ようこそ未知を探求する教室へ 作:フワンテ
竜崎正の独白。
無人島での特別試験が終了してから数日が経った。
私達を乗せた豪華客船は、問題が起きることなく海上を進んでいる。
天候は相変わらずの快晴で、外に出るのは億劫だが船旅としては最適だった。
特別試験で勝利したクラス、そして敗者となったクラス。それぞれに思う事はあっただろうが一先ずはこの時間を楽しむことにしたらしい。その区別がつかないほど彼らは青春を謳歌していた。
「不自由のない生活、これもまた興味深い」
私は船内に存在するカフェで暇をつぶしていた。
ここは多くの幸福が溢れる豪華客船、嫌な事を忘れられる夢のような時間。それらを享受する人間を観察できると考えれば有意義だが、少し退屈だ。
…そんな隙間を満たせるのは、やはりスイーツだろう。
「何度味わっても良いものだ」
私はそう呟き、ケーキを小さく切り分け口に運んだ。
サバイバル終了後には張りつめていた空気も遠い過去だった。
まだ試験がある、その考えを捨て本当に夏休みを迎えたかのような平穏な時間、楽しい旅行という錯覚。きっと無人島で抑えつけられた欲求の反動がこの現状を産んだのだろう。
…まるでこのケーキのように甘い考えだ。
「竜崎くん」
しかし、そんな幸福な時間は長くは続かないらしい。客船の窓から見える景色、思考の海を眺めていた私に話しかける声がした。
その方向に目を向けると、特徴的な桃色の髪が空調の風で靡いていた。
「こんにちは、一之瀬さん」
「うん。ちょっとだけ良いかな?」
「どうぞ」
その言葉に頷いた後、彼女は目の前の席に腰を掛けた。
一学期が終了し、Bクラス。いやAクラスは人間関係が確立され始めていた。
一之瀬帆波に集まる集団が半分以上、特定の関係性を持たない生徒が少し。そして私の活躍からか肥大化した私をリーダーとして支持する集団。その3種類でAクラスは構成されている。
だからこそ疑問に思った。
いつもならば彼女は同じグループの人間と過ごす筈だからだ。
私に自主的に話しかけてきた、つまり用があるといった含意を持った行動だと推測する。
「…あなたも食べますか?」
「大丈夫、今食べたら夕食を食べれなくなっちゃうよ」
現在は15時を少し過ぎた程度の時刻。
日中は併設されたプールで遊ぶ生徒が多い為、このカフェには人の影が少なかった。
私の周囲には人は居らず、偶に訪れる人間も私を避けるように遠くの席に座っている。
どうやら特別試験の結果により、忌避されているらしい。
「そうですか。ではなんの用で?」
席につき、メニューを見る事すらしない彼女の様子に私は話を切り出す。
「…あのね、君はこのクラスをどうしたいの」
「どう、とは?」
単刀直入に真意を聞けば返ってきたのは抽象的な質問。しかし察することは出来る。
彼女は優しさにより損をする人間だが、愚かでは無い。クラスの内情を俯瞰して見る事が出来る人間だ。
だからこそ、自らがリーダーである現状への不満が募っているのを薄々感づいている。
「君がこの短い時間でもクラスに貢献している事は知ってる」
「そうなんですね」
「…君はこのクラスをAクラスにしたいの?」
「したいですね」
「そっか」
一之瀬帆波は覚悟を決めたのか、私の目をしっかりと見つめた。
「私はね、悔しいけど実力が足りないんだ」
「へぇ。ならどうして欲しいんですか」
「…竜崎くん、君がこのクラスを引っ張っていくべきだと思う」
「何故ですか?」
「え、なぜって…それは」
「結果を出していないから?」
「そう、そうだねうん。私は何も出来てない」
この学校で求められる分かりやすい結果とはクラスポイントを伸ばす事だろう。
確かに彼女は視覚的に分かりやすい結果を出していない。
「それは過剰な自責です」
やはり彼女は現状を正しく認識している。
そしてよく考えたのだろう、神崎隆二から一之瀬帆波の調子が良くないという報告は受けていた。そして彼女が私の様子を確認するように視線を向けていたことも認識している。
だからこそ1人になったこの瞬間を待っていたのだろう。
「人には適性があります。私にもあるように貴女にもそれはある」
「でも──」
「もう一度、昔の質問をしましょうか。貴女は他クラスが困っている時助けますか?」
私は話を遮り、少し前の再現をする。
過剰な自罰意識、そして自己肯定感の低さ。
私は人を信用していないが、人の行動理由は信用している。全ての行動には理由がある、それが私の持論だ。
彼女にもきっと理由があるのだろう。
「…助けようとはする」
「同じ答えですね。ただ、意味は違う」
「うん。この学校がそんな甘い事を言えないって分かった」
「だから諦めると?」
「……私は今の小さな範囲ですら守れないって知っちゃったからね」
そしてその理由とは、贖罪なのかもしれない。
彼女と話す時に私は救われるような人間ではない、そう言っているような言動が垣間見える時があった。
今も言葉に場にそぐわない恐怖心を感じる事があった。
守れないという言葉への重い感情、そして入学式の際に話していた当たり前の日常への羨望。
彼女はきっと、自らの行動により日常を守れなかった。つまり壊してしまった、それを悔いている。
とても、人間味のある話だった。
「なら、私は貴女の提案を断ります」
「え」
「貴女の人柄を知るほど、リーダーに相応しいと思います」
「私が相応しい…?」
「そう。リーダーって誰でも出来る訳じゃないんです」
リーダーとは敬意を、親しみを集めるべきだ。
命を懸ける場ならば、私のような人間でも指揮官になり得たのかもしれない。
だがこの平和な箱庭ではその理屈は通用しない。勝利への熱意がバラバラだからだ。
──だから人柄で人を導くのだ。
統一されてない意思を束ねられるのは、優しさで全てを包み込む人間。そして過去を悔いる事の出来る人間。過去は消えないが、捨てるべきでは無い。
「私は勝ちに貪欲です」
「私は、あんまりなんだけどな…」
「そうなんですか?貴女はこの学校に来た、実績目当てでしょう?」
「にゃはは、そうだね。うんそうだよ」
実績目当て、この学校にそれを目的で来る場合大学進学か就職を選択する。
そして彼女は後者。彼女ならば大学受験では困らない、困るならば大学すらもいけないような家庭事情。
「そして、それに今疑問を覚えている」
「……うん」
「貴女は他者が行動理由なんですね」
「そうかもね」
そして他人が原動力になっている。つまり家族への想いがある。
分かりやすい人間だった。きっと貧困家庭で家族を養う為なんて善良な理念なのだろう。
彼女は何らかの正攻法では無い手段で使用してしまい、日常が崩れ落ちた。
そしてその後悔が過剰な自責として表れている。
「ならそれは貫いてください」
「んえ、なんで?」
「あぁ。確かに他者に依存する事は忌避されます。ですが私は違うと考えている」
彼女はそれでいいと言える。
確かに自己を確立させることも正しさだが、それはしなければならないという強制ではない。他人への奉仕、介助、それらにはその心が必要だ。何故なら他者へ比重が傾いている人間は、その心を理解しようとするため一般よりも先読み能力に長ける傾向がある。
「だから頑張ってください、一之瀬リーダー」
──彼女の人間らしさを咎める権利は、誰にもないのだから。
彼女の用が済んだと思った私は、止めていた食事を再開しようとする。
「待って、待ってよ!!」
しかし、一之瀬帆波はまだ満足していないようだ。
いや分かっているが見なかったことにしているのか?考えても所詮推測の域に過ぎない為、思考を切り上げた。
「なんで、なんでなの?まだ私である理由を教えてもらってないよ……」
「教える必要が?」
「…私はまだ納得してないよ」
私は深い溜息を付いた後、目の前のコーヒーに砂糖を入れる。
無言の時間。彼女の顔は少し強張っていて、それはきっと私からの辛辣な返答が来ても良いように覚悟を決めた証でもあったのだろう。
さらさらと落ちていく砂糖の粒が少なくなったところで私は漸く話を始めた。
「私は幼稚で負けず嫌いなんです」
「…そうなの?」
「そう、幼稚で負けず嫌い」
「………」
「だから貴女であるべきだ。そんな私にクラスの運命を委ねる事は望ましくない、そう思いませんか?」
浮き出そうな本心を押さえ付け、私は情に訴えた。
彼女は私の言葉を優しさだと受け取ったはずだ。私に非があり、貴女は何も悪く無いと云う意味で捉えたはずだ。
彼女はそんな私の心情を察したのか、少し不服そうに椅子に身を預けた。
──これは限界も近いか。
私から話を切り出す事は彼女の成長のきっかけを潰す事になるのだが、このままでは成長など不可能だろう。
別の角度から考えるべきかもしれない。
私はその面倒な未来を想像し、手元にあった珈琲を口に含める。
────その時、唐突に機械音が船内に鳴り響いた。
キーン、この音は学校側からのメールが発信された時の特別な受信音。
このタイミングから考えるに重要性の高いものだろう。その異質な音に船内が少し騒がしくなりつつあった。
「な、なにこれ?」
「どうやら始まるようです」
「え、何が始まるの?」
「見ればわかります」
私はテーブルに置いていた携帯を取り、メールを確認しようとする。
すると、船内にアナウンスが入った。
『生徒の皆さんにご連絡します。先程、全ての生徒宛に学校側からの連絡事項を記録したメールを送信しました。
各自携帯を確認し、その指示に従ってください。また、メールが届いていない場合には、お手数ですがお近くの教員まで申し出てください。
非常に重要な内容となっていますので、確認漏れのないようお願いします。繰り返します──』
アナウンスを聞きながら、送られてきたメールを確認する。
そこには次のことが書かれていた。
『間もなく特別試験を開始します。
各自指定された部屋に、指定された時間に集合して下さい。
10分以上の遅刻をした者にはペナルティを科す場合があります。本日20時までに2階201号室に集合して下さい。
所要時間は20分程ですので、お手洗いなど済ませた上、携帯をマナーモードか電源をOFFにしてお越し下さい』
20分程度の所要時間、場所の指定。恐らく説明で終了するだけなのだろう。
試験開始は明日から。そして今日と明日の指定された日時までで作戦会議を行う。
「一之瀬さん、あなたの場所と時間は?」
「う、うん。208号室の18時だよ」
同クラスですら時間と場所を変える意味。
恐らく複数グループで取り組み、同クラスにすらバレてはいけない秘密を持つ者が居る試験。そう軽く予想してみた。
「そうですか。なら終わり次第その時に話した内容を送っておいてください」
「内容ね、分かったよ」
「私の方と話を統合して方針を考えます、では」
一之瀬帆波に指示を出し、私は残っていたケーキを口に詰め込んで席を立った。
指定された時間には少し余裕がある。ならば自室にて試験内容の予測でもするか。
そう考えつつも、早歩きでカフェを出た。
────────────────────
指定された20時の5分前。
私は学校からのメールで指定された場所へ足を運んだ。
普段、このフロアには生徒たちはいない。なぜならこの階には宿泊室しか無く、そこに生徒は泊まっていないからだ。
しかし、今日は違った景色があった。人の姿が散見できた。そしてそれらが別クラスの人間であると記憶から参照した。
──試験は別クラスと混合。
そして、各クラスに存在する狼でも見つけ合うのかもしれないと考えたが面白みのない考察だった為、却下した。
指定の部屋に着いた為、ノックをせずに入ると、1人の女性の姿があった。
クールな表情のままに私を見つめているDクラスの担任、茶柱佐枝。
特徴的なものは、資料が置いてある小さなテーブル。
3つ並べてある椅子とそれに座っている2人の生徒。安藤紗代、神崎隆二の姿があった。
「こんばんは」
私の態度にDクラスの担任は不快そうな様子を見せたが、教師としての役割を思いだしたのか説明を開始した。
「……では、これより特別試験の説明を行う。念のため言っておく、質問は適宜受け付けるが説明の邪魔にならないようにしてくれ」
冷淡で肩入れをしないと噂されている通り、私達から心理的距離を置くような態度だった。
彼女はこちらの様子を窺うようにこちら見回し、そして私と目が合った時。
その眼に怒りの感情が滲んだような気がした。
「今回の特別試験では、1年生全員を干支になぞらえた12のグループに分け、そのグループ内での試験を行う。試験の目的はシンキング能力を問うものとなっている」
シンキング。
考えること、思考することが求められる試験というわけだ。
「社会人にとって求められる基礎力は大きく分けて3つの種類がある。アクション、シンキング、そしてチームワークだ。
この3つの能力を備えてこそ、初めて優秀な大人になれる資格が得られる。先の無人島試験は、チームワークに比重が置かれた試験内容だった。しかし今回は『シンキング』、考え抜く事が必須な試験になる」
Dクラスの教師は話しつつも、手元に持っていた資料を捲った。
「この試験のグループは一つのクラスではなく、各クラス3人から5人ほどを集めて作られるものになる」
やはり、クラス混合。3人から5人という振れ幅は気になるが、現段階の情報では答えに辿り着く事は不可能だ。
「競い合ってきた他クラスと協力することに疑問を抱いているのかも知れないが、君たちの学校生活は始まったばかり。こういう試験もあるということを留意して欲しい」
試験の概要を説明し終えた彼女は一呼吸を置いた。
「ここまでで質問はないか?」
「はい!質問です」
「なんだ、安藤」
「なんでこの三人なんですか?他の人たちでも良い気がするんですけど…」
「君たちがグループを組む事は確定事項だ。好き勝手に変えることも出来ない」
「な、なるほど?」
グループを組むことが確定事項?何故だ、ランダムに決めたのならばそこまで変える事を忌避する理由も無い筈だ。
「質問いいですか?」
「…質問によるな」
「そこまで警戒しないでください。私はメンバーの変更権をポイントで購入したいだけですよ」
「…それは出来ない」
「何故ですか?」
「…それには答えられない」
このメンバーであることに意味があるらしい。この学校における答えられないは実質ルールに抵触する事の明言に等しい。
「君たちが配属されるグループは『辰』。ここにそのメンバーリストがある。これは退却時に返却させるので必要なのであればこの場で覚えておくように」
「らしいですよ、神崎くん」
「分かっている、今覚えているところだ」
渡されたハガキサイズの紙。そこにグループ名とメンバーの一覧が記載されている。
言葉通り、私達3人以外の生徒は他クラスだった。
Aクラス・葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春
Bクラス・安藤紗代 神崎隆二 竜崎正
Cクラス・小田拓海 鈴木英俊 園田正志 龍園翔
Dクラス・櫛田桔梗 平田洋介 堀北涼音
「あぁ。お前たちがAクラスになっていないが、これはクラスの入れ替えは長期休み中に
は行われないからだ。その為現時点のポイントに関係なくクラスが記載されている」
成程。私たちがAクラスになれるのは9月からのようだ。その言葉に神崎隆二は少しだけ残念そうにしたが、気を取り直して記憶し直し始めた。
「今回の試験では、AクラスからDクラスまでの関係性を一度フラットにしてみるといい。それが試験をクリアするための近道にも繋がるかもしれないぞ」
そう言って、Dクラスの担任は不敵な笑みを浮かべた。
「特別試験の各グループにおける結果は4通りしか存在しない。例外は無く必ず4つのどれかの結果になるようになっている。分かりやすいように結果を記したプリントも用意している。ただし、このプリントに関しても持ち出しや撮影などは禁止だ」
「神崎くん、分かってますよね」
「クソッ、覚える事が多い…」
書かれている基本ルールは以下の通りだった。
『夏季グループ別特別試験説明』
本試験では各グループに割り当てられた『優待者』を起点とした課題となる。
定められた方法で学校に解答することで、4つの結果のうち1つを必ず得ることになる。
〇試験開始当日午前8時に一斉にメールを送る。『優待者』に選ばれた者には同時にその事実を伝える。
〇試験の日程は明日から4日後の午後9時まで(1日の完全自由日を挟む)。
〇1日に2度、グループだけで所定の時間と部屋に集まり1時間の話し合いを行うこと。
〇話し合いの内容はグループの自主性に全てを委ねるものとする。
〇試験の解答は試験終了後、午後9時30分~午後10時までの間のみ優待者が誰であったかの答えを受け付ける。なお、解答は1人1回までとする。
〇解答は自分の携帯電話を使って所定のアドレスに送信することでのみ受け付ける。
〇『優待者』にはメールにて答えを送る権利が無い。
〇自身が配属された干支グループ以外への解答は全て無効とする。
これらが主なルールとして目立つように書かれていた。
さらに細かく、ルールの説明や禁止事項などについても記載されている。
そしてここからがその4つの定められた『結果』だ。
〇結果1
グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の解答が正解していた場合、グループ全員に50万ppを支給する。(優待者の所属するクラスメイトもそれぞれ同様のppを得る)
また、結果1に導いた際、優待者には50万ppではなく、100万ppを支給する。
〇結果2
優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、1人でも未解答や不正解があった場合、優待者には50万ppを支給する。
そして後述の2つの結果に関してのみ、試験中24時間いつでも回答を受け付けるものとする。
また試験終了30分後も同じく回答を受け付けるが、どちらの時間帯でも間違えばペナルティが発生する。
〇結果3
優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合。答えた生徒の所属クラスはクラスポイント(以降、cpとする)を50ポイント得ると同時に、正解者に50万pp支給する。
また優待者を見抜かれたクラスは逆に-50cpのペナルティを受ける。及びこの時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが成功した場合、答えを無効とし試験は続行となる。
〇結果4
優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場合。答えが間違った生徒が所属するクラスは-50cpのペナルティを受け、優待者は50万ppを得ると同時に優待者の所属するクラスは50cpを得る。
答えを間違えた時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラスメイトが不正解だった場合、答えを無効とし受け付けない。
…ここまで見て、一つの説が浮上した。
「あ、質問良いですか?」
「…言ってみろ」
「先ほど言ったメンバーが変更できないって話、優待者が関わっていますよね?」
「……」
「あ、もう答えなくていいです」
私は笑いを堪えられなかった。彼女は無表情のように見えたが、瞼が少し震えていた。
核心を突いたらしい。
「なんだ竜崎、何か言いたい事でもあるのか」
「いえ、何も」
優待者は法則性を持って定められている。
そしてこの試験で求められるシンキング、つまり生徒の表面的な情報で規則性を決めている。仮に成績や身体的特徴ならば時期によって変動するため法則が成立しなくなるリスクがある。
変動しない、もしくはしにくいもの。
「君たちは明日から午後1時、午後8時に指定された部屋に迎え。当日は部屋の前にグループ名の掛かれたプレートが掛けられている。初顔合わせの際には室内で必ず自己紹介をするように。室内に入ってからの退出は体調不良等の理由が無い限り認められない」
試験は四日間、そのうち一日は完全自由日。
つまり最大6回議論する時間が与えられると言う訳だ。
「そしてグループ内の優待者は学校側が公平性を期し、厳正に調整している。優待者に選ばれた、選ばれなかったに関わらず変更は一切受け付けない。また学校から送られてくるメールのコピー、削除、転送、改変等の行為はすべて禁止だ」
情報を整理しよう。
・優待者の法則によりメンバーを変更できないという情報。
1人変えただけで破綻するのだから、法則は各グループで完結していると導ける。
・優待者は公平性をもって調整。
これは各クラスに差が出ないよう各クラスの優待者を同数にしたという意味。そして各クラスの人数が異なる事の理由。
・法則性の仮説
情報としては一般的にグループ名に使用される事の少ない干支が挙げられる。
これに意味が無いのならば、アルファベットでも問題はない。だから干支を使うのには理由があると疑うべきだろう。
恐らく干支の順番が関係している、そしてシンキングというテーマから予測される五十音順若しくは出席番号順。
これらを照らし合わせれば答えは導ける。そう仮定して推定優待者である人間に声を掛けるとしよう。
「説明終わりました?」
「あぁ。以上だ」
「そうですか。なら神崎くんは終わりました?」
「もう覚えたぞ」
「成程、優秀ですね。では私たちは退出します」
「あれ、私忘れられてる?」
そう言い残し、私たちは部屋を後にする。一人女子生徒が慌てた様子で付いてきたが、無視した。
廊下への道にはちらほらと次の時間の生徒の姿が見えた。
私は一之瀬帆波からのメールと今の情報を照らし合わせつつも、神崎隆二に話しかける。
「明日、優待者が分かり次第クラス全員を集めましょう」
「分かった。場所は?」
「一之瀬さんと決めておいてください」
「あぁ」
「わぁ、会話にも置いてきぼりにされてる…」
何か話し声が聞こえたがそれも無視し、私は彼の返答に満足して頷いた。
彼は私が言いたい事を察するようになってきている、凄まじい成長速度だった。
私と神崎隆二と、女子生徒はそんな会話をしつつ自室に戻った。