午後の阿佐野店。
休日ということもあり、店内は家族連れや学生で賑わっていた。
クレーンゲームでは景品を狙う子どもたちの歓声が響き、メダルコーナーでは常連のお客様が楽しそうに遊んでいる。
浜谷はカウンターで景品交換の対応を終え、レジ周りを整えていた。
そこへ、細井がやって来る。
「浜谷くん〜。」
「はい。」
「今ちょっと落ち着いてる?」
「はい、大丈夫です。」
細井はカウンターに手をつきながら笑った。
「じゃあ質問!」
「何ですか?」
「好きな動物って何?」
突然の質問に、浜谷は少し考える。
ライオンでも犬でも猫でもない。
頭に浮かんだのは、昔からなぜか好きだったあの魚だった。
「マンボウです。」
「……え?」
細井は思わず聞き返す。
「マンボウ?」
「はい。」
「なんで!?」
浜谷は少し照れくさそうに笑う。
「マンボウって真正面から見ると、ほぼ線で面白くないですか?」
「……。」
細井は数秒固まる。
「そこなの!?」
「はい。」
浜谷は真面目な顔で続ける。
「横から見るとあんなに大きいのに、真正面から見るとほぼ線なんですよ。」
「ふふっ……。」
細井は笑いをこらえ始める。
「そのギャップが好きなんです。」
「そこに惹かれる人初めて見た!」
ついに細井は吹き出した。
「はははは!」
浜谷も笑う。
「面白いですよね。」
「いや、マンボウじゃなくて浜谷くんが面白い!」
「そうですか?」
「うん。」
細井は笑いながら頷く。
「普通、『可愛いから』とか『泳ぎ方が好きだから』じゃない?」
「違います。」
「違うんだ。」
「真正面です。」
「真正面限定なんだ!」
二人は顔を見合わせて笑った。
少し落ち着いたところで、浜谷が聞き返す。
「細井さんは何が好きなんですか?」
「犬!」
「即答ですね。」
「可愛いじゃん。」
「それは分かります。」
「あと猫。」
「増えましたね。」
「ハムスターも好き。」
「さらに増えました。」
「うさぎも好き。」
「まだありますか。」
「結局、可愛い動物全部好き!」
浜谷は思わず笑った。
「なるほど。」
「浜谷みたいに『真正面が線だから』とかじゃないからね。」
「確かにそうですね。」
その時、インカムが鳴る。
『イベントお願いしまーす。』
「はい!」
浜谷はすぐに返事をし、お客様の対応を済ませる。
接客を終え、再びカウンターへ戻ると、細井がニヤリと笑っていた。
「ねぇ浜谷。」
「はい?」
「殴るよ?」
浜谷は一切動じることなく答える。
「一発だけですよ?」
細井は軽く拳を握る。
「大丈夫!」
少し間を置いて、満面の笑みで言った。
「一発で仕留めるから!」
「それは大丈夫じゃないです!」
浜谷がすかさずツッコむ。
ちょうどそのタイミングでカウンターへやって来た茂田が、不思議そうに二人を見る。
「またやってる。」
「いつものです。」
細井が笑う。
「毎日飽きないね。」
茂田は苦笑する。
浜谷も笑顔で頷いた。
「最近はこのやり取りがないと、一日が終わった気がしません。」
「えっ、そんなレベルニダ?」
「はい。」
「じゃあ今日もノルマ達成だ。」
細井は満足そうに笑う。
三人は思わず顔を見合わせて笑った。
何気ない雑談。
何気ない掛け合い。
忙しい仕事の合間に生まれる、ほんの数分の時間。
そんな時間があるからこそ、今日も阿佐野店には自然と笑顔があふれていた。