一夏、織斑捨てたってよ   作:ダメオ

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一夏、危うく殺りかけたってよ

アリーナにいる一夏はゆっくりと歩き出す。間合に入った瞬間に千冬擬きはブレードで斬りかかる。その剣筋は、世界最強(ブリュンヒルデ)そのものである。一夏は紙一重で回避し、間合を放す。

 

 

「……同じだ。あの時と、全く同じ剣筋だ」

 

 

一夏はISを解除する。

 

 

「思い出す……気を失って、気付いたら真っ暗な倉庫にいて、椅子に縛り付けられていた」

 

「い……、一夏、さん……?」

 

 

一夏は無表情になり、呟く。セシリアの声には、反応しない。

 

 

「決勝戦で織斑千冬の出場を阻止、不戦敗させる為の人質。俺は待っていた。今まで俺を褒めてくれなかったが、愛されていると思いたかった」

 

 

一夏は生身のまま再び歩み寄り、間合に入る。再び襲いかかるブレードを見切りながら千冬擬きを見つめている。

 

 

「でも、織斑千冬は決勝に出た。そして俺は誘拐犯に腹癒せにリンチにされながらもずっとテレビを見てた。第二回モンド・グロッソで、今と全く同じ剣捌きで華やかに相手を斬り倒して世界最強(ブリュンヒルデ)になった織斑千冬を」

 

 

一夏は再び間合を放し、見つめる。その場にいたセシリアは一夏から感じる不気味な殺意によって声も出せない程に恐怖し、身体が硬直。箒に至っては意識を手放していた。

 

 

「織斑千冬……テレビの向こうでトロフィー受け取って笑ってたっけなぁ……」

 

 

一夏は呟く。そこに雪片を構えて突撃する。その瞬間、千冬擬きの顔面に右平手打ちが直撃し、地面を転がる。

 

 

「その姿を見ると今でも鮮明に思い出す。あの時のことを。だからかな、つい力が入っちまうんだ」

 

 

一夏の手には、泥と化した装甲が握られていた。平手打ちの時に爪を立てて頬を抉ったようだ。一夏は歩み寄りながら右手の泥をそこらに捨てる。千冬擬きは立ち上がり、再び突撃する。

 

 

「んー……ここら辺りか」

 

 

一夏は斬りかかる刃を避け、千冬擬きの胸元に右拳を叩き込む。その衝撃に千冬擬きは後ろによろけるが、一夏はそれを見逃さなかった。すかさず追い打ちにボディブローをぶち込み、千冬擬きの態勢を前屈みにして曝け出された背中に踵落とし、うつ伏せの状態で地面に叩きつける。それから指一本動かす間も無く背中を思い切り踏みつけると、千冬擬きは地面に減り込んでしまう。

 

 

「無駄なものは取っちまおうか」

 

 

そこから更に右肩と右腕を踏む。肩の辺りにはまるで泥に足を突っ込んだように窪みが出来、腕はひしゃげてしまう。それを左肩にもやる。そこから地面を抉る蹴りを頭部に叩き込み、千冬擬きの身体を空高く蹴り上げる。その凄まじい威力と勢いは、窪んだ両肩が身体から千切れて地面に両腕を置き去りにしてしまう程に強力だった。

 

 

「よし、サンドバッグらしくなった」

 

 

一夏は虚ろな眼で千冬擬きを見つめながら呟き、右ミドルキックで蹴り飛ばす。千冬擬きは吹き飛び、アリーナの壁に叩きつけられる。その瞬間、その眼前には、右拳を突き出さんとする一夏が立っており、その右拳は、千冬擬きの胸元に叩き込まれる。そして、更に下腹部目掛けて左拳が叩き込まれる。

 

更にもう一発、右拳が鳩尾に叩き込まれる。

 

更にもう一発、左拳が胸元に叩き込まれる。

 

更にもう一発、更にもう二発、もう三発、もう四発と回数は増えていき、やがて両の拳が残像を残しながら千冬擬きの身体に絶えず叩き込まれ続ける。

 

 

「……笑えるなぁ、模造品と言えど世界最強(ブリュンヒルデ)なのに。生身の人間にここまで傷めつけられるとは」

 

 

一夏は手を止め、千冬擬きの首を掴んで後ろに投げ飛ばす。まるで水切り遊びで跳ねる石のように地面を跳ね、転がるその身体。一夏は地を駆けて間合を詰めて、その勢いで脇腹にトーキックをかまして再び転がす。それから転がる方向に先回りし、思い切りストンピングをして千冬擬きの身体を仰向けで地面に減り込ませる。

 

 

「こんな経験滅多に出来ないからな、今の内に堪能しておくか」

 

 

一夏は虚ろな眼で千冬擬きを見下ろし、足を振り上げて、踏みつける。

 

何回も。

 

何回も。

 

そして、馬乗りになり、千冬擬きの顔面目掛けて右平手打ちをかます。その時に爪を立てて頬を抉り取る。続いて左平手打ち、また抉る。それを何回も繰り返して顔面を削っていく。

 

 

「ふぅ〜……飽きたな」

 

 

ズタズタになった顔面を見つめて一夏は言う。そして、胸元に右手刀を突き刺す。そこから内部を手探り、人肌並の温かさの細く柔らかいモノを掴む。一夏はそれを握り締めると、掌に僅かに脈拍を感じた。既にボロ雑巾と化している千冬擬きが泥となって崩れていき、ラウラの身体が表に出る。

 

一夏が握っているのは、ラウラの首だった。

 

 

「ッ……ぁ…」

 

 

両腕と両脚、そして顔中に痣があり、虫の息と言って良い状態で首を掴まれているラウラ。一夏は右手で首を掴んだまま左拳を構えーーー

 

 

「ーーー駄目です!一夏さんッ!!」

 

 

セシリアが叫び、一夏の左腕に抱きついて止める。その時、一夏の虚ろな眼に光が戻る。

 

 

「セシリア……?」

 

「駄目です……それ以上は、ダメェ……!」

 

 

セシリアの身体の震えが、一夏の身体に伝わってくる。セシリアの一夏を想う心が、恐怖で動けぬ己の身体と闇に飲まれかけた一夏の心を突き動かしたのだ。

 

 

「………………」

 

 

一夏は左拳を下ろし、ラウラの首から右手を取る。そして、ラウラを見つめている。

 

 

「一夏!」

 

 

そこに、千冬が駆けつける。一夏はゆっくりと千冬の方を見て、口を開く。

 

 

「悪い、千冬姉……やり過ぎた」

 

 

千冬はボロボロになったラウラと儚げに笑う一夏を前にして、何も言えなくなった。そして、心の中で己を責めた。セシリアは、そんな一夏の顔を見てそっと抱き寄せ、頭を撫でる。

 

 

「……大丈夫だ。ありがとう、セシリア。さて、一丁医務室に運ぶか」

 

「篠ノ之は私が保健室に連れていく。……ラウラのこと、頼んだ」

 

「分かった……セシリア。今日は、先に戻っててくれ」

 

「分かりました……では」

 

 

数分後、一夏は立ち上がり、ラウラを背負いながらセシリアにどこでも玄関を投げ渡す。千冬は気絶している箒を背負い、それぞれ医務室と保健室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー医務室ー

 

「……うぅ…………。ここは……ぐっ、ぁあっ!」

 

 

ラウラは目を開き、動こうとするが身体に走る激痛に顔を歪め、動くのを止める。全身をミイラ並に包帯でぐるぐる巻きにされているのだから、動くのは少々無理がある。

 

 

「ここは医務室だ。それとあんまり動くな。全身打撲の上、鎖骨と肋骨と肩甲骨にヒビ入ってる」

 

 

椅子に座っていた一夏が言う。ラウラが目を覚ますまで、数時間動かずにいたのだ。

 

 

「済まない、ボーデヴィッヒ。色々とやり過ぎた」

 

 

本当はここまでやることはなかった。だが、あの姿(千冬擬き)を見た時に一夏の中の闇が鎌首をもたげてしまった。それを抑えられなかった一夏は責任を感じ、深く頭を下げた。

 

 

「……私は他の人間とは少々違う。この程度の怪我なら一、二週間あれば何とかなる」

 

 

ラウラは生体兵器に近い試験管ベビーだ。常人よりもあらゆる能力が高く、その中には勿論身体の治癒能力も含まれている。

 

 

「……織ー一ーいや、駁羅一夏か……。聞きたいことがある」

 

「なんだ……?」

 

「何故、お前は強い?」

 

 

落ち着いた様子のラウラは問いかける。

 

 

「……俺は強くない。只大きい力を持ってるだけだ。俺が、俺自身で在る為に。織斑千冬の弟でもなく、織斑の恥さらしでもなく、織斑の出来損ないでもない、只の駁羅一夏()である為に」

 

 

この言葉はラウラの心に大きく響いた。ひたすらに『織斑千冬』になろうとしていた自分にとっては目から鱗が落ちる思い。そして、彼もまた、出来損ないと蔑まれた者。自分と同じ痛みが理解出来る者だと分かると、ラウラは自然と口を開く。

 

 

「……私は『織斑千冬』になろうとしていた。あの『完璧な強さ』があれば、出来損ないと蔑まれ、落ちこぼれとなった私は再び最強になる。私の存在を認めてくれる……だから、私はあの人を目指した。それ故に、お前が許せなかった」

 

「……織斑千冬が俺のことで負い目を感じたことが、お前にとっての『織斑千冬の汚点』だった」

 

「そうだ。あんなに弱々しい顔をするあの人を見たくなかった。……だが、今なら分かる。私は、お前が羨ましかったのだ。教官にそこまで想ってもらえるお前が……。だからお前を倒そうとした。教官の汚点であり、教官の愛を受けるお前を消し去る為に」

 

 

ラウラは心の内に秘めていたものを吐き出した。一夏になら、全て話せると感じたのだろう。

 

 

「だが、私は負けた。完膚無きまでに。それに、きっと勝ったとしても私は、私が目指すものを得られなかっただろう。だから……礼を言う」

 

 

ラウラは自然と微笑みを浮かべながら言う。

 

 

「……俺は礼を言われることはしてない。ボーデヴィッヒは、自分で気付くことが出来たんだからな」

 

 

一夏も微笑みを浮かべて言う。

 

 

「……気になったことがある。お前のISの変形……アレはなんだったんだ?」

 

「恐らく……VTシステムだろう」

 

「VTシステム……?」

 

「ヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの戦闘データをそのまま再現し、実行するシステムだが、アレは現在あらゆる企業、国家での開発が禁止されている。操縦者に多大な負担が掛かり、死者を出しているからな。私も危うくその仲間入りを果たす所だった」

 

「……そんなふざけたモノは、この世から消えて無くなればいいんだけどなぁ」

 

 

一夏は待機状態にしてある無銘を一瞥する。無銘を通して見聞きしている束なら、既に行動を起こすだろう。

 

 

「なぁ、駁羅」

 

「なんだ?」

 

「……私は、私自身で在ることが出来るだろうか?」

 

「勿論だ。遅いなんてことはない」

 

「そう言ってくれると、心強い」

 

 

一夏とラウラは微笑みながら見つめ合う。出来損ないと呼ばれた二人は、今ここでお互いを分かり合った。

 

 

「んじゃ、そろそろ帰るわ。また明日見舞いに来る。明後日も、明々後日も、弥明後日も。治るまで見舞いに来るから」

 

「……分かった。待っている」

 

「じゃ、また明日な。ラウラ」

 

「!……ああ、また明日。一夏」

 

 

ラウラは微笑みながら一夏の背を見送り、ゆっくりと眼を閉じて眠りに就いた。その顔は、まるで憑き物が取れたような安らかな寝顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー某施設ー

 

その頃、VTシステムを研究していた施設にて。白衣を血で真っ赤に染めた研究員とISスーツを着ている女が掃いて捨てる程に地面に転がっている。皆、首をかっ切られていた。そして、一人。腰を抜かした無傷の研究員と、一人の男がいた。

 

 

「ごめんねぇ、僕の鎌が君達をスパスパしちゃって!」

 

 

場にミスマッチな言動と笑顔。そして身の丈並の大鎌。彼の名は、デッド・ウォルノックス。束からの命令で施設倒壊及び研究員を全員抹殺してこいとのお願いをされてしまった男。

 

胸元を開いた真っ白な長袖カッターシャツにタイトなワインレッドのチノパンと黒一色のチャッカブーツ。そこに黒いロングコートを羽織っている。普段と比べるととてもオシャレなこの服装は仕事用とのこと。

 

 

「き、貴様の目的はなんだ!?」

 

「キミ達の名前を鬼籍に入れることです。つまりみんなダーイ(DIE)ってこと。すわっ!」

 

 

デッドは笑顔で言い、鎌を振るう。研究員の首から、真っ赤な液体が噴き出し、事切れた。それを見届けたデッドは施設から出る。

 

 

「お仕事完了だっぜ。さて、仕上げはおかあ〜さ〜……じゃねぇや。束っちゃんお手製のダイナマイッで……」

 

 

デッドは懐からダイナマイトを一本取り出して、導火線に着火して中にアンダースローで投げ入れる。それからすかさずどこでも玄関を取り出し、ドアに付けて開き帰宅。施設が塵一つ、そして亡骸の山が髪の毛一本の細胞すら遺さず消し飛んだのはそれから二秒後のことだった!

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