、奥から元気な声が聞こえた。
「浜谷くーん!」
振り向いた浜谷は思わず目を丸くした。
「……あれ?」
そこにいたのは細井だった。
肩まで伸びた髪。
毛先はふんわり外はね。
以前よりも少し大人っぽい雰囲気になっている。
「細井さん……ですか?」
「何言ってんの!」
細井はその場でくるっと一回転する。
「どう?」
「昨日、美容院行ってきた!」
浜谷は思わず見とれてしまった。
(……すごく似合ってる。)
今までの元気な印象はそのままに、少しだけ大人びた雰囲気が加わっている。
「すごく似合ってます。」
その一言で、細井の表情がぱっと明るくなった。
「ほんと?」
「やった!」
その様子を見ていた高村が笑う。
「細井ちゃん、朝から褒められてるねぇ。」
樋口もうなずく。
「昨日みんなで『絶対似合うよ』って話してたんだよ。」
「そうだったんですか?」
「うん!」
矢水も笑顔で加わる。
「写真送ってもらった瞬間、『かわいい!』って返信しちゃった。」
「ありがとうございます!」
すると休憩室から古坂が顔を出した。
「ほらね!」
「私も細井ちゃん、絶対似合うって言ったじゃん!」
「古坂さん!」
「浜谷くんの反応が一番気になってたんだよ。」
細井は少し照れながら笑う。
「ちょっと恥ずかしかったけどね。」
その時、大澤が工具箱を閉じながら一言だけ言った。
「細井ちゃん。」
「似合ってる。」
たったそれだけ。
それでも細井は満面の笑みになる。
「ありがとうございます!」
浜谷はそのやり取りを見ながら思った。
(細井さん、本当にみんなから可愛がられてるな。)
年齢は自分より上。
それでも阿佐野店では末っ子のような存在で、誰からも「細井ちゃん」と呼ばれている。
その空気がとても心地よかった。
もう一度細井を見る。
肩まで揺れる髪。
外はねになった毛先。
そしていつもと変わらない明るい笑顔。
「よし!」
樋口がパンと手を叩く。
「みんな、営業始まるよ!」
「はーい!」
スタッフたちはそれぞれの持ち場へ散っていく。
浜谷もインカムを耳につけた。
「今日も一日、頑張ります!」
賑やかで温かい一日が、始まろうとしていた。