夏休みの大学の研究室。
研究室にはエアコンの音だけが静かに響いていた。
卒業研究の打ち合わせを終えた浜谷たちは、それぞれ一息ついている。
先生がコーヒーを片手に椅子へ座った。
「そういえばさ。」
先生は三人を見渡す。
「みんなバイトは何してるの?」
最初に答えたのは同期だった。
「僕は単発バイトをいろいろやってます。」
「イベントスタッフばっかりですけど。」
「なるほど。」
先生は頷く。
「そんな仕事も面白そうだな。」
続いて先輩が笑顔で答えた。
「私は塾講師です。」
「高校生を教えてます。」
「さすが。」
先生は笑う。
「教えるの上手そうだもんな。」
先輩も照れ笑いを浮かべた。
そして先生の視線は浜谷へ向く。
「浜谷は、アレだもんな。」
浜谷も笑顔で頷く。
「はい!」
「ゲームセンターです!」
「もう長いよな?」
「大学2年になる前に入ってからずっとです。」
先生は懐かしそうに笑った。
「娘を連れて何回か遊びに行ったことあるよな。」
「この前も店で会ったよな。」
「あ、そうでしたね。」
浜谷も笑う。
「あの時は娘がクレーンゲームやりたがってな。」
「ちょうど浜谷が働いてて。」
「景品取りやすくしてって言ったら断られた。」
研究室に笑いが起こる。
浜谷は苦笑いした。
「身内贔屓はだめですから。」
先生も笑いながら続ける。
「ぬいぐるみも取れて、大喜びだった。」
「ちゃんと自力で取ってましたね。」
「ああ、あの後母ちゃんにいくら使ったの!って怒られた。」
「なんか、すみません。」
「今でも家に飾ってあるよ。」
「でも娘が『ゲームセンターのお兄ちゃんありがとう!』って喜んでたぞ。」
「僕は何もしてないですよ。」
その様子を聞いていた同期が興味津々で身を乗り出した。
「えっ!」
「琉くんの働いてるところ見てみたい!」
浜谷は少し照れくさそうに笑う。
「ぜひ。」
「でもゲームセンターって何してるの?」
同期が首をかしげる。
「接客だけ?」
浜谷は首を横に振った。
「接客もするけど、それだけじゃないよ。」
「景品の手直ししたり。」
「クレーンゲームの設定を直したり。」
「店内清掃したり。」
「メダル補充したり。」
「最近はメンテナンス頑張ってるよ。」
「メンテナンス?」
同期は驚いた表情になる。
「メダルゲームを直せるの?」
「簡単な修理とか調整なら。」
「へぇー!」
同期は感心したように言う。
「全然知らなかった。」
先輩も興味深そうに聞いていた。
「ゲームセンターって遊ぶ場所っていうイメージしかなかった。」
「裏ではそんな仕事してるんだ。」
浜谷は頷く。
「見えない仕事の方が多いかもしれません。」
先生も笑いながら言った。
「だから店がちゃんと動いてるんだな。」
「はい。」
「毎日覚えることばっかりです。」
先生は優しく頷いた。
「でも、好きだから続けられるんだろ?」
浜谷は少し考えてから笑顔で答えた。
「はい。」
「もちろん仕事も好きです。」
「でも、一番は……。」
浜谷は少し照れながら笑う。
「みんながいるから長く働けています。」
「みんなのこと、大好きです!」
研究室のみんなは自然と笑顔になった。
研究室の窓の外では、夏の日差しが校舎を照らしている。
大学で学ぶこと。
ゲームセンターで働くこと。
どちらも今の浜谷にとって、大切な経験だった。
――その頃。
原町中央店。
そして阿佐野店。
出勤していたスタッフ全員が、
「「「「はっくしょん!」」」」
まるで打ち合わせでもしたかのように、同じタイミングでくしゃみをした。
もちろん、その理由を浜谷が知る由もなかった。