朝から雨。
ザーッという雨音が店の屋根を叩いている。
「おはようございます!」
浜谷が阿佐野店へ出勤すると、すでに店内には多くのお客様の姿があった。
「今日は雨だから混みそうだね。」
茂田が店内を見渡しながら言う。
「ですね。」
雨の日はゲームセンターにお客様が集まりやすい。
浜谷もそのことはよく分かっていた。
出勤して間もなく。
メダルコーナーで対応していた古坂が、浜谷の元へやって来た。
「浜谷くん。」
「はい!」
「メダルゲームのボタンが反応しないみたいなの。」
「分かりました。」
「お客様には『担当が確認します』って伝えてあるから、時間ができたら見てもらえる?」
「はい!」
浜谷は力強く頷く。
「すぐ行きます。」
そう答えた、その時だった。
『浜谷くん、クレーンゲームお願い!』
インカムが鳴る。
「はい!」
景品が詰まってしまったらしい。
浜谷は急いでクレーンゲームへ向かった。
景品を直したと思えば、
「あの、両替お願いします。」
「はい!」
さらに、
『イベントお願いしまーす。』
「はい!」
イベントカウンターへ走る。
戻ってきたところで、
「すみません、景品が取れないんですけど……。」
「ただ今伺います!」
景品位置を調整し終えると、
『メダル補充お願いしまーす。』
「はい!」
店内を何度も走り回る浜谷。
クレーン。
イベント。
両替。
景品補充。
接客。
雨の日の店内は想像以上の忙しさだった。
「浜谷くーん!」
「はい!」
「浜谷さーん!」
「はい!」
あちこちから名前を呼ばれ、そのたびに走る。
気付けば午前中はあっという間に過ぎていた。
ようやく店内が少し落ち着き始めた頃。
浜谷はバックヤードで一息ついていた。
その時だった。
古坂がメダルコーナーから戻ってくる。
「浜谷くん。」
「はい。」
「朝お願いしたメダルゲーム、もう見た?」
「……。」
浜谷の動きが止まる。
数秒考えたあと――
「あっ!!」
思わず大きな声を上げた。
「忘れてました!」
古坂は思わず笑う。
「やっぱり。」
「すみません!」
浜谷は慌ててメダルコーナーへ向かう。
確認すると、ボタンのコネクターが少し緩んでいるだけだった。
差し込み直し、動作確認を行う。
「直りました!」
ボタンは正常に反応した。
古坂も確認して頷く。
「うん、大丈夫そうだね。」
浜谷は申し訳なさそうに頭を下げた。
「本当にすみません。」
古坂は優しく微笑む。
「今日は忙しかったもんね。」
「でも、忘れそうな時は誰かに一言伝えたり、メモしたりするといいよ。」
「はい!」
浜谷は力強く頷いた。
そこへ様子を見に来た茂田が、二人の様子を見て笑う。
「どうしたの?」
古坂が事情を説明すると、茂田は笑いながら浜谷を見る。
「忘れちゃイヤよ!?」
事務所のみんなが思わず笑う。
浜谷も照れ笑いを浮かべた。
「次から気を付けます!」
雨の日は忙しい。
だからこそ、仲間同士で声を掛け合い、支え合うことが大切。
浜谷は改めてそう感じながら、再び店内へ向かうのだった。