一夏、織斑捨てたってよ   作:ダメオ

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一夏、戦慄を感じたってよ

「ーーーでは、現状を説明する」

 

 

作戦室にて、専用機持ちの面々は千冬の話に耳を傾ける。

 

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働中にあった軍用無人機ISが制御下を離れて暴走した。名は『銀の福音』……アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型だ」

 

「(シルベリオ・ゴスペル……洒落た名前だな)」

 

「衛星による追跡の結果、福音はここから2km先の空域をおよそ五十分後に通過することが分かった。学園上層部からの通達により、我々が対処することとなった。教員は訓練機で空域及び海域の封鎖に回る。福音は、お前達で止めろ」

 

「軍用機相手か……織斑先生、目標のスペックデータ教えて下さい」

 

「分かった。だが、この情報は二カ国の最重要軍事機密だ。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判、最低でも二年の監視がつけられるからな。くれぐれも、口外するなよ」

 

「了解!」

 

 

一同が返事を返してから、立体型のディスプレイに銀の福音の詳細が映り出す。

 

 

「広域殲滅を目的とした特殊攻撃型……オールレンジ攻撃を行えますのね」

 

「機動力も高く、特殊武装もあるのか……近接戦が如何程のものか気になる所だ」

 

「この機動力だと、奴さんは高速で移動してるだろうから偵察もままならないだろうなぁ……」

 

 

皆がスペックデータを見る中、一夏は瞬時に頭の中で銀の福音の性能を把握、そこから作戦を練り出した。

 

 

「と、すると……織斑先生。ここは、『こっちも高速で接近して一撃で沈める』のがベストかと。そして、その一撃の火力に秀でているのは……」

 

「僕の零落白夜、か」

 

「状況的に考えて駁羅の作戦が最適だな……だが、これは実戦だ。織斑、覚悟はあるか?」

 

「はい!僕がやってみせます!」

 

「……よし!それでは、作戦の具体的な内容を考えよう」

 

 

秋彦の眼に迷いが無いことを確認した千冬。そして、一同は本格的に作戦を練る。

 

 

「問題は、織斑をどうやって福音の通過地点まで運ぶかだな。白式は燃費が悪い。そして零落白夜もエネルギーを食う。白式のエネルギーは1%だろうと攻撃用に回したいな」

 

「それならば、目標に追いつける速度を持った輸送手段、それと超高感度ハイパーセンサーも必要になりますが」

 

 

千冬とラウラの話を聞いてから一夏が口を開く。

 

 

「セシリア!確か、お前の追加装備って速いよな?」

 

「はい。強襲用高機動パッケージの『ストライク・ガンナー』なら、超高感度センサーもついていますのでこの作戦には最適かと」

 

「オルコット。超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

「二十時間程です」

 

「準備にはどれほどかかる?」

 

「三十分あれば、終わらせてみせます」

 

「そうか……ならば、本作戦では織斑、オルコットの両名による目標の追跡及び撃墜を目的とする。そしてサポートに駁羅にも同行してもらう。作戦開始は三十分後。作戦要員はISの調整を行え。ボーデヴィッヒ、お前はオルコットの準備を手伝え。遅くとも二十分で準備を完了させろ」

 

「了解!」

 

 

一同はそれぞれの行動に移った。セシリアとラウラは『ストライク・ガンナー』の準備をしている間、一夏と秋彦は超高感度ハイパーセンサーの搭載、秋彦はそれに加えて一夏から高速戦闘のレクチャーを受けようとしていた。普段の秋彦ならば『出来損ないに教わることはない』と意地を張るだろうが、昨日の件とこの作戦が実戦だということから素直に聞いた。

 

 

「高感度ハイパーセンサーは操縦者に対して詳細な情報を送る為に感覚を鋭敏化させる。すると、世界がスローになったように感じるが最初の内だけですぐ慣れるさ。最も注意するのはブーストの残量だ。高速戦闘状態で瞬時加速使うと普段の倍近い速度で残量減るから注意しろ」

 

「分かった。他にはないか?」

 

「ああ、そうそう。普段より相対的な速度が上がるから射撃武器のダメージがデカい。下手打てば一発でアーマーブレイクもあり得る。今回の作戦は零落白夜が鍵だ。俺とセシリアが隙を作ったら、瞬時加速で間合を詰めてドカンとかませ!」

 

「分かった……頼りにしてる」

 

 

秋彦は言う。昨日の件が余程効いたのか、態度は軟化している。

 

 

「……お前が言うと、なんかキモいわ」

 

「こんな時にそんなこと言うな!実戦が始まるんだぞ!?もう少し気を引き締めろ!」

 

「引き締め過ぎるとまともに動けない。お前より強い俺からのアドバイスだ」

 

「…………そうかよ」

 

 

秋彦は顔を逸らして腕を組む。不本意だが一夏の言うことは事実。それを理解している秋彦は冷静になり、作戦開始時間まで落ち着いて待つ。

 

 

 

 

 

そして三十分後、作戦開始時刻。一夏、秋彦、セシリアの三人はISを展開して砂浜に立っていた。

 

 

『今回の作戦は一撃必中だ。短時間での決着を心掛けろ!』

 

「了解!」

 

 

千冬の通信に三人は返事を返し、一夏と秋彦はセシリアの肩に掴まる。

 

 

『武運を祈る……では、作戦開始!』

 

「セシリア!飛ばせぇ!」

 

「はいッ!」

 

 

セシリアは一夏と秋彦を背に乗せ、凄まじいスピードで飛翔する。

 

 

「(予想以上のスピードだが……慣れてみせる!)」

 

「目標発見!十秒後に接触する……秋彦!構えろ!!」

 

「分かった!」

 

 

一夏はそう言いながらブレードを展開、秋彦は雪片弐型を展開する。そして、福音に近付いた瞬間に一夏がブレードを投擲する。

 

 

「オラァッ!!」

 

「!」

 

「逃がすか!」

 

 

福音はブレードを回避するが秋彦はその僅かな隙に瞬時加速で間合を詰めながら零落白夜を発動し、斬りかかろうとする。その瞬間、銀の福音からエネルギー弾が大量に放たれる。そのエネルギー弾が秋彦の目前に迫った瞬間、秋彦の前に一夏が割り込み、ブレードと四肢の装甲で受け止める。

 

 

「済まない……仕損じた」

 

「気にすんな。それにしても奴さん、爆発するエネルギー弾撃つとは……それも、連射速度がマジ速い。ならば、やることは一つ。撃つ間も無く終わらせてやる」

 

「ここは私と一夏さんで隙を作ります。織斑さんは再びそこに攻撃を」

 

「分かった。次は決めてみせる!」

 

 

秋彦は後ろに下がり、一夏とセシリアが福音と対峙する。一夏が福音と間合を詰めると同時にセシリアはレーザーライフル『スターダスト・シューター』を放つ。

 

 

「シャラァッ!!」

 

「!!」

 

 

福音がレーザーを避けるとその地点に一夏は瞬時加速して先回りし、ブレードを振るう。福音はそれを腕の装甲で受け止めようとするが一夏はブレードを装甲の表面を滑らせるように擦って態勢を整え、福音が動く前に二の太刀を胴体に叩き込む。

 

 

「!?」

 

「オラァッ!!」

 

 

福音は間合を離そうとするが一夏はそれに瞬時加速で食らいつき、近距離でブレードを投擲する。福音の反応を超えた速度で投げられたブレードは福音の身体に直撃し、態勢を崩す。そこに一夏は渾身の回し蹴りを叩き込み、福音を横に蹴り飛ばす。

 

 

「狙いは?」

 

「完璧ですわ!」

 

「!?!?」

 

 

福音が飛んだ先には、あらかじめそこに飛ばされると予測していたセシリアのレーザーが待っていた。高速で飛んでいた所にレーザーが直撃した為ひとたまりも無いだろう。

 

 

「これで、沈めぇッ!!」

 

「!?!?!?」

 

 

そして、トドメに秋彦が零落白夜で横薙ぎに斬り、そこから縦一閃に斬る。福音は為す術無く直撃し、海へと落下していった。

 

 

「よっしゃあ!作戦成功!」

 

「ふぅ……何とかなりましたわね」

 

「二人のアシストがあったからこそだ。ありがーーー」

 

 

三人が話していた瞬間、海から福音が出てきた。秋彦は驚き、セシリアは最悪の事態を想定し、顔を歪める。

 

 

「もしやあれは……『第二形態移行(セカンド・シフト)』!?」

 

「そんなッ!こんな時に……!」

 

 

二人が福音を見つめている中、一夏は笑みを浮かべていた。更に強くなって海の底から戻ってきた福音を前に、一夏は戦慄(スリル)を感じていたのだ。

 

 

「秋彦。エネルギー残量は?」

 

「……かなりキツい」

 

「セシリア、秋彦を連れて一回エネルギー補給に戻れ。その間、コイツは俺があやしてやる」

 

「……分かりーーー」

 

「ーーー秋彦ぉぉぉぉッ!!」

 

 

突如、響く声。そして、背後から飛来する者は秋彦の隣で止まった。それは、打鉄を纏った篠ノ之箒だった。どうやら、今日の運用テストで使う予定だった高機動パッケージを換装した打鉄でここまで来たらしい。

 

 

「篠ノ之さん!?何故ここに!?」

 

「盗み聞きしてたなぁ!?クソッタレ!これが軍なら銃殺刑だ!!」

 

 

驚くセシリアの横で一夏は毒を吐く。

 

 

「秋彦!私と共に戦おう!この二人と共にでは勝てる戦いも勝てん!」

 

「何を言ってるんだ!これは実戦だ!邪魔をするんじゃない!」

 

 

何の根拠もなく言う箒に秋彦は怒りを露わにする。あまりにも、悪ふざけが過ぎている。

 

 

「何故そんなことを言う!?……もしや、一夏とオルコットに毒されたのか!?」

 

「ハァ!?

(ダメだ……箒はこうなると話が通じなくなる!こうなったら、強硬手段で黙らせるしかーーー)」

 

 

ーーー篠ノ之箒の乱入が、明暗を分けた。この混乱を見逃さなかった福音から放たれる無数のエネルギー弾。余所見をしていた彼等は、反応が遅れる。

 

 

「テメェ等!逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 

唯一反応出来たのは、駁羅一夏。彼は叫びながら瞬時加速の勢いで箒を蹴り飛ばし、箒を秋彦とセシリアにぶつけて着弾地点から逸らす。そして、一夏の全方位から無数のエネルギー弾が飛来し、爆発。爆発。爆発。

 

 

「キャアッ!!」

 

「うわぁッ!!」

 

 

着弾を逃れた秋彦達目掛けて吹く爆風。その強さから、爆発の規模の凄まじさが伝わる。

 

一夏は爆煙に飲まれ、落下していく。ISを纏わず落ちていき、血を流しながら海に沈む一夏が、秋彦の視界に入った。

 

 

「一夏……ッ!一夏アァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

響き渡る秋彦の叫び。そして、秋彦は海目掛けて動こうとした瞬間、気絶した箒を抱えているセシリアが秋彦の肩を掴んでいた。

 

 

「織斑さん……今は退きましょう」

 

「何を言うんだ!一夏が……、一夏が沈んだんだぞ!?」

 

 

秋彦は言う。秋彦は、何より自分の手で一夏を沈めたかった。唯一無二の大切な弟であり、越えるべき壁となった一夏を、秋彦は自分の手で倒したかったのだ。

 

 

「彼の言葉を無駄にする気ですかッ!!」

 

 

セシリアの一喝が、血が上った秋彦の頭を徐々に冷静にする。セシリアは、涙を流していた。今にも一夏の下に行きたかったのは、きっとセシリアだろう。だが、セシリアは行かなかった。駁羅一夏なら自分を助ける暇があるなら任務を完遂しろと言うだろう。その一夏の言葉を、犠牲を、無駄にしたくないから。セシリアは退くことを決意したのだ。

 

 

「……分かった。戻ろう」

 

 

秋彦の言葉にセシリアは頷き、秋彦はセシリアの肩に掴まる。そして、セシリアはすぐに空域を離脱し、旅館へと戻った。

 

作戦、失敗。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー旅館・作戦室ー

 

千冬とラウラは無言でモニターを見つめていた。モニターが映し出すものは、現実とは思いたくないものだった。

 

 

「……無銘、反応消失」

 

「一夏……」

 

 

そこに、セシリアと秋彦、そして箒が入ってきた。

 

 

「……作戦は、失敗。こちら側のエネルギーが切れる寸前だったこと、そして銀の福音が第二形態移行(セカンド・シフト)した為、撤退を余儀無くされました」

 

「一夏は……一夏はどこだ?」

 

「一夏は、僕達を庇って、銀の福音の攻撃を受けて……ッ……!」

 

 

ラウラの問いかけに秋彦は声が詰まり、涙を流す。その言葉を聞いた千冬は僅かに表情を歪めてから努めて冷静を保つ。ラウラは拳を握り締め、箒を見つめる。

 

 

「モニターで様子を伺っていたら知らぬ反応があったが……篠ノ之箒か。確かコイツは専用機を持ってない筈だ。どういうことだ?」

 

 

怒気の含んだ声で問いかけるラウラ。その眼の鋭さは、かつてIS学園にやってきた頃のラウラを彷彿とさせる。箒は無言のまま目を逸らす。

 

 

「どうやら、ここでの話を盗み聞きしていたみたいです……それで、高機動パッケージを換装した打鉄でこの空域に来たのでしょう」

 

 

セシリアは箒を侮蔑のこもった目で一瞥してからラウラを見つめ、話す。

 

 

「……私と秋彦なら勝てたんだ。沈んだのは、油断した一夏の責任だ。それに、一度退くなど男らしくないだろう」

 

「ッ……ふざけるなァッ!!」

 

 

箒の呟きを聞いた瞬間、ラウラが叫び、動こうとしたのを千冬が肩を掴み制止する。

 

 

「ボーデヴィッヒ、落ち着け」

 

「教官!!コイツは作戦の妨害をした挙句、コイツのせいで一夏が沈んだのにそれに悪びれる様子もないのですよ!?」

 

「篠ノ之を殴った所で、駁羅は戻ってこないっ!!……今は落ち着くんだ。いいな?」

 

 

ラウラを制止する千冬は一喝する。ラウラを掴んでいない片手を握り拳に変え、拳を震わせながら、掌に爪を食い込ませて血を流しながら、自分に言い聞かせるように千冬は言う。

 

 

「ッ……了解」

 

「篠ノ之。部外者の勝手な介入、そして機密の盗み聞きによる漏洩の可能性がある。お前の身柄は教師陣が確保、以後作戦終了まで外出は許さん」

 

「そ、そんな!私は秋彦の援護をしただけなのに……秋彦!お前も何か言ってくれ!

 

「箒……少し、頭を冷やせ。話はそれからだ」

 

「秋彦……!」

 

「……連れてけ」

 

 

箒は教師達に囲まれて作戦室から出て行こうとした瞬間、モニターの管理をしていた山田先生が声を出した。

 

 

「銀の福音!こちらに接近しています!」

 

「何ッ!?」

 

 

山田先生の言葉に千冬が驚き、全員が狼狽し出す。そして、皆が一同にモニターを見る。銀の福音は、旅館近辺の砂浜に来ていた。

 

 

 

 

 

来ていたのだが、その瞬間信じられないことが起こった。

 

 

「……銀の福音、反応消失」

 

 

山田先生の一言に一同はシンと静まり返り、作戦室に静寂が訪れる。あの銀の福音の反応が、突如消えたのだからそうなるのは自明の理。その瞬間、セシリアの脳裏にあることが過った。緊迫した状況なだけに思考が冷静に働かなかったが、今考えるとこんな単純なことがどうして思いつかなかったのかと考えてしまう。

 

 

「そう言えば、一夏さんが言っていましたわ……。

 

『俺にとって、ISは拘束具だ』

 

……と」

 

 

セシリアの言葉に一同は驚く。そして、今までの一夏の行動を振り返った瞬間に合点がいく。

 

 

 

 

 

すると、作戦室の扉が乱暴に蹴り開けられた。

 

 

「ーーーただいま帰ったぜ、バッキャロウめ」

 

 

一年一組クラス代表であり人間の限界を越えた男が、今、帰還した。

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