浜谷が阿佐野店へ出勤すると、すぐにインカムが鳴った。
「浜谷くん。」
大澤の声だった。
「メダルコーナーでエラー。」
「……来ましたか。」
浜谷は苦笑いしながら工具箱を持つ。
画面には見慣れたエラーコード。
「これはすぐ直りそうですね。」
説明書を確認し、センサーを掃除。
配線を差し直して再起動。
ピッ。
機械は何事もなかったように動き始めた。
「よし、完了。」
「でも、嫌な予感がする…」
浜谷がホッと息をついた、その瞬間。
ピピッ。
またインカムが鳴る。
「浜谷くーん。」
今度は樋口だった。
「別のメダルゲームもエラーです!」
浜谷は天井を見上げた。
「……やっぱり。」
細井が笑う。
「嫌な予感、当たった?」
「大当たりです。」
メダルコーナーへ向かうと、別の機械が止まっている。
画面を見るなり浜谷は顔をしかめた。
「うわ……。」
「これはちょっと面倒なやつだ。」
大澤ものぞき込む。
「時間かかりそう?」
「かかりますね。」
「部品確認して、テストモード入って、センサーも全部見ないと。」
「よし。」
浜谷は気合いを入れ直した。
しかし。
カバーを外し、配線を確認し、説明書を読み進めても、なかなか原因が見つからない。
「違う。」
「ここでもない。」
「えー……。」
工具を置いて小さくため息をつく。
「やだなぁ。」
その様子を見ていた細井が笑いながら言った。
「浜谷くん。」
「はい?」
「これ直せたら、ごほうびあげよっか。」
浜谷は顔を上げる。
「ごほうびですか?」
細井はいたずらっぽく笑った。
「直せたら、ほっぺにチューしてあげる。」
「えっ!?」
浜谷は固まった。
樋口は大笑い。
「細井さん!」
大澤も思わず吹き出す。
細井はケラケラ笑っている。
浜谷は真っ赤になりながらも、工具を握り直した。
「……やります。」
「おっ。」
「本気だ。」
樋口がニヤニヤしている。
浜谷はいつも以上に真剣だった。
説明書を読み返し、
センサーを点検し、
基板を確認し、
テストモードで一つひとつ動作を確かめる。
三十分ほど格闘したあと。
「あ。」
「これか。」
原因は奥にあるコネクターの接触不良だった。
差し直し、再起動。
♪~~♪
機械は元気よくデモ画面を映し出した。
「直った!」
樋口が拍手する。
「すごーい!」
大澤もうなずく。
「お疲れさま。」
浜谷は細井の方をちらっと見る。
細井も笑顔だった。
「さすが浜谷くん!」
浜谷は少し照れながら近づく。
「えっと……。」
「ごほうび……。」
細井は首をかしげる。
「ごほうび?」
「ほっぺに……。」
一瞬、静かになる。
そして細井は大笑いした。
「あはは!」
「本気にしたの?」
「え?」
「冗談だよ!」
浜谷は肩を落とした。
「ですよね……。」
樋口は笑い転げている。
「浜谷くん、本気だったんだ!」
浜谷は恥ずかしそうに頭をかいた。
「ちょっとだけ期待しました……。」
細井は申し訳なさそうに笑った。
「ごめん、ごめん。」
「でも。」
少し考えてから続ける。
「チューはないけど、ご飯なら行こっか。」
「今日仕事終わり。」
浜谷は顔を上げる。
「本当ですか?」
「うん。」
「修理頑張ったごほうび。」
浜谷は思わず笑顔になった。
「それなら十分です。」
営業終了後。
二人は仕事着のまま店を出る。
「何食べる?」
「細井さんに任せます。」
「じゃあハンバーグ!」
「いいですね。」
夕暮れの道を並んで歩く二人。
浜谷は心の中で思った。
(チューは冗談だったけど。)
(細井さんとご飯に行けるなら、それも悪くない。)
そうして二人は笑いながら、阿佐野店をあとにするのだった。