個性『何もない』   作:I love you

3 / 3
3話

 

戦闘訓練から数日。雄英高校での日常は、一見すれば平穏に過ぎていた。

 

だが、私の内側にある怪物は、日に日に昂ぶりを見せていた。

人間の真似事をして、授業を受け、クラスメイトと笑い合う。それは私にとって甘美な夢のような時間であり、同時にいつ弾けて消えるか分からない薄氷の上の日常だ。

 

「今日のヒーロー基礎学は、私とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見守る現場演習だ」

 

朝のホームルームで、相澤先生が淡々と言い渡す。

 

「災害、水害、なんでもござれ。レスキューの訓練を行う」

 

レスキュー。人を救うための試練。

私はそっと自分の白い手を握りしめる。

私の持つ力は、あらゆる物理法則を突っぱね、物体を容易く切り裂き、刺し穿つためだけの暴力だ。人を救うために作られた機能など、この肉塊のどこを探しても存在しない。

 

「コスチュームの着用は自由だ。現場まではバス移動になる。準備しろ」

 

 

雄英高校が誇る大型演習場『ウソの災害や事故の訓練場』――通称『USJ』。

そこへ向かう専用バスの中で、クラス内はちょっとした旅行気分のような遠足感に包まれていた。

 

「私、思ったこと何でも言っちゃうタイプなんだよね」

隣の席に座る蛙吹梅雨ちゃんが、大きな瞳で私を見つめてきた。

「人皮ちゃん。人皮ちゃんの個性って、すごく強くてカッコいい異形系だけど……少し怖いわね」

 

「そうかしら?」

私は小首を傾げ、可憐な少女の笑みを浮かべる。

「肉体を自由に変化させているだけよ。筋肉とかが表に出ちゃうから、そう見えてしまうのかもしれないけれど」

 

「でもさぁ、人皮!」

前の席から切島が振り返る。戦闘訓練の時の恐怖を吹っ切ろうとするように、明るく笑いかけてきた。

「お前、俺の全力の殴打を顔面に受けてビクともしなかったろ! あれ、どうなってんだよ? 硬化の個性を持っている俺より頑丈じゃねぇか!」

 

「うーん……私の肉体は脂肪も筋肉も高密度で凝縮されているから、打撃のエネルギーがそのまま逃げていっちゃうの。痛覚もあんまりないから、平気なのよ」

 

「痛覚がない……? それって、怪我しても気づかないってことか?」

緑谷出久がノートとペンを手に、興味津々といった様子で身を乗り出してきた。

「人皮さんの『肉体変形』は、変形スピードも速いし、切断力も質量無視レベルだ。しかも打撃が効かないとなると、防御面でも圧倒的だよ……! 一体どんな――」

 

「はいはい、オタクの分析はそこまでな」

相澤先生の冷や声がバス内に響き、緑谷が「ひえっ」と肩をすくめて黙り込む。

 

私は窓の外に目をやった。

(痛覚がない……か)

 

そんな生ぬるいものではない。

私には肉体の破損という概念すら希薄だ。どれだけ肉を削がれようが、ドロドロに溶かされようが、そこに私の意思がある限り、私は一瞬で肉を再構築できる。

人間に見せるための皮が破れることだけが、私にとっての唯一の禁忌。

 

やがてバスは巨大なドーム状の施設の前で停車した。

 

 

「待ちかねたぞ、少年少女たち!」

 

ドーム内で待っていたのは、宇宙服のようなコスチュームに身を包んだスペースヒーロー・13号だった。

土砂崩れ、水難、暴風、火災――あらゆる災害現場を模した広大な施設を前に、生徒たちから歓声が上がる。

 

13号は生徒たちを集めると、静かに、しかし重みのある声で語り始めた。

 

「私の個性は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまう力です。……この力を使えば、人を簡単に殺せてしまう」

 

13号の言葉に、生真面目な雰囲気が場を支配する。

 

「皆さんの個性も同じです。一歩間違えれば、人を容易に傷つけ、命を奪ってしまう悪意なき暴力になり得る。この授業では、自分の持つ個性を人に危害を加えるためではなく、人を救うためにどう使うかを学んでください」

 

「個性は人を殺せる力」

 

そのフレーズが、私の胸の奥の肉を深く抉った。

私という存在そのものが、まさにそれだ。人皮被という一人の少女を殺し、生まれ落ちた怪物。私のこの手は、人を救うために作られたものではない。この思考さえーー

 

「ーー以上! ご清聴ありがとうございました!」

 

13号のお辞儀とともに、生徒たちがパチパチと拍手を送る。

相澤先生が「よし、じゃあまずは――」と指示を出そうとした、その時だった。

 

広場の中央にある噴水周辺の空間が、歪んだ。

 

「……?」

 

黒いノイズのような煙が、虚空からボタボタと溢れ出す。

不吉な旋律のように広がるその煙の中心から、無数の人の手を全身にへばりつけた白髪の男と、異形の大男――そして、無数の怪しげな人間たちがゾロゾロと姿を現した。

 

「一箇所に集まって動くな! 13号、生徒を守れ!」

 

相澤先生が叫び、ゴーグルを装着する。

ただごとではない雰囲気に、クラスメイトたちがパニックに陥りかける。

 

「な、なんだアレ……入試の時みたいな、最初から用意されてる(ヴィラン)か?」

切島が眉をひそめるが、相澤先生の殺気立った背中がそれを否定していた。

 

「動くな……! あれは……本物の『(ヴィラン)』だ!」

 

広場の中央で、全身に手を纏った男――死柄木弔が、不快そうに首をガリガリと掻きむしりながら呟いた。

 

「オールマイトは……いないのか。せっかく脳無まで連れて大勢で来てやったのに……ガキどもを殺せば、来てくれるのかな?」

 

ヴィラン連合。

プロヒーローを殺すために集まった、本物の悪意の群れ。

 

相澤先生が単身で広場へと飛び降り、群がるザコヴィランたちを次々と捕縛布でなぎ倒していく。だが、事態はそれで収まらなかった。

 

「初めまして、我々はヴィラン連合。平和の象徴オールマイトを死に至らしめるため、参上いたしました」

 

突如として私たちの頭上に現れた黒いモヤ――黒い霧が、空間を覆い尽くす。

 

「逃がしませんよ」

 

「しまっ――」

13号が構えるよりも早く、闇が私たちを飲み込んだ。

世界が歪み、視界が漆黒に染まる。全身の肉が、空間歪曲の圧力によって不快に引き伸ばされる感覚。

 

「うわああああっ!?」

生徒たちの悲鳴が遠ざかっていく。

 

(飛ばされる……!)

 

私は空中を疾走しながら、己の肉体の全細胞を硬化させた。

人間ならば着地の衝撃で骨が砕けるような速度で、私はどこかのゾーンへと叩きつけられた。

 

 

ドザーーッ!! という激しい水音とともに、私は巨大な人工湖へと落ちた。

 

『水難ゾーン』。

 

水中へと沈み込みながら、私は制服(擬態の皮膚)を整える。

人間であれば息が続きず、溺死するシチュエーション。だが、私には肺もなければ呼吸の必要もない。水中に漂う酸素を取り込むことすら必要としない、完全な閉鎖生態系。

 

ふと上を見上げると、水中に影が躍り出てきた。

緑谷出久、蛙吹梅雨、そして峰田実の3人が、水中に設置された巨大な難破船のデッキへと逃げ込むのが見えた。

 

そして、その船を取り囲むように、水棲系の個性を持ち、水中戦を得意とするヴィランたちがワラワラと集まってくる。

 

「ヒヒヒ! ガキが3人乗ってきたぞ!」

「水の中じゃ俺たちの天下だ! 痛ぶり殺してやれ!」

 

水中から槍やナイフを持ったヴィランたちが、船に向かって飛び上がろうとしている。

 

(……あの3人では、水中に引きずり込まれたら危険ね)

 

私は水底を力強く蹴った。

ドオンッ! という水柱が上がり、私は水面を突き破って、難破船の甲板へと一気に跳躍した。

 

「人皮さん!?」

船の上で震えていた緑谷が、私を見て目を見開いた。

「無事だったんだ……! よかった!」

 

「緑谷くん、蛙吹さん、峰田くん。怪我はありませんか?」

私は服についた水滴を払う仕草をしながら、可憐に微笑んでみせた。

 

「う、うん! でも……囲まれてるの! 水中じゃ僕たちの個性が活かせない……!」

緑谷が青ざめた顔で船の下を指さす。

 

「ヒハハハッ! 逃げ場はねぇぞガキども! 船ごと沈めてやらぁ!」

水中から、魚のヒレや鮫の歯を持ったヴィランたちが、船の甲板へと躍り上がってきた。手に手に持ったナイフやドスを振りかざし、私たちに襲いかかってくる。

 

「ひいいいいっ! 死ぬ死ぬ死ぬー! おいらこんなところで死にたくないよぉぉ!」

峰田が泣き叫びながら頭のブドウを投げ散らかすが、ヴィランたちはそれを掻き分けて迫ってくる。

 

「死ねやぁ!!」

 

大柄な鮫男が、目にも留まらぬ速さで私に向かって飛びかかり、鋭利なナイフを私の胸元――心臓があるはずの場所へ、深々と突き立てた。

 

グサァッ!!

 

「人皮さんっ!!」

緑谷と梅雨ちゃんの悲鳴が甲板に響き渡る。

ナイフは制服を突き破り、私の胸の皮膚へと深々と刺さっていた。

 

鮫男が凶悪な笑みを浮かべる。「もらったぜ、まずは一匹――」

 

だが。

 

「……え?」

 

鮫男の笑みが固まった。

 

手応えがない。

骨に当たる感触も、肉を切り裂く感触もない。まるで、莫大な質量の液体に金属を突っ込んだかのような、気味の悪い感触。

そして何より――血が一滴も流れていない。

 

私は、ナイフが胸に突き刺さったまま、静かに鮫男を見つめた。

私の顔には、痛みに歪む様子もなければ、動揺すらない。ただの、無機質な瞳。

 

「な……なんだこれ……!? 刺さってるぞ!? なんで死なねぇ!? なんで血が出ねぇんだ!?」

鮫男がパニックを起こし、必死にナイフを引き抜こうとする。しかし、私の胸の肉が超高密度で固定され、ナイフはビクとも動かない。

 

「……武器の持ち込みは、校則違反ですよ」

 

私は優しく微笑んだ。

 

次の瞬間、私の右腕が嫌な音を立てて膨張した。

ドクク、と衣服の下で肉が爆発的に増幅し、通常の5倍以上の質量を持った巨腕へと変形する。剥き出しになった赤黒い筋肉組織。

 

肥大化させた肉の拳による一撃。

 

ドガァァァンッ!!!!

 

「ガはっ!?」

 

私が右拳を一振りすると、鮫男の巨体が砲弾のような速度で吹き飛び、船の煙突を粉砕しながら遙か遠くの水面へと叩きつけられた。激しい水柱が上がり、鮫男はそのまま白目を剥いて浮かんできた。

 

「ひっ……! な、なんだあいつの馬鹿力は……!?」

「ナイフで刺されて笑ってやがる……!? ヴィランはどっちだ!?」

 

襲いかかってきていた他のヴィランたちが、恐怖で足を止める。

 

緑谷たちも、言葉を失って私を見つめていた。

胸にナイフが刺さったまま、腕を異形に変形させて敵を一撃で粉砕した少女。その光景は、救いのヒーローというよりは、悪夢の怪異に似ていた。

 

「人皮さん……胸……! ナイフが……!」

緑谷がガクガクと震えながら指さす。

 

「あ、これですか?」

私は胸に刺さっていたナイフを、自分で無造作に引き抜いた。

ポロリと金属が落ちる。刺さっていた胸の皮膚には、小さな傷穴が開いていたが――内部からドロリとした肉の繊維が這い出し、一瞬で傷口を塞ぎ、元通りの綺麗な白い肌へと戻った。服の穴すらも、私の肉が繊維を模倣して修復する。

 

「痛くないんですか……!?」

「ええ。私の個性は、物理的な攻撃をほとんど吸収してしまうんです。だから、平気ですよ」

 

嘘だ。吸収しているのではなく、物理攻撃そのものがそもそも効かないのだ。わざわざナイフに合わせ、肉体を変形させた神技を自画自賛する。

だが、そんなことを彼らに言うわけにはいかない。

 

「さて……他のヴィランの方々も、おとなしく投降していただけますか?」

 

私は一歩、ヴィランたちに向かって足を踏み出した。

同時に、左手の先端を変形させる。皮膚が裂け、内側の肉が硬化して、数本の細い針の形状へと変わる。

 

 

「hello?」

 

シュシュシュシュッ!!!

 

視認不可能な速度で放たれた無数の肉の針が、甲板の上にいたヴィランたちの足を正確に撃ち抜いた。

ドガガガッ! と針が甲板を突き破り、突き刺さった針から無数の肉の繊維が爆発的に広がって、ヴィランたちの体をガチガチに船へ拘束する。

 

「うわああっ!? 足が……肉の糸みたいなのに固められて動かねぇ!?」

「なんだこの技……!? 助けてくれぇぇ!」

 

悲鳴を上げるヴィランたち。

 

「……よし、水難ゾーンの敵は無力化できましたね」

私は何事もなかったかのように微笑み、緑谷たちに振り返った。

 

「緑谷くん。広場の方から、嫌な音が続いています。相澤先生が……一人で戦っておられるはずです。様子を見に行きませんか?」

 

「あ……うん! 行こう、みんな!」

 

緑谷は私の異質さに呑まれそうになりながらも、意を決して頷いた。

 

 

私たちは水難ゾーンを脱出し、広場を見下ろせる茂みの陰へと潜り込んだ。

 

そこで目にしたのは、絶望という言葉すら生ぬるい、惨絶な光景だった。

 

「がはっ……!!」

 

相澤先生が、血だらけになって地面に伏せていた。

彼の右腕は不自然な方向に折れ曲がり、顔面は地面に叩きつけられ、流血で髪が黒く染まっている。

 

その相澤先生の上に伸しかかっていたのは――頭部が露出し、脳みそが剥き出しになった、漆黒の異形の大男。『脳無』

 

「強いねぇ、イレイザーヘッド。だが、俺たちの脳無には勝てないよ。こいつは改人。オールマイトを殺すために作られた、ショック吸収と超再生を持つ怪物だ」

 

死柄木弔が、不気味に首をガリガリと掻きながら嘲笑っていた。

 

「相澤先生……!!」

緑谷が息を飲んで絶句する。

 

相澤先生の個性が脳無に発動されていても、脳無の物理的なパワーと耐久力は削がれていない。相澤先生の骨が折れる嫌な音が、静まり返るドーム内に響く。

 

「さて……オールマイトが来ないなら、帰るか。……あ、そうだ。せっかく来たんだから、象徴の自尊心を傷つけて帰ろう」

 

死柄木の視線が、ふと水難ゾーンから這い出てきた私たちの茂みへと向けられた。

 

黒霧が一瞬で空間を歪め、死柄木の手が、茂みの前線にいた蛙吹梅雨ちゃんの顔面へと伸ばされる。

 

「梅雨ちゃん!!」

緑谷が叫び、飛び出そうとする。

 

だが、それよりも早く。

 

誰よりも速く、一つの影が死柄木の前に割り込んだ。

 

 

ペトッ

 

 

死柄木の手が触れたのは、梅雨ちゃんの顔ではなく――私の胸元だった。

 

「……ん?」

死柄木の目が、手袋の隙間から細められる。

 

彼の個性:崩壊。五本指で触れたあらゆる物体を、細胞レベルから崩壊させて粉々にする(pale)の能力。

私の制服の生地が、死柄木の指が触れた瞬間、バリバリと音を立てて黒く壊死し、崩れ去った。

 

「ハッ、自ら盾になりに来たか、ヒーロー気取りのガキが。形も残さず崩れ去れ――」

 

死柄木が嗜虐的な笑みを深める。

 

しかし。

 

次の瞬間――死柄木の表情が凍りついた。

 

バリバリ……と音を立てて崩壊しようとする私の皮膚。だが、その皮膚のすぐ裏側から、どろりとした赤黒い肉が溢れ出し、崩壊する速度を遥かに上回る密度で、無限に肉が湧き出してきたのだ。

 

壊れても、壊れても、崩壊が届かない。

別に効いていないわけではない。(pale)を纏った攻撃は最も効率的に私を破壊する。といってもその威力は減衰し、私の再生速度を下遥かに回っている。

 

「な……んだ、これ……? 崩壊しない……? 腐らない……! 壊れてる端から、肉が増えて……!?」

死柄木が初めて動揺の声を上げ、手を引き抜こうとした。

 

だが、私は逃がさなかった。

 

私の胸の肉が、死柄木の手首を蛇のように巻き込み、ガチガチに固定する。

 

「あなた達が……ヒーローを殺すために来たヴィラン、ですか?」

 

私は死柄木の顔を覗き込んだ。

私の顔の皮膚が、死柄木の崩壊の影響でわずかに引き裂かれ、その隙間から――ギョロリとした3つの不気味な目が覗いていた。

 

「ひっ……!?」

死柄木が息を呑む。目の前にいるのは生徒ではない。自分たちが作った脳無すら生ぬるいと感じるほどの、本物の化け物。

 

「脳無! こいつを離せ!! 殴り殺せ!!」

死柄木が悲鳴のような叫びを上げる。

 

死柄木の指示を受け、漆黒の怪物、脳無が動いた。

オールマイトを殺すために作られた、規格外の筋力。その巨大な丸太のような腕が、私の側頭部に向かって全速力で振り下ろされる。

 

ドゴォォォォォンッ!!!!!

 

爆音。衝撃波で周りの地面が破裂し、猛烈な砂煙が広場を吹き荒れた。

緑谷たちが「人皮さん!!」と絶叫する。

 

脳無の超絶的な拳が、私の顔面に直撃していた。

相澤先生の骨を容易く砕いた、数トンの打撃。

 

だが――。

 

グラウンドの砂煙が晴れていく。

 

脳無の拳を受け止め、私は――微動だにしなかった。

 

首すら傾いでいない。髪の毛一本揺れていない。

脳無の拳の威力を、完全に無へと還元していた。衝撃波すら私の頭部を通過しない。

 

「……ショック吸収?」

死柄木が引きつった声で呟く。

「いや……違う。衝撃を吸収しているんじゃない……効いていないんだ……! なんだこいつ……なんだこのバケモノは!?」

 

「…goodbye」

 

私の口から、低く、重苦しい怪物のノイズが漏れた。

 

私が右腕を持ち上げる。

可憐な美少女の腕の皮膚が完全に弾け飛び、内部から2メートルを超える巨大な肉の刃が現れた。赤黒い筋組織が限界まで凝縮された、あらゆる物体を殺戮するための禍々しい業物。

 

肉の刃を脳無に向かって振り下ろす。

 

ズザァァァァンッ!!!!

 

脳無の右腕と胴体の一部が、一切の抵抗もなく、紙くずのように両断された。

ドロリとした黒い血が飛び散り、脳無が初めてガァッという苦悶の声を上げる。

 

「脳無が……斬られた……!?」

死柄木が目を見開く。

 

斬られた脳無の肉体が、即座に超再生を始める。ドクドクと肉が盛り上がり、傷口が塞がっていく。

だが、脳無の『ショック吸収(赤シールド)』をもってしても、私の『goodbye(赤300)』の物理切断を防ぐことはできなかった。

 

「超再生……素晴らしい個性ですね」

私は美少女の皮を修復しながら、無機質な瞳で二人を見下ろした。

「でも、私がこの肉を切り刻み続けたら……どちらが先に果てるかしら?」

 

私の背後で、夕暮れの光を受けた影が膨らんでいく。

 

「怪物……クソチーターがっ……!」

死柄木が歯をガチガチと鳴らし、黒霧に向かって叫んだ。

「黒霧! 撤退だ! こいつから離れろ!!」

 

黒霧が慌ててワープの穴を開け、死柄木の手を強引に引き抜いて後方へと退避させた。脳無もまた、超再生を行いながら死柄木を護衛するように立ちはだかる。

 

死柄木は血走った目で私を睨みつけていた。

「お前は、何だ……!? 雄英にこんなバケモノがいてたまるか!!」

 

私は切り裂かれた衣服を肉で再構築し、胸の裂け目を閉じた。

そして、いつもの可憐な優等生の笑みを、完璧に貼り直してみせた。

 

「私は、雄英高校1年A組の生徒です。……人を救うヒーローになるために、ここにいます」

 

その言葉に、死柄木は戦慄し、言葉を失った。

 

その直後――。

 

バァァァンッ!! という爆音とともに、USJの巨大な扉が吹き飛ばされた。

 

「私が!! 来た!!」

 

眩い光とともに現れた、平和の象徴・オールマイト。

 

だが、オールマイトが現場に駆けつけ、真っ先に目にしたのは――血だらけの相澤と、怯えるヴィランたち、そして……全身から異質な圧力を放ちながら、静かに佇む少女、人皮被の姿だった。

 

「……人皮少女……?」

 

オールマイトの目が、わずかに見開かれる。

 

ヒーローと、ヴィランと、そして怪異。

三つ巴の戦慄が交錯するUSJの中で、私の物語は、今日も決定的な歪みを孕みながら進んでいく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

『虚飾』から始めるヒーローアカデミア(作者:百合カプはいいぞ)(原作:僕のヒーローアカデミア)

『虚飾の魔女』パンドラの成り主がパンドラっぽいエミュをしながらヒロアカの世界を楽しむ話▼なお、パンドラ成り主の他にエキドナ成り主も存在する模様▼地雷要素マシマシなので自衛推奨


総合評価:2636/評価:8.12/短編:10話/更新日時:2026年04月08日(水) 21:00 小説情報

L社の技術を持っただけの擬態型一般人Aがキヴォトスで生き残るためにできること。(作者:D-T45-45-1919JP)(原作:ブルーアーカイブ)

▼諸君、俺は死にたくない。▼ここが都市だったら大人しく早めに死んだほうが幸せだっただろうが、あいにくキヴォトス。美味しい食べ物も、感動できる景色も、隣人との心温まる交流も、全てが可能な世界だ。▼だったら生きるしかない! このL社の技術を使って!▼でもどうすればいいんだ!?▼変なアブノーマリティを抽出したら即座にキヴォトス滅亡、しかし普通に働いたら銃弾の流れ弾…


総合評価:4542/評価:8.59/連載:32話/更新日時:2026年04月28日(火) 20:30 小説情報

傲慢の魔女『フラン』(作者:オド・ラグナの対義語)(原作:Re:ゼロから始める異世界生活)

私は『傲慢の魔女』、フランダース・スカーレット。495歳まであと90年くらいの約400歳児。フランドールほどの狂気はないけど、頑張るよ。──これはよくある転生をした一人の少女の物語。   ※思ったより続けれたので短編から連載に変更しました▼


総合評価:3465/評価:8.34/連載:29話/更新日時:2026年07月13日(月) 19:13 小説情報

ダンジョンに魔虚羅がいるのは絶対に間違っている(作者:パクチーダンス)(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

深夜に思いついたネタ▼呪術廻戦とのマコラとは一部乖離がある。▼


総合評価:4773/評価:8.51/連載:4話/更新日時:2026年05月18日(月) 08:30 小説情報

お前は部品(パーツ)だ!(おかのした!)(作者:黙々睦模目)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼ 前世でなんやかんやあり、死んだ陰キャで口下手なオリ主…。▼ 転生した世界はゼンレスゾーンゼロの世界で…(本人は知らない)▼ いかにも…『The』軍人です!って感じの人達に同い年くらいの子供達と囲まれ…その中でも偉そうな軍人に▼ お前らは機械の部品(パーツ)だから自我を出すな!出したら殺す!▼ と言われ、機械の部品として軍人として軍用機械の一部として戦い続…


総合評価:2256/評価:7.63/連載:14話/更新日時:2026年07月22日(水) 01:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>