母親はいない。癌だった。
父親は嫌い。バイト代を取られるから。
クラスメイトも嫌い。私を嗤うから。
この世界は、全て嫌いだ__。
『……うーむ』
黒くて丸いもふもふが、背中の羽をパタパタさせて街の空を彷徨う。
『何から手を付ければいいか……へ?』
悩んでいると、人が怪人に襲われているのを目撃する。
『……なんか、行かないとダメな気がする!』
_____
「……そろそろ、誰もいないよね」
夜、誰もいない校舎。屋上の物陰から出て、耳を澄ます。
……声も、足音も。先生が帰宅するエンジン音も。全て聞こえない。
……ひとりだ。
「じゃあ、やろう」
フェンスをよじ登り、縁に経つ。
「……よし」
この世界に、さよならを。
遺書は書いた。
「さような__!?」
飛び降りようとしたその時、目の前から化け物が飛び出してきた。
「もしかして……デビリアン……!?」
デビリアン。人々を襲う怪人。
それが、目の前に現れた。
「ブモオオオオンッ!」
「きゃあっ!」
押し飛ばされ、屋上を転がる。
「ブモウ!ニンゲンが1人か!ハハハハハ、誰も邪魔できまい!」
「あ……っ、はっ……」
何故だろう、恐怖で声が出ない。
飛び降りようと思った時は何ともなかったのに。
__「死」。
『危ない!』
「ブモ!?」
食べられそうになったその時、黒くて丸い何かが、デビリアンを吹き飛ばした。
かなりもふもふしていた。可愛い。
『ふぃー、危ねぇ。おい、大丈夫か!?』
「……よ、妖精?」
『……あー、そうだぞ!』
なんとも可愛らしい。
『おりは「ピエル」!お前、名前は?』
「わ、私?……「切山 舞礼」だけど」
『ふーん、「マレイ」か。いい名前だな?』
……可愛い、本当に可愛い。
『ほれ、立つんだ!』
「え、えぇ?」
『お前は今日から、あー……そう、「魔法少女」だ!』
「魔法……少女……私が……」
それは、私が魔法少女になるという運命が決定した瞬間だった。
『ほれ、おりの魔力を流してやるよ』
「そ、それで?」
『お前は、こう唱えろ。「マジカル・トランスフォーメーション」と』
「わ、わかった!」
立ち上がり、牛みたいにブモブモ言っているデビリアンを睨みつける。
よく見ると人型で牛みたいな頭をしていて、斧を持っている姿は「ミノタウロス」のようだ。
「じゃあ、さようなら。……人生を諦めようとした私と、これまでの私。そして、牛肉!」
「ブモ!?牛肉!?」
『えぇ……(ドン引き)』
そう唱えた途端。私の周りを黒いリボンが囲んで、私の姿を変えていった。
牛肉……そう聞くとお腹空くよね。