ブチギレられた七夕イベントから数日後。
浜谷はいつものようにファンステージ原町中央店へ出勤した。
「おはようございます!」
「おつかれさまぁ〜ず♪」
茂田がいつもの笑顔で迎える。
着替えを済ませ、朝礼が終わろうとしたその時だった。
茂田が浜谷を呼び止める。
「浜谷くん。」
「はい?」
茂田は浜谷の胸元を見つめ、にこっと笑った。
「そろそろ、その『研修中』外そうか。」
浜谷は思わず胸のバッジに目を落とす。
「えっ……。」
「僕が、ですか?」
「うん。」
「もう十分頑張ってるニダ。」
「接客もできる。」
「イベントも任せられる。」
「困ったらちゃんと周りを頼れる。」
「もう研修中じゃないよ。」
その言葉に、浜谷は驚いたまま立ち尽くした。
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すると、そのやり取りを聞いていた高崎が笑顔で拍手した。
「やったじゃん、浜谷くん〜!」
「卒業だね!」
山神もゆっくりとうなずく。
「おぅ。」
その短い一言だったが、浜谷には何より嬉しかった。
石村も笑う。
「茂田さんがそう言うなら間違いない。」
「おめでとう。」
日村も小さく頭を下げる。
「オメデトウゴザイマス。」
相馬も優しく微笑んだ。
「頑張ってたもんね。」
事務所は自然と温かい空気に包まれた。
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浜谷はゆっくりと胸元へ手を伸ばす。
アルバイト初日から付けていた『研修中』のバッジ。
緊張しながら初出勤した日。
インカムに驚いた日。
初めて接客をした日。
小瀧に教わったこと。
七夕イベントで落ち込んだこと。
いろいろな思い出が頭をよぎる。
バッジを外すと、胸元が少しだけ軽くなった気がした。
「ありがとうございました。」
浜谷は小さく頭を下げた。
茂田は笑顔でうなずく。
「今日からは一人前ニダ。」
「でも、分からないことがあったら何でも聞いてね。」
「はい!」
浜谷は力強く返事をした。
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営業中。
胸元から『研修中』の文字は消えた。
最初は少し落ち着かなかったが、お客様への挨拶も接客も、自然と身体が動く。
遠くからその様子を見ていた高崎が石村に笑いかける。
「最初はあんなに緊張してたのにね〜。」
石村も少し目を細めた。
「成長したね。」
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閉店後。
着替えを終えた浜谷は、『研修中』のバッジを制服には付けず、仕事用のポーチへそっとしまった。
石村が尋ねる。
「記念に持って帰るの?」
浜谷は少し照れながら笑う。
「いえ。」
「仕事の日は、ポーチに入れて持ち歩こうと思います。」
「お守りみたいなものです。」
茂田は優しく微笑んだ。
「いいじゃん。」
「初心を忘れない人は、きっともっと成長するニダ。」
浜谷は静かにうなずく。
ポーチの中には、小さな『研修中』のバッジ。
新人だった頃の自分を忘れないための、大切なお守り。
浜谷はそのポーチをそっと握りしめ、静かに店をあとにした。