アイズさんの脳を年上お兄さんでこんがり焼こう! 作:脳でバーベキュー
ロキ・ファミリアのホーム、『黄昏の館』は朝早くから騒がしかった。
他の団員が各々のやりたいことをしている間、リヴェリアはアイズの着替えに付き合っていた。
もちろん、着替えくらいアイズ一人でできる。リヴェリアの存在意義はそこではない。
まぁ、つまり――
「ど、どうかな、リヴェリア。変じゃないかな」
そこには、顔を赤らめながらリヴェリアに相談するアイズ・ヴァレンシュタインがいた。
唐突に舞い降りた天使に脳をぶん殴られていたリヴェリアだが、なんとか再起動し、年長者の意地を見せる。
今、アイズが着ているのは、淡いクリーム色のワンピース。その上から薄い水色のカーディガンを羽織り、普段は下ろしたままの金髪も、今日は小さな白いリボンで後ろにまとめられている。足元もいつものブーツではなく、動きやすい茶色のショートブーツだ。
失礼だが、正直、普段の『剣姫』を知っている者が見たら気絶するような変わりっぷりである。
先ほどからアイズはそわそわと部屋を歩き回っている。
時間を気にしているのかと思うかもしれないが、今回のデート――もとい"おつかい"は、レオがホームまで迎えに来ることになっている。
こういうところまで完璧とは腹が立つ野郎だ、とリヴェリアは内心思う。
そもそも、なんでこんなことになったのか。
それはフィンの功績が大きい。
フィンはレオがオラリオに来たばかりの頃から親しくしている、いわば親友のような存在だ。
そんなフィンがレオにこう言ったのだ。
「アイズにそろそろギルドの買い出しを体験させたいんだけど、心配だからついて行ってくれない?」
おそらく、その時のフィンの思考速度はオラリオ一だっただろう、とリヴェリアは考えている。
まぁ、そんなことは置いておいて、そういう経緯があって今の状況があるわけだ。
リヴェリアはおもむろに懐を探り、財布を取り出す。その中から現金をいくらか取り出した。
その額は、子どもが遊びに使うには優に超える金額だった。
だが、ここは年長者としての務め。大切な末っ子が好きな男の子と遊びに行くのなら、それくらい出して当然であろう。
それを見て、一度はアイズも遠慮したものの、リヴェリアのものすごい熱量に押し切られ、結局受け取ってくれた。
そして、
「ありがとう。リヴェリア……ママ」
と一言。
その言葉はリヴェリアを狂わせた。
普段なら「誰がママだ」と軽く一蹴するところだが、我が子のように接してきたアイズから言われるのであれば、満更でもないリヴェリアであった。
しばらくアイズと話していると、フィンがアイズの部屋の扉を叩き、レオが到着したことを告げた。アイズはそれを聞くと、ぴたりと固まって動かなくなってしまった。
結局、フィンとリヴェリアが半ば引きずるようにして玄関まで連れて行く。玄関に近づくにつれ、アイズの顔はどんどん赤くなっていき、レオと対面した頃には、もう真っ赤な顔でうつむいていた。
そんなアイズを見てレオは
「服、似合ってますね」
と言ってアイズの手を引いていった。
二人が去り、ホームの扉が閉まった瞬間。
リヴェリアとフィンは悶絶し、血涙を流しながら床を叩いていた。
二人が考えていることは、おそらく同じだろう。
「「甘酸っぺえー!!」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ホームを離れて、商店街へ行くまでの間二人は仲良く話していた。アイズは最初の方は緊張していたものの、そこはさすがアイズ、気合で緊張を踏み倒し早くもレオとの会話を楽しんでいた。一応、今回の目的はロキファミリアのおつかいなのでアイズに買わなきゃいけないものを聞くとポーション系が多いことがわかったミアハ・ファミリアの運営する店に向かう。ディアンケヒト・ファミリアが医療系ファミリアの頂点であることは事実なのだが、彼らは治療を主としているのに比べてミアハ・ファミリアポーションなどの消耗品を主に扱っている。中には質がディアンケヒト・ファミリアより高いものも存在し、ロキファミリアは最近よく利用している。
店に入り、ポーションなどを必要数注文し、受け取り先を黄昏の館に指定する。その一連の動作を終えると、ミアハ・ファミリアの団員でもある店員が花を渡してきた。花の名前はローズマリー 。アイズは意味を理解すると、店員に一礼して店を去った。外ではレオが待っていて、アイズが戻ってきたのを確認すると次の場所まで先導してくれる。
その道すがら、アイズはアクセサリーを販売する露店に目を奪われた。レオはそんなアイズの様子を見てアイズの手を露店の方へと引いて行った。
「せっかくだから一個ずつ買っていきましょうか」
「……いいの?」
「はい。今日のおつかいの記念ということで」
露店には指輪や腕輪、耳飾りなど、色とりどりの装飾品が並んでいた。
アイズはしばらく店先を眺めていたが、その中の一つを見つけると足を止めた。
それは、小さな獅子を模した銀色のネックレス。
二つで一組になっており、片方には蒼い魔石、もう片方には紅い魔石が埋め込まれている。
「お目が高いね、お嬢ちゃん」
店主がにやりと笑う。
「そいつはヘルメス・ファミリア製の《双命の首飾り》だ。」
「双命?」
「二つで一つの魔道具さ。片方が完全に壊れれば、もう片方も砕ける。」
店主は二つの首飾りを持ち上げながら続ける。
「逆に言えば、どれだけ離れていても、片方が無事ならもう片方も決して壊れない。恋人や家族、親友なんかが記念によく買っていく代物だよ。」
「へぇ……面白いですね。」
レオは感心したように首飾りを眺める。
「アイズさん、これにします?」
「……うん。」
小さく頷くアイズに、レオは迷うことなく財布を取り出した。
「じゃあ、この二つください。」
「毎度あり!」
店主は笑いながら二つの首飾りを差し出す。
レオは紅い魔石の方を手に取り、蒼い魔石の首飾りをアイズへ差し出した。
「はい。」
「……ありがとう。」
アイズは両手でそれを受け取ると、壊れ物でも扱うように胸へ抱き寄せた。
レオはその様子を見て小さく笑う。
「そんなに大事にしなくても大丈夫ですよ。簡単には壊れませんから。」
「……うん。」
そう答えたアイズは、その場で首飾りを身につけた。
胸元で小さく揺れる銀の獅子。
「よく似合ってますよ。」
「……ありがとう。」
アイズもまた、胸元の首飾りをそっと握りしめ、小さく微笑む。
それだけで十分だった。
二人はその後も商店街を歩き回り、おつかいを済ませる合間に露店を覗き、甘い菓子を分け合い、他愛のない話を続けた。
その日一日を通して、アイズは何度も笑った。
その笑顔を見て、レオもまた自然と笑みを浮かべていた。
夕日がオラリオの街並みを茜色に染め始める頃。
「今日はありがとうございました。」
「……ううん。楽しかった。」
その短い返事に、レオは少し驚いたように目を丸くし、それから優しく笑う。
「それならよかったです。」
別れ際。
アイズは胸元の銀の獅子へそっと手を添えた。
今日という日を。
今日の思い出を。
忘れないように。
そんな願いを込めるように。
その願いは、何年経っても変わることはない。
どれだけ季節が巡ろうとも。
どれだけ涙を流そうとも。
彼女の胸元には、いつも銀の獅子が揺れていた。
次回からは話が動くかもしれないし、動かないかもしれない。絶対にエタる気はないので、気長に応援お願いします。
あと曇らせって難しいっすね。自分は曇らせ絶対晴らせたい派なんですけど、作る側になってみるとちょーむずいっす