シャルロットがファミリィとなってから数日が経った。デュノア社は無事倒産し、社長とその他社員の汚職が発覚、逮捕。そして尋稀の手早い行動によっていつの間にやら、シャルロットは駁羅尋稀の正式な養子の駁羅シャルロットとなった。つまり、一夏に妹が出来たということだ。
「なぁなぁいっちゃん君。この調子でさ、前に話したドイツ軍人の子も妹にしちゃいなYO!」
「このロリコン!犯罪者予備軍め!」
下心を全面的に出して言うデッドに一夏は言い放つ。
「ロロロロ、ロリコンちゃうわ!銀髪眼帯ロリ体型娘とか嫌でも目がいっちゃうでしょ!属性色々乗せ過ぎて、まさにラーメン二郎だよ!」
「そうだぞ一夏。デッドはロリコンでも犯罪者予備軍でもない」
「親父!?」
「ひ、尋稀……お前はオレの味方だと信じーーー」
「ーーー
「た所でドーンッ!!」
「ギャッハッハッハ!ペド野郎とか酷ぇ!」
見事に上げて落とされたデッドを見て一夏は爆笑していた。
「ペドじゃないやい!ペドじゃないやい!」
「じゃあお前の好きな雑誌は?」
「……コ、コミックLO」
デッドは震え声で言った。
「やっぱり
「ああそうですよ!どうせボカァ幼児体型に興奮する変態ですよ!」
「開き直るなポルノックス」
「ウォルノックスだよッ!!ポルノックスってなんだし!!」
「イーヒッヒッヒ!ポルノックスって……ポルノックスてぇ!!」
一夏バカウケ中。そこに、シャルロットが入ってきた。
「みんな、晩ご飯出来たよ!」
「シャルちゃんと束さんが腕によりをかけて作ったよ〜!」
シャルロットが尋稀の養子となった際、尋稀の根回しでシャルロットは寮から出て一夏と同じ自宅登校となった。そんな権力なんで持ってるの?という疑問はタイムカプセルにでも仕舞って埋めるべし。それからは、いつもの駁羅家の当番制に彼女の名前が追加された。因みに、本日はシャルロットと束だ。高い女子力を持ち、料理の美味いシャルロット。そして『完璧にして十全な存在』を自称するだけあって料理の腕も完璧な篠ノ之束。この二人が組めば、尋稀と一夏の家事万能タッグに匹敵する程に絶品な料理を作れるのだ。
「今日のメニューは?」
「ハンバーグだよ。お父さん、前に好きだって話してたから」
「覚えてたか。ありがとな、シャルロット」
尋稀は優しく微笑みながらシャルロットの頭を撫で、シャルロットは満面の笑みで頭を撫でられる。母親を失った上父親がまともじゃなかったシャルロットは親からの愛情に飢えていた。その為、尋稀という新たな父親に対して非常に甘える様になった。要するに後天的なファザコンである。
「えへへ……ほら、早く行こう?」
「おう」
シャルロットは暫く撫でられるのを堪能してから尋稀の腕に抱きついて言い、尋稀と共に食堂へと歩き出す。
「いっくんいっくん!わたし達も、行こ?」
「はいはいっと」
一夏は既に抱きついている束を横抱きにし、歩き出す。リビングには、デッド・ウォルノックスが一人残された。
「……シャルちゃんに尋稀取られたッ!!NTRじゃ!!NTRじゃッ!!」
デッドは一人で喚いてから食堂に走っていき、他の誰よりもハンバーグに舌鼓を打っていたとさ。めでたしめでたし。
ーIS学園ー
「おはようございまっす」
翌日、一夏が教室に入る。そして、ある人物の下に真っ先に歩き出す。
「おはよう、ラウラ」
「おはよう、一夏」
怪我が完治し、本日から復帰したラウラがいた。最早かつての冷たい雰囲気は微塵も無い。そこにセシリアが歩み寄ってくる。
「おはよう、セシリア」
「おはようございます、一夏さん。……所で、シャルロットさんはどちらに?」
シャルロットの事情を既に知っているセシリアは小声で問いかけてくる。
「待ってりゃ来るさ。ホラ、席着こうぜ」
一夏は笑顔でそう言い、自分の席に着く。それからおよそ二分後、千冬と山田先生が入ってくる。
「み、皆さん……今日は、転校生を紹介します……あ、いやぁ……転校生というか、もう紹介は済んでるというかぁ…………」
山田先生は狼狽しながら言う。千冬は無言で一夏を見つめており、一夏はその視線を感じ、笑みを返し、口を開く。
「山田先生ー。百聞は一見に如かずですよー」
「そうですね……では、入ってきてください……」
山田先生が言うと、教室の扉が開き、女子の制服に身を包んだシャルロットが入ってくる。箒よりも裾の短いスカートから伸びる生足が眩しい。
「駁羅シャルロットです。皆さん、改めてよろしくお願いします」
教室は静まり返っている。秋彦に至っては口を大きく開いている。それを見た一夏は内心大笑いしていた。
「えぇと……デュノア君は、デュノアさん、じゃなくて駁羅さんでした、ということです…………」
『えぇ〜っ!!?』
未だ狼狽している山田先生の言葉にクラスが騒然となる。
「デュノア君、女の子だったの!?」
「それより、なんで苗字変わってるの!?それも駁羅君と一緒!」
「その質問にお答えしよう。シャルル改めシャルロットは、家庭の事情からウチの養子になったんだ」
「なるほど〜……」
「家庭の事情なら、仕方ないよね」
クラスメイトの疑問に一夏が答える。クラスメイトは納得し、何も言わなくなった。かつて一夏の家庭の事情を聞こうとした時のことを思い出したのだ。無理に聞こうとすればセシリアが雷を落とすだろう、と。その為特に騒ぎになることはなく、円滑に事は進み、授業が始まり、やがて放課後が訪れた。セシリアは一夏に歩み寄り、声をかける
「一夏さん。明日、御予定は空いてますか?」
「空いてるけど、なんかあったか?」
「明日、臨海学校の準備として水着を買おうと思いまして……その際に、一夏さんに水着を選んでもらいたいのですっ!」
セシリアは頬を赤らめながら言う。
「ああ、いいぜ」
「では、午前九時に駅前のショッピングモールで待ち合わせしましょう!」
「分かった。じゃあ、また明日な」
一夏が去っていった後にセシリアは一人ガッツポーズを決めてからスキップで寮に戻っていった。
ー駅前ー
翌日、一夏が五分前に到着して待っている。その際に、周りを見回す。
「痛っ!ちょっとアンタ!よくも私の足を踏んだわね!?」
「す、すみません!」
「謝って済む問題じゃないわ!あぁ〜あ、最悪。靴汚れたし」
「では、お靴を弁償させて頂きますぅ!!」
「当たり前よ!これだから男は……」
サラリーマンらしき男が誤って女の靴を踏んで汚したことに女がキレ、男が土下座して許しを請いている。
「(なぁにが『当たり前よ!』だ……どう見たって靴屋のセールで買った安物じゃねぇか。大体、その程度の汚れなんて拭けば落ちるだろうが)」
一夏は内心毒づく。一夏はどちらかを尊び、どちらかを卑しむことを嫌う。どちらも平等に尊く、そして卑しいという考えが根底にある。そんなことを考えながら待っていると、セシリアがやって来る。一夏は思考を切り替える。
「おはようございます、一夏さん」
「おはよう、セシリア。水着のチョイスは……あんまり期待しないでくれよ?」
「大丈夫ですわ。一夏さんなら」
「そうかい……よし、行こう」
一夏とセシリアは微笑み合い、ショッピングモールへと歩き出す。
ー洋服売り場ー
水着コーナーにて辺りを見回す。見渡す限り女、女、女。男がいない。全くいない。男物も置いてあるのに。
「んー……これとかどうよ?」
一夏は周りからの視線を意に介さずある一着の水着を差し出す。青いビキニ、パレオ付きである。
「一夏さんは、私にこれを着てほしいですか?」
「ああ、これが一番セシリアに似合うだろうし、個人的にもこれを着たセシリアを見たい」
「では、これにしましょう!」
セシリアの問いに頷き、答える一夏。これを聞いたセシリアは即決した。セシリアの好みであり、且つ想い人に似合うと言われて個人的にも見たいと言われた水着。乙女ならもう買うっきゃない。
「よし、なら俺が買うよ」
「良いのですか?」
「セシリアの水着姿が見れるならこの程度安いもんだ」
微笑みながら言う一夏に、セシリアは頬を赤らめた。これはもう、ゴールは近いと感じたセシリアは心の中でガッツポーズをとった。
「ありがとうございます」
セシリアは胸一杯の嬉しさを抑え込み、冷静を装いながら言う。一夏は頷いて二人共に歩き出す。すると、どこからか女が歩み寄り、自分の持ってる買い物カゴを差し出す。
「アナタ、これ持って。それと会計宜しく」
「……ヱッ?」
いきなりのことに思考が追いつかない二人。カゴの中には随分お高いんでしょ?な服やら水着が大量に入っている。パッと見合計ウン万円程。
「いや、コレ、アナタのでしょ?なら、アナタが持ち、アナタが買うのが自然じゃないスか?」
「えぇ?男の分際で女の私に文句言うの?下等生物の、男の分際で?」
「
女は言う。『男の分際で』は大事なことなので二回言ったようだ。これには一夏、思わず口からパードゥンがポロリと出た。
「(んー……どう見てもカゴの中の洋服も水着もコイツには似合わないよなぁ。宝の持ち腐れだわ、マジで)」
「何黙って突っ立ってるのよ?早く会計しなさい。じゃないと……社会的に抹殺するわよ?」
女は気持ち悪い笑みを浮かべて一夏を脅しにかかる。
俗に言う『
一夏は身体中に寒気と虫酸が走る中失笑する。その一夏の背後でセシリアは怒りのあまり震えている。かつての自分も男を下に見ていたが、目の前の女は更に酷い上その相手がセシリアの愛する者。セシリアの怒りが有頂天になったのは確定的に明らか。だが、一夏はセシリアを気にせず口を開く。
「なにお前、下等生物に奢ってもらわなきゃこれっぽっちも買えないの?」
「っ!男のクセになんて口を……!ちょっと!警備員!早く来て!」
女が叫ぶと、警備員がやって来る。それを見た瞬間、一夏とセシリアは驚いた。何故なら、その警備員は茶髪で細く鋭い三白眼のイケメンの男だったからだ。
「どうかしましたか?」
警備員は柔和な雰囲気を醸し出しながら問いかける。
「この男に乱暴されたの!捕まえて警察に突き出しなさい!」
「先程から様子を伺ってましたが、乱暴されている様子は見られませんでしたよ〜?」
「なに言ってるのよ!?私が乱暴されたって言ったのよ!乱暴されたに決まってるじゃない!!」
「はいはい落ち着いて下さいな。ホラ、詳しくは裏で話をしましょ?」
彼はキーキー騒ぎ立てる女をひっ捕らえ、その際に二人に向かってウィンクをしてから裏へと消えていった。
「今の、デッドだよな……?」
「私の記憶が正しければ、彼はデッドさんかと……」
「……ま、邪魔者は消えたってことで、結果オーライだ!さぁ、水着の他に買うのはあるか?今日はとことん付き合ってやるよ」
「なら、お次は洋服を見て回りたいですわ。
(何はともあれ、ありがとうございました。デッドさん)」
「よし、行こう!」
二人は気を取り直してショッピングを再開する。すると、見覚えのある銀髪と金髪の少女がいた。
「あっ、一夏!セシリアも!」
「あら、シャルロットさんとラウラさんもここに?」
「うん。ラウラが水着を持ってないって言ったし、服も最低限しかないから一緒に見て回ってるんだ」
「お洒落というものはよく分からないからな、シャルロットの話は参考になった。ありがとう」
「どう致しまして」
嬉しそうに言うラウラにシャルロットは笑顔で言う。端から見れば姉妹のようだ。
「二人はデート?」
「ん!?んー、まあ……そうなる、かな。なぁ、セシリア?」
「えぇっ!?そ、そうですわね!そうなりますわねぇ!」
シャルロットの言葉に一夏は少し頬を赤らめ、セシリアはかなり頬を赤らめる。
「そっかぁ……なら、邪魔しちゃいけないね!ラウラ、行こ?」
「分かった。では、また」
シャルロットとラウラが立ち去った後、一夏とセシリアは頬を赤く染めたまま互いに見つめ合う。
「……あー、とりあえず、歩くか」
「は、はい」
二人は歩き出す。その際に、セシリアはさりげなく一夏の手に触れてみた。少しの間が空いてから、一夏の手はセシリアの手を優しく握る。セシリアは微笑みを浮かべ、その手を離さぬように握り返す。一夏もまた笑顔を浮かべ、二人は洋服を見て回った。
一夏とセシリアがデートをしてる間、秋彦と箒もデートに来ていたが、空気は険悪の一言だった。
「秋彦。こうして二人で歩くのは、久し振りな気がするな!」
「……そうだね。
(出来れば今日も鍛錬していたかった……)」
「っ……ほら、余所見するな!早く行くぞ!」
「……そうだね」
箒は秋彦の手を引き、歩き出すが秋彦は只曖昧な返事を返すだけ。
「(秋彦……何故私のことを見てくれない!?かつては相思相愛だったのに……。それもこれも、全部一夏のせいだ!奴の存在が秋彦と千冬さんに泥を塗り、私達の関係にも支障を来している!)」
箒は内心怒り、一夏への憎しみを滾らせる。
「(力があれば……私にも、力があれば……!!一夏を叩き伏せ、秋彦を振り向かせることが出来るのに!!)」
箒は力を渇望する。だが、それは叶わぬ夢。頼みの姉の篠ノ之束とは既に絶縁しており、その上行方知らず。どう足掻こうと、無駄である。
「(……一夏。次こそは、必ずお前を沈めてやる。必ず!)」
そして秋彦は一夏を沈めることのみを考えていた。『天才の兄』として、『出来損ないの弟』に負けたこと。出来損ないの分際で天才を下した一夏への怒り、そして天才なのに出来損ないに負けた自身への不甲斐なさを胸に秘め、次の機会に沈めることを一人決意するのだった。