昼休憩。
浜谷は休憩室でお茶を飲んでいた。
そこへ茂田が入ってくる。
「隣いいニダ?」
「どうぞ。」
茂田も椅子に座り、缶コーヒーを開けた。
少し世間話をしたあと、茂田が思い出したように話し始める。
「そういえば、原町中央店に新人が二人入ったニダ。」
浜谷は少し驚く。
「えっ、本当ですか?」
「うん。」
「一人は女性。」
「すごく真面目な子ニダ。」
「大沼さんの高校の同級生らしいニダ。」
「へぇ。」
浜谷は懐かしい原町中央店のことを思い浮かべた。
「もう一人は男の子。」
「前はパチンコ店で働いてたらしいニダ。」
「ゲームセンターは初めてだけど、機械は結構触ってたみたいニダ。」
浜谷は興味津々で聞く。
「そうなんですか。」
茂田は笑いながら続ける。
「入ってすぐなのに、ある程度メンテもできるらしいニダ。」
その一言で、浜谷の表情が少し変わった。
「……。」
「すごいですね。」
そう答えたものの、心の中は穏やかではなかった。
(入ってすぐで……。)
(もうメンテができるのか。)
(僕は何か月もかかって……。)
(説明書とにらめっこして。)
(日村さんや大澤さん、生田さんに教えてもらって。)
(やっとここまで来たのに。)
胸の奥が少しだけ熱くなる。
悔しい。
その感情が、ゆっくりと込み上げてきた。
茂田は浜谷の表情に気づいた。
「悔しいニダ?」
浜谷は少し笑ってごまかそうとした。
「……はい。」
「正直。」
「悔しいです。」
「僕の方が先に入って。」
「僕の方がずっと頑張ってきたのに。」
「追い越されるんじゃないかって。」
休憩室に少し静かな時間が流れる。
茂田は缶コーヒーを一口飲み、ゆっくり話し始めた。
「浜谷くん。」
「スタートラインは、人それぞれ違うニダ。」
「前の仕事で機械を触ってた人もいる。」
「接客が得意な人もいる。」
「最初から覚えるのが早い人もいる。」
「でも。」
茂田は浜谷の目を見る。
「浜谷くんがここまで積み重ねてきた努力は、誰にも真似できないニダ。」
浜谷は黙って聞いていた。
「今の浜谷くんは。」
「エラーが出たら最初に呼ばれる。」
「機械が直ったら、お客様より先にスタッフが安心する。」
「それだけ信頼されてるニダ。」
浜谷は少し照れたように笑う。
「そうですかね。」
「そうニダ。」
茂田は優しくうなずく。
「新人と比べなくていい。」
「昨日の自分に負けなければ、それで十分ニダ。」
その言葉が、浜谷の胸にすっと入ってきた。
「……ありがとうございます。」
「でも。」
浜谷は少し笑った。
「やっぱり負けたくないです。」
茂田は声を出して笑う。
「それでいいニダ!」
「悔しいって思える人は、まだまだ伸びるニダ。」
休憩が終わる。
浜谷は立ち上がり、制服を整えた。
「よし。」
「今日も頑張ります。」
その表情には、さっきまでの迷いはなかった。
誰かに勝つためではない。
昨日の自分より、一歩でも前へ進むために。
浜谷は再び売り場へ向かって歩き出した。