個性『何もない』 作:I love you
戦闘訓練から数日。雄英高校での日常は、一見すれば平穏に過ぎていた。
だが、私の内側にある怪物は、日に日に昂ぶりを見せていた。
人間の真似事をして、授業を受け、クラスメイトと笑い合う。それは私にとって甘美な夢のような時間であり、同時にいつ弾けて消えるか分からない薄氷の上の日常だ。
「今日のヒーロー基礎学は、私とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見守る現場演習だ」
朝のホームルームで、相澤先生が淡々と言い渡す。
「災害、水害、なんでもござれ。レスキューの訓練を行う」
レスキュー。人を救うための試練。
私はそっと自分の白い手を握りしめる。
私の持つ力は、あらゆる物理法則を突っぱね、物体を容易く切り裂き、刺し穿つためだけの暴力だ。人を救うために作られた機能など、この肉塊のどこを探しても存在しない。
「コスチュームの着用は自由だ。現場まではバス移動になる。準備しろ」
◇
雄英高校が誇る大型演習場『ウソの災害や事故の訓練場』――通称『USJ』。
そこへ向かう専用バスの中で、クラス内はちょっとした旅行気分のような遠足感に包まれていた。
「私、思ったこと何でも言っちゃうタイプなんだよね」
隣の席に座る蛙吹梅雨ちゃんが、大きな瞳で私を見つめてきた。
「人皮ちゃん。人皮ちゃんの個性って、すごく強くてカッコいい異形系だけど……少し怖いわね」
「そうかしら?」
私は小首を傾げ、可憐な少女の笑みを浮かべる。
「肉体を自由に変化させているだけよ。筋肉とかが表に出ちゃうから、そう見えてしまうのかもしれないけれど」
「でもさぁ、人皮!」
前の席から切島が振り返る。戦闘訓練の時の恐怖を吹っ切ろうとするように、明るく笑いかけてきた。
「お前、俺の全力の殴打を顔面に受けてビクともしなかったろ! あれ、どうなってんだよ? 硬化の個性を持っている俺より頑丈じゃねぇか!」
「うーん……私の肉体は脂肪も筋肉も高密度で凝縮されているから、打撃のエネルギーがそのまま逃げていっちゃうの。痛覚もあんまりないから、平気なのよ」
「痛覚がない……? それって、怪我しても気づかないってことか?」
緑谷出久がノートとペンを手に、興味津々といった様子で身を乗り出してきた。
「人皮さんの『肉体変形』は、変形スピードも速いし、切断力も質量無視レベルだ。しかも打撃が効かないとなると、防御面でも圧倒的だよ……! 一体どんな――」
「はいはい、オタクの分析はそこまでな」
相澤先生の冷や声がバス内に響き、緑谷が「ひえっ」と肩をすくめて黙り込む。
私は窓の外に目をやった。
(痛覚がない……か)
そんな生ぬるいものではない。
私には肉体の破損という概念すら希薄だ。どれだけ肉を削がれようが、ドロドロに溶かされようが、そこに私の意思がある限り、私は一瞬で肉を再構築できる。
人間に見せるための皮が破れることだけが、私にとっての唯一の禁忌。
やがてバスは巨大なドーム状の施設の前で停車した。
◇
「待ちかねたぞ、少年少女たち!」
ドーム内で待っていたのは、宇宙服のようなコスチュームに身を包んだスペースヒーロー・13号だった。
土砂崩れ、水難、暴風、火災――あらゆる災害現場を模した広大な施設を前に、生徒たちから歓声が上がる。
13号は生徒たちを集めると、静かに、しかし重みのある声で語り始めた。
「私の個性は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまう力です。……この力を使えば、人を簡単に殺せてしまう」
13号の言葉に、生真面目な雰囲気が場を支配する。
「皆さんの個性も同じです。一歩間違えれば、人を容易に傷つけ、命を奪ってしまう悪意なき暴力になり得る。この授業では、自分の持つ個性を人に危害を加えるためではなく、人を救うためにどう使うかを学んでください」
「個性は人を殺せる力」
そのフレーズが、私の胸の奥の肉を深く抉った。
私という存在そのものが、まさにそれだ。人皮被という一人の少女を殺し、生まれ落ちた怪物。私のこの手は、人を救うために作られたものではない。この思考さえーー
「ーー以上! ご清聴ありがとうございました!」
13号のお辞儀とともに、生徒たちがパチパチと拍手を送る。
相澤先生が「よし、じゃあまずは――」と指示を出そうとした、その時だった。
広場の中央にある噴水周辺の空間が、歪んだ。
「……?」
黒いノイズのような煙が、虚空からボタボタと溢れ出す。
不吉な旋律のように広がるその煙の中心から、無数の人の手を全身にへばりつけた白髪の男と、異形の大男――そして、無数の怪しげな人間たちがゾロゾロと姿を現した。
「一箇所に集まって動くな! 13号、生徒を守れ!」
相澤先生が叫び、ゴーグルを装着する。
ただごとではない雰囲気に、クラスメイトたちがパニックに陥りかける。
「な、なんだアレ……入試の時みたいな、最初から用意されてる
切島が眉をひそめるが、相澤先生の殺気立った背中がそれを否定していた。
「動くな……! あれは……本物の『
広場の中央で、全身に手を纏った男――死柄木弔が、不快そうに首をガリガリと掻きむしりながら呟いた。
「オールマイトは……いないのか。せっかく脳無まで連れて大勢で来てやったのに……ガキどもを殺せば、来てくれるのかな?」
ヴィラン連合。
プロヒーローを殺すために集まった、本物の悪意の群れ。
相澤先生が単身で広場へと飛び降り、群がるザコヴィランたちを次々と捕縛布でなぎ倒していく。だが、事態はそれで収まらなかった。
「初めまして、我々はヴィラン連合。平和の象徴オールマイトを死に至らしめるため、参上いたしました」
突如として私たちの頭上に現れた黒いモヤ――黒い霧が、空間を覆い尽くす。
「逃がしませんよ」
「しまっ――」
13号が構えるよりも早く、闇が私たちを飲み込んだ。
世界が歪み、視界が漆黒に染まる。全身の肉が、空間歪曲の圧力によって不快に引き伸ばされる感覚。
「うわああああっ!?」
生徒たちの悲鳴が遠ざかっていく。
(飛ばされる……!)
私は空中を疾走しながら、己の肉体の全細胞を硬化させた。
人間ならば着地の衝撃で骨が砕けるような速度で、私はどこかのゾーンへと叩きつけられた。
◇
ドザーーッ!! という激しい水音とともに、私は巨大な人工湖へと落ちた。
『水難ゾーン』。
水中へと沈み込みながら、私は制服(擬態の皮膚)を整える。
人間であれば息が続きず、溺死するシチュエーション。だが、私には肺もなければ呼吸の必要もない。水中に漂う酸素を取り込むことすら必要としない、完全な閉鎖生態系。
ふと上を見上げると、水中に影が躍り出てきた。
緑谷出久、蛙吹梅雨、そして峰田実の3人が、水中に設置された巨大な難破船のデッキへと逃げ込むのが見えた。
そして、その船を取り囲むように、水棲系の個性を持ち、水中戦を得意とするヴィランたちがワラワラと集まってくる。
「ヒヒヒ! ガキが3人乗ってきたぞ!」
「水の中じゃ俺たちの天下だ! 痛ぶり殺してやれ!」
水中から槍やナイフを持ったヴィランたちが、船に向かって飛び上がろうとしている。
(……あの3人では、水中に引きずり込まれたら危険ね)
私は水底を力強く蹴った。
ドオンッ! という水柱が上がり、私は水面を突き破って、難破船の甲板へと一気に跳躍した。
「人皮さん!?」
船の上で震えていた緑谷が、私を見て目を見開いた。
「無事だったんだ……! よかった!」
「緑谷くん、蛙吹さん、峰田くん。怪我はありませんか?」
私は服についた水滴を払う仕草をしながら、可憐に微笑んでみせた。
「う、うん! でも……囲まれてるの! 水中じゃ僕たちの個性が活かせない……!」
緑谷が青ざめた顔で船の下を指さす。
「ヒハハハッ! 逃げ場はねぇぞガキども! 船ごと沈めてやらぁ!」
水中から、魚のヒレや鮫の歯を持ったヴィランたちが、船の甲板へと躍り上がってきた。手に手に持ったナイフやドスを振りかざし、私たちに襲いかかってくる。
「ひいいいいっ! 死ぬ死ぬ死ぬー! おいらこんなところで死にたくないよぉぉ!」
峰田が泣き叫びながら頭のブドウを投げ散らかすが、ヴィランたちはそれを掻き分けて迫ってくる。
「死ねやぁ!!」
大柄な鮫男が、目にも留まらぬ速さで私に向かって飛びかかり、鋭利なナイフを私の胸元――心臓があるはずの場所へ、深々と突き立てた。
グサァッ!!
「人皮さんっ!!」
緑谷と梅雨ちゃんの悲鳴が甲板に響き渡る。
ナイフは制服を突き破り、私の胸の皮膚へと深々と刺さっていた。
鮫男が凶悪な笑みを浮かべる。「もらったぜ、まずは一匹――」
だが。
「……え?」
鮫男の笑みが固まった。
手応えがない。
骨に当たる感触も、肉を切り裂く感触もない。まるで、莫大な質量の液体に金属を突っ込んだかのような、気味の悪い感触。
そして何より――血が一滴も流れていない。
私は、ナイフが胸に突き刺さったまま、静かに鮫男を見つめた。
私の顔には、痛みに歪む様子もなければ、動揺すらない。ただの、無機質な瞳。
「な……なんだこれ……!? 刺さってるぞ!? なんで死なねぇ!? なんで血が出ねぇんだ!?」
鮫男がパニックを起こし、必死にナイフを引き抜こうとする。しかし、私の胸の肉が超高密度で固定され、ナイフはビクとも動かない。
「……武器の持ち込みは、校則違反ですよ」
私は優しく微笑んだ。
次の瞬間、私の右腕が嫌な音を立てて膨張した。
ドクク、と衣服の下で肉が爆発的に増幅し、通常の5倍以上の質量を持った巨腕へと変形する。剥き出しになった赤黒い筋肉組織。
肥大化させた肉の拳による一撃。
ドガァァァンッ!!!!
「ガはっ!?」
私が右拳を一振りすると、鮫男の巨体が砲弾のような速度で吹き飛び、船の煙突を粉砕しながら遙か遠くの水面へと叩きつけられた。激しい水柱が上がり、鮫男はそのまま白目を剥いて浮かんできた。
「ひっ……! な、なんだあいつの馬鹿力は……!?」
「ナイフで刺されて笑ってやがる……!? ヴィランはどっちだ!?」
襲いかかってきていた他のヴィランたちが、恐怖で足を止める。
緑谷たちも、言葉を失って私を見つめていた。
胸にナイフが刺さったまま、腕を異形に変形させて敵を一撃で粉砕した少女。その光景は、救いのヒーローというよりは、悪夢の怪異に似ていた。
「人皮さん……胸……! ナイフが……!」
緑谷がガクガクと震えながら指さす。
「あ、これですか?」
私は胸に刺さっていたナイフを、自分で無造作に引き抜いた。
ポロリと金属が落ちる。刺さっていた胸の皮膚には、小さな傷穴が開いていたが――内部からドロリとした肉の繊維が這い出し、一瞬で傷口を塞ぎ、元通りの綺麗な白い肌へと戻った。服の穴すらも、私の肉が繊維を模倣して修復する。
「痛くないんですか……!?」
「ええ。私の個性は、物理的な攻撃をほとんど吸収してしまうんです。だから、平気ですよ」
嘘だ。吸収しているのではなく、物理攻撃そのものがそもそも効かないのだ。わざわざナイフに合わせ、肉体を変形させた神技を自画自賛する。
だが、そんなことを彼らに言うわけにはいかない。
「さて……他のヴィランの方々も、おとなしく投降していただけますか?」
私は一歩、ヴィランたちに向かって足を踏み出した。
同時に、左手の先端を変形させる。皮膚が裂け、内側の肉が硬化して、数本の細い針の形状へと変わる。
「hello?」
シュシュシュシュッ!!!
視認不可能な速度で放たれた無数の肉の針が、甲板の上にいたヴィランたちの足を正確に撃ち抜いた。
ドガガガッ! と針が甲板を突き破り、突き刺さった針から無数の肉の繊維が爆発的に広がって、ヴィランたちの体をガチガチに船へ拘束する。
「うわああっ!? 足が……肉の糸みたいなのに固められて動かねぇ!?」
「なんだこの技……!? 助けてくれぇぇ!」
悲鳴を上げるヴィランたち。
「……よし、水難ゾーンの敵は無力化できましたね」
私は何事もなかったかのように微笑み、緑谷たちに振り返った。
「緑谷くん。広場の方から、嫌な音が続いています。相澤先生が……一人で戦っておられるはずです。様子を見に行きませんか?」
「あ……うん! 行こう、みんな!」
緑谷は私の異質さに呑まれそうになりながらも、意を決して頷いた。
◇
私たちは水難ゾーンを脱出し、広場を見下ろせる茂みの陰へと潜り込んだ。
そこで目にしたのは、絶望という言葉すら生ぬるい、惨絶な光景だった。
「がはっ……!!」
相澤先生が、血だらけになって地面に伏せていた。
彼の右腕は不自然な方向に折れ曲がり、顔面は地面に叩きつけられ、流血で髪が黒く染まっている。
その相澤先生の上に伸しかかっていたのは――頭部が露出し、脳みそが剥き出しになった、漆黒の異形の大男。『脳無』
「強いねぇ、イレイザーヘッド。だが、俺たちの脳無には勝てないよ。こいつは改人。オールマイトを殺すために作られた、ショック吸収と超再生を持つ怪物だ」
死柄木弔が、不気味に首をガリガリと掻きながら嘲笑っていた。
「相澤先生……!!」
緑谷が息を飲んで絶句する。
相澤先生の個性が脳無に発動されていても、脳無の物理的なパワーと耐久力は削がれていない。相澤先生の骨が折れる嫌な音が、静まり返るドーム内に響く。
「さて……オールマイトが来ないなら、帰るか。……あ、そうだ。せっかく来たんだから、象徴の自尊心を傷つけて帰ろう」
死柄木の視線が、ふと水難ゾーンから這い出てきた私たちの茂みへと向けられた。
黒霧が一瞬で空間を歪め、死柄木の手が、茂みの前線にいた蛙吹梅雨ちゃんの顔面へと伸ばされる。
「梅雨ちゃん!!」
緑谷が叫び、飛び出そうとする。
だが、それよりも早く。
誰よりも速く、一つの影が死柄木の前に割り込んだ。
ペトッ
死柄木の手が触れたのは、梅雨ちゃんの顔ではなく――私の胸元だった。
「……ん?」
死柄木の目が、手袋の隙間から細められる。
彼の個性:崩壊。五本指で触れたあらゆる物体を、細胞レベルから崩壊させて粉々にする
私の制服の生地が、死柄木の指が触れた瞬間、バリバリと音を立てて黒く壊死し、崩れ去った。
「ハッ、自ら盾になりに来たか、ヒーロー気取りのガキが。形も残さず崩れ去れ――」
死柄木が嗜虐的な笑みを深める。
しかし。
次の瞬間――死柄木の表情が凍りついた。
バリバリ……と音を立てて崩壊しようとする私の皮膚。だが、その皮膚のすぐ裏側から、どろりとした赤黒い肉が溢れ出し、崩壊する速度を遥かに上回る密度で、無限に肉が湧き出してきたのだ。
壊れても、壊れても、崩壊が届かない。
別に効いていないわけではない。
「な……んだ、これ……? 崩壊しない……? 腐らない……! 壊れてる端から、肉が増えて……!?」
死柄木が初めて動揺の声を上げ、手を引き抜こうとした。
だが、私は逃がさなかった。
私の胸の肉が、死柄木の手首を蛇のように巻き込み、ガチガチに固定する。
「あなた達が……ヒーローを殺すために来たヴィラン、ですか?」
私は死柄木の顔を覗き込んだ。
私の顔の皮膚が、死柄木の崩壊の影響でわずかに引き裂かれ、その隙間から――ギョロリとした3つの不気味な目が覗いていた。
「ひっ……!?」
死柄木が息を呑む。目の前にいるのは生徒ではない。自分たちが作った脳無すら生ぬるいと感じるほどの、本物の化け物。
「脳無! こいつを離せ!! 殴り殺せ!!」
死柄木が悲鳴のような叫びを上げる。
死柄木の指示を受け、漆黒の怪物、脳無が動いた。
オールマイトを殺すために作られた、規格外の筋力。その巨大な丸太のような腕が、私の側頭部に向かって全速力で振り下ろされる。
ドゴォォォォォンッ!!!!!
爆音。衝撃波で周りの地面が破裂し、猛烈な砂煙が広場を吹き荒れた。
緑谷たちが「人皮さん!!」と絶叫する。
脳無の超絶的な拳が、私の顔面に直撃していた。
相澤先生の骨を容易く砕いた、数トンの打撃。
だが――。
グラウンドの砂煙が晴れていく。
脳無の拳を受け止め、私は――微動だにしなかった。
首すら傾いでいない。髪の毛一本揺れていない。
脳無の拳の威力を、完全に無へと還元していた。衝撃波すら私の頭部を通過しない。
「……ショック吸収?」
死柄木が引きつった声で呟く。
「いや……違う。衝撃を吸収しているんじゃない……効いていないんだ……! なんだこいつ……なんだこのバケモノは!?」
「…goodbye」
私の口から、低く、重苦しい怪物のノイズが漏れた。
私が右腕を持ち上げる。
可憐な美少女の腕の皮膚が完全に弾け飛び、内部から2メートルを超える巨大な肉の刃が現れた。赤黒い筋組織が限界まで凝縮された、あらゆる物体を殺戮するための禍々しい業物。
肉の刃を脳無に向かって振り下ろす。
ズザァァァァンッ!!!!
脳無の右腕と胴体の一部が、一切の抵抗もなく、紙くずのように両断された。
ドロリとした黒い血が飛び散り、脳無が初めてガァッという苦悶の声を上げる。
「脳無が……斬られた……!?」
死柄木が目を見開く。
斬られた脳無の肉体が、即座に超再生を始める。ドクドクと肉が盛り上がり、傷口が塞がっていく。
だが、脳無の『
「超再生……素晴らしい個性ですね」
私は美少女の皮を修復しながら、無機質な瞳で二人を見下ろした。
「でも、私がこの肉を切り刻み続けたら……どちらが先に果てるかしら?」
私の背後で、夕暮れの光を受けた影が膨らんでいく。
「怪物……クソチーターがっ……!」
死柄木が歯をガチガチと鳴らし、黒霧に向かって叫んだ。
「黒霧! 撤退だ! こいつから離れろ!!」
黒霧が慌ててワープの穴を開け、死柄木の手を強引に引き抜いて後方へと退避させた。脳無もまた、超再生を行いながら死柄木を護衛するように立ちはだかる。
死柄木は血走った目で私を睨みつけていた。
「お前は、何だ……!? 雄英にこんなバケモノがいてたまるか!!」
私は切り裂かれた衣服を肉で再構築し、胸の裂け目を閉じた。
そして、いつもの可憐な優等生の笑みを、完璧に貼り直してみせた。
「私は、雄英高校1年A組の生徒です。……人を救うヒーローになるために、ここにいます」
その言葉に、死柄木は戦慄し、言葉を失った。
その直後――。
バァァァンッ!! という爆音とともに、USJの巨大な扉が吹き飛ばされた。
「私が!! 来た!!」
眩い光とともに現れた、平和の象徴・オールマイト。
だが、オールマイトが現場に駆けつけ、真っ先に目にしたのは――血だらけの相澤と、怯えるヴィランたち、そして……全身から異質な圧力を放ちながら、静かに佇む少女、人皮被の姿だった。
「……人皮少女……?」
オールマイトの目が、わずかに見開かれる。
ヒーローと、ヴィランと、そして怪異。
三つ巴の戦慄が交錯するUSJの中で、私の物語は、今日も決定的な歪みを孕みながら進んでいく。