ようこそ未知を探求する教室へ   作:叙述トリッピー

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page.8 終結

 

龍園翔の独白。

 

 

 特別試験が始まってもう数日が経った。

俺は今草むらに隠れている。泥まみれで気持ち悪かったが、勝つための犠牲だ。許容をするしかない。

 

俺は初日にルールを聞き、一つの作戦を思いついた。

ポイントを使い切り、全員がリタイアする。俺たちのクラスはまだ一枚岩じゃねぇ。

だからこそ飴を与えるべきだと考えた。

だが、俺は欲張りだ。それだけで満足なんて出来る筈がねぇ。

 

だからAクラスの葛城と契約も結ぶことにした。

 

あいつは今、焦っている。

坂柳とクラス内で揉めてリーダーの奪い合いが起きている。

だから結果が残したかったんだろう、そのお蔭で目先の利益に簡単に釣れた。

 

俺たちの物資を融通し、他クラスの情報を提供する代わりにAクラス1人につき卒業まで毎月2万PPを支払うなんてぼったくりも良いとこだ。

 

そして彼奴は気づいていなかったが、契約書にはAクラスのリーダーを指名できないとは書いていない。

つまり俺はAクラスを指名できる。

(…本当にいい取引だったぜ、葛城)

 

そう心の中で笑っていると、少し遠くの方に人影が見えた。

(…来たな)

 

 竜崎正、彼奴がこのスポットを更新される度に占有していることは確認している。

少し前から張り込んでいたが彼奴は毎日必ずここを占有していた。

その苦労のお陰で勝利を奪えるんだ、笑いがこみ上げてきそうだった。

負けた時、あいつを屈服させるのも愉しそうだ。

あんな面白い男、一之瀬のクラスに居るには勿体ねぇな。

そう思いつつも、視線は竜崎に向けておく。

 

今、このスポットを確保するところを確認できれば彼奴は終わる。

あれを確保できるのはリーダーだけだからだ。

 

──そしてあいつは、いつも通りにスポットを取った。

 

アイツは確保した後、周囲を警戒したように周囲を見回していたがそれも無様に思えた。

(…俺がここに居る事を知らないんだろうな)

 

リーダーを宣言する事で変更を匂わせて指名させない。

これが竜崎の作戦だ。

確かに俺以外のクラスは竜崎が変える事を考えて、指名しなかったかもしれない。

 

だが、俺は獲物が完全に尾を出すまで待てる。

この場所を数日監視してやっと掴めた、証拠だった。

 

 ただ、唯一の誤算はDクラスのリーダーだ。

竜崎が堀北鈴音をリーダーだと見抜き早々にリタイアさせやがった。

アイツが何の目的で動いたかは知らねぇが、俺らがリーダーを当てた時のボーナスが消えたのは事実だ。

まぁ、マグレで当てたのかもしれないな。

(鈴音はリタイアをするような女じゃねぇ、だからこそやり易かったんだが…)

 

リーダーを変えた先を探そうとはしたが、伊吹がヘマをしたせいで失敗に終わった。

だが、まぁ良い。AとBクラスのリーダーを当てて終わりだ。

 

 アイツの作戦は図太いとは思うが、拍子抜けだった。

やはり噂はあてになんねぇな。竜崎がもっとも警戒すべきじゃねぇ。一番は坂柳だろう。

そう今後の動きを考えつつ、その場を去った。

 

脳裏によぎった嫌な予感に目を逸らしつつ、最終日に俺はリーダーを指名した。

 

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

竜崎正の独白。

 

 

 8月7日。

長くも短い特別試験の最終日だ。

せめてもの救いは自給自足のサバイバルでは無くある程度の施設込みのものだったことだろう。

私は無感動で砂浜に立ち尽くしていた。

ここ数日はただひたすらにスポット確保のため、歩き続けていた。

どれだけスコアを伸ばせるのか、それだけの為の時間に退屈を感じていたところで丁度試験が終わった。

 

「本当にギリギリだ」

 

あと少し遅ければ、憤りが最高潮となりどうなっていたのか自分でも分からなかった。

 

『ただいま試験結果の集計をしております。暫くお待ち下さい。既に試験は終了しているため、各自飲み物やお手洗いを希望する場合は休憩所をご利用ください』

 

 そんなアナウンスが流れ、生徒たちが休息をとるために集まっていく。

仮設テントの中には既にリタイアしている生徒の姿は無く、客船から降りてくる気配も無い。

 

「やっほー、竜崎くん」

 

 砂浜で独り立っていた私に声が掛けられた。一之瀬帆波らBクラスの面々だった。

その先頭に立つ彼女は達成感を滲ませた笑顔を私に向け、持っていた紙コップを手渡してきた。それを手で受け取ると、この暑さには不釣り合いな冷たさが手から伝わってきた。

 

「どうも。お元気そうで何よりです」

 

「うん、私たちはみんなリタイアせず完走したんだ~」

 

「へぇ。お疲れ様です」

 

 予想通り、彼女に任せれば問題なかったようだ。

ちらりと遠くを見れば残りのBクラスの面々の姿も確認でき、その顔は満足そうに笑みを浮かべていた。

やはり彼女は人をまとめ上げる事が得意なのだろう、それは僥倖だった。

 

「それで竜崎君はどんな感じかな?」

 

「どう、とは?」

 

 感情は良く分からないが、真剣に結果を知りたがっているようだ。

そうだろう、私は自らの作戦をBクラスの誰にも説明をしていないのだから単純なサバイバル生活を送っていたのだ。他クラスからの疎外感を感じる事は考えるまでも無かった。

私はそれに答える気が無いので少しの微笑を返した。

すると彼女は私の様子から悟ったのか、溜息を付きつつも話題を変えた。

 

「…約束忘れてないよね?」

 

「あぁ、忘れてないですよ」

 

 約束、失敗したら従うといった内容だった。

成功は99%、つまりもしかしたらがある。

その場合は彼女に従わなければならないが、それもまた面白い。私を上回る人間が居るのならばそれは素晴らしい事だからだ。

 

「結果、楽しみにしていて下さい」

 

 そして私はもう1人の生徒の姿を捜す。

彼はまだ潜伏しているのだろうか?いやもう試験が終わる事は理解している筈だ。

ならばサプライズでもする気なのだろうか?いやそんな好意的な対応を彼がするわけがない。

 

「おい、竜崎。良く顔を見せれたな」

 

 疑問を浮べていると声が掛けられた。

その方向を向けば、目的の人物である龍園翔が嘲笑うような目をしてこちらを見ていた。そして私との距離をゆっくりと詰めてくる。

私から少し離れた位置に固まっているBクラスの面々に緊張が走った。

恐らく喧嘩になると思ったのだろう、駆け寄ってこようとする数人を手で制しながら私は返答した。

 

「えぇ、久しぶりですね龍園さん。気分はどうですか?」

 

「ククッ、俺は良い気分だぜ」

 

 その様子を彼は気にもしていないようで、不敵な笑みを浮かべた。

彼は気分良さげに手に持った紙コップの中身をぐっと飲み干すと、軽く握り潰した。

 

「そうですか、良かったですね」

 

「で、どうだ。作戦がバレてないと思ったのか?」

 

 龍園翔は私に近づき、肩に腕を回す。

そちらを見れば上半身は所々に汚れており、下半身も随分と泥だらけだった。

やはり彼は努力家だった。だから、少し浮かべた嫌悪感を私は抑制する事にした。

 

「一部はバレていた、そう予想しています」

 

「一部だ?全部だろ、現にお前はリタイアしてねえ」

 

「いいえ、残念ですが私は昨日リタイアしました」

 

その言葉に彼は浮かれていた様子を一変させ、一滴の冷や汗を流した。

 

「…どういうことだ」

 

「──私は一つの可能性を思いつきました」

 

 回された腕を振り払い、私は話を始めた。

私はこの試験を経て、この学校はポイントで多くの選択肢を作れるのだと知った。

これまでは退学やクラス移動、といった私の興味が無いことでしか使えないと思い込んでいた。

 

だが、違った。この学校はポイントで戦略を練れる。

 

「何…?」

 

「ヒントです。この学校はポイントで何でもできるらしい」

 

彼ならばこの助言で事足りると感じた。

現に彼は少しの黙考の後、瞠目しこちらを睨みつけた。

 

「お前、まさか!?」

 

「やっぱり龍園君は凄いですね、気が付きましたか?」

 

彼はやはり私に似ている。だからこそ辿り着ける。精神の幼さだけでも無ければ、尚良かったが高望みだろう。

 

「では結果を聞きましょうか。もう気になって仕方がないんですよ」

 

「お前──」

 

聴きなれない不快な音、拡声器のスイッチが入る音が砂浜に響き渡った。

その方に視線を向けるとAクラスの担任の姿があった。

 

「そのままリラックスしていて構わない。すでに試験は終了している」

 

その言葉を聞いて私は近くの椅子を手繰り寄せ、座り込んだ。

砂浜に座り込むのは嫌だったため、面倒だが疲れた体に鞭を打った。

 

「この1週間我々はキミたちの取り組み方を見させてもらったが、総じて素晴らしい評価だったと思っている。ご苦労だった」

 

その言葉に生徒達の安心が溢れた。自分たちのクラスが善戦していた、そう思っているからこそだろう。恐らくこの試験結果を予知できたものは多く無いだろう。

 

「ではこれより、特別試験の順位を発表する」

 

 Aクラスの教師が一段と力強い声を響かせる。

 手に持っていた集計結果と思われる紙を開き、それに目を通して結果が発表される。

 

「尚、この結果の詳細については学校側は一切の質問を受け付けない。自分たちで結果を受け止め、分析し次の試験へと活かしてもらいたい

 

結果の内訳は開示されない訳か、あとでBクラスの誰かに消費ポイントを聞かなければならないな。

 

「最下位は────Cクラスの0ポイント」

 

「……0だと?」

 

龍園翔は事態が理解できていないようだった。

少し遠くで彼の唖然とした表情を馬鹿にし、笑っている人間の姿が見えた。

 

「3位、Aクラス120ポイント。次に2位Dクラス140ポイント」

 

人の声が増える。場の空気が変わっていく。

困惑、自分たちの想定した順位では無かったらしい。当然だ、Bクラスが最下位。これが既定路線だった筈だからだ。

 

「そしてBクラスは──384ポイントで一位となった。以上で結果発表を終わる」

 

 話し声は一瞬で消失した。

あれだけ騒がしかった人間たちも、その大きすぎる値に驚愕を隠せなかった。

そしてこの事態に誰よりも混乱しているのはBクラスの面々だろう。彼らに私は何も作戦を伝えていないのだから。私の独断で全てを終わらせたのだ。

 

だからだろう、私にこの場に居る全ての人間の視線が向けられていた。

並大抵の人間なら思う事があるのだろうが、私はいつも通りの口調で語り始める

 

「皆さん、お疲れさまでした」

 

 私は『勝つ』。それが全てだ。

最後に私が居なくなっていようとも、一之瀬帆波たちのクラスが勝ってさえいればそれでいい。

 

私にも私の本心は分からない。だがこれだけは本心だ、勝ちたい。

 

この結果を踏まえ、各クラスはBクラスに、そして私に危機感を持つだろう。

その余波でBクラスが浮くのはやむを得ない事だ、許容して欲しい。

 

「折角なので、一つの可能性を話しましょうか」

 

 だから少しアドバイスをしよう。全ての人間が秘めている芽を咲かせよう。

簡単なゲームでは面白くない、難しければ難しいほどクリアした時の興奮が増幅されるのだから。

 

「私は、私たちは積層された結晶です」

 

 経験、知識が積み重なり、それにより人間の性質は構築される。

この試験は多くの思惑があったのだろう。

私が認識できていない出来事があったのだろう。それは彼らにとって初めてのイベントで素晴らしいキッカケの一つになってくれる筈だ。

 

「思考を止める事を私は悪いとは思わない、それにより救われることもあるのだから」

 

だから考え続けて欲しい。

人間の積み重ねを私は好んでいるのだから。

それに応えて欲しい、物語の人物が私の期待通りに動いてくれる事を切に願っている。

 

「私は皆さんの全てを知りません、でもあなた方の多くの選択肢を感じました」

 

人間には可能性が秘められている、私が見えていないだけで才能の原石は転がっている筈だ。だからこれは一縷の望みだ。

 

「では、そんな皆さんに質問。今回の試験どう臨みました?」

 

あなたたちの選択が、私はとても気になっている。

 

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

 特別試験終了一日前。

私はぬかるんだ道を歩み続けていた。

時刻は午前5時を回っており、進む先にはまだ暗闇が広がっていたが問題はない。

数日間歩き続け、頭の中に描いた地図を頼りに進む。

教員たちの設置したテントが開かれており、設営の準備をしているらしい。そこに居る教師の1人、Aクラスの担任に声を掛ける。

 

「リタイアしにきました」

 

「そうか。なら船に戻るといい」

 

あくまでも業務的に処理を行うAクラスの教師。だが私は戻る気が無かった。

 

「いえ。戻りません」

 

「何…?」

 

「──まず、二つの権利をポイントで購入させて頂きたい」

 

私は指を一本立て、数字を表現した。

 

「一つ目はリタイアした後に島に滞在できる権利」

 

 私は初日にリーダーの宣言を行った。

そのお蔭で私がリーダーであるかの偵察を他クラスが頻繁にしているのを確認した。

そして初日の質問、最初にリーダー変更を匂わせる事でその可能性を植え付けた。

 

整理しよう。

まずリーダー公表から取れる手段は2つ、リタイアするか隠れて滞在するかだ。

仮にリタイアするならば船に乗らなければならない、そう思い込んでいる筈だ。

その結果、私の存在が確認できる限りリタイアはしていないと先入観から判断する。

 

──確証バイアス、それを利用した。

 

だからこその在留する権利の購入。つまり誤った指名を誘発する事が目的だ。

 

「Bクラスの皆さんが試験を続ける中、私だけが船で悠々自適に過ごす。

これに罪悪感を抱いてしまいました。なので島に残る権利を買います」

 

「そうか。ならばその権利を購入する事は許可しよう」

 

あっさりと通った。

ただ、これは通る事を予測していた為問題はない。

ここからが本題だ。

 

「有難うございます。二つ目は私がカードキーを触れさせた時に確保していると表示させる権利です」

 

「どういう意味だ」

 

「私はリタイアしたことでリーダーでは無くなります。ですのでスポットにカードを近づけた際に表示だけ変更させてください」

 

「それは不可能だ。キーカードを使用することが出来るのはリーダーだけだ」

 

そう、ルールで説明されていたようにリーダー以外がカードを使用する事は出来ない。

だからこそ確かめる意味がある、試験のルールへの難癖が可能か否かを。

 

「この権利は他クラスが占有しようとすれば上書きが可能で、占有時に発生するポイントも無い、ただの表示させる権利です。使用ではない」

 

「…成程な」

 

「もう一度質問します、購入は可能ですか?」

 

「不可能だ、それも使用に該当する」

 

成程、これは通らないか。なら次の案を使おう。

 

「では質問を変えます。そのカードキーが試験に関係ないただの紙切れの場合は?」

 

「なに…?」

 

「先ほどの権利が付与された紙切れ、それは購入できますか?」

 

「ほう、面白い事を言う。それは可能だろう、カードキーでは無いただの紙切れならばな」

 

「ありがとうございます。ではそれらを購入させてください」

 

 確証を得た。これはルールの抜け穴を突けるという事だ。

ルールに書かれていないことは教師の判断で答えるしかない、これは他の教師にも確認済みだ。

 

つまり、丸め込めばいい。

だけ、のみという限定はそれ以外なら許容される諸刃の剣だ。

だからこそ法律は曖昧にされている。

この世には想定外が多い。その全てを事前に対処できないからこそ解釈の余地を残している。

だから厳密にしたこの学校のルールは難癖をつけられる。

この学校のルールは良く出来てはいるが、出来過ぎていた。

 

そしてこの作戦が通った時点でルールで規制されていなければ、試験を壊せることも理解した。

この特別試験のルールの一つである『他クラスが占有しているスポットを許可なく使用した場合はマイナス50ポイント』

これにより、全てのスポットに偽装カードを使用し表示偽れば、占有しようとする事自体がハイリスク、ローリターンとなるからだ。

 

「どうも。では私は戻ります、お疲れさまでした」

 

 

 

──────────────────────────────────────

 

 

 

 試験が終了となり、解散となった一年生たち。

船は2時間後に出発らしく暫くこの場で遊ぶことを推奨された。

だが私はその声を無視し、船内へと歩みを進めた。既に歩き回って疲労が蓄積している、海で遊ぶ事よりも休息が優先されるべき状態だった。

 

──私は誰にもバレることなくリーダーを変更した。

そして一度だけ使える権利、それを龍園翔の前で使用した。

 

しかしこれには疑問が出るだろう。

何故、龍園翔が潜伏していた場所を推測できたのか?

 

 まず私はスポットを確保し、その周囲に罠を仕掛けた。

隠れられる場所全てに石や泥山を規則性を持たせて配置した。

勿論日中では無い、深夜龍園が寝ている時を狙ってだ。

 

仮に龍園が潜伏するとしても3日目以降から。

それは二日目時点で聞きだしている『リタイアするのは明日』という言葉から予測を立てた。

試験開始三日目の潜伏が最短、つまりその話をされた時点で私は作戦を実行していた。

確かに彼は有能だが、学生だ。そこまでの執念を持って罠を仕掛けるなど予想はしていなかっただろう。

 

 ここで一つの疑問が浮かぶだろう。

5日目時点においてその場所に居た事が確認できたとしても、龍園が6日目もそこに居るとは限らないのでは?

 そこは彼の人間性を信用していた。

外れても問題が無かったというのもあるが、獲物を前に虎視眈々と待ち構える執念に私は期待していた。彼が一つのポイントに絞り待ち構えていると。

 

──そして収穫を得た。

 小雨の影響か地面が粘質土でできており、踏み荒らされた痕跡が残されていた。

私はその中に男性の足跡と()()()を見つける事に成功した。

足跡の主は龍園翔だろう、問題は違和感の方だった。

完璧だった、だが完璧すぎるがために不自然さは拭えなかった。

この無人島においてそれを成し得るのは綾小路清隆、彼だろう。

龍園翔を囮にし、私を観察していたらしい。

だからこそDクラスの誤指名は望めない。ここまでの罠を敷いておいてリーダーをそのままなどあり得ない。

つまりあの男はBクラスの欄を空白で提出するだろう。

 

 

 そして、堀北鈴音を何故リタイアさせたのか?

これは単純だ。

綾小路清隆、彼ならば最終日付近で彼女をリタイアさせ、リーダーを変更すると読んだからだ。

リーダーかどうかはすぐに分かった、彼女は常にカードを身に着けている。一人で居る時の彼女からそれを盗む事は容易であった。

 

 綾小路清隆は最初期、事なかれ主義を謳いクラス争いに介入する事をしなかったが、最近は変わった。

やる気を出したのか、気まぐれなのか理由は定かでは無いが、この試験に勝つために暗躍している事は確認した。

 

あの中間試験の過去問も彼が手引きしたのだろう、そう予測を立てている。

そして私は彼の隠された能力を高く見積もっている。知略では勝てるとしても、武力では危うい、そう評している。

 

だからこそ、堀北鈴音をすぐさまリタイアさせた。

 

彼は動き出すのが遅かった。

その怠慢のお陰で手札はまだ少ない筈だ。

現にこの特別試験の際には彼女と常に行動を共にしていた。

そんな人物が居なくなるとしたら、彼自身がリーダーになる事は容易に想像が出来た。

 

「お蔭で色々と楽しめた」

 

 総評すれば面白い1週間だとも言える。

外の世界では味わえない濃密な日々、ゲームのような特別試験。

──しかし、このゲームは私の独り勝ちだ。

 

 

 

Aクラス 1004cp→1124cp(+120cp)

Bクラス  920cp→ 1304cp(+384cp)

Cクラス  492cp→ 492cp(+0cp)

Dクラス  87cp→ 235cp(+140cp)

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 初めての特別試験が終了し、少しの時間が経った頃。

船内に戻った私はまともに汚れを落とす機会が無かったためすぐさまシャワーを浴びた。

ここ一週間の疲れが流れ落ちるようで、久しぶりに良い時間を過ごせたと満足していると電子音が鳴った。

 発信源は私の携帯端末のようだ。ポケットにしまっていたそれを取り出すと『部屋に居るのか』とだけ書かれたメールが一件届いていた。

それを返す事はせず、私は自室まで戻り寛ぐことを選択する。

 

それから数分して部屋に来客が来た。

 

「竜崎、いるか?」

 

「居ますよ」

 

入ってきたのは神崎隆二と姫野ユキだった。

2人に向かい側のソファへ座るように促すと、彼らは頷き腰かけた。

 

「それで用はなんでしょうか?」

 

「あぁ、そうだな」

 

逡巡を挟んだあと、彼はゆっくりと頭を伏せた。

 

「感謝する、竜崎」

 

「いえ。こちらも都合が良かったので」

 

律儀な性格だと思った。彼の希望の多くを拒絶しているにも拘らず、低姿勢だった。

愚直であるが故の行動なのだろうが、難儀な性格だとも感じられた。

 

「それでも私たちはAクラスになれた」

 

「そうですね。もうAクラスになってしまいました」

 

葛城たちAクラスは私のクラスとcpが逆転して、入れ替わった。

つまり今日からは私たちがAクラスとなる。

 

「おめでとう、貴方たちの願いが叶いましたね」

 

「確かにそう。けど、私は───」

 

「──お断りします」

 

容易に予想出来る懇願だった。

私がリーダーならば他クラスを圧倒できるとこの試験で証明したからだ。一之瀬帆波ならば違った未来になったのだろう、彼女の事だCクラスのスパイを受け入れて、リーダーがバレる失態を仕出かしても可笑しくは無かった。

 

「…ウチのクラスはとにかくお人好し過ぎるんだよ。別にいいけどさ、勝てないのは問題だと思う」

 

「それは約束を反故にしたいと?」

 

「…違う、だがお前がリーダーになれば俺たちがAクラスのまま卒業できる筈だ」

 

「それは彼女がリーダーでも同様です。現にあなた方は彼女の実力を見る機会があった筈だ」

 

彼女にこの試験のクラスの指揮を取らせていた。

それを補佐する事を指示していた為、多少は納得したのだろう。不承不承といった様子でゆっくりと頷いた。

 

「…あぁ」

 

「…うん」

 

「一先ずは納得してください」

 

ふと、気になった事がある。この試験の肝であるリーダーについて私が独占していたのだ。彼らがこの期間をどう感じたのか気になった。

 

「それで今回の無人島、あなたたちは楽しめましたか?」

 

「楽しめたさ」

 

「なにそれ、だる」

 

「姫野さんは違うんですか?」

 

「…違うとは言ってない」

 

両者とも返答に癖はあれど、回答は肯定だった。

そして答える際には私の目を真っすぐと見ていて、私の真意に勘づいているようにも見えた。どうやら無駄な心配だったらしい。

 

「そうですか。なら良かったです」

 

少しだけ上機嫌になった私は目の前の二人に提案を行う。

 

「一つ譲歩しましょうか。これから先、戦略性のある試験は私が主体となって動きます」

 

「それは本当か!?」

 

「ただ、それ以外の試験はあなた方がなんとかしてください」

「…意図はなに」

 

「そうですね。気まぐれ、いや期待です」

 

困惑する二人の目を今度は私がしっかりと見た。

 

「あなた方の成長を見たい」

 

 私は勝つ事が優先だが、彼らを見ていると少し気持ちが変わった。

 推理にも事件を解決するためには複数の条件が必要だ。

そのうちの一つが彼らの成長性だと考えている。

綾小路清隆、彼は今後本気で駒を作りに来るだろう。

その際に対抗したいという思いが主だが、人間がどこまで変われるのかという部分を知りたい欲求も含まれている。

 

「これから食事でもどうですか」

 

だからこそ、彼らと関わる機会を少し増やすのも一つの手なのかもしれない。そう考え、私は不慣れにも誘う事にした。

 

「確かにな。丁度昼食時だ」

 

「…私、今日果物しか食べてない」

 

 神崎隆二は部屋の時計を見た後に、姫野ユキはお腹を手で指すった後に言葉を零す。

私も久しぶりの糖分が欲しいと思っていたところだ。

 

「なら急ぎましょう」

 

ソファから立ち上がり、私は部屋の扉へ手を掛けた。

これから味わえる甘味への期待で気分が高揚したのか、それとも別の理由なのか。

いつもより足取りが軽かった。

 

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