ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

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メンテの五月病

阿佐野店のとある日の昼下がり。

 

メダルコーナーからインカムが鳴る。

 

「浜谷くん。」

 

大澤の声だった。

 

「メダルゲームがエラー出ちゃった。」

 

「了解です!」

 

浜谷は工具箱を持ってメダルコーナーへ向かう。

 

画面には大きく、

 

『ERROR 34』

 

と表示されていた。

 

「説明書ですね。」

 

浜谷は分厚いサービスマニュアルを開く。

 

「えーっと……。」

 

ページをめくる。

 

『ERROR34』

 

『原因:センサーの検知異常』

 

『点検項目①』

 

『点検項目②』

 

『点検項目③』

 

浜谷は真剣な表情で読み進める。

 

「なるほど。」

 

「原因も分かる。」

 

「直し方も分かる。」

 

ページを閉じた。

 

「……。」

 

しばらく無言。

 

そして一言。

 

「なんか分からんけど、だりぃ……。」

 

近くにいた細井が吹き出した。

 

「何それ!」

 

「いや……。」

 

浜谷は苦笑いする。

 

「何が原因で、どこを見ればいいか分かるんですよ?」

 

「でも説明書読むのが、なんか、だりぃんです。」

 

樋口も笑う。

 

「なんか五月病みたいだね。」

 

「メンテの五月病です。」

 

「全然今五月じゃないけどね!」

 

高村も笑いながら言う。

 

「読めてるなら直せばいいじゃない。」

 

「そうなんですよ。」

 

「でも、なんかだりぃ。ってなるんですよ!」

 

その様子を見ていた大澤が笑う。

 

「浜谷くん。」

 

「めちゃくちゃ気持ちは分かる。」

 

「説明書って読むまでが一番面倒なのよね。」

 

「そうなんですよ!」

 

浜谷は大きくうなずいた。

 

「読んじゃえば早いんです。」

 

「でも開くまでが……。」

 

「なんか分からんけど、だりぃ!」

 

そこへ茂田がやって来た。

 

「琉くん。」

 

「直るニダ?」

 

「直ります。」

 

「けど、なんかだりぃ、です!」

 

「わかるニダ。けど、今これを直せるのは琉くんしかいないニダ。」

 

「僕しかいない…」

 

「頑張るニダ。」

 

「はい!」

 

浜谷は大きく息を吸った。

 

「よし。」

 

説明書をもう一度開く。

 

「センサー確認。」

 

「配線確認。」

 

「部品の取り外し・付け直し」

 

「リセット。」

 

カチッ。

 

数分後。

 

ゲーム機が静かに起動した。

 

♪~~♪

 

いつものデモ画面が映し出される。

 

「直った!」

 

樋口が拍手する。

 

「さすが浜谷くん!」

 

細井も笑う。

 

「結局ちゃんと直すんだもんね。」

 

浜谷は説明書を閉じながら照れ笑いした。

 

「結局、読むんですよ。」

 

「読むんですけど……。」

 

少し間を置いて。

 

「やっぱり。」

 

「なんか分からんけど、だりぃ!」

 

その一言に、メンテ室は大きな笑いに包まれた。

 

こうして今日も、阿佐野店のゲーム機は無事復活。

 

そして浜谷は、次のエラーでもきっと同じことを言いながら説明書を開くのだった。

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