それでは、どうぞご覧ください。
「なるほど……この少年が例の……」
ジークが杖の軍で生活するようになってから1ヶ月が経った頃、ジークはレミエールやベリオラと共にある人物のところに訪れていた。
「初めまして。レミエールから聞いていると思うが、私がサンブリンガーだ」
彼女はサンブリンガー……マルセルグループのCEOであり、虚狩りの1人である人物だ。
「は、初めまして、ジークといいます」
「……サンブリンガー先輩、もう少し表情豊かに」
「……今日は私が、君の今後のことについて説明させてもらう」
「よろしくお願いします。えっと……先輩?」
ジークがサンブリンガーのことをレミエールのように『先輩』と呼んだのを聞き……
「……レミエール、彼に何を教えたんだ?」
「え?先輩は先輩でしょ?」
「……まぁ、これから長い付き合いになる。他人行儀にされるよりはいいだろう」
サンブリンガーはレミエールに呆れながらも、ジークの力を制御するための計画の説明を始めた。
「まずは、君自身の中にいるエーテリアスの力を制御してもらう……君の話によれば、龍のエーテリアスを裂け目から出すことができるのだったか?」
「出す……というよりも、エーテリアスに襲われそうになったら、勝手に出てきて守ってくれるみたいな……」
「ふむ……なら、最初はその段階からだな」
「……」
ジークはその話を聞き、自身の力が暴走してしまうのを想像したのか、不安そうな表情になったが……
「安心してくださいジーク、たとえ不測の事態が起きようと、私たちがついていますから」
「そうそう!大船に乗ったつもりでいて!あ、でも無理は絶対ダメだよ?」
ベリオラとレミエールがそう声を掛けてくれた。
「……分かった。やってみるよ」
ジークがそう決意した後……
「あともう1つ――――制御訓練と平行して、私たちで君専用の装備を作る」
「装備……?」
「ちょ、ちょっと先輩!ジークに戦いは――――」
「装備といっても、基本は力の制御を補助させるためのものだ……ただ、もしジークが1人でホロウに迷い込んだ時の自衛手段も兼ねたものだと思ってもらえばいい。それに、そっちでも色々と教えているのだろう?」
「そ、それは……そうだけど……」
レミエールは心配そうな表情を浮かべた……実はレミエールやベリオラの方で、ある程度の戦闘技術はジーク本人の希望で教えている最中なのだ。ちなみに教えている2人曰く、その才能やセンスはずば抜けているらしい……。
「まぁ……そういう、ことなら……でも、基本的には私がジークのことを守るからね!」
ジークのことを後ろから抱き締めながら、そう宣言したのだ。そんなレミエールを見て……
「レミったら、すっかり過保護な姉ですね?」
「ほどほどにした方がいいと思うが……今は好きにさせておこう」
ベリオラは微笑みながら、サンブリンガーが呆れながらそう言うのだった。
◇
「さて……焦らないでいい、試しに出してみてくれ」
「分かったよ、先輩」
ジークとサンブリンガーの顔合わせと計画の説明が終わった後、ジークたちは早速ホロウの中での訓練を始めることにした。ジークの近くにはレミエール、ベリオラが待機しており、万が一暴走しても対応できるような体制が整っていた。
「……」
ジークは目をつむり、蛇龍のエーテリアスを出すことに意識を集中させる。それから数分後……
「!裂け目が――――」
「くるね……!」
ジークの背後に裂け目が出現したのだ。そして、その中から……
『GyAAAAAAAAAA!!』
『!?』
ジークの中にいるとされている紫の蛇龍が出現したのだ。
「これが……!」
「とてつもないプレッシャーですね……!」
蛇龍は裂け目から出ると、ジークの周りを飛び回っているだけで、今のところはレミエールたちに襲いかかろうとしている様子ではないようだった。
「よし……まずは第一段階成功だ。ジーク、調子はどうだ?」
サンブリンガーにそう訊かれたジークだったが……
「うっ……ぐぅ……!」
まだ力を制御しきれていないのか、胸の辺りを抑えて苦しそうにしていた……。
「ジーク?どうしたんですか?」
「先輩!ジークが……!」
「分かっている……!ジーク、エーテリアスを元に戻せるか?」
サンブリンガーにそう言われたジークは、苦しそうにしながらも……
「戻れ……!」
『GyAAAAAAAAAA!!』
蛇龍を裂け目へと戻すことに成功した。だが、その直後にジークは地面に倒れそうになってしまい……
「ジークっ!!」
それをレミエールがぎりぎりのところで受け止めた。
「ジーク大丈夫!?痛いところは?まだ苦しい?」
「だ、大丈夫、さっきよりはよくなったから」
「よ、良かったぁ……」
レミエールはそれを聞き、一先ずは安堵の表情を浮かべた。そこにベリオラとサンブリンガーが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?」
「うん、何とか……」
「今日はここまでにしよう……だが初日にしては、想定よりも早いスピードで前進している。この調子でいけば、ジークが力を完全に制御する日もそう遠くはないだろう」
「ホントに?」
レミエールがそう訊くと、サンブリンガーは静かに頷いた。その後、初日の制御訓練は終わり、ジークはレミエールやベリオラと共に杖の軍の本拠地へと戻っていった。
◇
「あなたが……あの鳥みたいなエーテリアスを倒したの?」
ホロウ・ザ・ヒーローの大会が行われているホロウの中で、青年は巨大な怪鳥のエーテリアスを倒した……が、この場のを去ろうとした時に、タイミング悪くリンたちが青年のいる場所にまで来てしまっていた……リンにそう訊かれた青年は、すぐさま音声を加工する装置のスイッチを入れ……
『……だとしたら?』
警戒した様子でそう聞き返したのだ。
「そ、そんなに警戒しないで欲しいな?ただ私は、お礼を言いたくて……」
『礼……?』
「あのエーテリアス、きっとこの大会に参加している人たちには倒せない難易度のやつだったから……犠牲者や怪我人が出る前に、倒してくれてありがとう」
どうやらリンたちは青年がドォーンでエーテリアスを倒した瞬間を目撃していたらしく、そこから青年のいる地点を予測してここまでやってきたのだ。
「あたしはリン、あなたは?」
『……』
リンに名前を訊かれた青年は、沈黙を貫き通そうとしていた。
「おい、こいつ黙ったままだぞ……?」
「もしかして……コミュ障な感じー?」
「ちょ、シーシィア!ご、ごめんね?全然、ハンドルネームとかでもいいから――――」
リンにそう言われた青年は……
『……ジーク』
一言、そう答えたのだ。
「じ、ジーク!?それって、ラミルの言っていた……」
『ラミル……?』
そのラミルという言葉に、青年――――ジークは思わず疑問符を浮かべる。
「えっと、それは――――」
「リンちゃん!」
「店長!」
「え?」
すると突然、リンの背後からエーテリアスが襲い掛かる……が、
『しっ!』
『!?』
ジークはブレイカムドォーンで、ビリーやシーシィアよりも早くそのエーテリアスのコアを一閃し、リンのことを守ったのだ。
「あ、ありがとう……」
『礼はいらない……それよりももう行くから』
そう言ってから、ジークはリンたちと別れようとしたが……
「待って!ジークってさ、キャロットは持ってる?」
『ない……それが?』
「それがって……」
ジークはなんてことないように、キャロットを持っていないことを口にした。ジークはあっさりと言っているが、キャロットはホロウの中の案内図のようなものであり、それがないとホロウという危険地帯で迷子になってしまうのだ。
「良かったらさ、私たちについて来ない?」
『……何で?』
「私たち、今から外に戻るところだからさ……ジークも一緒に来た方が絶対に安全だよ!」
その言葉を聞いたジークは、普通の人なら即ついていくところを何故か渋っていた……実を言うと、ジークはキャロット無しでも自身の感覚でホロウの中を進むことができ、さらにはエーテル侵蝕を受けないという特異体質を持っているのだ。そのため、結論から言えばリンたちについていく必要はないのだ……が、
『……分かった。今だけだよ』
キャロットなしでホロウを迷わず進めることや特異体質なのを知られてしまえば、厄介なことになると思ったのか、この場ではそう答えることにした。
「決まりだな!俺はビリーだ」
「あーしはシーシィア!よろしくねジーク君?」
『……よろしく』
ジークを加えたリンたちは、エーテリアスを警戒しながらホロウの出口を目指していく。
「ジークは参加者……ってわけじゃないよね?」
『参加者……?』
「ホロウ・ザ・ヒーロー、今このホロウ内で開催されている大会のことだよ。その反応だと、本当に参加者じゃないんだね……」
『へぇ……そんなのが……』
「でも今はアクシデントが重なっちゃってね……会場に戻るところなんだ」
『で、その途中にってわけか……』
そんなやり取りをしながらホロウの中を歩いていると……
「うわっ……またあったし……」
「こいつら、ここにもいんのか……」
ジークたちの目線の先には、何故か色褪せたエーテリアスが数体もいたのだ。そのエーテリアスは時間が止まったように動きを止めており、コアの部分には羽根が刺さっていた。すると……
『!?これは……』
「ジーク?」
『それに、あの羽根って……!』
ジークがエーテリアスたちを見た瞬間、激しく動揺し始めたのだ。
「お、おい?急にどうしたんだ?」
「まさかジーク君、もしかしてあのエーテリアスのこと何か知ってる感じだったり……?」
そんなジークの様子を見て、ビリーとシーシィアも戸惑いを見せていた。
「ねぇジーク、知っていることがあるなら教えて欲しいの」
『……』
リンがジークに知っていることを教えて欲しいと頼むが、ジークはリンの言葉が聞こえていないのか黙り込んだままでいた。すると……
『GyAAAAAAAAAA!!』
『!?』
そこに、色褪せていない通常のエーテリアスの群れが現れた。ビリーとシーシィアはすぐさま武器を構えるも……
『僕がやる――――』
「えっ?」
「お、おい!?」
ジークが目にも止まらぬ速さでエーテリアスたちに向かって駆け抜ける。そして、ブレイカムドォーンを双剣へと分離させると……
『GyA!?』
『遅いよ』
一瞬のうちにエーテリアスたちのコアを全て斬り裂き、消滅させてしまったのだ。
「まじやばぁ……今の全然見えなかったし……」
「お、俺もだぜ……一体、何者なんだよジークは……?」
ジークの早業に、今まで戦闘経験を多く積んできたシーシィアとビリーも驚きを隠せない様子でいた。リンもそれに見とれていたが……
『……さっさと先に進むよ』
「!あ、うん、今行く!」
ジークにそう声を掛けられ、
「この裂け目が出口だよ!」
「や、やっと着いた〜!」
エーテリアスを一蹴したジークとリンたちは、ホロウの出口である裂け目を発見した。
「ここまでありがとね、ジーク!」
『いや……じゃあ、またどこかで』
ジークはリンたちにそう言うと、足早に裂け目を通ろうとした……が、
「ま、待って!ジークはさ、ラミルって人のこと知らない?ピンク色の髪に黒い翼を持った人で――――」
リンは目の前のジークが、会場で会ったラミルが探しているジークなのかを確かめようとしていた。ジークはそれを聞き……
『悪いけど、少なくともそのラミルって名前の人は聞いたことがないよ……仮に知っていたとしても、会う資格なんてない』
「あっ!ちょっと待――――」
そう言い残し、ジークは今度こそ裂け目を通り、どこかに消えてしまったのだった……。
読んでくださり、ありがとうございます!
今回は初代虚狩りの1人であるサンブリンガーが登場しました。果たして、ジークは力を制御していくことができるのか……。
それでは、次回の話もどうぞよろしくお願いします。