アイズさんの脳を年上お兄さんでこんがり焼こう! 作:脳でバーベキュー
豊穣の女主人といえば、オラリオに存在する大人気の冒険者向けの酒場で、かつてオラリオの盾であったアストレア・ファミリアや現最大派閥のロキ・ファミリアが贔屓にしている店だ。
まあ、そういうこともあり、ロキ・ファミリアは遠征帰りの宴会を必ず豊穣の女主人で開いている。
そして通常どおり、今回も無事遠征を終えたロキ・ファミリアは宴会を開いていた。
だが、今回起きたイレギュラーについて、ロキ・ファミリアの幹部の一人であるティオナが触れた。
今回、遠征中に出現した酸を飛ばすモンスターについては、ファミリアのブレインであるフィンも明確な回答が出せずにいた。今回は不壊属性を所持しているメンバーがいたことで事なきを得たが、次回も同じ対応ができるかと言われたら否だ。・・・いや、今のアイズなら一人で討伐可能なのかもしれないが。
それに、遠征の帰りに遭遇したミノタウロスの挙動もおかしかった。
フィンはオラリオに新たな脅威が迫りつつあることを感じ取りながらも、今は生還した仲間たちとの時間を楽しむことを優先した。
そして各々酒が入り始め、デリカシーのない質問が飛び交いつつも楽しい時間を過ごしていたその時、アイズの前に座るベートが突然大笑いをし、大声でこう言った。
「おい、アイズ! そろそろあの話してやろうぜ」
全員、何の話か把握していなかったが、なんとなくよくない話だということは理解していた。
「あの話?」
「あれだって、帰る途中で逃したミノタウロス! 最後の一匹を始末したとかいうトマト
野郎!」
アイズはベートの話を聞きながらも、分かったような分かっていないような顔をしていた。アイズの微妙な表情のせいなのか、ベートの話は終わらない。
「それにだぜ、あのトマト野郎、助けられたのに叫びながらどっか行っちまって……うち
の姫様、助けた相手に逃げられてやんの!」
ベートの話を聞いていても、アイズの頭の中は彼との記憶で埋め尽くされていた。
もう会うことのできない彼。
尊敬していた彼。
大好きだった彼。
(……お酒を飲むと、いつも彼のことを思い出しちゃう……)
アイズは昔、お酒を飲んだ時の暴れっぷりから、ファミリアのほとんどに酒乱と認定されているが、実は酒乱は治ったのである。
彼が死んだ時にしこたま酒を飲んだ、副次的効果として。
ベートは自分の話にあまり反応しないアイズを見て、ついにこの場で聞いているであろうベル・クラネルの行動指針となる、ある言葉を発してしまう。
「雑魚じゃあアイズ・ヴァレンシュタインとは釣り合わねぇ」
その瞬間、酒場のある席でドンという音が鳴り、そのすぐ後に扉が開いて誰かが出ていった。
その後を従業員が追う。
冒険者たちが「食い逃げか?」と冷やかす中、ベートは狼人由来の優秀な動体視力で、偶然にもベルの顔を捉えてしまう。
ベートとて本人の前で笑い話にする気はなかったのか、苦虫を噛み潰したような表情になる。
そう、彼も悪人ではないのだ。ただ少し生意気で、けんかっ早く、酒が入っていただけ。
少々の気まずさが流れつつも、宴会はつつがなく進んでいった。
終盤にもなると完全に男女で分かれ、誰が誰を好きだの、俺のこのスキルが強いだの、くだらない話があちこちで飛び交うようになった。
時刻が深夜を回ろうとした頃、ロキ・ファミリアを気遣ってか他の客はほとんど帰り、酒場はほとんどロキ・ファミリアの貸し切りのような状態になっていた。
そのカウンターの一角で、アイズ、ティオネ、ティオナ、リヴェリア、そしてロキといった古株の女性陣が女子会をしていた。
彼女たちは第一級冒険者であれど年頃の女の子でもある。当然そういう話に発展するわけで――
「ねぇねぇ、アイズは好きな人とかいるの? まあ、あのクソ狼は論外として、好きじゃ
なくても気になってる人とか?」
ティオナが興味津々でアイズに聞く。
――それがアイズにとって最大の地雷だとも知らずに。
アイズの様子がおかしくなり、目から光は消え、苦しそうに息をし、うっすらと涙まで流している。
常に首につけているネックレスをすがるように抱え込み、深呼吸を繰り返している。
アイズの様子の変化を察したロキとリヴェリアが、アイズを何とか落ち着かせようとしているのを、他の二人は見ていることしかできなかった。
ティオナには何の悪気もなかったのだ。
それもそのはず、ティオナたちがロキ・ファミリアに加入した頃には、アイズはすでに落ち着いていた。
今この場にいないベートが加入してきた時だって、アイズは荒れていたものの、当初よりはかなり落ち着いていた。
ベートたちからすれば、アイズは狂ったようにモンスターを狩る戦闘狂にしか見えなかったのだから。
アイズを落ち着かせ、ティオナが持ち前の明るさでアイズと仲直りしている中、別のカウンターの一角でロキ、リヴェリア、酒場の主人であるミアが話していた。
「お宅の姫はまだ引きずってんのかい」
「まあ、当時よりはだいぶましになったけどな。当時はほんま見てられんかったで」
「でも、アストレア様が言うには恩恵は消えてないんだろう? それくらいは言ってやっ
てもいいじゃないのかい?」
「あんとき、アストレアも動揺してたんや。あとから追及しても、眷属の気配をかすかに感じ取れるとしか言ってなかったんや。それやったら『疾風』かもしれんやろ? ……それに、あんま言いたないが、下手に希望を与えるよりはましやろ」
「本当、どこほっつき歩いてんだかね。ウチのバカ息子は」
レオ・ローヴェルが消息を絶ったことは、ミアにとっても他人事ではなかった。
レオが衝動的に家を飛び出し、オラリオへ来て間もなかった頃、ミアにはよくしてもらったし、その後も交流を続け、実の親子のような関係になっていた。
お互い意地っ張りで表立って言うことはなかったが、それは紛れもない事実だろう。
『疾風』ことリュー・リオンを保護し、話を聞いた際、ミアも思うところがなかったわけではない。
それでも前を向き、無気力状態のリューに代わって、かつての伝手を使いレオの捜索をしたものだ。
かの『炎獅子』に置いて行かれた者たちは、それぞれが日々前を向こうとしている。
それでも誰一人として、彼の帰還を諦めることはできなかった。
なぜなら――
彼の恩恵は、今もなお消えていないのだから。
アイズ・ヴァレンシュタイン
Lv.5
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スキル
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《復讐姫》
《未完の憧憬》
《獅子の抱擁》
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