フィンレーベン 千年図書館の魔法使い   作:魔宮ことな

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……よ、予想以上です。
昨日、一話だけ投稿したオリジナル小説なのに、UA66、お気に入りが5件もアルノ!?
ありがとうございます!
二次創作ではなかったので、UAが10行けばいいなーって思ってました。

早くお見せしたくなったので、投稿します!
プロットは完成してるけど、二話しかストックないよ……。



第二話 ランクアップは計画的に

 思い立ったが吉日、という言葉が前世にはあった。

 この世界に同じ言い回しがあるかは知らないが、世界が違っても人間は同じはずだ。前世に魔力なかったけど。

 

 魔法使いになるため、レントはその晩から早速、魔力感知の修行を始めることにした。

 場所は寝床にしている資材置き場の小部屋。掃除と引き換えに借りた、埃と羊皮紙の匂いのする三畳ほどの空間である。

 修行の手引きは昼のうちに読み込んである。『魔力感知入門 改訂七版』によれば、手順は以下の通りだ。

 

 一、静かな場所で目を閉じ、呼吸を整える。

 二、体の内側に意識を向ける。

 三、そこにある「熱のようなもの」を探す。

 

 以上である。

 ……説明が雑では?

 三行目に至っては「熱のようなもの」だ。改訂を七回重ねて、この表現である。八回目の改訂に期待したい。

 だが読み進めるうちに、雑になってしまう事情も分かってきた。

 魔力は音もなく、触れもしないのに、修行前だと見ることができない。つまり、教える側が自分の感覚をそのまま言葉にするのは難しいのだ。

 だから最後は根性論めいた記述になりやすい。「諦めずに続ければ、ある日ふと分かる」。

 このふと分かるまでの期間が、才能と呼ばれるらしい。

 平均で半年。早い者は三月。遅い者は数年。そして一生、魔力を見つけられない者も珍しくないという。魔法使いへの道は、入り口からして狭き門だった。

 レントは寝床の上で足を組み、目を閉じ、意識を内側へ向けた。

 ……あった。

 三秒で見つかったんだけど。

 といっても、生まれつき見えたモノが、やはり魔力だったのである。

 相変わらず、淡く熱を持つ魔力が、自らの内に秘められている。そして、湯気のように立ちのぼって体外に消えていく。

 本の記述によると、魔力とは魂から生まれ、全身を巡るモノである。

 間違いない。これだ。

 半年かかる才能の壁を、レントはすでに越えてしまっていた。

 

「ずるいじゃないか⁉︎」

 

 そんな魔法使いの声が聞こえた。もちろん気のせいである。

 

 もっとも、世の中そう甘くはない。

 感知の次は操作、魔力を自分の意思で動かす段階に入る。

 見えることと、動かせることは、別の話なのだ。

 例えば、自分の内臓が透けて見えたところで、内臓を意のままに動かせるわけではない。あれは勝手に動くものだ。魔力も似たようなもので、魂から生まれ、勝手に全身へ染みて、体外に消えていく。この流れの、どこに手を加えればいいのか。

 

 レントは早くも壁に――ぶつからなかった。

 暇さえあれば遊び半分でやっていた魔力操作のおかげで、この壁もまたあってないようなものだった。

 レントが魔力をまったく動かせずその扱いに苦労していた頃は、魔力を無理に動かそうとしてしまっていたが、今のように体内で魔力の細い通り道を作るイメージを固めると魔力は効率的に流れていく。

 この感知と操作。二つが形になれば、ランク零――見習い魔法使いの誕生である。

 

 

 

 修行がレントの日課になった。

 朝は図書館で働き、昼に写本とノートを作って売り、夕方から好きな本を読み、夜になると魔力量を増やしたり、魔力を操作したりする修行を行った。

 我ながら健全な生活である。前世の社会人時代より規則正しいのはどうかと思う。いやスマホがなくてやることないだけだが。

 

 ちなみに一度、夜の見回りに来た例の初老の職員と目が合ったことがある。

 暗い小部屋で、少年が一人、目を閉じて微動だにせず座っている図である。傍から見れば相当に不気味な光景だった。

 職員に怪訝そうな顔をされ、声をかけられた。

 

 「……何をしてる」

 「瞑想です。魔法使いを目指すことにしたので」

 「……床に直に座るな。体を壊す」

 

 ぶっきらぼうにそれだけ言って、職員は去っていった。

 翌朝、小部屋の戸の前に、古い毛布が畳んで置いてあった。

 無愛想な態度の裏には、素直になれない不器用さが隠れているのかもしれない。

 

 ついでに、商売の方でも修行が役立った。

 自分の経験を踏まえて『魔力感知入門』のまとめノートを作ってみたところ、これが受験生に飛ぶように売れたのだ。根性論の本しかなかったので少し自分の経験を足したら、本より感覚の説明が分かりやすかったらしい。

 なお、書いた本人は受験生ですらないが。

 

 そして――売れすぎてしまったのである。

 ある日、常連の学生が声を潜めて聞いてきた。

 

 「なあ。これ書いたの、お前だよな」

 「はい、そうですが」

 「変なことを聞くが……お前、実は百歳越えの教授だったりしない?」

 「……えっ、どう見ても子供じゃないですか」

 「……それもそうか。いや、説明が上手すぎて、教員の間で『誰が書いたんだ』って話になってるらしいんだよ」

 「……はい?」

 「図書館に住んでる教授が書いたって噂だぜ」

 

 ……教授なんていません。住んでるのは十一歳の無職です。

 どこの誰が言い出したのか知らないが、ただの笑い話の噂が消えるのにそう時間はかからないはずだ。レントがまた何かしなければその通りである。

 

 

 

 図書館一階、南東側の隅。

 決まってその時間になると、少女がいつもの席で本のページをめくっていた。

 歳はレントと変わらないくらいで、銀髪の物静かな少女である。天道魔塔の学生服をまとった姿から、受験生ではなく魔塔の学生のようだ。

 といっても、その少女をことさら気にしてるわけじゃない。

 ただレントが夕方の読書に使っている席の、一つ隣が少女の席だった。

 本を読むなら、人目につかない隅のほうが落ち着ける。それだけの話である。

 ――けれど、気になることが一つだけあった。

 少女の顔色である。

 見ようとしなくても、隣にいれば視界の端に入ってしまうその横顔には、隠しきれない疲労の色が浮かんでいた。

 とはいえ、他人の事情をあれこれ詮索する趣味はない。

 少女は話しかけてこなかったし、レントも話しかけるつもりはなかった。

 互いに干渉せず、ページをめくる音だけが、静かな空間に響いていた。

 ……これが、意外に悪くなかった。

 もともと他人のいる場所ではどうしても気を張ってしまうレントだが、この少女は隣にいても本の内容が遮られることなくそのまま頭に入ってくる。むしろ一人のときより集中できているようにすら思えた。

 

 そんな関係が数ヶ月続いたある日。

 本棚の前で、一冊の本を挟んで伸びた二人の手が、思いがけず重なった。

 『東方モンスター図鑑・幻獣篇』。よりにもよって図書館でも指折りの実用性がない本であった。試験に出るわけでもなければ、金になるわけでもない。今では滅多に見られない珍しいモンスターが載っているだけの本である。

 レントと少女は互いにそっと手を戻したが、少女は視線をレントの顔へと向け、意外そうに目を丸くした。

 

 「あなたも、この本がお好きなんですか?」

 「……いえ、まだ読んだことがなくて」

 「そうですか。私は五回読んでいるので、お先にどうぞ」

 

 少女はほんの少しだけ得意げな顔をして、本を譲ってくれた。

 ……なぜか負けた気がする。

 

 

 「五回も読んで、飽きませんか?」

 「飽きません。読むたびに、新しい発見があったり、解釈が変わったりするので」

 「……なるほど」

 

 良書は読むたびに別の顔を見せるが、レントは良書を一冊でも多く読みたいと思っているので、それほど読み返すことはしてこなかった。

 少女の名前はエリシアというらしい。

 それ以上の会話は特になく、翌日からも二人は無言で隣り合って本を読んだ。ただ、読み終わった本を机の端に置いておくと、相手がそれを手に取ることがある。そんなやりとりが、いつの間にか増えていた。

 友人と呼べるのかどうかは、よく分からない。

 だが少なくとも、この世界に来て初めてできた、司書でも客でもない知り合いであった。

 

 余談になるが幻獣篇を読み終えた日、レントが本を先に譲ってくれたお礼をエリシアに伝えたら「どのページが面白かったのですか」と聞かれた。それにしばらく考え込んで固まってしまい、少し困った顔をされた。会話とは難しいものである。

 

 後日、もう六回目となる幻獣篇をエリシアが読み返すと、対抗したわけではないが、その翌週にレントも二回目を読んだ。

 七回目と三回目が始まったあたりで、顔馴染みの司書から「その本、いっそお二人で買い取ります?」という声が飛んできた。

 持ち出し禁止では、とレントが真顔で返したら「冗談ですよ」と笑われた。司書にエリシアとの関係をいじられたようだ。

 羨ましそうに見ていますが、あなたの近くにもいますよね。でも気づいてないか。

 

 

 

 レントの魔力感知と操作は形になっているが、問題は量である。

 魔力の量を増やす方法は、瞑想による育成が基本だ。魂から生まれる魔力を体内で練り、巡らせ、魔力の器そのものを少しずつ広げていく。地味だがやれば確実に増えるので、貯金のようにこつこつ積み立てるしかない。

 一年が過ぎる頃には、器の大きさが限界まで広がってきたのが分かった。

 そして、その先にある壁も。

 器の魔力がこの一線を越えたとき、器そのものが一段大きく作り替えられる――そういう予感めいた確信があった。

 おそらく、これが最初のランクアップ。ランク零から、ランク一への壁である。

 あとは魔力を増やし続けて、壁を押し破るだけ。魔法使いの一員となるまで、あと一歩である。

 やった、と喜びかけて。

 レントはふと、以前読んだ本の内容を思い出した。

 ――幼くしてランクアップを果たした者は、その若き肉体のまま長き時を生きることとなる。

 ある天才魔法使いの逸話だ。九歳で最初のランクアップに至ったその人物は、以後もランクアップを重ね続けた結果、外見が九歳のまま千年を生きたという。

 本人が良ければそれでいい話ではある、が。

 レントは自分の手を見た。十二歳の、小さな手である。

 ……今、壁を越えたらどうなる?

 老化の停止とは、つまり成長が止まることでもある。

 ランクアップを重ねれば、この十二歳の体のまま、数百年を過ごす可能性がある。

 永遠の十二歳だ。

 

 「…………」

 

 レントは静かに瞑想を中断した。

 千年の読書生活を、この身長でおくるのは断固としてお断りである。本棚の上段に、一生梯子が必要になってしまう。

 とはいえ、修行を止める気もないが。

 幸い、すぐに妙案が浮かんだ。

 魔力量を壁の手前で維持したまま、操作だけを鍛えればいい。

 魔力量を一定に保ち、精度を磨く。ランクアップの引き金になるのは量なのだから、量さえ増やさなければ、壁を越えてしまうことはないだろう。

 結果として、レントの魔力操作の精度は、幼少期に加えて、この時期にも異常な勢いで磨かれることになった。

 のちに彼の持ち味となる異常な魔力効率は、「身長が惜しかった」という、俗な理由で生まれたのである。

 

 

 

 十三歳の誕生日が来た。

 といっても正確な誕生日は実のところ曖昧なのだが、レントは家を出た日を区切りとして誕生日に決めている。あの日が、二度目の人生の本当の始まりだと思っている。

 その晩、レントはいつもの小部屋で足を組み、最後の確認をしていた。

 身長は百六十センチに届いた。二年前から頭一つ分は伸びた計算になる。

 正直に言えば、あと二年待ちたい。あと二年あれば百七十も夢ではない。前世の自分は超えていたのだ。これでも妥協している。

 でも、この探求心を抑えることができなかった。

 図書館の二階から上には、まだ見ぬ魔導書の山が眠っているが、ランク零の見習いのままでは、そこに手が届くことはない。

 この二年、言葉だけ知っている魔法をどれほど想像で済ませてきたことか、早く魔法を使いたい。それにどこまで魔法使いとして高みに登れるのか、試してみたい。

 身長と、未知。

 天秤にかけて、未知が勝った。

 探求を続ける一人の魔法使いとしてここで足踏みし続けるわけにはいかなかった。

 もっとも身長は、この瞬間から足踏するのだが。

 

 レントは深く息を吸い――練り上げた魔力を、一気に器へ流し込んだ。

 瞬間、壁を越えた器が砕ける――のではなく、広がった。まるで内側から作り替えられるような、熱くて、それでいて静かな感覚。魂から湧き出す魔力の質そのものが変わったといえるだろう。

 そして、じわじわと実感が追いついてくる。

 ……これで寿命が、十年延びた。

 読むのに千年以上かかる図書館の、十年分である。

 まだまだ先は長いが、人生で読める本が確実に増えたのだ。

 レントはそっと拳を握り、つぶやいた。

 

「……悪くない」

 

 これでランク一。魔法使いの、端くれだ。

 

 

 

 数日後。

 レントは天道魔塔の掲示板の前に立っていた。

 貼り出されているのは、入学試験の案内である。

 図書館一階の本で必要なものはあらかた読んだ。いや、正確には一階全体のごく一部にすぎないのだが、ランク一までの魔力育成に関わる本なら読み尽くした。

 とはいえ、この階にあるのは、あくまで外部公開用――言ってしまえば、入り口の知識だ。

 その先は、二階より上にある。

 そしてそこに行くなら、天道魔塔の一員となってランクを上げないといけない。

 つまり、本の続きを読むには、入学するしかないのである。

 受験料は、図書館の給金や写本とノートの売上で賄える。学力については、受験生に教材を売っている側なのだから、今更確かめるまでもない。

 

 「なあ、『図書館のノート売り』の子、今年受けるんだって」

 「え、あの子まだ受けてなかったの……?」

 

 背後で受験生らしき二人組の会話が聞こえたけど、きっと聞き間違いだ。

 

 

 

 夕方、いつもの図書館の席で、レントは隣の少女に告げた。

 

 「来月の入学試験、受けることにした」

 「……そうですか」

 

 エリシアは読みかけの本から顔を上げ、少しの間レントを見ると、口元をわずかにほころばせた。

 

 「では、来年から二階でもご一緒できますね」

 「……受かれば、な」

 「受かりますよ。あなたのノートで勉強した人たちが、受かっているんですから」

 

 自分を応援してくれる人がいることを、レントは初めて知った。

 それにエリシアの顔色が、ほんの一瞬だけ明るくなった気がした。

 

 

 

 十一歳で家を追い出されて、二年。

 寝床と仕事を見つけ、商売を覚え、魔法使いになって、本を楽しめる仲間が一人できた。

 次は、入学試験だ。

 レントは試験日までノートを売りつけていた。学費が必要なのである。




五話まで書いてたけど、面白くなくて2回くらい全部消しちゃった……。
書きなおして投稿してますー。

毎日投稿されている皆様(レベル99)におかれましては、信じられない思いでいっぱいです。
……わたしには無理だったよ。
休日をすべてあてて、一話かけるかどうかってレベルですが、レベル2に上がった気がしてます。勘違いかも。


2026/07/23、23時追記
わーいわーい。
初めて評価と感想もらえたー! しかも9点と8点!!
まだ二話しかないのに、ありがとうございます!
もっと上達するまで、評価されずに0点のままだと思ってました!
とっても嬉しいです!

それと、ハーメルンで初めて書く側になったけど、どんな機能があるのかわからなくて、あたふたしてます……。
第二話を投稿したときは、評価が0で、あまり見られてないし、もっと面白くしたくて、こりずに第一話と二話を修正してました。(書き直し4回目)

でも徐々にアクセス数が増えてきて、新着順は時間がたって埋もれてるのに何でだろ、詳細検索なんかで見つけてるのかな、みんなすごいなって思ってましたが、
今日の19時くらいに一気にアクセスされ、やっと気づきました。

日間ランキングの「一般総合」94位に入ってる!? (……毎日見てるとこにいたんだ)
「一般オリ」は31位!

……まったく予想してませんでした。
ほんとは第三話投稿時の前書きに書きたかったけど、まだ下書きなので、追記にします。

あ、まだ修正版は反映してないです。24日の夜に反映するかも。
……修正したら、評価が消えたりしない? ちょっと怖いよ……。


2026/7/24、23時追記
お気に入り、感想、評価ありがとうございます!
はっ……初めて10点の評価をいただけました!
びっくりしてますが、楽しんでいただけたら何よりです。

あと昨日言ってた通り、第一話と第二話の修正版を反映しました。
だいぶ面白くなったはずです! 作者のレベルが上がって3になったからね!

何を修正したのかは、第三話を投稿したときに書こうと思いますが、無理に見返さなくても大丈夫です。設定を一つだけ変えて、文章力がレベルアップしたくらいなので、話の流れはあまり変わってないんじゃないかなー。ほんとだよ。ウソツイテナイヨ?

第三話は土曜の25日か日曜に書いて投稿したいです。
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