アイズさんの脳を年上お兄さんでこんがり焼こう! 作:脳でバーベキュー
あぁ、そうさ。耐えられなかったんだよ。いくら憎くて、羨ましくて、眩しくて、大っ嫌いな姉さんでも……死んでほしくなかった。だから庇った。助けた。
……いや、もうやめよう。正直に言おう。理由なんてない。
姉さんに、生きていてほしかった。だから助けた。これで僕は、やっと本当の意味で姉さんを超えられた。守られる側から、守る側になれたんだ。人生の最後にこんなことが起きるなんて、本当にわからないもんだ。
あぁ……でも、アイズさんとの約束だけは守りたかったな。
あぁ、もう眠い。
姉さんを、頼みましたよ。リュー・リオン。
僕の、好敵手
意識が、深い闇へと沈んでいく。
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「返して! 返してよ! 私の、たった一人の弟なんだ! 返してよ!!」
レオは――私の弟は、私を守るため、その身を投げ出し、化け物に飲み込まれた。
返して、返してもらわなくちゃ。
弟なんだ。
私の、たった一人の家族。失ってはいけなかったもの。私の宝。
私の正義。
化け物へ魔法を放つ。今、この身に残るすべてを注ぎ込んだ渾身の一撃。
されど、化け物は一切ひるまない。
魔法を浴びながらなお前へ進み、その凶悪な爪を私へと振るう。
次の瞬間、化け物の爪が私の腹を貫いた。
あぁ。
弟の命と引き換えにもらった、この身体なのに。
でも――ここで死ねば、弟のもとへ行ける。向こうで、またレオと会える。
……それでも。
リューのために。せめて、この化け物の装甲殻だけは剥がさなければならない。
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私は動けなかった。足が動かない。叫びたいのに、喉からは何も出てこない。目の前では、レオが化け物に飲み込まれた。あれほど強かった彼が。いつも余裕そうに笑っていた彼が。私をライバルと呼び続けた彼が。あまりにも、あっけなく。
「……レオ?」
声にならない。現実だと認めたくなかった。
その時、アリーゼの叫びがダンジョンに響いた。
「返して! 返してよ! 私のたった一人の弟なんだ! 返してよ!!」
その叫びは団長としてのものではなかった。ただ弟を失った、一人の姉の悲痛な叫びだった。私は初めて見た。いつも誰よりも前を向き、誰よりも正義を貫いてきたアリーゼ団長が、泣き叫ぶ姿を。けれど、その涙は長く続かなかった。
アリーゼ団長は涙を拭うこともなく立ち上がる。腹から血を流しながら、それでも剣を握る手は震えていない。その瞳に宿るのは絶望。いや、絶望を呑み込んだ覚悟だった。
「リオン。」
「必ず、生きなさい。」
その一言だけだった。
嫌だった。
嫌だった。
嫌だった。
もう誰も失いたくなかった。
「嫌です!」
「もう誰も失いたくありません!」
「団長も!」
「レオも!」
「誰も死んでほしくありません!」
私の叫びはダンジョンの壁へ何度も反響する。それでもアリーゼ団長は困ったように笑うだけだった。その笑顔が、あまりにも優しくて。あまりにも穏やかで。あまりにも覚悟を決めた人間の笑顔で。私は理解してしまった。この人はもう、自分が生きて帰ることを考えていない。私だけを生かそうとしている。
胸が苦しい。
息ができない。
体が震える。
嫌だ。
嫌だ。
こんな終わり方は嫌だ。
でも。
団長はもう前だけを見ていた。
その背中は小さく見えるのに、どうしようもないほど大きかった。
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アリーゼは静かに息を吐いた。腹を貫かれ、視界は霞む。一歩踏み出すたびに血が地面を濡らしていく。それでも足は止まらない。止めるわけにはいかなかった。ここで自分が止まれば、リューが死ぬ。レオが命を懸けて繋いだ未来が途切れる。
だから、前へ。
「――来なさい」
その一言とともに化け物が地を蹴る。
速い。
目で追うことすら困難な一撃。それでもアリーゼは躱さない。剣を振るう。防ぐためではない。その一瞬でも、化け物の動きを止めるために。
鈍い衝撃が全身を駆け抜ける。骨が軋み、腕が悲鳴を上げる。それでも剣は離さない。後ろには、守るべき仲間がいる。
「アストレア様……」
震える声で祈る。
「どうか……これが正義であると、言ってください」
返事はない。当然だ。神は迷う者に答えを与えない。だから、自分で決めるしかない。
剣を握る力を強める。
「私は、アストレア・ファミリア団長、アリーゼ・ローヴェル」
「最後まで、正義を貫きます」
体内に残る魔力を一滴残らず搾り取る。命すら燃料へと変える
紅蓮の炎が剣を包み込み、赤き輝きが私に最後の力を与えてくれる。ダンジョンの壁が軋み、化け物が咆哮する。
ならば、なおさら。
「リュー!」
叫ぶ。
「前だけを見なさい!」
「生きなさい!」
「あなたの正義を――貫きなさい!」
もう迷いはなかった。正義とは全員を救うことではない。最後の一人に希望を託すこともまた、正義なのだと。
「――《アルヴェリア》!!」
紅蓮が世界を埋め尽くした。
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熱い。
肌が焼けるような熱風が吹き荒れる。視界は紅蓮の炎に染まり、耳に届くのは轟音だけ。それでも私は目を逸らさなかった。逸らせなかった。炎の向こうで、一人の少女が笑っていたから。
アリーゼ・ローヴェル。
私たちの団長。
誰よりも正義を信じ、誰よりも仲間を愛した人。その命を燃やしながら、なお前へ進んでいる。
「団長……!」
喉が張り裂けるほど叫ぶ。返事はない。返ってくるのは、化け物の咆哮だけだった。
そして――
パキッ。
乾いた音が響く。まるで世界に一本の亀裂が入ったような音だった。化け物を覆っていた装甲殻に一本の亀裂が走る。
次の瞬間。
炎に耐えきれなくなった装甲殻が音を立てて崩れ落ちた。
「……!」
剥がれた。
ついに。あれほど何をしても傷一つつかなかった装甲殻が。アリーゼが、命を燃やして剥がした。私は震える手で細剣を握り直す。炎の向こうでは、なおも団長が立っている。もう限界なのは誰の目にも明らかだった。それでも倒れない。私を生かすためだけに。装甲殻は剥がれた。
レオが命を懸けて繋ぎ。
アリーゼ団長が命を燃やして切り開いた。
ならば――
私が応えなければならない。
涙で滲む視界のまま、静かに息を吸う。
そして、詠唱を紡ぐ
今は遠き森の空
無窮の夜天に鏤む無限の星々
愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を
炎の向こうで、アリーゼ団長が笑っていた。その笑顔が胸を締め付ける。
それでも詠唱は止めない。
止めてはいけない。
汝を見捨てし者に光の慈悲を
来れ、さすらう風、流浪の旅人
風が集まる。魔力が渦を巻く。ダンジョンの空気そのものが私の声に応えるように震え始める。化け物がこちらを向く。
間に合わない。
そう思った。しかし、その進路を遮るように炎の中から一人の少女が踏み出した。
アリーゼ・ローヴェル。
その背中は小さく。
けれど、誰よりも大きく見えた。
私は最後の一節を紡ぐ。
空を渡り、荒野を駆け、何物よりも疾く走れ――
涙が頬を伝う。
団長。
レオ。
ライラ。
輝夜。
みんな。
どうか、この一撃に。
星屑の光を宿し敵を討て
「――ルミノス・ウィンド!!」
無数の星を宿した暴風が解き放たれる。
星光を纏った風は一直線に駆け抜け、アリーゼが命を賭して剥がした装甲殻の内側へとつき刺さった。
それは、アストレア・ファミリア最後の正義だった。
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されど、その化け物、通常の生き物にあらず。
星光を纏った暴風は確かにその身を穿った。
装甲を失った肉体を抉り、鮮血を撒き散らしながら化け物を吹き飛ばす。
初めてだった。
あの化け物が、苦悶の咆哮を上げたのは。
その双眸が、初めて私を敵として捉えたのは。
そして――次の瞬間。
化け物は戦うことをやめた。
勝てないと悟ったのか。
それとも、本能がこの一撃を「危険」と判断したのか。
奴は一切の躊躇なく身を翻し、砕けた壁を蹴って闇の奥へと飛び去った。
追えない。
追う力など、もう残ってはいなかった。
残されたのは、静寂だけ。
血の匂いだけが、ダンジョンに濃く漂っていた。
ちなみにレオ君は今じゃが丸くんの中でがち気絶をかましています。
戦闘シーンとか感傷的なシーンって難しいですね。もう自分で見返しても改行の多さに驚きました。
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