世界が滅びても、俺の安全とスローライフが最優先だ 作:最高司祭アドミニストレータ
皆さんどうもごきげんよう!
私は不良少女のアレックス…ではなく、不良少女ぶってるただの女の子だ。制服を着崩してはいるけれど、中身は全く不良要素なんてない。
善良でキュートで、とっても頼りになる世界一ビューティフルな美少女アレックスちゃんである。はいそこ、異論は認めないからね。
それにしても、だ。
アリスちゃんという小さな女の子とそのお父さんを救出した私たちは、リカさんという人のマンションからハンヴィーを拝借して、見事に増水した河川を渡り切ったわけだが。
まさかあのゴツい軍用車両が、そのままスイスイと水の上を進む『水陸両用』仕様だったなんて…心底驚いた。思わず「おっふ」と変な声が出そうになった案件である。
強力な銃器が山ほど揃っていたことといい、あの車といい、静香先生のお友達は本当に凄い人なんだと改めて分からされてしまった。
ああ、もちろん「分からされて」というのは決して薄い本的な意味合いではないので悪しからず。純粋なリスペクトだ。
さて、現在の私たち。
自然の要素しかない、少し硬めの土が広がる安全そうな河川敷のような場所にハンヴィーを停め、周囲を警戒しているところだ。
警戒といっても、私は武器を構えるのではなく、どちらかというと周囲を見回すほうに徹している。ざっと見たところ、嫌な唸り声をあげる『奴ら』の姿は確認できない。ここなら、少しだけ一息つけそうだ。
そんな静寂の中、不意に小さな声が聞こえた。
「お、お兄ちゃん。その、あ、あのね…」
見ると、アリスちゃんが顔を真っ赤にして、もじもじとしながら自分の下衣のあたりを両手で押さえている。
その仕草と切羽詰まった表情を見れば、どのようなピンチを迎えているのかは一目瞭然だった。子供にとって、我慢の限界は常に突然やってくるものなのだ。おトイレじゃないのは確かです。
「えっ……あ、アリスちゃん? どうした? どこか痛いのか…って、ああっ!?」
どうすればいいんだろうと一瞬固まった孝だったが、あからさまに目を泳がせた。
「ご、ごめん! 見てない、俺は何も見てないから!」
コムロは両手で顔を覆い、ぎゅっと目を閉じながら、必死に紳士的な対応を見せようと右往左往している。
「コムロ、手伝ってくれ」
横から、コータがとんでもないパスを放り投げてきた。お前、この状況でアリスちゃんをコムロに渡そうとするのか。
「分かっ…た!? いや、分かるか! 俺はどうすればいいんだよ!」
初々しいというか、テンパりすぎである。頼りになるリーダー格も、こういう日常的なトラブルにはめっぽう弱いらしい。
「もう、二人ともうるさいわね。あたしが見るから、向こう向いてなさい!」
見かねた麗が、ため息をつきながらアリスちゃんの手を優しく引いた。
「アリスちゃん、こっちよ。お姉ちゃんが一緒に行ってあげるからね」
麗のその言葉を合図に、女子陣はハンヴィーの陰や物陰を利用して、本格的な着替えタイムへと突入することになった。
正直、それは正解だと思う。
なにせ、私たちのグループには、服と呼んでよいのか怪しい格好の人物が一名混ざっているのだ。そう、毒島冴子先輩である。
彼女は先ほどのゴタゴタの中で、なぜか裸の上に直接エプロンしか身に纏っていないという、破壊力抜群の出で立ちになっていた。
同じ女子の目線から見ても目のやり場に困るので、とっとと制服なり実用的な服に着替えやがれください、と心の中で強く念じていたところだ。
そんな女子たちの着替えの準備が進む中、ひどく恐縮した様子で声を上げてきた大人が一人いた。
アリスちゃんのお父さんであり、新聞記者をしているという男性だ。
「あ、あの。流石に私は…いくらアリスの父親とはいえ、うら若き女性の皆様と同じ場所で着替えたりするのは、色々と申し訳ないというか、気まずいというか…」
彼は両手を振りながら、あからさまに視線を逸らしてオドオドしている。大人の男性としての常識と配慮がしっかり機能している証拠だ。
そんな彼の常識を、我がグループの誇る天然の守護神が軽々と打ち砕いた。
「えぇ〜? いいじゃないですかぁ〜」
静香先生が悪気など微塵もない、ふんわりとした笑顔でアリス父に近づく。
「こんな時ですし、親子一緒にって珍しくないですし〜。気にせず一緒にお着替えしましょうよぉ〜」
「い、いや! しかしですね! 万が一私の視線が皆様の…その、お肌などに触れてしまった日には、つ、妻に殺されるかもしれませんし…!」
アリス父は必死に抵抗しているが、その顔にはどこか「満更でもない自分がいる」という葛藤の冷や汗が浮かんでいる。
奥さんを言い訳にしているが、静香先生のようなナイスバディにそんな無防備な提案をされて、心が揺れない健全な成人男性などいないだろう。
私はそっと目を細めて、大人の気まずいコメディ劇場を眺めていた。
そんなこんなで、慌ただしい着替えは無事に完了した。
アリスちゃん以外の女子たちは、実用的でありながらどこか洗練されたセクシーな格好に身を包んでいる。
まあ、冴子先輩がエプロン一丁という反則級の姿じゃなくなっただけでも、よしとしよう。お姉さんたちがどのようなお洒落で魅惑的な格好をしているかは、想像にお任せするとして省略する。
ただ、ライフルを構えながら動きやすい服に身を包んだ麗は、素直にカッコよくてセクシーだなと、私でも「おっふ」と感心してしまうレベルだった。
私も一通り身だしなみを整え、皆の集まる場所へと戻ってきた。その私の姿を見たコムロが、ふっと息を吐いて声をかけてきた。
「アレックス、お前…自分で着替えられたんだな…」
安堵の混じったような、どこか変な感心の仕方に私は首を傾げた。
「は? 当たり前だろ。不良だって服くらい自分で着替えるよ」
すると、横からコータが慌てたように口を挟んできた。
「しっ! 失礼だよコムロ。それはアレックスさんが悪いんじゃなくて、君が『ひっく! お着替え〜』って言いながら酔っ払って服を脱ごうとしてた静香先生のダメな場面しか見てないから、そういう偏見を持ってるだけだよ!」
的外れなフォローである。コータ、お前は本当に静香先生のダメなところをよく観察しているな。
「ふっ、まあいい。やはり私はどう見ても美少女なのだな」
私は一つ咳払いをして、ドヤ顔を決めた。
下も上も学校指定の制服であることに変わりはないが、インナーのシャツが深緑色のTシャツに変わっている。これだけでもグッとワイルドでビューティフルな印象になるはずだ。
…おっといけない。制服のジャケットの袖を通し忘れて、肩に引っかけたままだった。私は慌ててジャケットに袖を通し、ビシッと襟を正した。
その一連の私の動作を、すっきりとした顔で戻ってきたアリスちゃんが、じっと見つめていた。ふっ、分かるか少女よ。この完璧n──
「お兄ちゃんたち、アレックスお姉ちゃんのこと褒めてないと思うよ!」
「ぐふっ!?」
私は見えない矢で胸を射抜かれた気分になった。
「こら、アリスちゃん! 思ってても、そういうことは口にしないの!」
麗が慌ててアリスちゃんを窘めているが、その顔は完全に「アリスちゃんの言う通りだわ」と同意してしまっている。フォローになっていないぞ、麗。
「あ、あはは…」
アリス父が、大人の余裕を見せようとしつつも、気まずさを誤魔化すように乾いた苦笑いを漏らしている。
現実は不公平である。
可愛い女の子がちょっとドヤ顔をしただけで、なぜこんなに冷ややかな視線を向けられなければならないのか。私は少しだけ、鼻の奥がツンとするのを感じた。グスン。
そんな和やかな(?)空気を引き裂くように、高城沙耶がキリッとした表情で前に出た。
「男子2人! それとアレックスも! 周辺の安全確保!」
彼女の号令は、私たちがまだサバイバルの最中にいることを思い出させる。
「イエス・マム!」
コータが元気に敬礼し、愛銃を構えて即座に警戒態勢に入った。
コムロもショットガンを握り直し、少しだけ落ち込んでいる私に向かって、ポンと肩を叩いた。
「元気出せよ、アレックス」
すぅ…
あとで覚えてろよォォォ!!