ようこそ未知を探求する教室へ   作:叙述トリッピー

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Chapter1
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L Lawlietの独白

 

 

私の名前はL、そう呼ばれている。

 

 本名かどうかは定かではない。

 何故なら私は孤児だ。両親の顔も名前すらも知らないのだ、自分の名前など知る由もない。

 

そんな私の生活は、同年代の青少年たちのものとはかけ離れていた。

インターポールやFBI、世界の様々な警察機関から依頼される事件を解決する日々を過ごしていた。

 

依頼された事件の全てを受けるわけではない、彼らでは解決が不可能だと判断された難事件だけだ。

その理由は単純、どれだけ早く解けるかを楽しむためだ。

 

そんな一般の青年たちが経験しない生活を送ってきたからこそ思う事があった。

 

 これまでの人生において、私は数え切れないほどの人間と接してきた。

 

しかし、それはどこまでも「探偵と依頼人」、あるいは「指揮者と捜査官」というビジネス、つまり立場上の差がある関係でしかなかった。

私は立場こそ上になる事も多いが、生物学的には15歳ほどの少年に過ぎない。

 

だからこそ誰かと対等に言葉を交わしたいという思いが出てくるのも当然だった。

 

 私の育ったワイミーズハウスでの生活は、およそ一般的な社会性とはかけ離れたものだった。

 

優れた知能を持ちながら身寄りのない子供たちを集め、英才教育を施し、天才を作り上げる施設だった。

確かにあの施設による生活は私に実りを与えた。パズル、それも人間の感情が入っている犯罪捜査を見つけることが出来たのは収穫だった。

 

しかしその一方で、私は日に日にある関心を強めていた。

 

 

 俗に言う「青春」とは、一体どのような概念なのだろうか。

 

 

 それがもし私という人間に作用した時、影響はどれだけあるのだろうか。

世界のあらゆる高度な学問や数理には、幼少期から長く触れてきた。

だが、それはある意味見飽きたものだった。理論とは結局のところ普遍的なものだ、答えが示されている問題に私はもう惹かれなかった。

 

 人間の感情が生み出した概念、その一つたるそれに私は関心を覚えている。

 

ではこの答えが得れる場所とは何処なのだろうか。今の年齢だと高校か、今は難事件も無い空白の期間、これを機に行ってみるのも一考の余地があるだろう。

 

そう思考の整理を終えると、私は手元にある特製の端末へと手を伸ばし、暗号化された回線を開いた。

画面の向こうで待機しているであろう、唯一無二の理解者へと通信を入れる。

 

「ワタリ、聞きたいことがある」

 

 

 

 

 

─────────────────────────────────

 

 

 桜舞う季節。

 学生であれば多くの環境が変わる時期だろう。在学生なら学年が上がりクラス替えが行われ、それによる出会いや別れが起こる筈だ。

 

そんな新しい環境は人間を変える良い機会となる。それを私は求めてこの地に立っているのだから。

 

今日はその第一歩である入学式の日だった。

雲一つない晴天はまるで私の門出を祝福しているようだ。そう思いつつ、校舎へ敷かれた石畳の上を私は歩く。

 

 高度育成学校、この学校は日本に存在する希望した進学、就職先にはほぼ応えるという全国屈指の名門校。卒業生の中にはこの学校を出た事で有名になった者も多い。

 

そんな実績のあるこの学校だが、他の学校とは異なる点がある。

 

 在学中、学校に通う生徒全員に敷地内にある寮での生活が義務づけられている。

そして外部との連絡や交流が特例を除いて取れないという事だ。だがそれを補うようにカラオケやカフェ、ブティックなどの施設も存在し大都市の中心に小さな街を形成していた。

大多数はこの異常な事実を当たり前のように受け入れているが、一部ではこの施設は人道に反する行いがされている等の陰謀論のような説が囁かれている。

 

「随分と異質な学校だ」

 

 四月になり私は花のある高校生というものになった。

この学校で何かを得る事があるかと問われれば確率は低いと私は理解している。

 

だが、いつもの癖で周囲を観察すると少々不可解な事があった。

 

あまりにも生徒の質にバラツキがある。

この学校が誇る実績だけを見るのならば、一定水準以上を満たす生徒で溢れていると思い込んでいた。

 

しかし、不良のような刺を持ち他者を威圧するような生徒や騒がしく落ち着きのない生徒が散見された。

そんな一般論からかけ離れている光景は私の食指を動かしてくる。

 

「やはりこの学校を選んでよかった。ワタリの提案に乗って正解だった」

 

ちらりと近くにあったガラス窓に反射する姿を確認する。

 

痩せて猫背気味な容姿。頭髪は耳が覆い隠されるような黒髪で所々がはねている。

三白眼で目の下にはクマがあり、如何にも不健康そうな見た目だった。

昨日までは常に白い長袖のシャツとジーンズを着用していたが、今日から暫くの間はこの学校の制服を着る事となる。

 

…唯一気になるとすれば靴下だ。

私は常に裸足で生活を行っている。学生は服装を正す事を指導されるらしいが、いつまで耐えられるかは未知だった。

 

「…あれは」

 

 校舎の門を通り花開く桜を眺めつつ歩いていると、前方でなにやら人助けをしている少女がいた。

 

その後ろ姿で隠されているため、この位置からは様子を見ることが難しいが大方転んだ人を助けているのだろう。転んだ人物が手に持っていたであろう鞄は少し離れた位置に転がっていた。

 入学早々不運だとは思うが、新しい場に身を置く不安からか緊張で身体が強張り転んでしまうという経緯は推測出来る範疇だ。

 

その一員となってしまった哀れな人間を一目見ようと近づいていく。

 

 

──そして、私は少し瞠目した。

 

 助けている側の少女があまりにも異常だったからだ。

心配そうに蹲る人間に話している。会話内容は頭に入ってこなかったが、私は気にせず黙考する。

 

 明らかに善、性質がそれに寄っていると見える。

そんな存在をこれまでの人生で出会ったことが無かった。犯罪捜査に関わり続ける都合上、悪意に満ちた犯人たちは多く見てきた。

だからこそ、目の前の少女は異質に感じる。

 

だからこそ思った。

そんな未知な人物である彼女は『青春』の答えを、どう考えているのだろうか?

 

 転んでいた者はお礼を言い、足早に去っていった。きっと羞恥心、いや他の感情かもしれない。

 

しかし、今はそんな事は考えるべきでは無い。

目の前の桃色髪の少女は手を振り、去っていた後ろ姿を見送っていた。

それを気にせず、私は声を掛けた。

 

「すみません。貴女は青春という言葉をどう考えますか?」

 

「え…?」

 

 そう話し掛けると少女はこちらを振り向いて、人によって見惚れてしまうであろう顔を見せた。

 

日本の女子高生の平均値に近い160㎝ほどの身長。

そして特徴的な桃色の髪と顔。日本の芸能事務所に在籍していても違和感のない整っている容姿だった。

 

「えっと君は…」

 

「私は竜崎正、それで返答を貰えますか?」

 

「んー、…青春についてだよね?」

 

 私は頷き同意を示す。

突然質問したにも関わらず目の前の少女は腕を組み、うーんと唸りつつも真剣に私に対する回答を考えているようだった。

 

…抜けているのだろうか?警戒心を持たずに他人からの言葉を素直に受け取る姿勢はそうとしか思えなかった。若しくは相当なお人好しの可能性もある。

 

「そうだなぁ…、いつもと変わらない日常かな」

 

「成程、それはどういう意味ですか」

 

「いつも通りの生活、ずっと続けてきた部活動。ありふれてるし学生の今なら当たり前の毎日。でもなんだか充足感がある、そんな日々の繰り返し。私はこんな繰り返しが青春だと思うなっ」

 

「良い意見ですね」

 

それは意外性に欠ける回答だった。

誰も傷つける意思の無い当たり障りのない言葉だった。

だが、社会貢献を多く行ってきたであろう少女の言葉なら納得感はあった。

 

現に彼女は私の反応をちらりと伺い、この返答に対する私の変容を見ている。

 

突発的な場面でも尚人を思いやる心を持っている。

その姿勢に少し興味が刺激された。生を得てからこんな平和な会話をする事も、平和ボケした姿勢を見せる人も居なかった。

 

だからだろう、私は自分でも認識出来ない程自然に笑っていたらしい。

 

「にゃはは、竜崎君も自然に笑えるんだね。初対面で今まで聞かれた事も無かった質問をされたからびっくりしちゃったよ~。でも、なんだか良い子そうで安心した」

 

「へぇ、それなら良かったです」

 

「…あ、そうだ!君も新入生だよね?この時間にまだ校舎に居ないんだから道に迷ってたりしてた?」

 

「貴女もまだ校舎に居ないですよ」

 

「確かにっ、私も人のこと言えないか」

 

自分よりも他人の心配を地で行く彼女は困ったように頬を掻いていた。

そして突然、ハッとした表情でこちらを見つめた。

 

「そういえば、まだ名前言ってなかったよね?私は一之瀬帆波。これから同じ学び舎に通う同士、仲良くしたいなっ!これから宜しくね」

 

それが私と彼女の最初の出会いだった。

 

 

 

 

─────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 Bクラス、それが私のこれから過ごすクラスらしい。

 

 一之瀬という少女に『折角の機会だし、クラス分けが張り出された場所まで行かないか』と誘われた為、向かってみれば同じクラスだった。

 

これはある意味幸運だったと言える。

この興味深い少女と同じクラスに居る限り、確実に観察できるのだから。

 

そう考えつつ、教室に入り自分の席を確認した。

窓際の後ろから二番目、そこが私の席らしい。

席に鞄を置き、既に来ていた数人の生徒に軽く挨拶しつつ、入学式へと向かった。

 

そして校長や教師陣の挨拶、担任発表等のイベントを終え、各々教室に戻り担任の教師が来るまで待機する事となった。

 

教室に戻り手持無沙汰となった私は、取り敢えず辺りを見回した。

設備は日本の一般的な教室とは異なり設備が整っている。潤沢な資金を消費していることが見て取れた。

 

──それよりも気になる事がある。

 

異常な量の監視カメラ、この教室にもここまでの経路にも無数のカメラが存在した。

一般的な高校には監視カメラなど無い筈だ。

まるで監獄のような場所、それがこの施設の評価だ。

あのワイミーズハウスの時のような観察対象にでもなった気分だった。

 

 ちらりと桃色髪の少女の様子を見ると、早くもクラスメイトの多くと交流をしているようだった。

 

多くの人間は関わる数を増やすほど自らと相反する考えの者に当たり険悪となると考えていたが、彼女はそうでは無いらしい。

──やはり、他の者とは少し異なる性質。

 

そんな人間の奥底を見ようとすると、隙だらけな態度を埋めるように優しさを振り撒いている印象を覚えた。

 

そうやってクラスの人間をファイリングしていると、前の教室の扉が開き、1人の女性が入ってきた。

 

「おっはよ、みんな!席についてね~」

 

 明るく社交性に溢れており、まるで生徒のような雰囲気である女性だった。だが着ている服がスーツである事からあの人間は教師であることは理解出来た。

ブロンド色のセミロング程度の髪を靡かせ、手をあげ元気よく挨拶をする。

 

教室の生徒たちがお喋りを辞め、全員着席すると待ってましたとばかりに自己紹介を始めた。

 

「私は今日からこのBクラスを三年間担当することになった星之宮知恵っていうんだ、よろしくね~。

私は学校の保険医だからみんなに何かを教えるってわけじゃないけど相談事があったらいつでも言ってね。あ、勿論色恋の話もバッチこいだよ~!」

 

彼女は抱えてきた資料を教卓に降ろしつつ、最前列に人数分の資料に分けて渡し、後ろへ回させる。

 

「あ、入学前のパンフレットである程度はこの学校について知ってると思うけど、先生が念のため一から説明してあげるね。じゃあまずは皆の名前を呼ぶから呼ばれた人は前に来て学生カードを取りに来てね〜」

 

 Sシステム。

この学校の特徴の一つ、現金等の存在しないこの学校では買い物等の支払いはこのシステムによるポイントですることとなる。今配られているカードは学生証の役割を果たすとともに、ポイントカードの役割を兼ねている。

 

あえて紙幣を持たせないことにより、盗難等のトラブルを回避する、若しくは消費癖を抑制する。それらが現段階の情報では推測できた。

 

「みんな、学生証は受け取ったかな?じゃあ、今から大事な話をするね。ポイントは毎月一日に自動的に振り込まれる。これで日々の買い物とかをするの。全員に一律10万ポイント支給されてるよ~。因みに一ポイントは一円の価値があるよっ!」

 

 教室内がざわつき始める。

一月10万ポイントの生活費、日本政府が関わっているにしても大盤振る舞いだ。

日本の一般的な高校生ならばまず貰えないであろう額で生徒たちが浮き足立つのも無理は無いだろう。

 

「みんな支給額に驚いてるみたいだね~。でもこれは正当な評価だよ、みんなはこの学校へ実力を見せた。だから優秀な君たちへのご褒美みたいなものだよ。それだけの価値が今の君たちにはあるってことだね。あ、因みに卒業するときには回収しちゃうからちゃーんと使い切るんだよ?」

 

あまりにも信用ならない言葉だった。

やはりこの学校の評価制度は日本の一般的な高校とはズレているらしい。

 

「あ、因みに他に人にポイントを上げる事はおっけーだからね~。でも無理やりは駄目だよ、お互いの同意のうえでやったね?もしやったら大事になっちゃうから先生困っちゃうから。じゃあ、なにか質問ある人居るかな?」

 

 視線を教室全体に巡らせる。そのタイミングで私は手を挙げた。

 

「質問宜しいでしょうか」

 

「んー?君は…」

 

「私は竜崎正、では気になる点が2つあったので質問します」

 

彼女は先程、正当な評価と言っていた。

この学校、高度育成高等学校は高い進学率や就職率を誇る。その場合、一般的には真面目、つまり優等生に分類される者しかこの学校には在籍できない筈だ。

 

しかし、今朝私がこの校舎に出向いた際にはそんな様子はなかった。あまりにも生徒の性質に統一性がないのだ。

 

「ではまず、この学校には独自の評価制度がある。違いますか?」

 

「んー、返答はできないかな。この学校はちゃんと君たちのことを社会で求められる基準で見てるってことだけ言っておくね」

 

「そうですか、面白い学校ですね」

 

 日本の従来の評価制度は学力に比重が寄っている。

身体能力、機転思考力その他にもあるが、これらは学力よりも評価されにくい。しかしこの学校はそれに異を唱えるような思想を持っていると推測する。

 

 例えば学歴社会への疑問視。

近年の日本は後退している、受け身寄りの姿勢のせいか他国との差を作れていなかった。その現状への疑問視により、このような学校を国の総力を上げて造り上げたのかもしれない。

 

 入学式からこの教室への移動時間で目に入った生徒たちがどのクラスに入室するかを観察した。

結果としては攻撃的、排他的な生徒はCクラス、Dクラス、そうではない温厚、あるいは冷静な空気を纏った生徒はAクラス、Bクラスに入室する傾向があった。

 

この点を鑑みると、他者に対する態度の傾向が評価軸の一つにはなっているかもしれない。

旧態依然の日本教育に囚われる気は無いようだが、かといって社会性を軽んじているようでもない。

 

「成程、では続けます。先ほどの話では支給されるポイントは10万とおっしゃっていましたが、これは毎月同じ額が支給されるのでしょうか?」

 

「んー、毎月指定日にポイントは支給されるよ」

 

「質問の返答にはなっていませんが、回答ありがとうございます」

 

 担任の教師はまたも答えられないと返した。

同じ額ならば濁す必要はない。よってこの仮説が真実である可能性は高まった。

この10万という額は減るだけでなく増える変動するものということの証明だ。

この月の支給額の増減が起こる要因とはなにか?これには通常とは異なる評価制度が関係してくると仮定しておこう。

 

現段階としてはこれが一番しっくりくる。真偽を確かめたいがもう一度質問したとしてもはぐらかされるだけだ。

 

 私がもう用はないとばかりに椅子に座ると、担任の教師はくすくすと笑い始めた。

 まるで今までは見つからなかった探し物が、やっと見つかった子供のようなそんな喜びようだった。

 

「竜崎くん君はとっても面白い発想をするね~。質問に答えられない、賢い君はこの意味が分かるって信じてるね~」

 

 教室に入ってきた際よりも上機嫌な様子を隠そうともせず担任の教師は教卓に乗った資料を纏め始めた。

 

「じゃ、時間もいい頃だし今日はこれで終わりだよ~。まだ質問したい事がある人は職員室まで来てね?先生待ってるから。明日からは授業が始まるから忘れ物だけはしないようにね!」

 

 そう言い残すと、星之宮先生は来た時を同じように風のように去っていった。

まるで嵐のような人だった、そうクラスの思いが一致する瞬間であった。

 

「成程。ではこの推測の精度を高めるべく、情報収集でもしてみますか」

 

 私は教室で呆然としているクラスメイト達を無視して、周辺を探索することにした。

 

 

─────────────────────────────────

 

 

 

「皆、少し時間を貰っても良いかな?」

 

 星之宮先生と竜崎が退出した少し後、静かになった教室の空気を破るために、一人の少女が勇気を持って話を切り出した。

 

生徒たちがそれぞれの仲良くなったグループで放課後を過ごす為に集まりだす時間に、まだBクラスの面々は教室に居た。

 

「私たちはこれから同じクラスで過ごす事になる、だからそんなみんなと仲良くしたいし、自己紹介でもしないかな?」

 

「…そうだね、私まだみんなの名前とか分からないし…」

 

「さっきの話で面を食らったが、賛成する」

 

「確かに。竜崎君の話はびっくりしたよね」

 

 竜崎へのちょっとした呟きに一之瀬は苦笑いした。

(…確かにあれは独特だね。周りの状況を顧みない精神性がちょっぴり羨ましいな)

 

「じゃあ、言い出しっぺの私から始めていくね。私は一之瀬帆波、趣味はお菓子作りなんだー。みんな気軽に話しかけてね!」

 

 提案者である一之瀬の一声で自己紹介をする流れとなった。簡単な趣味や得意な事をそれぞれ語っていく。

そんな中で彼女はさっき出て行った彼についても紹介するべきだろうと思いつき、全員が自己紹介をし終わったタイミングで声を上げた。

 

「さっき教室を出て行った子は竜崎正くん。色々気になる事はあるけど多分良い人だよ!」

 

 にこりと笑う一之瀬にクラスの皆は顔を見合わせて、どことなく納得感がある頷きを返した。

 

「そうなんだ、私はなんだか怖い人かな?って思ってた。でも一之瀬さんが言うんだったらそうなのかも」

 

「俺は少し気になる事があるが、第一印象でその人の全てが決まるわけでは無いからな」

 

「うんうん。それにさっきは無表情だったけど朝会った時には笑ってたんだー!とっても良い表情だったよ」

 

 その同意する返事に一之瀬は少しホッとしつつも質問内容について気になった事を挙げた。

 

「ポイントの支給額が変わるかもって意味で竜崎君は質問してたよね?」

 

「あぁ。確かに俺も気にはなっていた。竜崎のような考えは思いつかなかったが、毎月10万円に相当するポイントが支給されるというのは楽観視すぎるだろうな」

 

「神崎くんもそう思うんだ。じゃあそれに学校独自の評価基準が関係してるって事かな?」

 

その言葉にクラスの誰かがはてなを浮べた。

 

「え、どうして?」

 

「だって竜崎くんの話、私も思ってたもん。この学校なんか違和感あるなーって」

 

その言葉に納得したように他の生徒が頷く。

 

「確かにね、じゃあその評価ってなんなんだろ?」

 

そして竜崎がしたもう一つの質問の意図も議題に上がった。

 

「それは星之宮先生が言っていた社会で求められることなんじゃ無いかな」

 

「あー!それかも。じゃあ授業態度とかテストの結果とかか?」

 

「それもあると思う。学生としては当然の事だけど」

 

「そうだね。でも当たり前を出来るって凄いことだと私は思うよ」

 

 どこか確信めいた様子で言い切る一之瀬に話を聞いていた人々は微笑んだ。

その和やかな雰囲気は既にこのクラスの生徒たちが打ち解けていることを証明していた。

 

「ふふっ…、一之瀬さんってなんだか良い人だね」

 

「あ、それ私も思ってた!」

 

「そうだな、人を素直に褒められるのってすごい事だと思うぜ!」

 

「え!?にゃはは…そんなことないよ!」

 

 一之瀬はそう言いつつ、ほんのりと顔を赤く染めた。

人への善意を振り撒く少女は、人からの善意にとても弱かったのだ。

くるくると何度か髪を触った後に、何かを思いついたのかパッと顔を上げた。

 

「そうだ!皆でこの後集まって親睦を深めようよ。折角学校からポイントも貰えたし、初日ぐらい大盤振る舞いしても怒られないからね~」

 

「誰が怒るんだよー?」

 

「んー、じゃあ僕が怒るよ。こらー、お金を使い過ぎるなーって!!」

 

 クラスの皆んなが冗談を交えながらも、一之瀬を中心にまとまり始める。

竜崎の思う通り、彼女には何か他の人とは違う強みがある。

人間らしさとは、抽象的な概念で彼が最も好きな難解なパズルのようなものなのだから。

 

クラスの人間たちは笑顔で楽しもうと叫び、入学式の日にしては珍しい団体で外へと繰り出ていった。

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