ようこそ世界一の探偵がいる教室へ   作:叙述トリッピー

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page.6 勝利

 

竜崎正の独白。

 

 

独断専行、独りで物事を推し進める行為は愚かだ。

感情的、衝動的、どのような理由があろうともそれは断罪される。

人間の社会では協調性を求められ、反する者は排除されるのが摂理だ。

だから今の現状は容易に想定される事だった。

 

「おい、竜崎どういうつもりだ!?」

 

「なんでしょうか?早く拠点となるべき場所を探すべきだと思うのですが」

 

「何故証明をすると約束した?意図はなんだ」

 

私は今、Bクラスの生徒たちに質問攻めになっていた。

納得のいかない彼らは私に『何故』と問う。苛立ちからか砂浜には多くの擦れる音がした。

きっと感情の吐く場所を地面に向けているに違いなかった。それぐらいクラスの雰囲気は最悪だった。

だから私は少し面倒だと思いつつも、今後の為に弁護を行う事にした。

 

「神崎くんは相変わらず固いですね…それにこれは試験に勝つために必要なんですよ?」

 

「勝つ…?この試験はただのポイントを貯蓄する試験なんじゃ?」

 

浅い考えだ。

この学校が競争を強要するものでなければそんな未来はあったのかもしれない。

 

この試験の根幹を理解していない生徒が居る事に少し呆れつつも、説明しなければならない為、隣に立つ神崎隆二に視線を向けた。

その視線の意図に気が付いたのか、溜息を付きつつも彼は説明を始める。

 

「…それは違うな。今回は情報戦だ、お前たちも聞いていたとは思うがリーダーを当て合う事がメインだ、なにせ当てれば50ポイントも入る」

 

「じゃあ猶更おかしいじゃん!!リーダーを言ったら駄目なんでしょ」

 

「確かにそれは間違いない。だがリーダーを言う事に意味はあるぞ。分かっているんだろう一之瀬」

 

一之瀬帆波、彼女はBクラスが集まった時から一言も喋っていなかった。だが私のリーダーを宣言した際に動揺は見えなかった為、ある程度は見えているようだった。

 

「うん。リーダーを言ったら次は心理戦が始まる、それが本当なのかの探り合いだね」

 

「そうだ。だが竜崎、お前はその人狼ゲームすらも破壊した」

 

「…リーダーを証明する事を約束したから?」

 

「にゃはは、そのせいで疑い合いすら起こらないね…」

 

情報の整理が終了した時を見計らい、私は立ち上がり伸びをした。

まだ拠点すら探しに行けてない。

どの物資を購入するかを決めてもいない。出遅れているのだから早々に生産性の無い議論は終わらせるべきだった。

 

「それで状況の整理は終わりましたか?他クラスの生徒も待っているようなので急いでほしいのですが」

 

その言葉に堪忍袋の緒が切れたのか一人の女子生徒、白波千尋が怒声を上げた。

 

「あのね。ふざけた事言わないで!私は納得していない、結局どうやって勝つのか分からないし、説明もしない人にリーダーは任せられない!!」

 

「必死になって反論しても、時間が無駄になるだけですよ」

 

「ち、千尋ちゃん落ち着いて!?それに竜崎くんも煽らない!!」

 

一之瀬帆波が私を注意しつつも怒り狂う彼女を宥めようとするが、治まらないようだ。

その言葉にクラスの総意が詰まっているような気がした。

だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)白(・)波(・)千(・)尋(・)を(・)説(・)き(・)伏(・)せ(・)る(・)だ(・)け(・)で(・)済(・)む(・)。(・)

 

「あぁ、一つ聞きたいことががありました。」

 

「何を…?」

 

「貴方たちはこの試験でどうやって勝つ気なんですか?私が思いつかないような凄い作戦があるかもしれません…なので教えてください?」

 

──静寂。

クラスはその言葉に言葉を詰まらせた。

勝つという言葉の意味を理解していないとともに、クラス間の闘争すらもお気楽で平和ボケしているのだ。考えているわけも無かった。

 

「あ、もしかして勝ちたくないんですか?なら、この話もそれまでですが…」

 

そして完全に場の形勢は私に傾いた。

私の言葉を受け入れている大半は只の演技だ。

この茶番劇を造り上げる為の演者に過ぎない。だからこそ私の都合のいいように事を運べるように各々が考えて行動をしている。

 

「なら、私から一ついい?」

 

「お、姫野さん。どうぞ?」

 

「…リーダーを複数人の生徒で囲んで、スポットを確保する。それでポイントを稼ぎつつリーダーを隠し通して七日目を迎えるって作戦は?」

 

言葉を発した姫野ユキも既に神崎隆二から言葉を伝えられている。

その為、ルール説明を聞きつつも自分なりの作戦を考えていたのだろう。優等生のような模範解答を答えた。

 

「そうですか。ですがそれは堅実で負ける事が確定している作戦ですよね」

 

「あんたさ、わざわざ言わせといて否定しないで欲しいんだけど…」

 

姫野は不満げに私を睨みつけるが、私はそれを無視した。

 

「それにその場合、Cクラスからスパイが来ます。とにかく、攻めないで様子見するのはリーダーを指摘されて負ける危険性が上がりますよ」

 

私はそう言い、現段階のクラスのリーダーである一之瀬帆波に視線を向けた。

彼女がどこまで現状を理解しているのかの確認の為だ。

 

「じゃあ、一之瀬さん。貴女はCクラスがこの試験のルールを聞いて、どう行動すると思いますか?」

 

「…えっと、龍園くんは他クラスのリーダーを当てようとすると思う」

 

「では、その方法は?」

 

「わ、分からないかな…」

 

Cクラスの指揮者が龍園翔という事の理解、そして彼が攻撃的な作戦を取る事の予想。

そこまでは考えられる事を確かめられたため、私はこの話を切り上げるべく言葉を変えた。

 

「では、聞き方を変えましょう。龍園くんから暴行され、追い出されたとこのクラスを頼ってきたら……一之瀬さんはどうしますか?」

 

「…助けると思う」

 

「そうですね、貴女ならそうする。そして龍園くんはそれを読んでいる可能性が高いんです。

なら、聞きましょうか…Cクラスがその作戦を取らないと断言できる人は前に出てきてください?」

 

再び、誰も言葉を発せなかった。

納得できる話だった、だから返答は沈黙しか出なかった。

腐ってもBクラスに配属された生徒たちなのだ、愚かでないのは当然だった。

そして沈黙を肯定と受け取った私は、神崎隆二に話を纏めさせることを求める為、視線を向けた。

 

「…お前の作戦は分からん、だが俺はお前に賛成しよう」

 

「おや、良いんですか。では私がリーダーという事で問題ないですね?」

 

「不満があるにはあるが、お前がクラスに貢献しているのは事実だ」

 

「それが普通ですよ、神崎くん」

 

この後に邪魔な行動をされても困る為、保険として一之瀬帆波に契約を持ちかける。

 

「あぁ、なら譲歩しますよ?もし私がリーダーで負けたならばこれから先の試験は一之瀬さん貴女の指示に従います」

 

「…それはどんな内容でもってことかな?」

 

「それで問題ありません…私の実力は皆さんご存じですよね?そんな人間を好きに使える、これが私の提示するメリットです」

 

私の行動は神崎隆二が説明している。

だからこそこのBクラスの面々は私の言葉を跳ね除けられない。それほどまでに都合のいい条件だった。

今はまだ一年の一学期、仮に失敗してもメリットの方が大きい。

 

そして私が失敗する可能性は低い。

この自信には理由がある。現段階でその方法を取った生徒を私は確認していないからだ。

初見殺し、それこそ一年生の最初の特別試験では刺さるのだから。

私は自分が浮べられる最大限の笑顔を浮かべ、納得の是非を確かめた。

 

「納得しましたか?」

 

「う、うん。それなら問題ないんじゃない?」

 

「そ、そうだな」

 

「竜崎君の実力は疑いようがないし…」

 

クラスの総意が完全にこちら側へ寄った。

元から争いを毛嫌いする生徒たちの集まりだ、穏便に事を納められるのならば早々に話を切り上げたかったのだろう。

話が纏まったようなので一之瀬帆波へ断る事の出来ない質問を投げかけた。

 

「…それでいいですよね?一之瀬さん」

 

「うん、分かった。今回の試験はキミに任せるよ」

 

抗えるわけがない状況に一之瀬帆波は力なく俯く事しか出来なかった。

 

「そうですか…、では私はこれからスポットを確保してきます。その間に拠点になりそうな場所を探しておいてください」

 

 

***

 

 

「じゃあ、ここを占有しますね」

 

ピッ、という機械音が流れ、スポット占有用の端末装置に付いているモニターにBクラスが占有中、7時間59分を切ったカウントダウンが表示された。

それをAクラスから葛城という現状のリーダー、Cクラスからは龍園翔、そしてDクラスからは堀北学の妹と高円寺六助が確認した。

 

「はい。これで私がリーダーである事は証明されましたね?」

 

「…そうだな」

 

「では、次からは態々全員を集める事はしないので。確認したければ私を見張っておいてください」

 

「ククッ、それは堂々とスポットを確保するからか?」

 

「えぇ…、私はそのつもりですよ」

 

今日以降は堂々とスポットを確保する予定だ。

今日から一日3回確保しようとすればスポット毎に3ポイント、後6日と半日残されているため19×スポット分のポイントが確保できるだろう。リーダーの肉体疲労等を考慮していない為、机上の空論に過ぎないが。

 

「はぁ、馬鹿らしい…貴方この試験に勝つ気が無いのかしら?」

 

「それで構いませんよ」

 

「そう。貴方には期待していたのにガッカリだわ」

 

「俺も失礼する。拠点を決めなくてはならない」

 

その言葉を残し、堀北学の妹と葛城は各クラスの拠点へと向かった。

この2人は予想通り警戒する必要も無い生徒だった。

彼らの目には侮蔑の色が宿っていた、未熟だった、裏を考えようともせず自らの世界で完結している者たちだった。

──だが、問題は残っている生徒だ。

 

「それでキミはどうやってこの試験で勝つつもりなんだい?」

 

「先程申した通り…勝つ気はないですよ」

 

「嘘は良くないねぇ。キミ程の才能がそんな愚かな選択を取る訳がないよ」

 

「…この金髪に同意はしたくねぇが、俺も同じだな」

 

龍園翔と高円寺六助。

彼らが現状最も警戒すべき人物で、そして私好みの人間らしさを持つ生徒だ。

彼らは自らの信念をなによりも貫く、まるで物語の人物だった。

人間の生き方に正しさはない、それは正解の無い難題である。

だからこそ私は好きだ、その未知が無限の想像を生み出してくれる。

私は人間の積み重ねる文化の一つである本の登場人物のような生き方はとても興味が湧いている。

 

「この場で言う気はありません。ですが、疑い続ければ気が付けるかもしれませんよ」

 

「そうだねぇ。もっとも私は明日ぐらいには体調が悪くなる予定があるのでね。見届けるのはドラゴンボーイに任せるとしようか」

 

「…その名で呼ぶんじゃねーよ。くそ金髪が」

 

龍園翔の生意気な態度に高円寺六助は高笑いを上げた。そしてそんな様子の彼らにふと質問してみたいという欲が生まれた。

 

「少し聞きたい事があります」

 

「なんだい?今私はとても気分がいい。質問次第だが応えよう」

 

「貴方たちにとって、勝利とは何ですか?」

 

その質問に少しだけ目を見開きつつも、高円寺六助はすぐにいつもの笑顔を取り戻した。

 

「おや、そんな事で良いのかい?」

 

「はい、それで返答は?」

 

即答した私に一層笑みを深めた彼は、少し考えた後に言葉を繰り出す。

 

「そうだねぇ。私にとって勝利とは当たり前のものさ」

 

「…当たり前とは?」

 

抽象的で言葉の真意が見えなかったため、詳細を話すよう促す。

 

「私は全てにおいて優れていて、全ての人間は私より下さ。だからこそ私は生きているだけで勝利しているのだよ」

 

「それは面白い考えですね」

 

絶対的な自信、それを裏付ける実力。彼らしい才覚に溢れた人間の言葉だった。

彼はこの世界の大半の人間を凡人と呼んでいるのだろう。だからこそ、いつもつまらなそうに、しかし楽しそうに生きている。

 

「だがそうだねぇ。その考えを否定するような存在が出てきた。キミだよMr竜崎」

 

「私には負けかねないと?高円寺くんは、私より下だと認めるんですか?」

 

「ノンノン、そうは言っていない。だが私と並び立ちはするだろうねぇ。だから楽しみにしているのさ」

 

そんな話をする彼の目は、他の人間とは違い私の本質を見抜いている気がした。確かに彼とは良い勝負になるのかもしれない、彼の楽しげな雰囲気に釣られて私も少しだけ気分が高揚した。

 

「そうですか、興味深い答えをありがとうございます」

 

「気にしないで良い。キミのこれからの動きを楽しみにしているよ、アデュー!!」

 

言いたい事を終えたのか彼は私にウィンクをした後に、森の中へと優雅に消えていった。

そして残された私は隣に立つ龍園翔に話しかける。

 

「貴方はどうですか?さっきから黙ってますけど」

 

「ククッ、俺にも訊きてぇのか?」

 

「えぇ…貴方の勝利についても気になっています」

 

その言葉に龍園翔は力強く拳を握りしめた。

 

「…屈服だ。他者が屈服するのが俺にとっての勝利だ。俺は他者を跪かせるのが好みだからな」

 

現にCクラスは彼が支配していた。

その方法は暴力だと噂に聞いていたが、事実のようだ。しかし、それは合理的で面白くない手段だった。

 

「では仮に、屈服させたい相手に負けてしまった場合はどうするんですか?」

 

「何度でも挑めばいい。最後に勝てば問題ねえ」

 

彼は思想が暴力に支配されている。過去にそれを芽吹かせる出来事があったのだろう。

屈服と話す彼の瞳はどこか遠くを見ていてそしてギラついていた。そしてその考えが曲がっていないのは恐怖を知らないからだろう。

 

彼はまだ学生だ、だからこそ世界を知らなかった。

この世には様々な種類の怪物が居る。姿を現さず、世界を混乱に陥れるモノがいる。

子どもを誘拐し夢を食らう、人を殺して血を吸う、そして嘘を吐き欺くモノもいる。

そしてその全てが人間のふりをしている。人間の心なんて何も理解していないのに演技をするのだ。

 

そしてそれに私も該当するのだろう。

 

私にとって人生で重要なのは面白さだ。

それを求め、得るためにはなんだってする──その気概が、覚悟が今の彼には足りていない気がしてならなかった。

 

「そうですか。それで今回の特別試験はどう過ごすので?」

 

「聞いておいて興味なしかよ…、まぁそれは良いか。特別に教えてやるよ。俺たちはポイントを全部使って遊び尽くす」

 

「へぇ。それは凄いですね」

 

なにも意外性がない答えだったからか、私の口から出た言葉には抑揚がなかった。

その様子に、龍園翔は少しだけ怒りを見せた。

 

「…お前は質問をする癖に反応をしねぇな。感情がねぇのかよ?」

 

「面白みのない、予想通りの作戦だったので」

 

「ハッ、どうだか。所詮出まかせだろ、仲良しこよしのBクラスはなんも考えてなさそうだからな」

 

どうやら煽り文句を繰り返し、私から情報を引き出そうと画策しているようだ。先ほどから執拗に怒りの感情を誘発させようとしている。

だが、私にその手は無意味だった。

 

「ですがそんなBクラスの私を貴方は警戒している。もう気が付いているんでしょう?」

 

しかし、やられっぱなしで終わるのは性に合わない。

私は彼は少しだけ意地悪な質問をする事にした。

 

「答えを聞く気は無いので話を続けます。

貴方は正攻法でAクラスを目指しつつも、目指していませんね?」

 

「…何が言いたい?」

 

「それは今、龍園くんが考えてる事ですよ。移籍──そう言えば思い当たる筈です」

 

彼は今ポイントを貯蓄している。

Cクラスの人間が愚痴をこぼしていたのを偶然聞いたのだ。

クラスから税金として数万ポイントを徴収している、私利私欲では使わずクラス間闘争の資金として使用する。

確かに理由だけ聞けば違和感はない。

 

しかし裏がある、彼はもう少し先を見ている気がした。

そた考えていくと、一つの案を思いついた。

 

クラスを移動する事だ。

この学校ではAクラスのみ報酬がある。だが仮にクラスメイトに恵まれず、クラス単位での達成が絶望的だった場合の回避方法があると前々から考えていた。

そして堀北学、彼に真偽を聞けば答えは肯定だった。

2000万ppを消費してクラスを移動する権利があるとの事だった。

 

最初は自分独りだけがAクラスに移動し、勝ち逃げをするつもりだと想っていた。

だが考えを改めた。

彼は自らを王と称し、そんな王に尽くす臣下であるクラスの全員に報いたいのではないかと考えた。

移動する権利を購入できる8億ポイントを溜めるそんな荒唐無稽な理想を思い描いているのではないのかと。

 

「はぐらかすんじゃねえ、と言いたいが成程な。お前も相当知恵が働くらしい、そして学力も高く、運動も出来る、か。こりゃクソみたいな実力を持ってる奴だな」

 

「運動はそこまで出来ませんよ」

 

「だが、そこらの人間よりは出来る、だろう?」

 

「さて、龍園くんがお好きに想像してください?」

 

そして彼は私の言葉に不敵な笑みを浮かべた。

誤魔化しはしたが肯定と受け取れる反応だった。どうやら本当に目が曇っているのは私の方だったらしい。

 

「そんな貴方に提案です、私と手を組んでください」

 

「…どういう了見だ。脈絡が分からん上に、俺たちは敵同士だぜ?」

 

彼はいい意味で扱いやすい。私と同じく勝つためには手段を選ばない点は評価出来るだろう。

 

「この試験の結果を見てからでいいので、返答を待ってますね」

 

「…答えになってねぇな」

 

「それは私と手を組んでくれた場合に教えますよ。ただ一つだけ言っておきます。私は勝つためなら手段を選ばない。貴方も同類でしょう?」

 

龍園翔、おまえの本心は分からない。だが、もし私に迫るというのならその時は……

 

では、と言い残し私も森の中へと足を踏み入れた。横目に見えた彼の口は大きく吊り上がっていたように見えた。

 

 

***

 

 

日中にも拘らず、少し暗い。鬱蒼とした森、歩く度に香る青臭さ。

感じる不快感に苛立ちつつも、生い茂る草木を踏みしめ、道を開拓し続けている。

出来る限りのスポット確保、それを目標に私は森を歩いていた。

 

「これで六か所目」

 

船上からこの島を見回したときにあった不自然な箇所を今は巡っている最中だ。

これから毎日のように歩く事になる為、道を記憶しつつ最短のルートを構築し続ける。

それにより日が経てば経つほど、この行為に掛かる時間は減って行く筈だからだ。

 

「今日はこれで切り上げよう。そろそろ点呼の午後八時になる、不在としてポイントを減らされれば余計な不満が出るに違いない」

 

辺りを見回せば、視界が少し不明瞭になっていた。

日が落ちかけているため、一旦は拠点に戻る方が良さそうだ。

 

「Bクラスの拠点の位置はこっちか」

 

スポット確保の最中に、Bクラスの人間と出会ったため拠点の位置をあらかじめ聞いておいた。どうやら拠点設営は順調らしい。

私が居なくとも一之瀬帆波がある程度のクラス運営を行ってくれる点も独断で動きやすい理想的な環境だ。

 

そう考えてつつ歩いていると、いつの間にかBクラスの拠点に辿り着いていた。

開けている場所で川が近くにあり、井戸もある。過ごすには理想的な場所だった。

 

「随分と遅い帰還だな」

 

クラスの状況を観察していた私に送られる言葉があった。

声の方を振り向けば、こちらに近寄る神崎隆二の姿があった。

 

「えぇ。やるべきことがあったので」

 

彼はそれに納得感を滲ませつつ、今後の予定について問うてくる。

 

「それでどうする」

 

「私は点呼が終わり次第寝ます。なので食料等の生活に必要な物資の購入は任せます」

 

「成程な。他に何か言うことは無いか?」

 

「…あぁ、活躍した人たちを労っておいてください。彼(・)女(・)も含めて」

 

「それはお前が言うべきではないのか?」

 

「試験が終了した後に、気が向いたら言いますよ」

 

このクラスにおいて、先導役は多ければ多いほどいい。

多くの生徒は一之瀬帆波の事を大事にしているのだ。そんな彼女を引き合いに出せばすぐに食いついてくる。

 

「後甘味はありますか?甘いものは私が頭を使う時の燃料なので」

 

「果物ならばある、今持ってくる」

 

神崎隆二が甘味を持ってくるまでの合間に周囲を観察する。

日が落ちかけて、人間の顔は赤く染まっている。楽し気に話す彼らの姿は少し面白かった。

決して饒舌では無い私は言葉に裏を作る。

人と話す事は相手の情報を引き出せるため重要だが、得意では無かったからだ。

 

「持ってきたぞ」

 

「あぁ…、どうも」

 

 持ってきた甘い果物と、水分補給用の水を彼から受け取り味わう。

やはり良い、糖分が頭に染みわたるようだった。そしてその甘さを水で流し込む。

すると喉の渇きが消えたようだった。軽い脱水症状になっていたらしい。

 

「お前が一之瀬をリーダーに推薦する理由はこれか?」

 

「はい。一之瀬さんは人を束ねることに長けているからです」

 

「確かに、お前が抜けた後の散らばりかけていたクラスを纏め上げた手腕は見事だった」

 

そうして果物をついばんでいると大きく響声が聞こえた。

 

「はーい、皆点呼の時間だよ?急がないと不在扱いしちゃうぞ~」

 

茶化しながら点呼を呼びかける担任の教師。星之宮がやってきた。

ぐるりと生徒が全員居る事を確認するように視線を動かしていく。

 

すると、私と丁度目が合った。

先ほどのふざけたような笑顔からより一層喜色を深めた笑みを浮かべ、私に駆け寄ってくる。

 

「わぁ、竜崎くんも居るんだね。なんだか意外だなぁ」

 

「それは私が点呼を無視するという意味か?」

 

言葉を取り繕う事すら億劫になり、言葉は崩れた。だが口調を崩そうとも星之宮は気にした様子を見せなかった。

 

「んー、そんなところかな。でも居てくれて先生嬉しいよ~」

 

「なにがなんだかわからない。疲労があるので早く寝かせてほしいんですが…」

 

「相変らず冷たいんだから~。でもそんなところも先生は好きだよっ!」

 

好き、そう言いながら彼女はぐっと私に顔を近づけてきた。

だが言葉とは裏腹に目には熱を帯びた復讐心と執着の為の色が垣間見えた。

この教師が私を気に入っている理由には気が付いている。それを果たすために私の存在に期待を抱いていることも。

だがそれを加味しても鬱陶しい事この上ないダル絡みだった。

 

「はぁ…」

 

「もう、溜息つくと幸せが逃げちゃうよ」

 

だからだろう。

いつもの口調が崩れるのも、溜息が夜の森に零れるのも当然だった。

 




『L』は人間の心を分かった上で無視するのか、人間の心が分かってないから無視するのか。どっちなんでしょうね
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