営業もひと段落した夕方。
浜谷はメダルコーナーの清掃を終え、バックヤードへ戻ってきた。
そこには細井がいた。
「おつかれー。」
「お疲れさまです。」
細井は椅子に座りながら笑う。
「最近頑張ってるじゃん。」
「そうですか?」
「うん。」
「メンテもだいぶ安心して任せられるようになってきた。」
浜谷は少し照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます。」
細井はニヤッと笑う。
「でも調子乗ったら殴るよ?」
浜谷は慣れたように返す。
「一発だけですよ?」
「大丈夫!」
細井は拳を軽く握る。
「一発で仕留めるから!」
「それ大丈夫じゃないです。」
二人は顔を見合わせ、大笑いした。
このやり取りも、すっかり二人のお決まりになっていた。
笑いが落ち着くと、細井が急に真面目な顔になる。
「そうだ。」
「焼肉連れてって。」
「浜谷くんの奢りで。」
浜谷は思わず吹き出した。
「えぇ?」
「なんでですか。」
「いいじゃん。」
「食べたい。」
「いやいや。」
浜谷は苦笑いする。
「細井さん、僕より稼いでるでしょ?」
細井は即答した。
「そうだよ?」
「じゃあ自分で行ってくださいよ。」
細井は首を横に振る。
「違うの。」
「奢ってもらう焼肉が食べたいの!」
浜谷は思わず笑ってしまう。
「意味分かんないですよ。」
「分かんなくていいの!」
細井は楽しそうに笑う。
「浜谷くんは年下だけど先輩でしょ?年下に奢られる焼肉、なんかおいしそうじゃない?」
「絶対気のせいです。」
「気のせいじゃない!」
「じゃあボーナス入ったら。」
「いつ?」
「まだです。」
「じゃあ来年?」
「遠いですよ。」
細井は大げさに肩を落とした。
「夢が遠いなぁ。」
「そんなに食べたいんですか?」
「うん。」
「カルビ。」
「ハラミ。」
「タン。」
「デザート。」
「全部。」
「遠慮してください。」
浜谷が苦笑いすると、細井はケラケラ笑った。
「冗談冗談。」
「半分ね。」
「半分でも多いですよ。」
そこへ樋口が通りかかった。
「何笑ってるの?」
細井がすぐ答える。
「浜谷くんが焼肉奢ってくれるって。」
「言ってません!」
浜谷は慌てて否定する。
樋口は笑顔になる。
「じゃあ私も行こうかな!」
「人数増やさないでください!」
その声を聞いた古坂も顔を出す。
「焼肉?」
「いいね。」
「私も行く。」
「だから決まってませんって!」
バックヤードは笑い声に包まれた。
その様子を見ていた茂田も笑う。
「楽しそうニダ。」
浜谷は困ったように笑う。
「みんなで僕のお財布を狙わないでください。」
細井は笑いながら浜谷の肩を軽くたたいた。
「まあ、そのうちね。」
「期待してる。」
浜谷はため息をつきながらも笑顔だった。
「その日が来たら……。」
「考えます。」
「よし!」
細井は満足そうに親指を立てる。
「約束ね!」
「約束してません!」
今日も阿佐野店には、仕事の合間の笑い声が響いていた。
そんな何気ない時間もまた、浜谷にとって大切な思い出になっていくのだった。