ようこそ未知を探求する教室へ 作:フワンテ
堀北学の独白
この学校は特殊だ。実力至上主義、冷徹なその考えを貫く学校。
しかし未来を支える人材を育成する、その目的に沿うような結果は出しているだろう。俺の前の代も今は日本に貢献する存在へとなっていると思う。そしてその実績に釣られて多くの生徒がこの学校へと今年も入学した。
だからだろう、そんな学校には時折異質な存在が紛れ込む。
竜崎正。
入試の結果、国語、数学、英語、社会、理科、全ての教科で満点。
機転思考力も高く、面接の際はその能力を存分に発揮したと聞いた。
運動能力も部活には所属していなかったが存外に高いと記載されていた。
小、中学校では人とあまり関わらず社会貢献性は低い。
総評すれば優秀ではあるがAクラスには足りない、よってBクラスに配属する。
典型的な頭脳では優れ、社交性の低い天才型。それが彼への書類の情報で推測した認識だ。
事実、彼を実際に入学式の際に確認したがこの印象は変わらなかった。人に興味なさげに椅子に座っていただけだった。
…いや、座り方には癖があったな椅子の上で膝を胸に抱え込むような姿勢で居るのはとても目立っていた。現に周囲の生徒は彼の事を異質な者を見る眼で見ていた。
「お前は…」
だが、その評価は改めるべきだと思い直した。
彼は入学式の日に既に他学年の階に来ていた。今日は入学式後のHRを含め正午近くに終わる、だからこそ自由に散策するには丁度いいのは分かる。しかしだ去年も同じような行動をした生徒が居た。今は生徒会の副会長に座しているあの男も同様に入学して早々に他学年を散策していた。
だからこそ私は、目の前にいる彼の姿に期待する気持ちが出かけてしまった。
「お前は一年生だろう。入学して早々上級生がいる階に来る意味はなんだ」
そう話し掛け、彼がどこまで気が付いているかを探ってみれば、俺が期待していた以上の情報を得ているようだった。
この時期には生徒たちに実力を量る為に規制されている幾つかの情報がある。
・ポイントは何かしらの要因で毎月支給額が変動する。
・クラス分けには学校側の意図が介在している。
・試練が定期的に起こり、実力が足りないと判断されれば退学となる。
これらにもう彼は気が付いているようだった。
これだけでも相当な推察力だと思うが、彼はこの疑問だけでなく核心にも迫っていそうだった。
俺への質問は曖昧だったが、俺の能力と情報規制範囲の確認だろう。ポイント関係について4月時点では答える事が出来ない為、言葉を濁せば肯定と同義になる。そして俺がその事を理解しておらず、誘導尋問の様にボロを出せば能力不足と判断して用済みとし興味を無くしていた事だろう。
だからだろう、俺は高校三年生になり社会に最も近い学年で落ち着きを持ち冷静な判断を下せる人物となれるように感情を意図的に抑制していた。そんな凪いでいた感情が、今までは崩れていなかったにも関わらず、幼き子供の様に感情が興奮に塗り替えられていた。
俺自身、今の実力を得れたのはたゆまぬ努力の賜物だ。決して生まれた時より、持っているものではない。だがらこそ、知力や武術、そして人の本質を見極める能力を磨き、歴代の生徒会長の中でも最高と評されるほどの結果を残せるほどの研鑽を積み重ねてきた。
しかし目の前の彼は、竜崎正は違うのだろう。この努力を積み重ねてきた俺を、彼は軽く越していくのだろう。書類上の情報だけで彼を判断し、取るに足らないと見る事を辞めてしまった過去の自分を恥じた。そして彼を一目見ても本質を見抜けない程度に曇りきっている眼もだ。
この学校に入ったばかりの俺ならば当然のように出来たことが出来なくなるなど平和ボケをしていたようだ。三年の四月までAクラスとしてトップを走り続けている事に慢心が生じていた。
だからこそ知りたい。彼が俺の立場ならどうするのかを。
竜崎は何でもする男だと理解している、そう思わせる凄みがある。
勝つために手段を選ばないことを否定はしない。
だがそれでは竜崎という男が、煙のように捉えどころがなくなってしまう
俺は竜崎と同じ土俵で戦ってもらいたい。その上で、竜崎という男が俺よりも上に立つのかを見定めたい。
その時、初めて竜崎という男が、生まれながらの天才というものが分かる筈だからだ。
俺は自分を顧みる機会をくれた彼に年甲斐も無く勝ちたいと思った。そして学年の差からもう彼の活躍を見る時間は少ししか残されていないと落胆してしまっていた。
「こんにちは、堀北学さん」
「あぁ…、良く来たな」
この学校は俺が卒業後、大きく変わるだろう。後輩である南雲雅、俺とは対立的な思想を持ち才覚は凄まじい。
だが、彼ならば、その風を塗り替える事も可能かもしれんな。
静かな場所。
私は退屈でありながらも雑多ではない空間を悪くないと思っている。
人類の娯楽の一つである読書の都である図書室に私は居た。そんな本来は本を貸し借りし、読書の場として使用される空間には異なる光景が見られた。
テスト期間。学生にとって必ず訪れるイベントであり、この学校では一つの赤点で退学が決まってしまう特に重要な最初の関門。その為、いつも利用する際とは違った顔ぶれが居た。少し前に勉強の面倒を見る約束を一之瀬帆波としたので、私もBクラス面々に混ざり勉強会に参加していた。
あぁ、そう言えばあの日に堀北学と話したが収穫は少なかった。生徒会に誘われた事、退学の際のペナルティだ。前者は興味が湧かない為断り、後者ついては少し面白い事を聞けた。
退学理由にもよるが、基本的にクラスポイントが減少する(100~300cp)
その際に退学理由という言葉に含みを感じたので、鎌を掛けたが彼は「そのうち分かる」と言葉を濁した。
その意味を暫くの間考えていたが、先週の水泳の授業に真相に迫る情報が出た。体育教師が泳げるようになれば必ず役に立つと言っていたのだ。この学校において必要となる技能はポイントに関するイベントで求められるものだろう。
運動能力に関するイベントがあると仮定し、試験場所としては海若しくはプールが考えられる。可能性としては20%程度だが留意すべきだろう。
しかしそれよりも退学すればペナルティという規則、これは使える。仮に他クラスの生徒が退学すれば私のクラスは相対して卒業時にAクラスであるという条件を満たしやすくなる。その方法についてはまだ仮説の段階だが、丁度良く答えが出そうな行動をしている生徒たちが居るのだ。それの結果を見てからでも遅くは無いだろう。
「竜崎君、何か考え事?」
「いえ、少し呆けていただけです」
「えー、嘘だよね?」
「…何故ですか」
「だって竜崎君が椅子の上で体育座りをしてる時って何かを考えてる時だよね?」
「まぁそうですね」
相も変わらず人の癖を良く見ている。しかし指摘しないだけマシだ。担任の教師は私のこの座り方を注意し、行儀が悪いと講釈垂れていた。この座り方でないと推理力が40%落ちると理由を話したのだが、あの教師は聞く耳を持たなかった。あの教師はやはり駄目だ、必要以上に関わるのはやめようと苛立ちつつも心に誓い、周囲の様子を見てみる。
「もー、なんでテストの範囲が変わるのよ!」
「それな。実力主義だからって横暴だ」
「皆、文句言わずに手を動かして?折角勉強会開いてるのに退学になっちゃったら笑い事じゃないよ」
先日の放課後、中間試験のテスト範囲変更が発表された。テストの数週間前とはいえ突然の変更。理不尽だが、この学校はその理不尽に対する対応力を求めているのだろう。ならば合理的でもある。
…いや待て、この段階で退学者を生み出すのは果たして合理的か?まだ学校が始まって約一か月しか経っていない。四月と五月を合わせ少なくない額を生徒に払っている。それをこんなすぐに切り離すのか?確かに損は早く切れば切る程、益がある。
しかしこの学校ならばこう考えるのではないか、機転を利かせれば回避出来ると。体力自慢の人減が学力は無かろうとテストを回避するならば発想で解決するしかないのだ。その手段があるのならばもっと面白い。
「おい!!」
そう考えていると人の話し声は聞こえつつも、不愉快では無かった図書室に怒号が響き渡る。声の方へと視線を向けると、不良のような風貌の体格の優れた赤髪の男子生徒が他生徒の胸倉をつかんでいた。周囲には複数の生徒が居り、私の記憶と比較すれば多くの生徒がDクラスの所属、そして被害者はCクラス。
最近、CクラスはDクラスに攻撃を仕掛け続けている。私のクラスも少しばかり被害を受けているが、Dクラスと比較すれば様子見レベル。恐らくこの攻撃の首謀者はBよりもDの方が狙い易いと考えている。
目的を予想するに、どこまですれば罰則があるのかの実験だろう。
Cが仮に始めた喧嘩だとしても、証拠が残らなければどう学校側が対処するのか。
0cpのDクラスから仮に退学者が出た場合cpは0のまま、若しくは借金のようにマイナスまで落ちるのか。
私自身も捨て石が居るのならば行っていた策だ。
ただ、実行している生徒の質は問題だろう。仮に先に手を出した側を周囲の人間が証言すれば少なくない被害をCクラスも受けるだろう。その程度の思考ならばこの抗争の結果は見るまでも無いだろう。
「一之瀬さん」
「…うん、分かってる。仲裁してくるよ」
「ならいいです」
彼女に任せるべきだろう。彼女の性格としてはこれが最善策だ。私が下手に出ても話がこじれるだけだしつまらない。
私が名前を呼べば一之瀬帆波は席を立ち、間に入るように騒動の原因へと向かって行った。
仮に無理に仲裁しようとして赤髪の生徒が彼女に危害を加えれば、Bクラスを交えた抗争となる。そうすれば退学者を出しやすく、退学方法の足掛かりになるのだが、思った以上に冷静だったらしい。赤髪の生徒は一之瀬帆波の姿を見ると興が削がれたのか赤髪の男子生徒は拳を下げ、胸倉を掴んでいた手を離した。
「ねぇ君たち、何があったのかな?」
「お前は…、Bクラスか」
「うん、Bクラスの一之瀬帆波。宜しくね?それで何があったのか私にも教えてほしいなぁ」
旗色が悪いと理解したのかCクラスの生徒は焦ったように言い訳を言い始めた。若しくは一之瀬帆波の人の毒気を抜く笑顔にやられたか。どちらでもいい、問題は解決しそうだった。
「悪ノリが過ぎただけだ、なぁお前ら?」
「あぁ!そうだ、少し苛ついちまったんだ。テストが近いのに声がうるせぇDクラスによ」
確かにDクラスの話し声は、声量を注意するべき図書室にしては悪目立ちしていた。
その言い訳は仕掛けるにあたり都合の良いきっかけだったのだろう。だから文句は言えない、Cクラス以外にも同様に不快感を示していた生徒は居たのだから。
「そうなんだぁ、分かった。でも気を付けてね?もし問題が起きちゃったら大変だよ」
「…すまん」
「んー、謝罪はそこの彼にするべきじゃないかな?」
「いくぞお前ら」
この言葉を最後にCクラス達は立ち上がり気持ちの篭っていない謝罪をして、勉強道具を持って図書室の出口へと向かっていった。
「君もCクラスの挑発に乗っちゃダメ!相手の思うつぼだよ」
「…あぁ、気を付ける」
赤髪の生徒は一之瀬帆波の諭すような言葉に、気まずそうにしつつも素直に受け入れた。
そんな彼女に1人の生徒が話し掛けた。
「ありがとうね、一之瀬ちゃん!」
「いいんだよ櫛田ちゃん、この前お世話になったからね~」
「それでも助かったよ」
「そっか!あ、じゃあ丁度いい機会だし竜崎くんを紹介するよ?」
「本当?ありがとう」
櫛田桔梗。
男女両方からの絶大な人気を誇り、学校の全ての人間と友人になる事を目標としているらしい人物。Dクラスに限らず他クラス、他学年にも広く交流を行うアイドル的な存在。
一之瀬帆波はそんな彼女をこちらに連れてきた。
「私は櫛田桔梗、噂はかねがね聞いてるよ!」
「あぁどうも、よろしくお願いしますね」
「あのね、私は学校中の皆とお友達になる事を目標にしてるの!だからまず連絡先の交換して欲しいなっ」
「そうですか、それは了承します。しかし凄いですね、嘘がとてもお上手だ」
「え、何のことかな?」
「誤魔化すのであれば私はそれでも構いませんよ。ただ正直バカっぽい演技だったので演じるにしてもどうかと思います」
「…あはは、竜崎君も冗談を言うんだねっ!」
「いえ冗談では無く本心ですよ」
彼女に助言として演技を辞めるように言ったのだが、口の端を微かに痙攣させるだけでそれ以上の追及をしなかった。
…何が何だか分からない。演じる事で自らが楽しい等のポジティブな感情を得れるのであれば理解できる。しかし彼女は嫌悪を前面に浮かべていた。表情こそ完璧だが、内心が荒れ過ぎだ。
「あ!そういえば櫛田ちゃん、なんで須藤くんがあんなに怒っていたのか聞きたいかな!」
少し空気の悪くなった私と彼女の様子を見兼ねたのだろう、一之瀬帆波が大きな声で話題を切り替えた。
「え!?それはね。私たちがやっていたテスト勉強の範囲が違うって言われて…」
「そうなの?ちょっと確認しても良いかな」
「うん、お願いするね」
そう言い、一之瀬帆波がテスト範囲をメモした手帳と比較を行っていく。すると彼女の表情は徐々に驚きにより崩れていった。
「え!ホントに違うよ。先週テスト範囲の変更があったんだけど櫛田ちゃん聞いてないの?」
「え、そんなの聞いてな──」
「その話本当かしら?」
話に割り込む形で、一人の女子生徒がやって来た。
今日は何かと話に割り込まれるな、そう状況を客観視しつつも目の前の人物を観察する。
長い黒髪と見た目だけならば美しいと称される容姿。しかしそれも無愛想な言動と表情で台無しになっていた。
彼女が堀北学の妹ですか。まるで彼の猿真似ですね、劣化でしかない。期待して損をしました。
それよりも気になる人が居ますね。
黒髪の少女の後ろに立っている、特徴がなく地味な雰囲気でこちらを興味深そうに見ている彼。彼の瞳は少しの警戒と多くの期待が入り混じった色をしていた。
この学校で初めて見るタイプの人間。
彼は私に匹敵し得ると直感で判断するが、しかし直感での推測にすぎない。
ほぼ確信に近いとはいえ、実力を隠す今の彼は敵ではないと判断した。
「堀北鈴音さんだよね?よろしくね、それで試験の範囲だよね?少し前に、変更があったよ。突然の話でその時はびっくりしたなぁ~」
「それはいつ頃の話かしら」
「えーっと、大体一週間前ぐらいかな?」
「はい合っていますよ」
その言葉に黒髪の女子生徒は難しそうな顔をしていた。現在大幅にAクラスへの勝負に出 遅れているDクラスに訪れた試練。生徒が粒ぞろいだとは言え、この程度では遊び相手にすらなれない。だがこの状況を打破できるのならば、評価を上げてみるのも一考の余地がある。
「あれ、Dクラスには伝わってなかったの?それって結構不味くない?…もしかしてクラス毎にテスト範囲が違うとかあるのかな」
「いえ、同じ範囲だと思いますよ。クラス毎にテストを変える事は手間が増えるだけです」
伝達ミスというのは考えづらい。単純に実力を測るならばこのようなミスは起こらないように徹底すべきだからだ。
テスト範囲を変える理由を無理やり考えるならば、クラス間での協力を回避、テスト範囲の変更により過去問の存在意義を無くす等か。だが、赤点を回避する手段があると確信に近い推測をしているため薄い線だろう。
例えばDクラスのcpが0である為に生じたペナルティといった線はどうだろうか?これならばあり得る。歴代最低の結果という事なので学校側が焦らせるために試験的に情報を絞っている。筋書きとしては在り得そうだ。
「じゃあ多分一緒のテストを受けるんだ。だったらDクラスはなんで範囲変更を言われてないんだろう?」
「確かめた方が良いですよ」
「えぇ。そうさせて貰うわ」
Dクラスの担任に何の意図があるのか、私には分からない。それを確かめる事も今後の予定に加えておこう。
「ありがとう一之瀬さん、竜崎くん。私達は用があるので失礼させてもらうわ」
「あ、昼休みはもう10分ぐらいしかないから急いだ方が良いよ!」
「じゃあ私も片づけをして教室に戻るね!ばいばい一之瀬ちゃん」
「うん、またね櫛田ちゃん!」
その言葉に頷き彼女らは机に広げられた物を素早く片付けた後、早歩きで図書室を出て行った。
「それにしてもお手柄でしたね、一之瀬さん。私が行っても余計に火が広がるだけでした」
「にゃはは、私は何もしてないよ。須藤くんが冷静だっただけだし」
「いえ、本当に頼りになりますね貴女」
取り合えず、褒めて置き彼女の在り方を肯定する。
肯定する事により、その性質は間違っていないのだと考えの道筋を矯正する。何かあれば人の為を思い、すぐに行動に移す彼女の人柄は私の所属するBクラスにおいて心臓と評すべき重要なものだった。
だからこそ、変えなければならない。その想いを何処に向けるべきなのかを考えさせるべきだ。
「あぁ一つ訊きたい事があります」
「んー?何かな」
「貴女は他クラスで退学者が出た場合でも救おうとしますか」
「え」
その問題とは、優しさの方向性だ。現段階の彼女は全てのクラスの庇護者になろうとしている。一般的な高校ならばそれも個性の一つとなるだろう。だがこの高校においてはクラスの明確な弱点だ。
「私は疑っているんです。これから多くの試験があり、その度に退学する危機が訪れるでしょう。その際に貴女がクラスを危険にさらす恐れがある」
「それは…」
「ただ、疑っていると言っても5%ぐらいです」
「あはは…、結構疑っているんだね」
「はい、今の貴女ならそうするでしょう。自身も理解していると思いますがその優しさは人を選別していないでしょう?」
「そうだね。確かに私は自分のクラスが危険でもしないって断言は出来ないよ」
彼女は優しさで身を滅ぼすタイプの典型だ。自分の益よりも他人の事ばかり考えている。
それが原因で身内に被害が出ようとも彼女は罪悪感を背負いながらまた繰り返すだろう。
「その理由をお聞きしても?」
「……私は皆が平和に過ごせた良いなって思ってる、でもこの学校はそれを認めない」
「はい、他クラスとはこれからはより激しい争いが起きる。その優しさは回りまわってあなたを苦しめる事になりますよ」
「でも私はこの生き方を辞めれないと思う。これが私の全てだから」
「そうですか。でも私は一之瀬さんみたいな人好きですよ」
「え!?」
誰にでも優しさを見せる事を悪だとは思わない。そしてその優しさが打算的なものであったとしてもだ。彼女は何かしらの理由で過剰なまでに他人を慮る善人のような行動をとり続けている。確かに生来の気質も善には寄っているのだろうが、それを加速させる要因はあった筈だ。
しかし、今の彼女は邪魔だ。このクラスでAを目指すのに必要のない癌だ。
私はこのゲームをクリアするためなら手段を選ぶつもりは無い。
──だから、彼女の護ろうとする範囲を自クラスのみにする事から始めるとしよう。
そう誓いつつも、目の前で私に怒る一之瀬帆波を宥める事にした。