ようこそ未知を探求する教室へ 作:フワンテ
龍園翔の独白。
船上試験、3日目。
本来は試験のインターバルとなる完全自由日に俺は自室で惰眠を謳歌していた。お題は竜崎正、あの気に食わねえ野郎の言葉についてだ。
「…可笑しい、俺のクラスに裏切り者が居るだと?そんな訳がねえ」
俺はクラスの奴らを見ている、配下を見るのは当然だからだ。だからこそあの発言を不信に思っていた。竜崎は俺のクラスの誰とも関わりを持っていない。
(…裏でやられてたら分からねえな)
俺のクラスは一枚岩じゃねえ。
4月時点で俺は自分のクラスを支配した。だが反乱分子は多い、俺が勝ち続ける限り裏切ることは無いだろうが、裏切る可能性が高い奴は居るには居る。
──だが、裏切るにしては早すぎる。
幾ら俺が気に食わないにしても竜崎はBクラスだ。この早い時期に自分よりも格上の彼奴に情報を回そうとする愚かな奴が居るとは思えなかった。
「ひより」
目の前に居るこの女も裏切り者の可能性がある。
椎名ひより、コイツは争いごとを好まない。だからこそ止めるために竜崎に情報を流す可能性もあった。
…だが、それもいい毒を食らわば皿までだ。それはそれで好都合だった。
「はい。なんでしょうか?」
「お前はこのクラスに裏切り者が居ると思うか」
突然の質問にひよりは少し目を見開いた後、読んでいた本を机に置いた。
それに俺は少し驚きつつも、寝そべるのは辞めて部屋に備えられたソファに座った。
(…コイツが読書よりも話を優先するなんて珍しい事もあるもんだな)
「話の脈絡が無いので推測ですが、それでもいいですか?」
「前置きがなげえ、早く言え」
「私は居ないと思いますよ」
俺の発言に気圧される事も無く、このマイペースな女は返答した。
「理由は?」
「私のクラスは龍園君を恐れてそんな行動をする人は少ないと思います」
「時任はどうだ」
「彼は確かに裏切りそうです。ただ違うと思いますよ」
迷いのない言葉、コイツは一切の躊躇いも無く断言した。
何故コイツが断言したのかは分からねえ、でも理由なんてどうでも良かった。俺が仮に裏切り者候補を暴力で脅せば白状はするだろう。だが、居なかった場合最悪な事になる。ただでさえ俺への支持が弱まっている状況で、それに薪をくべる事になりかねない。
そして何より違ったらこの女を縛る鎖となる。コイツの弱みを握れた、それだけで収穫だった。
「へえ、そうか」
「あれ、理由は聞かないのでしょうか?」
「…お前が言うならそうなんだろうよ」
「随分と私を買っているんですね」
買っているだ?
「お前は優秀だ、そしてくだらん嘘を言わねえ」
「…」
「なら別の理由か」
そして何より一番の長所はやり口が竜崎と似ているところだ。言葉で相手を誘導し、根回しして人を動かせ、最悪の場合は手段を選ばない、そっくりだった。
(…竜崎には届かないにしても、彼奴の考えが多少なりとも読める可能性があるからな)
「一つ良いでしょうか?」
「なんだ」
「この試験に法則があるといったらどうしますか?」
「なに…?」
ハッとした俺はひよりの方を見た。この女は驚きで歪んだ俺の顔が面白かったのか少しだけ笑みを深めて言葉を繰り出す。
「私思いついたんです、優待者には法則性があるって」
「……おい、なんで今まで黙ってた」
「好きな小説の発売日が今日だったんです。船じゃなかったらすぐに買いに行きました」
「…相変わらずだな。お前は」
「うぅ…、早く読みたいです」
優待者に法則性、確かに可能性はあった。
試験の仕組み、ルールについて考えた時に違和感はあった。思考力が試されるという割には、試験は人狼ゲームに近かった。人狼ゲームは観察力が求められる。考えても分かるゲームじゃねえ。だから何か裏があるとは睨んでた、それが法則性か。
つまり竜崎は法則性で優待者を割り出し、そして裏切り者という仮想敵を作り上げ、法則に気が付けねえように攪乱した。これなら納得できた。
「…クソ、そう言う事か」
「上手くしてやられたという顔をしていますね」
「あぁ、そうだな」
竜崎の方が俺より上手だった。無人島でも、船上でも俺はアイツに踊らされた道化に過ぎなかった。その事実に俺は苛立ちを隠せず、手を痛いぐらいに強く握りしめた。
「うぜぇ。あのクソ根暗野郎に良いようにされ過ぎてる俺がうぜえ!!」
「龍園君でもそんなにされるんですね」
「ア?馬鹿にしてんのか」
「いいえ、これは認めているからこそです。貴方の考える作戦には納得はしませんが、理解はしているつもりですよ」
「…はぁ、そうかよ」
食えない奴だ。この反対位置に立つこの女が俺の一番の理解者であった。
「…あの、法則に気が付いていた方の名前を教えてくれませんか?」
「なんだ、気でもあるのか?」
「そうですね、そうかもしれません」
「…それは冗談か?」
「はい、冗談です」
初めて会った時から、掴みどころのない女だった。
相変わらずぼーっと遠くを眺めている様子だった。
それに俺は苦い顔をした。この女が今のクラスで一番使える人間であるという事実に、辟易していた。どこまでもマイペースで、そのくせクラス間闘争に興味がない女。
本人はあくまでも自然体で居るだけなのだろうが、コイツの傍は息がしやすかった。
「……竜崎正だ」
「竜崎、さん。少しお話がしたくなりました」
「程ほどにしておけよ。アイツは食えない奴だからな」
「はい、楽しんできますね」
「チッ…、好きにしろ」
忠告してもさらりと流すこの女に、俺は舌打ちをする事しか出来なかった。
そしてちらりと見たひよりの横顔は、日が暮れかけているからか夕日に照らされて赤く見えた。
──
竜崎正の独白。
深い闇に浮かぶ一隻の船。
そんな船の中で、賑わいを見せている場所があった。結果が発表される時間が刻一刻と迫る中でその場所であるカフェには多くに生徒の姿があった。
そんな人混みから避けるように、私は船の甲板に立っている人へ声を掛けた。
「こんばんは、お元気そうですね」
「うん、竜崎くん」
午後11時を超え、生徒たちに一斉に届いたメール。
誰もがその結果を固唾飲んで見る…、訳も無く結果は分かりきった結果だった。
子(鼠)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする
丑(牛)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする
寅(虎)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする
卯(兎)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする
辰(竜)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする
巳(蛇)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする
午(馬)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする
未(羊)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする
申(猿)──裏切り者の正解により結果3とする
酉(鳥)──裏切り者の正解により結果3とする
戌(犬)──試験終了後グループ全員の正解により結果1とする
亥(猪)──裏切り者の正解により結果3とする
Aクラス……マイナス100cp プラス1400万
Bクラス……プラス50cp プラス1450万
Cクラス……変動なし プラス1600万
Dクラス……プラス50cp プラス1550万
「これで一年生は大金持ちになりましたね」
Aクラスだけはマイナス100cp。だが、それ以外のクラスポイントは下がらず大量のポイントを得る結果になった。
そんな大団円の勝利であるのにも関わらず、一之瀬帆波の顔には影が差していた。
「この試験はどうでしたか?」
「え、うんそうだね…。凄いね竜崎くんは」
「そうですか」
あくまでも喋る気はないらしい。
だが私は彼女と同じ兔グループに配属された浜口哲也から報告を受けている。いつもより焦燥感があったと。そして私の真似のような行動をしつつあったと。
きっとそれは、歪んだ理想像の末路だろう。私という人間が身近に居るからこそ罪悪感で精神が安定していない彼女は、支柱を作ろうとしている。
クラスへの貢献、それを成すために間違った道を進もうとしていると解釈をした。
──だからこそ、私は今日彼女を変える決心をした。
「…それにしても一之瀬さん、浮かない顔ですね」
「え、そんなことないよっ!!」
あくまでも元気だという事を主張したいのか、いつものように親指を立て笑顔を見せてきた。そして分かり易く頬が震えていた。夜の暗い海を見て、傷心に浸っていたからだろう。そんな、彼女の本心が滲み出てきていた。
「過去の事でも思いだしましたか」
「え、突然何を言って──」
「図星ですか、もう隠せてないですよ」
私をしっかりと見つめていた筈の目は何処か焦点が合わなかった。
いつもは滅多にしない腕組みをし、左腕をさすり続けている。
「貴女の言葉はいつも重みを持っていました」
確信めいた私の言葉に彼女は隠し切れないことを悟ったのか、一之瀬帆波はぽつりぽつりと過去を語り始めた。
一之瀬帆波は母子家庭で、母親と2つ下の妹との3人暮らしだった。
裕福では無いが不満は抱かない。そして家族を苦労させないために授業料が免除される特待生して私立の高校に入学予定だった。
しかし、中学3年生になった夏に母親は無理が祟って倒れてしまった。
その時はちょうど妹の誕生日も重なり、母親や姉に気を遣ってか今まで欲しいものを口にして来なかった妹がヘアクリップを欲しがったと言う。
姉として何とかして妹の笑顔を取り戻さないといけないと思った一之瀬は、デパートに足を運んだ。
そして罪、つまり初めての万引きを行った。
「悪いことをした娘に、母親が気づかないはずがないよね」
そしてそんな彼女は母親に罪がバレて、自首をした。
言い訳があっても犯罪は肯定されない。それを理解した彼女は、罪の重さに耐えきれず夏休みからただ部屋に引きこもる生活を続けた。
だが、そのままの自分では変われない。そう考えたこの女はもう一度前を向くために、この実績がある高度育成高等学校に進学する事を決意した。
「…これが私の、罪なんだ」
長々と彼女は自らを語っていた。
当然これを聞いた大多数の人間は絶句するだろう。善人と思っていた人間から語られる重い過去、それに声など発せる訳ないからだ。
「えぇ。知っていましたよ」
「…え、なんで?」
「推測しました。貴女は裕福ではないと、そんな人間が起こす罪。万引きがまず思い浮かびました」
だが、私は躊躇する事をしない。煙に巻いても惚けても現状は何も変わらないのだから。
「貴女はこの試験が始まった時も、少し片鱗を出していました」
「……そっか。ごめんね、黙ってて」
「何を謝っているんですか?」
「私は犯罪者だよ、ずっと嘘を付いてたの」
私は今日彼女を理解出来た。今までは生まれながらの善人だと思っていた、確かにこれは間違いでは無かった。
「いえ、謝る必要は在りません。そのお蔭で貴女の事を今日初めて理解しました」
「…それはどういうことかな」
「貴女はとても幼い考えを持っているんですね」
彼女の過去、そして語るときの表情。その全てが材料だった。
私は深く息を吐いた後、自分の考察を語り始める。
「貴女が言う、クラスの仲間を失いたくないこれは本心でしょう。しかし、それは善意ではない」
誰かに必要とされている時だけ、呼吸ができる。
これは彼女の家族関係が影響しているのだろう。父親が居ない機能不全な母子家庭。母親と妹を愛する気持ちは本物だろうが、彼女は自らの役割を感情の調整役と定めた。
少しでも関係が険悪になると宥め、『いつも通りの平和』を維持しようとする。
ペアレンティファイド・チャイルド(親化された子供)
子どもと親の方向性が逆転し、子どもが親の感情を満たす立場となってしまう現象。
「人の役に立つ事」が生存戦略と化した子どもはそれ以外の生き方を知らないまま育つ。
「貴女の優しさは生きる為だったんですね」
彼女はその精神のままで学生となり、対象をクラスメイトに変えていった。
悩んでいる人間には話を聞く、孤立して居れば仲間に引き入れる。相手の問題を親身に引き受け、解決し、お礼を言われる。
これによりまた一歩、底なし沼に囚われる。救う関係が更新される度に存在価値が満たされる。
「貴女は愛が欲しい、違いますか?」
愛されたいから、役に立とうとする。必要とされたいから、相手の問題を引き受ける。
感謝される瞬間にだけ、自分がこの世にいる理由が出来る。
この人間性は問題がある者を好む。この人を助けたいという救済心とこの人が好きという恋愛心が複雑に絡み合う。相手を救う事で自らの価値を証明しようとする。
「よくその状態で耐えていました。いつ壊れても可笑しくは無かったでしょう」
このような人間は心配される価値が自分には無いと感じる傾向がある。
その情を無意識に選び続けている救済者の問題だ。
だが、彼女は優れている。本物の共感性と繊細な感受性が。それを今までは自己犠牲という形でしか発揮してこなかった。その構造は歪だった。
「貴女は人を救っている自分に価値を感じている」
彼女は壊れるまで、救済者としての座に居座り続ける。それはそれが自分の使命と信じているからだ。もっともその裏にあるのは役に立たなければ愛される資格が無いという恐怖だろう。だからこそ彼女は私の真似をし始めたのだ。それは身近にいる最も貢献している人間が私だったからに過ぎない。
「そんな貴女の構造を私は肯定も否定もする気がありません」
彼女は私の言葉に暗い顔をした。その言葉は許容だった、毒にも薬にもならない言葉だった。
自らの本質に苦しめられる彼女からすれば、物足りないのだろう。
「ただ、リーダーに相応しいという発言は撤回させてください。貴女はリーダーとしては三流以下です」
「ま、待って!!私はまだ──」
彼女は絶望した顔を見せた。必要とされない、その恐怖が彼女の心を襲ったのだろう。私へ駆け寄りしがみ付こうとする。私はそんな彼女を話は終わっていないと静止させた。
「その代わりに役割を与えます、クラスの仲間を救い続けてください。クラスを指揮するのは私がやります。貴女にも簡単な指示は出しますが意味は自分で考えてください」
彼女は存在証明が欲しいのだろう。自らの生きる意義が欲しいのだろう。
だから私は彼女に適した役割を与える事を決めた。落胆した、失望した。私の勝手な理想から転がり落ちる彼女の本質はそう思わせた。
ただ、私に似ていた。私が『L』という役割を誇りに思うように、彼女は『救済者』としての役割を大切に想っている。
……それに少し興味を覚えた。
「それがこれまでクラスを牽引してくれた貴女へのお礼です」
「そっか。あはは、なんだか竜崎くんらしいね」
彼女は瞳から溢れる水滴を手で拭い、納得したように頷いた。彼女は緊張していただろう身体を少し伸ばして私に背を向けた。
「あのね、竜崎くん」
「なんですか」
「キミがどんな気持ちで、私の過去を暴いたかは知らない。きっと利己的な考えだったと思うけどね」
「いえ、私は──」
「それ以上は言わなくていいよ。キミの言葉はいつも一方的だからね」
「……成程」
「だからそんな失礼なキミに
掛けられた言葉は感謝だった。
予想外の返答に私は少し驚いた。確かに私は彼女を見捨てる気はない。そして過去を暴いてしまった責任として卒業までは精神保つ策を考えていた。それを彼女は理解したうえで、感謝を告げたのだ。理解不能だった、私が責められる立場である事は明白だった筈だった。
「…私は愚かだったと思う。自分の生きる意味を他人に委ねてる、弱い人間なんだと思う」
「それは懺悔ですか?」
「ううん、そうとも言えるけど違う」
自分への否定、今までも同じだったそれは。今はもう負の感情は乗せられていなかった。
彼女はこちらへと振り向き、一歩こちらに近づいた。
「あのね、私決めたよ。竜崎くんキミにこれから従う」
「…それは、何故ですか?」
「私はキミを利用する、私が変わるまでの踏み台にする。キミの言葉で目が覚めたんだ」
「貴女は随分と変わりました」
「うん。私が私の本心を分かってなかった、それに気が付いただけだよ」
成程。それが彼女の人間らしさか。なんとも、歪な生き方だ。
私たちは欠陥を持っている。だから彼女のそれを私は笑いません。同情をしたことを謝罪しよう。
彼女は自分なりに前を向いている、それが彼女の選択なのだから。
「そうですか、なら自由にしてください。私にそれを止める権利は在りません」
1人で泣きたかったのだろう、彼女の顔は暗にそう言っていた。
それを察した私は彼女に背を向け、歩き出した。
「そっか、ありがとうね竜崎くん。これからは私もっと頑張るからっ!!」
途中で掛けられた言葉に私は手を振る事で返事をした。
──
夜に照らされた廊下を歩きながら、私はこの試験を振り返った。
まずこの試験の法則を閃いた際に、私はBクラスの優待者を確認する事から始めた。
仮に違うのならば、別の策を考える必要があったからだ。
そしてそれは無駄な時間だった、当初考えていた五十音順を使用するだけだった。
優待者の法則は十二支の順番=五十音の順番
辰グループなら辰は5番目、50音順で5番目の櫛田桔梗が優待者
(安藤→小田→葛城→神崎→櫛田)
…という事だ。
そのお蔭で私はこの学年において、いち早くこの試験の命運を握れる事となった。
私が次に考えたのは、この情報を独占した状態をどうやったら維持できるかだ。
そして思いついた方法、それは存在しない『裏切り者』を作り出す事だ。
現状、各クラスには裏切るだけの動機を持った不穏分子が居る。Aクラスは他派閥を陥れる、Cクラスは支配への反抗心、Dクラスは自己中心的な独行。
これに加えて無人島試験の結果だ。
私のクラスが独り勝ちした理由、これを裏切り者にリーダーを教えられたからと擦り付けた。
そしてそれに加えて、偽のゴールを作る事にした。
優待者を知っている人物、つまりクラスの主要人物が裏切り者だという事にした。
主要な人間全てが無罪だとなった場合、私の優待者をバラした裏切り者が居るという言葉は嘘と彼らは判断し、私の撹乱作戦だろうと結論付けるだろう。
この偽のゴールへ到達したという達成感によって、もう裏切り者は居ないというバイアスに囚われるわけだ。
彼らはもう裏切り者は居ないという心理状態に陥る。
その為、裏切り者探しの裏で新たに裏切り者を作るという枠外の戦法が通りやすくなる。
人間は単純で、都合のいい方向に物事を考えたがる。
彼らは裏切り者がいるのか、居ないのか。その二つしか考え付かない。裏切り者を捜索している裏で裏切り者を作っている人間が居る事に気づけない。
私は自然な形で裏切り者候補を探すことが出来た。
その第一歩として辰グループでの議論でした質問、この学校に何故来たのか?を聞いて回った。
多くの人間にとって勝利とは、Aクラスでの卒業だ。
その為に自クラスを裏切る事も厭わない人間は居るだろう。確かにクラスメイトへの情が湧く可能性はあった。だが、今は一年生が始まったばかりだ、情と言っても薄い。裏切りにある程度の躊躇いが無い時期であることも功を奏した。
それに加えて、クラス移動が出来ると信頼させるために結果1を取らせるように要求した。
これにより各クラスが1500万ppを入手し、一年生時点でもクラス移動が現実的になった。
裏切り者候補には、この船上試験が終わった後に話を持ち掛けるとしよう。
「しかし、一之瀬帆波に関しては予想外だった」
彼女の本心を見た私は、自らの観察眼が成長の余地があると理解した。
確かに罪悪感や善性という面で間違っては無かったのだろう。
しかし、私は人間性を考慮していなかった。目に見える情報で彼女の内心を勝手に理解できる範囲に当て嵌めていた。
「人間らしさ、これには私の欲しい未知がある」
複雑な条件が重なり人は姿を作る。
それの片鱗を垣間見えた。やはり、一之瀬帆波に惹かれた私の直感は間違っていなかった。
「期待している。一之瀬帆波、貴女の成長を」
ゆっくりと廊下を歩き、自室へと戻る。いつもは何とも思えない夜の暗さが今日は心地よかった。
そんな私の頭は『面白い』という感情が支配していた。
何故原作で、一之瀬帆波が綾小路と関係を結んだのか。
それをずっと考えて、自分なりに腑に落ちた解釈でこの話を書きました。
彼女の優しさは環境によるものだ、優しさには理由があると竜崎は考える。
そして彼女の本心を聞いていくうちに、欠陥のある人間らしさに興味が湧いて行く筈です。完璧じゃないという、未知を孕んでいるから。
※一之瀬帆波がなぜこうなったかは次回の話で話します。
少し、急ぎ足過ぎました。