もう兎に角感謝の極みです
本当にありがとうございます
ありがとうございます
放課後。アリーナにて一夏はセシリアの自主練に付き合っていた。何でも、これから数日後に学年別トーナメントなるものが行われるとのことらしく、模擬戦で完膚無きまでに叩きのめされたセシリアは一夏直々に近接戦闘の手解きを受けていた。
「なんだよセシリア、近接戦でも大分動けるじゃないか」
「最近はインターセプターを用いた近接戦闘を想定して特訓をしていましたのでこれくらいなら何とかなりますが、代表候補生同士の戦いとなると中距離射撃型のブルー・ティアーズの性能上どうにも力不足が否めないのですわ」
「そうか……ならさ、近距離に詰められそうになったらこっちから瞬時加速で近付いてソードとミサイルビット掴んで至近距離で投擲してすぐに瞬時加速でバックすりゃいいんじゃないか?」
「それが出来るのは一夏さんだけですわ!」
笑顔で言う一夏にツッコむセシリアだった。常識的に考えてぶっ飛んだ対処法だが、もし一夏がブルー・ティアーズに乗っていたら本当にやるとセシリアは思った。
「ーーーおい」
突然声をかけられた一夏。振り向くと、そこにはISを展開しているラウラが立っていた。よく見ると、まだ少し左の頬が赤い。
「えーと……バウアー・ボディソープさんだっけ?」
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ!」
「済まん済まん、間違えた。で、ボーデヴィッヒさん。なんか用?」
「私と戦え、織斑一夏」
「俺は駁羅一夏だ、織斑じゃねぇよタコ。そして御断りだ、面倒臭い。とっとと失せちまえ」
「ならば戦わざーーー」
「ーーー失せろ、チビ助」
一夏はラウラを見つめながら言い放つ。その言葉、そして眼光に、ラウラは本能で今まで対峙したことの無い得体の知れない『何か』を感じた。
「そんなに戦いたいなら、トーナメントでやってやる。それまで腕磨いとけ。無様に負けたくなければな」
「……いいだろう。観衆の前で跪かせてやる。私のシュヴァルツェア・レーゲンでな!」
「なら、俺は観衆の前で踏んづけてやる」
強がりながら立ち去るラウラに一夏はギラついた笑顔で言い放つ。それからその笑顔のままでセシリアの方を向き直る。流石のセシリアも少々たじろぐ。
「セシリア、悪いが特訓はここまでだ。俺は帰ってボーデヴィッヒ対策を練ってくる。じゃ!」
一夏はそう言うや否や凄まじい速度でその場から走り去った。あそこまでやる気に満ちたのは鈴との戦い以来だと、セシリアは一夏の背中を見つめながら思った。
ー駁羅家ー
一夏はすぐに研究室に乗り込む。そこには束が笑顔で待っていた。
「ただいま、束姉」
「おかえり、いっくん!
「ありがと」
一夏は微笑みながら束の頭を撫でる。束は笑顔で撫でられる内にやはり抱きついてくる。一夏はそれを抱き締めつつラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』のデータに目を通す。
「武装は大口径レールカノンにプラズマ手刀、ワイヤーブレード……いいねぇいいねぇ。そんで……AICか。サシの勝負だと厄介だな。まあ、負ける気はしないけど」
AIC。正式名称アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。要は射程の広い停止限定のベクトル操作である。並の奴が一対一で挑めばハメ殺されるだろう。
「束姉。AIC搭載したグローブとか作れる?」
「五分あれば充分だよ!」
「流石は束姉。最高だ」
一夏はさも当たり前のように束の額にキスをする。これによって束の一夏関連で元々高いモチベーションは更に高まった。
「いっくーん!やっぱり五分なんていらない!40秒で終わらせるよー!!」
そう言ってから束は一夏から離れて作業を始める。そして、四十秒ジャストでグローブを持ってきて抱きついてきた。
「よーし!トレーニングルームにしゅっぱーつ!」
束は最高に『ハイ!』ってやつになりながら言う。一夏は微笑みながら束を横抱きにしてスキップしながらトレーニングルームに向かった。
トレーニングルームに入った二人を待っていたのはデッド・ウォルノックス。左手の人差し指一本で逆立ちしながら腕立て伏せをしている。
「やぁやぁいっちゃん君に束っちゃん!随分お熱いけど何しにきたん?」
「デッドか……丁度良いや。叩きのめしたいヤツがいるから手伝って」
「オレで良ければやったげる!」
デッドは両足を地につけ、逆立ちを終える。それから束に話を聞くデッド。その顔はニヤけながらも真面目だ。
「つまり、オレはこのグローブを使っていっちゃん君に一発貰わないようにすりゃいいんだね?」
「そゆこと。じゃ、おっ始めようか」
一夏は無銘を展開し、ブレードを構える。デッドは右手にグローブを着ける。束はそれを見守っている。
「ーーーシィッ!」
先手必勝。一夏は瞬時加速を用いてデッドに急接近する。だが、デッドは慌てずに一夏の眼前にグローブを着けた右手を出す。その瞬間、一夏の身体は硬直した。
「(あ、ヤベェ。コレISだと思ったより動けねぇ)」
「パーンチ!」
「へぶぅッ!!」
一夏の顔面にデッドの左ストレートが直撃する。その拳は絶対防御をも貫通して一夏の右頬を捉え、一夏の身体を壁際にまでぶっ飛ばす。
「いってぇ〜!当たり前だけどボーデヴィッヒのビンタの百億倍痛ぇ!」
「鍛えてますから!シュッ」
デッドは某鬼の真似をする。一夏は立ち上がり、血の混じった唾を吐き捨ててからブレードを構える。
「(油断したが、限界ギリギリのパワーで動けば解除出来る……でもなぁ、ボーデヴィッヒは兎も角デッドにそれは通じないだろうし……やっぱり、デッドの反応の上を行くっきゃないか)」
一夏はデッドを見据え、再び瞬時加速。そして最早御約束と言っていい一夏お得意のブレード投擲をする。
「ほいさ!」
デッドが右手をかざすと、ブレードは宙に浮いたまま停止する。
「ーーーよし、終わりだ」
背後から一夏が声をかけると同時に、デッドの両腕ごと身体に腕を回してクラッチする。デッドの意識をブレードに逸らし、その僅かな隙の間に背後に回り込み、今に至る。
「あ、それはアカァンッ!」
そして、そのまま後ろに反り投げ、デッドは脳天から地面に突き刺さり、トレーニングルームの中にそれはそれは美しい
ジャーマンスープレックス。それも、受身の取れないダルマ式。いくらデッドと言えど、ダメージを受ける。一夏はクラッチを解き、ブリッジ状態から立ち上がる。デッドはジャーマンを受けた態勢から後転して立ち上がる。
「あ^〜頭がぐわんぐわんするんじゃ^〜」
「どうやらAICは一つの対象に集中しないとダメなようだな。なら、やり方はいくらでもある」
一夏は笑顔で言いながらISを解除する。そして、デッドと二人で束の方を見る。束は先程のブリッジに心奪われ、ポーッとしていた。一夏は歩み寄り、束の両頬を軽くつねる。
「
「(束っちゃん可愛い)
どうやら束っちゃんは、
「(まあジャーマンは美しい技で有名だしちかたないな)
ほっぺた柔らかい束姉結婚しよ」
「
「いっちゃん君。まず本音と建前逆になってるしそろそろ束っちゃんからハンド放したげなよ」
珍しくデッドがツッコミ、一夏は束の頬から手を放す。束は満面の笑みで抱きつき、一夏はすかさず抱き締める。
「ねぇねぇあなた!!子供は何人欲しい!?」
「束姉色々と時期尚早だから!ちなみに二人!」
「(子作りは否定しないのね……オシリアたん、頑張れ。マジ頑張れ。なんだったら重婚OKだかんな)」
デッドはIS学園にいるセシリアのことを考えながらもトレーニングルームのお掃除に取り掛かった。
ーIS学園ー
「おざーす」
そして翌日、教室に一夏がやってきた瞬間に女子達が取り囲む。箒とセシリアとラウラ以外だが。尚、箒に至っては御機嫌斜めの様子。
「駁羅君!これ見て!」
女子の一人が一枚の紙を一夏に差し出す。一夏はそれを手に取ってまじまじと見つめる。
「何々……おっ、トーナメントがタッグマッチ式になったのか」
「そう!と、いうことで!」
『駁羅君!私と組んで下さい!』
一夏を取り囲む女子達は一斉にお辞儀をしながら右手を差し出す。
「俺以外にも織斑とかデュノアがいるだろうが」
「その織斑君とデュノア君が組んじゃったの!もう残ってる男子は駁羅君だけなの!」
箒の機嫌の悪い理由を察した一夏は二秒程考えてから口を開く。
「セシリア!俺と組もうぜ!」
この一言は、多くの女子のハートをドン底にダンクシュートした。
「そ、そんなぁ〜!!」
「ある意味想像通りの結末〜!」
「駁羅君が敵って時点でもう勝ち目0だよ〜!!」
「神は死んだ!フリードリヒ・ニーチェ!」
心をダンクシュートされた女子は絶望しながら散っていく。そして、いつの間にやらセシリアは一夏の隣に立っていた。
「セシリア、期待してるぜ」
「分かりました。このセシリア・オルコット、全身全霊を傾けて頑張らせて頂きますわ。
(やはり、一夏さんは私を選んで下さった!他の皆さんのようにがっつかなくて良かった!)」
美しく微笑みながら言うセシリアに、一夏は微笑みかける。その姿は最早カップルそのものだ。そして、それを恨めしそうに見ている者が一人いた。
「(秋彦……何故だ!何故私と組まなかった!?)」
篠ノ之箒である。秋彦は勝利の為に、共に特訓を重ねたシャルルと組むことを選んだ。箒はそんな秋彦の思いを考えず、秋彦の恋人である自分と組まないなんておかしいとしか考えない。箒は、今仲睦まじくしている一夏とセシリアに嫉妬していたのだ。
「(一夏……何故出来損ないの貴様が……クソッ!よくも見せびらかして……!)」
箒は一人、拳を握り締めて一夏を睨んでいた。一夏はその視線を感じた上で考える。
「(……醜い嫉妬を感じる。まあ、俺には関係無いな)
セシリア、放課後特訓しようぜ。絶対に勝つ為に!」
「はいっ!」
こうして一夏とセシリアはトーナメントに向けて特訓を重ね、改めて強い絆で結ばれていくのだった。
数日後、時は来た。学年別トーナメント、開催である。
「さぁて、最初はどこのどいつかな?」
「どなたであろうと、全力を出し切るまでですわ」
一夏とセシリアはモニターに映るトーナメント表を見つめながら言う。
一回戦は、一夏・セシリアコンビ対ラウラ・箒コンビだった。これには一夏、思わず満面の笑みを浮かべる。
「最初からボーデヴィッヒか……粋な計らいだ」
「AIC対策は出来ましたが、篠ノ之さんはどのような戦法で来るのか……」
「俺と同じでブレード一本だろうが、今のセシリアならあまり問題ない。篠ノ之を先に潰して、二人でボーデヴィッヒを叩くぞ」
「分かりましたわ」
二人はアリーナに向けて歩き出す。その姿に驕りは微塵も存在せず、自分達の勝利に絶対的な自信を持つ堂々としたものだった。アリーナでは、既にラウラと箒はISを展開して待っていた。一夏とセシリアもISを展開し、二人と対峙する。
「一戦目から当たるとは、待つ手間が省けたと言うものだ」
「そうだな。やっとお前を観衆の前で踏んづけてやれる」
「……叩き潰す」
「やれるものならどうぞ」
睨みながら言うラウラに一夏は笑みを浮かべて言い放つとラウラの眉間に皺が寄る。試合開始のブザーが鳴り、一夏はラウラ目掛けて瞬時加速で突撃する。
「絵に描いたような猪突猛進振りだな」
ラウラは片手を前に出し、カウンター気味にAICを発動しようとする。だが、一夏はその範囲ギリギリで止まる。
「
一夏はそう言い、ヘラヘラと笑う。シャーフとは『バーカ!』という意味である。
「貴様ァッ!!」
これには流石のラウラも怒り心頭。大口径レールカノンを連射し、ワイヤーブレードを振り回す。
「(あのレールカノン、デカい割に連射能力高いなぁ)」
一夏は弾幕とワイヤーを避け、合間にダンスをする余裕を見せている。こうしてラウラは徐々に頭に血が上り、一夏に執着していることも相まって一夏のみを狙う。こうしてラウラを陽動している間にセシリアはブルー・ティアーズを射出して箒を全方位から攻撃する。
「くっ、小癪な!」
箒はブレードでビットを落とそうとするが、ビットはそれを避けてレーザーを放ち、箒のシールドエネルギーを削っていく。更に弾幕の隙間からスターライトmkIIIの極太レーザーが箒に襲いかかる。
「猪口才なぁッ!!」
被弾し続ける箒はレーザーを避け、ビットの攻撃を打鉄の楯で防ぎながらセシリアに真っ直ぐ突撃する。近距離に入れば分があると考え、実際にブレードが届く間合に入った。これではスターライトmkIIIを撃てない。だがセシリアは慌てず左手に持ち替え、右手にインターセプターを展開してブレードを見切る。そして柄目掛けてインターセプターを振るい、箒の手からブレードを弾き飛ばす。
「(何っ!?)」
「はぁっ!」
武器を弾き飛ばされ狼狽する箒。その隙を突いてセシリアは二回斬り、間合を放す。その直後、箒の背後に回っていた一機のミサイルビットがミサイルを放つ。
「ぐあぁっ!!」
ミサイルが直撃し、シールドエネルギーが大分削られる箒。突如、煙が晴れて後頭部が何者かに掴まれる。
「トドメだ」
一夏である。声が聞こえた瞬間には、箒の顔面は地面に激突する。これでシールドエネルギーは残り僅かとなる。それから一夏はラウラ目掛けて瞬時加速し、その勢いで箒を投げる。
「甘い!」
ラウラはAICで箒を止める。だが、一夏は笑っていた。何故なら、AICで箒を止めているラウラの背後から四機のレーザービットともう一機のミサイルビットが一斉発射したからだ。
「何っ!?」
ラウラはレーザーとミサイルが直撃。その時にレールカノンが破損する。箒はレーザーが数発被弾し、シールドエネルギーが尽きる。その拍子にAICが解除された瞬間、一夏とセシリアが動いた。セシリアは煙の中に隠れてるラウラの位置を予測してスターライトmkIIIを発射、レーザーはラウラに見事直撃し、シールドエネルギーを大幅に削る。
「ぐうっ!!」
「隙ありィ!!」
「うあぁッ!?」
そこに一夏は瞬時加速で突撃し、御約束のブレード投擲でラウラを追撃。絶対防御を貫いて装甲に直接ダメージを与える。その勢いで接近し、身体の態勢を横にして旋回させながら脚部を回し込んで踵を叩き込み、ラウラを地面に叩きつける。
「ニールキックからのォ!キィック!!」
そして、すかさず瞬時加速の勢いでラウラにヒーローキックを叩き込み、そこから四回踏みつけてサッカーボールキックで転がす。そのヒーローキックでシュバルツェア・レーゲンはダメージレベルDに至ってしまった。
「(ま……、負けるのか……?私は、こんな所で、この男に、負けるのか……?)」
ラウラはふらつきながらも立ち上がる。
「(嫌だ……負けられない……私、私は…………)」
先程のサッカーボールキックで眼帯が取れ、隠していた金色の眼で一夏を見つめる。
「(織斑教官の汚点、織斑一夏……!あいつを敗北させると決めたのだ……完膚無きまでに叩き伏せると!!欲しい……今より強い力が……比類無き最強の力がッ!!欲しいッ!!)
ーーーうあああああぁあアアアアアッ!!!!」
「な、なんですの!?」
「………………」
咆哮するラウラ。そして、シュバルツェア・レーゲンの装甲が泥のようなモノとなり、ラウラを包み込んでいく。
「取り込んでるのか……?」
「あんな変形をするISなんて、聞いたことありませんわ!」
『非常事態発令!全試合を中止!鎮圧の為教師部隊を送り込む!来賓、生徒は速やかに避難すること!』
緊急時のアナウンスとアラームが鳴り響く中、一夏はラウラを睨んでいる。ラウラを取り込んだモノは、やがてある形になる。
「あ、あれは……織斑先生!?」
セシリアは驚きながら言う。二人の目の前にいるラウラの形は、暮桜を纏い、近接ブレード『雪片』一本で
この時、この場にいた者達は知らなかった。駁羅一夏の前にその姿で立つ意味を。そして、すぐに知ることになった。それは、一夏の過去の傷を抉る行為だと。それは、一夏が『心の闇』と共に抑え込んでいる『尋稀譲りの残虐性』を完全に解放する愚行だと。