セシリアと秋彦は山田先生の下に歩み寄る。
「山田先生。かつては日本の代表候補生にまで上り詰めたとお伺いしています。ここは一つ、我々の指揮を執って頂けませんか?」
「わ、わかりました!オルコットさん、織斑君。打倒駁羅君、頑張りましょう!」
「はい!頑張りましょう!
(一夏……今回こそは沈めてやる)」
セシリアと山田先生と秋彦が一致団結してISを展開。そして、少しだけ作戦を練り合う。一夏は無銘を展開し、一人待つ。
「(山田先生か……どういう戦法で来るのか、楽しみだ)」
一夏はブレードの峰で右肩を叩きながら考える。それからすぐに三人は一夏の方に向き直る。準備完了のようだ。
「準備はいいな?では、始め!」
千冬の声が響くと同時に三人は散開する。
「オルコットさん!牽制お願いします!」
「分かりましたわ!ブルー・ティアーズ!」
そして、セシリアはブルー・ティアーズを四機放ち、一夏に牽制射撃を試みる。ビットから放たれるレーザーを回避していると、実弾が飛来してくるが一夏はそれをブレードで弾く。実弾を放ったのは山田真耶その人。一夏はレーザーと実弾飛び交う弾幕から逃れると同時に死角目掛けて極太のレーザーが放たれる。だが、一夏は僅かな動作で回避する。しかし、その僅かな間に再びビットに囲まれ、弾幕を張られる。そして、その隙間から極太のレーザーが一夏に襲いかかる。
「(セシリア……動きながらビットのコントロールしてるのか)」
一夏はセシリアの成長を感じ、実弾を弾きながらレーザーを回避、再び弾幕から抜け出る。
「ーーー織斑君!」
「はいッ!!」
山田先生が言うや否や秋彦が瞬時加速で近付き、斬りかかる。一夏は咄嗟にブレードで流し、負けじと斬りかかるが秋彦もそれを雪片弐型で受け、斬撃を繰り出す。その剣筋は鋭く、クラス代表決定戦の時とは比べ物にならない程に成長していた。
「(秋彦……性格は悪いがやっぱり天才だ。嬉しいぜ、マイブラザー。潰し甲斐があるってもんだ)」
互いに斬撃の応酬をしていると、突如一夏がいた場所が爆発、爆煙に包まれる。接近戦で一夏の意識を秋彦に集中し、その間にセシリアは二機のビットからミサイルを、山田先生はグレネードを投擲。秋彦は瞬時に爆発の範囲を見極め、ギリギリまで近い位置に後退していた。山田先生の指揮、そして秋彦発案の爆撃を加えた即席のコンビネーション。
「よし!決まった!
(ざまぁみろ一夏!)」
秋彦は爆煙の中にいるであろう一夏を見つめながらひそかにほくそ笑む。織斑秋彦、やはり只の屑ではない。だが、この時秋彦達は知らなかった。駁羅一夏は、劣勢になればなる程コンディションが良くなることを。
「ーーー決まったのなら見栄ポーズをキメなきゃダメだろ。そんなんじゃアートポイントあんまり稼げないぞ」
秋彦の背後から声が響くと同時にブレードが背後から投擲される。
「きゃあッ!!?」
ブレードは秋彦を通り過ぎて爆煙を吹き飛ばしながら飛来し、山田先生に直撃する。あの時一夏は投擲されたグレネードを空いてる左手で掴み、ミサイルに投げて誘爆させ、爆煙に紛れて秋彦の背後に回り込んで爆撃を回避していたのだ。
「締めるぜッ!!」
一夏はそう言ってから秋彦が振り向く前に後頭部を掴んで地面に向かって瞬時加速、その勢いのまま地面にキスさせる。それから再び瞬時加速をしてそのまま秋彦を地面に擦り付けながら山田先生に向かって突撃、その勢いのまま秋彦を山田先生に向けて高速で投擲。山田先生と秋彦がぶつかり合う間にその勢いのまま接近し、山田先生にぶつけたブレードを右手で取り二人諸共一閃。ここで、秋彦のシールドエネルギーは尽きた。
「山田先生、ごめんなさい」
一夏は笑顔で言い、一閃した山田先生の頭を左手で掴む。
「うぅおぉぉぉぉおぉッ!!!」
「ひいぃッ!?」
そして、三度目の瞬時加速でセシリアに突貫。一夏の猛々しい叫びと気迫を前にセシリアは気圧され、萎縮する。そして、一夏はその勢いのままセシリアに体当たりして山田先生を叩きつけ、二人をブレードで横一閃する。
「イ、インターセプター!」
セシリアは咄嗟に態勢を立て直しながらぶつけられた山田先生から離れ、ショートブレードを素早く展開して斬りかかる。だが、今の一夏相手にはあまりにも分が悪かった。
「(射撃戦主体のセシリアがそれを素早く展開出来るとは……だが!)
俺には通用しねぇッ!!」
一夏はブレードでインターセプターを弾き飛ばし、山田先生にぶつけてからセシリアに袈裟斬り。すかさず山田先生目掛けてブレードを投擲。この時、二人のシールドエネルギーは底を突いた。一夏の勝利である。
「ふぅ……スッキリした。そして危なかったなぁ、俺」
一夏のシールドエネルギーも底を突きかけだった。もしも二、三発被弾してシールドエネルギーが少しでも減っている状況だったら、瞬時加速の多用でシールドエネルギーが底を突いていただろう。
「うぅ……。
(クソッ!また負けた!何故だ!何故僕は一夏に勝てない!?)」
「まさか、三人掛かりで負けるなんて……」
「一夏さん……やはり、とてもお強いですわね」
三人は一夏を見つめる。その視線にこめられたものは三者三様だった。そして、一組と二組の生徒達と千冬は改めて駁羅一夏の強さを痛感した。
「織斑先生、次は何やるんすか?織斑先生とサシですか?」
「馬鹿者、これは実戦訓練だ。専用機持ちばかり戦って他の生徒達がいつまでも見ているだけにはいかないだろう。この後は八人ずつのグループで実習を行う。グループリーダーは専用機持ちが行うこと」
千冬がそう言うと、生徒達は挙って一夏と秋彦とシャルルの下に集まってくる。
「この馬鹿共が……迅速に八人に分かれろ!!もたつく者はISを背負ってグラウンドを百周させる!!」
千冬の一喝で他の生徒達は分かれ出し、すぐにグループが出来た。
『各グループ、ISは行き渡りましたね。それでは実習を開始してください。グループリーダーの方は訓練機の装着を手伝ってあげて下さい。今日は全員にやってもらう予定なのでフィッティングとパーソナライズは切ってあります。では、午前中は動かすところまでやってください』
山田先生の連絡が各グループに入り、実習が始まる。
「よし、んじゃあ出席番号順に装着と起動、それから歩行やろう。一番目、カムヒア」
「はいはいはーいっ!」
一夏に元気良く返事しながら女子が一名やって来た。
「出席番号一番!相川清香!ハンドボール部!趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ!」
「自己紹介はいらない 」
「よろしくお願ーーー」
「ーーーごめんなさいっ!はい、早く装着してねー。真面目にやらず他人に迷惑かける不心得者には織斑先生の代わりに俺が罰与えるかんねー。モズグス様のように」
一夏は相川さんの言葉を一蹴した後に言う。そして、一人一人順調に進めていく。
「はい次の方、カムヒアー」
「………」
まさかの篠ノ之箒だった。本当は秋彦の班に入りたかったみたいだが他の専用機持ちがすぐに満員御礼状態になった為一夏の班に入ることになった。箒はまるで親の仇を見るような目で一夏を見つめている。秋彦の班に入れなかったことと模擬戦で秋彦を叩きのめしたのが相当お冠にキテる御様子。
「(凄ぇ怒ってるじゃん……秋彦を地面にキスさせたからか?なら地面に嫉妬しろよモップめ)
じゃあ篠ノ之さん、装着と起動と歩行やってこーーー」
「ーーー貴様に教わることなど何もない!」
箒は一夏の説明を一蹴して打鉄を装着、起動させて歩行する。そして、嫌がらせだろうか。箒は打鉄を立たせた状態のまま解除した。
「篠ノ之さーん、俺最初に言ったよねぇ。他人に迷惑かける不心得者には織斑先生の代わりに罰与えるってさ」
「ふん!」
箒は一夏を無視して歩き出す。この女、とことんナメくさっている。
「ーーーこの不心得者があ!!!」
その瞬間、一夏の一喝と擬音で表すならば『ドゴ』と言う凄まじい音が響く。それから頭を押さえて声もなく蹲る箒。その箒の前には、どこからか取り出した分厚い教科書を右手に持っている一夏が立っていた。
「篠ノ之……もう一度装着と起動と歩行をやれ。そして、最後は『しゃがんで』解除しろ」
一夏は威圧感を放ちながら言う。グループの生徒達は、その一夏に千冬の面影を見た。
「貴様ぁ……何様だ!?」
「一組のクラス代表様だ!クラスの輪を乱す大馬鹿者は俺が叩き直す!ホラ、早くしろ!ちなみに、俺は乗せてやらないからな。お前が立てて解除したんだ、お前が自力で装着しろ」
「……チッ」
食ってかかる箒に一夏は一喝する。箒は渋々と言った風に打鉄によじ登って再び装着、起動させて歩行する。そして、しゃがんで解除したら足早に列の後ろに引っ込んだ。
「(昔っから変わらない……自分が気に食わないと周りの迷惑を考えずにこんなことを仕出かす。小学生じゃねぇんだから。秋彦もよくこんな女と付き合えるよなぁ。天才な所とこういう所だけは尊敬出来るわ)
さ、気を取り直して次の人カムヒア」
こうして一夏は、内心で毒を吐きながらも再び順調に実習を進めていった。
ー食堂ー
実習が終わり昼。一夏は凄まじい速度で打鉄を片付けて我先にと食堂に駆け込み、あっという間に昼食を平らげ、デザートフリーパス(半年分)を使って食後のデザートタイムと洒落込んでいた。尚、周りはまだ食べ始めの模様。
「ン〜……これが勝利の味か。最高に美味だわ」
チョコレートケーキを食べながら一夏は言う。その表情はまさに御満悦の一言である。
「一夏さん、もう食後のデザートですか?」
御満悦な一夏の隣にセシリアが座り、問いかける。
「そりゃ、一週間楽しみに待ってたからな。デザートフリーパスは素晴らしい。本当に素晴らしい」
一夏は上機嫌でケーキを食べる。普段の速さからは想像出来ない程にゆっくりと。
「そういえば、例のことを話す予定だったな。まあ、食べながら聞いてくれ。くれぐれも他言無用でな」
「は、はい!
(一夏さぁん!?ち、近いですわ!)」
一夏はなるべくセシリアに身を寄せ、声を小さくして話す。一夏はセシリアだから話すのであって、そこらの連中には聞かれたくないのだ。セシリアはそれを分かりつつも、一夏が近い位置にいることに密かに興奮していたのだった。
そして、一夏は話した。ラウラと千冬の関係、自分と千冬、そして秋彦の関係を。セシリアはただ無言で聞くだけだった。
「……まあ、こんなもんだな」
「………」
セシリアは口を開けなかった。今の一夏の姿からは想像出来ない暗い過去に哀しみを抱いたから。そして、一夏の親代わりになり、一夏が尊敬し、一夏が目指す存在である駁羅尋稀を『屑』と侮辱した自分に恥を抱いたから。一夏に謝り、一夏に許されたセシリアだが、それでは気が済まなくなってしまった。
「……一夏さん。良ければ、本日一夏さんのお家に参りたいです。私は、貴方のお父様にも謝らなくてはいけません」
「んー……なら放課後一緒に行くか。親父は、呼べばすぐに帰ってくるだろうし」
今のセシリアに
それから放課後。織斑秋彦はシャルルと共に特訓をした。表向きは好青年に見える秋彦はすぐにシャルルと打ち解けることが出来た。だが、二人は決して腹の底に秘めた物を見せることはなかった。そして、訓練が終わってから秋彦はシャルルに言う。
「シャルル、一つだけ言っておく。駁羅君にはあまり近づかない方がいいよ」
「……どうして?」
「朝も見ただろう、ボーデヴィッヒさんにビンタされたとは言えビンタし返して保健室行きにする男だ。すぐに手が出るタイプだから下手に近付くと危険だよ」
「んー……それも、そうだね。
(データ収集の優先度は白式の方が上だしね……。秋彦、悪いけど君の優しさに付け込ませてもらうよ)」
「分かってくれて嬉しいよ。
(シャルル・デュノア……君はISの扱いがとても上手い。少なくとも『今は』僕より上だ。僕が一夏を潰せる力を得る為にも、君のことは利用させてもらう)」
『彼女』は父の命令の為に自分を偽った。
『彼』は己の為に自分の外面を偽った。
欺瞞に満ちた二人はお互いに歩み寄り、欺瞞に満ちた友情を築く。それを滑稽と笑う者は、少なくとも『この場』には居なかった。