一夏、織斑捨てたってよ   作:ダメオ

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一夏、祖国に送り還すってよ

ー駁羅家ー

 

トレーニングルームにて、一夏は無銘を展開していた。目の前に立つは一夏の兄代わりの男、九十九狗澄。最近フランスから単身帰ってきた。余談だが、狗澄と一夏が並ぶと一夏の方が兄に見えてしまう。

 

 

「ぐあぁッ!!」

 

 

突如一夏は吹き飛び、壁に叩きつけられる。狗澄は両腕を僅かに揺らしながら下げているだけで、攻撃を仕掛けた素振りは見せていない。

 

 

「一夏君!『Don't think! Feel!(ドントスィンク!フィール!)』」

 

 

狗澄は気合の籠った表情で一夏に言う。一夏はそれを聞いてからブレードを杖代わりに使って立ち上がる。

 

 

「『考えるな!感じろ!』ってか……俺に合ってる言葉だ。流石はブルース、いいセリフを遺したもん、だッ!!」

 

 

言葉の最後に気合を籠め、一夏は狗澄に向かって突き進む。すると、再び一夏に向かって『不可視の衝撃』が飛んでくる。一夏はそれを回避、左に飛ぶ。それから咄嗟に両腕で眼前に迫っていた衝撃を受け止める。

 

 

「危ねぇ……慣れてなかったら歯の二、三本折れてたぜ」

 

 

一夏は両腕を振ってから言う。どうやら、不可視の衝撃を『感じる』ことが出来るようになってきたようだ。

 

 

 

「一夏君、次はもっと増やすよ」

 

「ああ!バンバン来てくれ、狗澄兄!」

 

 

それから狗澄は再び両腕を下げる。すると、衝撃が一夏目掛けて大量に飛来する。一夏はそれを最小限の動きで紙一重に避ける。下手に飛んで回避するものなら回避方向を予測され、回避した先に衝撃を放たれる。そしたら並の奴では反応出来ないだろう。何せ、見えないのだから。

 

 

「(俺の回避先にも衝撃をバラまいている……なら、予測されていないルートを通って接近、無駄に動かずその場で回避行動!)」

 

 

一夏は紙一重の回避をしながらも着々と狗澄に接近する。

 

 

「(そして、多少の無茶は承知の上ッ!!)」

 

 

ほとんど間合を詰めた一夏は多少の被弾を顧みずに真っ直ぐ突き進む。被弾でシールドエネルギーが一気に減るが、こちらが先に倒してしまえばいい。勝てばよかろうなのだァァァァッ!!

 

 

「オラァッ!!」

 

 

一夏は狗澄に斬りかかる。狗澄はそのブレードを両手で挟み、受け止める。俗に言う真剣白刃取りである。

 

 

「合格!これなら中国の代表候補生にも勝てるな」

 

「ふぅ……疲れたぁ」

 

 

一夏はそう言いながらも腕に力を入れる。だが、ブレードは動かない。逆に狗澄はブレードをゆっくりと横に逸らしていく。

 

 

「なぁ、狗澄兄ってマジで人間?」

 

「人間だよ!」

 

「人間ってあんなに衝撃飛ばせたりするの?」

 

「身体を鍛えて技を磨けば一夏君も出来るよ」

 

「マジで?メチャクチャ覚えたいんだけどその技」

 

「なら、俺で良ければ教えるよ」

 

「あざっす!!」

 

 

こうして一夏は鈴との戦いに備えつつ束と二人で気味の悪い笑みを浮かべていたりデッドをシバいたりして日々を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、クラス対抗戦の開催日がやってきた。他のクラス代表は皆、一夏と当たり、敗北している。そして、現在一夏はピット内にて決勝で戦うであろう鈴の戦いをボーッと見つめていた。現在全勝無敗なのは一夏と鈴だけであり、鈴に関してはそこらの代表候補生を上回る腕前を誇った。

 

 

「ーーー決勝はお前と鈴か……なら、お前の敗北は確実だな」

 

 

一夏が振り向くと、そこには秋彦がいた。一夏は笑みを浮かべて秋彦に歩み寄る。

 

 

「何だ何だマイブラザー。わざわざ俺の応援に来てくれたのか?兄弟の縁は切れちまってるのに、俺もう感激感激の雨あられだよ」

 

「勘違いするなバカが!僕は鈴の応援に来たんだ!」

 

「おっ、今流行りのツンデレってやつ?」

 

「本心だッ!!」

 

「なら向こうのピットに行けよ。それともアレか?向こうのピットで門前払い食らったからこっちに来たってか?同じクラスの代表を応援するという名目で、織斑の名を使って」

 

「………」

 

 

秋彦は図星を突かれて黙り込む。一夏はそんな秋彦を見つめてニヤニヤとしていた。

 

 

「ま、好きにしな。俺はもうどうこう言わないから」

 

「(クソ野郎がぁ……!!)」

 

 

一夏の笑顔とは対照的な憤怒に満ちた顔で一夏を睨む秋彦。

 

 

「ー一ー失礼します。あら、織斑さん?どうしてここに?」

 

 

二人がガンを垂れあっていると、セシリアがやって来た。その瞬間、二人の表情は爽やかスマイルに早変わりする。

 

 

「あ、あぁ、駁羅君を応援しに来たんだ。ここは一つ、男の底力を見せてやって欲しいと思ってね。

(本当は鈴を応援しに来たんだけどね……)」

 

「任せときな。必ずデザートフリーパスを持って帰るぜ!」

 

「頑張って下さい、一夏さん」

 

「おう!」

 

 

そして、ナイスタイミングで試合終了のブザーが鳴った。勝者は凰鈴音。誰から見ても圧勝だった。そして、いよいよ一夏対鈴の試合が始まる時が来た。

 

 

「次はいよいよ決勝戦だな。セシリア、織斑、行ってくるぜ」

 

「行ってらっしゃいませ、一夏さん」

 

「勝てよ。

(絶対勝てよ、鈴!)」

 

 

二人の返事を聞いてから一夏は無銘を展開し、ピットから飛び出していった。そして、一夏は鈴と対峙する。

 

 

「来たわね、身の程知らず」

 

「来てやったぞ、クソチビ」

 

「……殺す」

 

「お前キレやすいな。牛乳は……飲んでないわな。その体型じゃ」

 

「絶対殺すッ!!」

 

 

一夏の煽りによって鈴はすぐに激昂した。一夏はほくそ笑み、近接ブレードを右手に持つ。そして、試合開始のブザーが鳴るや否や鈴は翼型の青龍刀『双天牙月』で斬りかかる。頭に血が上っている為攻めが雑且つ直線的。避け易き事此の上無しとは正にこのこと。

 

 

「馬鹿め!そんな攻撃が俺に通用すると思ったか!ニボシ食って出直してこい!」

 

「こっのォォォォッ!!」

 

 

鈴は一夏の挑発で更に頭に血が上る。過去に虐めていた出来損ないにこんなことを言われる屈辱が、鈴の冷静さを奪っていく。一夏はこの時だけ、自分が虐められていたことに感謝した。お陰でアホみたいにキレてくれると、お陰で()りやすくなったと。一夏は一通り回避し、一太刀叩き込んでから間合を離す。

 

 

「ちょこまかと、動くなッ!!」

 

 

鈴がそう叫ぶと同時に一夏は僅かに右に動く。飛来して来た不可視の衝撃は、呆気なく避けられた。

 

 

「龍咆を避けた……!?」

 

「残念だったな、ちんちく鈴。衝撃砲は俺には通用しない!」

 

 

一夏は左手で鈴を指差し、言い放つ。これによって鈴は更に頭に血が上り、鈴は一夏目掛けて龍咆を連射する。もし、ここで冷静になれたのなら、凰鈴音にも億に一つの勝ち目があったかもしれない。だが、彼女は冷静になれなかった。

 

 

「一夏のくせにッ!!出来損ないのくせにッ!!織斑の恥のくせにぃッ!!」

 

 

感情を剥き出しにし、牽制も回避方向の予測もない、只がむしゃらに一夏のみを狙った衝撃砲。一夏はそれを難無く回避して接近し、ブレードで両肩部ユニットの一基『だけ』を斬り捨てる。

 

 

「食らいなッ!」

 

 

そして、鈴の胴体を縦一閃に斬り、その勢いで回転して踵落としに繋げて鈴をぶっ飛ばす。そのまま鈴は地面に向かって飛んでいくが、一夏は瞬時加速で一気に間合を詰め、その勢いのままブレードを高速で投擲する。セシリア戦でも使ったこの技、一夏のお気に入りになったようだ。

 

 

「キャアァ!!」

 

 

ブレードは鈴に直撃し、更に勢いのついた身体は地面に激突する。その強力な衝撃は絶対防御をも貫き、シールドエネルギーを大幅を削った他甲龍自体も大幅に損傷した。

 

 

「トドメのォ!ヒーローキックだっぜぇッ!!」

 

 

一夏は再び瞬時加速を使用し、地面に倒れている鈴に向かって国民的な特撮ヒーロー宜しくな蹴りを叩き込む。瞬時加速で速さを増した蹴りは再び絶対防御を貫き、甲龍を痛めつけたと同時に鈴のシールドエネルギーを0にした。

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

勝者は、駁羅一夏。クラス対抗戦は、一組の優勝である。

 

一夏は鈴の身体から降りる。そして、歓声渦巻くアリーナの中心で、天高く右の拳を掲げた。その様子をピット内で見ていたセシリアは、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

「(一夏さん……やはり、とてもお強く凛々しいですわぁ!)」

 

「(チッ……まさか衝撃砲を最初から見切るとは……出来損ないのくせに生意気な)」

 

 

そのセシリアの隣では、秋彦は腕を組んで無表情のまま一夏を見つめていた。一夏への悪意は決して表に出さずに。それからピットに一夏が戻ってくる。そして、ISを待機状態にしてセシリア達に歩み寄る。

 

 

「一夏さん、お疲れ様でした」

 

「流石は駁羅君だね。おめでとう。

(本当はコイツにおめでとうなんて言いたくないが、デザートのフリーパスは魅力があるし、今だけは言っておいてやるか)」

 

「おう。応援、サンキューな」

 

 

一夏は爽やかスマイルを浮かべる。一方その頃、鈴はまだ地面に倒れていた。

 

 

「(私……負けた?出来損ないに、無様に負けたの?)」

 

 

鈴は一人考える。散々見下してきた出来損ないで織斑の恥である一夏に、中国で今まで努力を重ねて代表候補生となった私が負けた。散々馬鹿にされて負けた。その瞬間、頭に血が上っていた鈴は一夏に対する憎悪に支配された。

 

 

「(只じゃあ……済まさないッ!!)」

 

 

鈴は起き上がってからボロボロの甲龍で無理矢理飛び上がり、一夏のピットに真っ直ぐ突き進む。そこには、背中を見せた生身の一夏がセシリアと秋彦と話していた。だが、今の鈴の憎しみに染まって濁り切った視界では、想い人の秋彦すら捉えることが出来なかった。

 

 

「一夏ァ!!死ねぇッ!!」

 

 

激昂した鈴は吠えながら残った一基の肩部ユニットから龍咆を放つ。その瞬間、一夏はセシリアと秋彦を左右に突き飛ばす。

 

そして、一人。

 

背中に衝撃砲が直撃し、一夏の身体は藁のように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 

 

「一夏さんッ!!」

 

 

セシリアは叫び、吹き飛ばされた一夏に駆け寄る。秋彦は茫然として鈴を見つめていた。

 

 

「(鈴……流石に、それはやり過ぎだ!僕はこの手で一夏を落としてやりたかったのに!)」

 

 

秋彦が考えながら見つめる鈴は笑みを浮かべていた。スッキリしたと言わんばかりに。それからすぐに教員達がISを展開して鈴を取り囲み、確保する。

 

 

「一夏さん!一夏さん!!しっかりして下さいッ!!一夏さんッ!!」

 

 

そして、セシリアは目を閉じて動かない一夏にひたすら声をかける。生身でISの衝撃砲を背中に食らって壁に叩きつけられたのだ。只では済まない。

 

 

「一夏さん!起きてください!!一夏さん!一夏さぁんッ!!」

 

 

セシリアは泣きじゃくりながら一夏の名前を叫ぶ。両親に続いて初めての想い人まで失ってしまう。そう考えるとセシリアの眼からはとめどなく涙が溢れた。

 

 

「一夏!大丈夫か!?」

 

 

ピットに千冬が入ってきた。そして、倒れている一夏と泣いているセシリアの下に駆け寄る。

 

 

「担架を持ってこい!早く!!」

 

 

そして、一夏は医務室に担ぎ込まれていった。医務室のベッドに移された一夏の傍らで、千冬とセシリアは一夏に声をかけていた。

 

 

「一夏……頼む、起きてくれ。もう、お前を失いたくない……」

 

「一夏さん、お願いです……どうか、生きてください……!」

 

「ーーーそこまで言われちゃ起きるしかないな」

 

 

一夏は平然と目を開けて起き上がる。そして、首をゴキゴキと鳴らして周りを見る。一夏の視界には、泣きながら目を見開いてるセシリアと涙を流しながら目を見開いてる千冬が写った。

 

 

「い、一夏……?大丈夫なのか!?」

 

「一夏さん!!安静にして下さい!!貴方、ISの衝撃砲を生身で受けたのですよ!?」

 

「いや、今更あんなんで俺は殺せないよ。俺を殺したいなら、地球破壊爆弾の一つは持ってこないと」

 

 

一夏は平然としながら冗談交じりに言った。この男、既に人間を辞めている。もし本当に一夏を殺したいなら、九十九狗澄に傷一つ付けられる強者を連れてくるべきだ。一夏は笑っていると、その瞬間にセシリアは一夏に抱きついていた。

 

 

「セシリア?」

 

「よかった……よかったですわ……!うぅ、よかったですわぁ……!!うあぁん……ッ!!」

 

 

一夏の胸の中で再び泣きじゃくるセシリアを、一夏は優しく抱き締めた。

 

 

「セシリア……悪かったな」

 

 

一夏は優しくセシリアの頭を撫でる。そして、千冬に視線を移す。

 

 

「千冬姉も、心配かけた。ごめん」

 

「いや、お前が無事だったのなら、私はそれでいい」

 

 

千冬は涙を拭いながら微笑む。

 

 

「そう言えば一夏。凰の処分についてだがーーー」

 

「ーーーアイツの末路は分かるよ。代表候補生の座から降ろされる上に中国に強制送還だろ?」

 

「……何故知っている?」

 

「……ここだけの話、これを狙ってたからな」

 

 

一夏はニヤリと笑みを浮かべて言う。

 

 

「この試合、中国政府の方に生中継してたんだ。ウチの腕利きの人に頼んでな」

 

「……アイツ()か」

 

「千冬姉の御想像通りだよ。で、これを見た中国政府は黙ってないだろうねぇ。何せ、自分の国の代表候補生が世界に二人だけのIS男性操縦者の片方にIS兵装かましたんだから。普通なら死んでるよ?俺だから良かったものの。まあ、今こうなったってことはいずれこうなるってことだから、未然に犠牲者を防いだってことで良しにしてくれよ」

 

 

一夏は千冬にそう言いながらセシリアをあやすように背中を優しく撫でている。セシリアは泣き疲れ、眠っていた。

 

 

「確かに。お前が無事とは言え、起こってしまったのは事実だ。そういうことにしておこう」

 

「ありがとう。んじゃ、俺はセシリアを部屋に送ってくるよ」

 

 

一夏は立ち上がり、セシリアを横抱きする。

 

 

「あっ、そうだ。織斑先生」

 

「なんだ、駁羅」

 

「デザートフリーパス、用意して下さいよ。あくまで、優勝した後に起こったことなんですから」

 

「それは大丈夫だ。対抗戦後に起こったことだ、対抗戦には関係ない」

 

「それなら安心だ。んじゃ、失礼しました」

 

 

一夏は医務室から出て行った。千冬はその一夏の背中に、逞しさと恐ろしさを抱きつつ黙って見つめていた。そして、セシリアを抱えながら歩いていた一夏はふと立ち止まり、呟いた。

 

 

「さようなら、凰鈴音。俺が今まで受けた分は返した。後は、故郷(中国)で犬でも食ってろ、犬畜生」

 

 

一夏は笑みを浮かべ、一年寮に向かって再び歩き出した。その笑みは、あの時一夏を撃った鈴が浮かべていた『スッキリ』した時の笑みそのものだった。




鈴、IS学園やめるってよ

改めて、セカン党の皆様。
申し訳ございませんでした。
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