怪物と英雄の狭間で 作:伝説の一般元ブロリスト
かっちゃん=ベジータ
もうそんなふうにしか思えなくなってきた私です……。
そして緑谷くんごめん、君の活躍を奪ってしまって……大事すぎる場面は残すから…!!!君は、君はブロリーの背中を見てもっともっと覚醒してくれ!!!
モニター室。
訓練の様子をカメラ越しに見守っていた生徒たちは、完全に静まり返っていた。
静寂。
あまりの理不尽と規格外の連続に、誰一人として言葉を発することができずにいた。
モニターに映し出されているのは、壊れた窓から差し込む夕光の中、気絶した爆豪をひょいと軽々肩に担ぎながら、緑谷と和やかにハイタッチを交わすブロリーの姿。
ある者は顎が外れそうなほど口をぐぐっと開けたまま固まり、ある者は両手を頭に当てながら絶句していたり、あるに至っては、目が点になったまま開いた口が塞がっていなかった。
「――みなよ、俺のブロリーを」
「いやアンタのではないでしょ」
そんな中上鳴はモニターを前にしながら、自信満々に胸を張ってそう言った。耳郎から冷静なツッコミが入るが、心の中で上鳴と同じ事をオールマイトも思っていた。
(みなよ、私の誇らしい息子(ブロリー)を……!!)
を……!!)
豪快な笑みを浮かべる面の下で、オールマイトは溢れんばかりの誇らしさと感動を心の中で叫び、思わず胸を張りかけた――直後。
(……っ!? いやいや! 違ーーう!! 今の私は教師だ!! 教師として、彼を見なければ…!!)
ハッと正気に戻り、心の中で自分自身に猛烈なノリツッコミを入れるオールマイト。父親としての親バカな気持ちが溢れ出そうになるのを、プロヒーローとして、そして教導する立場として必死に押し殺し、冷や汗を流しながら『おっほん』と小さく咳払いをした。
「……なんという、凄まじい強さだ」
そんなオールマイトの心の中の葛藤には気づかず、常闇が呆然とした声でモニターを見つめたままつぶやいた。
「爆豪のあの凄い爆破を食らって無傷なのもおかしいし、あの爆豪を壁にぶつけて気絶させちゃうのもヤバいし……挙句の果てに外壁からジャンプして5階の窓から突入って……」
「あの方の個性は一体……超力? 頑丈? それとも飛行……?」
耳郎や八百万などのクラスメイト達が困惑と驚愕を隠せない様子で顔を見合わせる。
爆破を耐えきる圧倒的な物理耐久、個性把握テストの時に見せた圧倒的な腕力、そして圧倒的な跳躍力と規格外の身体能力。どれ一つ取っても一級品の『個性』に見えていた。
「なあ上鳴、ブロリーの個性ってなんなんだ?教えてくれよ!」
「幼馴染で仲がいいって話だし、知ってるんでしょ?教えて教えて!」
切島に急に振られ、葉隠にせがまれ、クラスメイトたちの視線が一斉に上鳴へと集まった。
「え? えっと……ブロリーの『個性』か……」
幼馴染と聞かされて周りは一気に期待の目を向けたが、上鳴はいつものおちゃらけた態度を引っ込め、少しだけ目元を緩めた。そしてブロリーのことをよく考える。
誰よりも強くて規格外な力を持っているのに、本当は誰よりも優しくて繊細で、自分の「力」とずっと向き合い続けてきた男――それが上鳴の知る「八木蕗利」だった。
(あいつ、自分の力のこと……『周りを怖がらせちゃうんじゃないか』って、ずっと気にしてたからな……)
ずっと近くでそれを見てきた幼馴染だからこそ、上鳴はその力をただの『強い個性』として自分がペラペラと語る気にはなれなかった。
「……まあ、知ってはいるけどさ。悪い!オレの口からは言えないわ」
「どうして?」
「ブロリーはさ、昔から自分の力のこと、周りにどう思われるかずっと不安がってたんだよ。……だからさ、俺がドヤ顔で自慢げに話すのはなんか違うだろ? あいつが勇気出して、自分の口からみんなに教えてくれた方が、絶対あいつのためにもなるしさ。戻ってきたら、みんなで直接聞いてやってくれよ……あー、一応まだ教えたくないって言ったら、その時は頼む!」
上鳴のその優しく温かな想いに、クラスメイト達は納得。オールマイトは『上鳴君…!!』と心の中で泣いていたが、表ではグッと堪えることにした。
モニターの向こうでは、勝利を収めたブロリーが、気絶した爆豪を優しく抱え直し、緑谷や飯田と共にゆっくりとグラウンド・βの出口へと向かって歩き出していた。
圧倒的な力を持つ存在でありながらも、誰よりも優しく繊細なクラスメイト。
彼がモニター室へ戻ってくるのを、1年A組の誰もが温かな興味と敬意を持って待つのだった。
「―ブロリー!!おま、おまえ……!!!いい奴だなぁ…!!!!!!」
「そんな思いを抱え込みながらも、救助ヒーローを目指すその姿勢…!!僕は敬意を表する!!」
「最初の頃に怖がっちゃってごめーーーん!!!」
「え……あ……っ……」
怒涛のように押し寄せるクラスメイトたちの熱い言葉と歓声に、2メートルを超える大きな身体をどこか申し訳なさそうに小さく丸めながら、ブロリーは驚きで目を丸くしていた。
モニター室へ戻ってきたブロリーに、クラスメイト達が個性について教えて欲しいと頼まれたブロリーであったが、今は訓練中。
終わってから話すと言ったため、戦闘訓練が終わった後、放課後教室内で彼は気まずそうに、けれど誠実に語った己の『個性』のこと。
溢れ出す莫大なエネルギーと、自分でも抑えきれなくなるほどの異次元な成長速度。気を抜けば周りの建物も、大好きな人たちも容易く粉砕してしまう悪夢のような力。
だからこそ、自分は誰かを倒して誇る『一番』ではなく、大切な人や困っている人をこの手で確実に守り抜く『救助ヒーロー』になりたいのだということ。そのために、この恐ろしい力から逃げずに、一生懸命コントロールしようと向き合っているのだということクラスメイト達に告げた。
その純粋で温かな本音を知ったクラスメイトたちから返ってきたのは、畏怖や恐怖ではなく、溢れんばかりの情熱と温かな肯定だった。
「怖く…ないのか?」
「当たり前だぜブロリー!!自分の力と本気で向き合って、人を助けるために頑張ってる奴を怖がるような奴が、ヒーロー科にいるかよ! 男の中の男だぜお前は!!」
「戦闘訓練で君は下手に暴れず、必要最低限の動きだけでことを終わらせた…簡単にできることではない。故に君は、本当にすごいヒーローだ!」
「あと、話してみたらものすごく優しくて、とっても安心感もあるよね〜!」
「そうそう!!」
温かい言葉が次々と胸に飛び込んでくる。自分の巨大な身体も、暴走しかける莫大な力も、ここでは『恐ろしい怪物』として弾かれることなく、一つの尊い個性として真っ直ぐに受け止められていた。
「…ありがとう、みんな。これからも…よろしく」
『こちらこそー!!!』
ブロリーへ明るい笑みを浮かべながら駆け寄ってくるクラスメイト達。最初から距離を空けることをせず真正面から来てくれる仲間達……ブロリーにとってこの一年A組というクラスはとても居心地が良いものだった。
「………ッッ」
そんな居心地のいい空間も…彼、爆豪勝己にとっては嫌な空間であり、その場から離れて行ってしまった。
ブロリーに敗北した後、彼は即座に保健室へと運び込まれそこで自分がブロリーに完全敗北したことに実感し、何か言ってやろうと教室まで戻ってきたのだが……教室へと入る扉の前でブロリーの話を聞いてしまった。
「……!ごめん、みんな、また後で」
「ああブロリー!」
ブロリーはそんな爆豪に気付き、クラスメイト達に小さく会釈をしてから、一人そのあとを追って教室を飛び出していった。
校舎を出て、橙色に染まる校門へと続く長い一本道。
一人でポツポツと歩く爆豪の背中に向け、ブロリーと緑谷は駆け寄りながら声をかけた。
「爆豪君……! 待って……!」
「……近寄るな」
ピタリと足を止めた爆豪の背中から、殺気立った低く震える声が漏れた。
ゆっくりと振り返った爆豪の顔には、今まで誰も見たことのないような激しい屈辱と、悔しさに歪む表情があった。血走った瞳からはポロポロと涙がこぼれ落ちているが、その奥に宿る火種だけは、消えるどころか一層強く激しく燃え上がっていた。
「……何の用だクソデカ野郎。勝者の余裕か? それとも惨めに負けた俺に……『大丈夫か』とでも言いに来たのか……ッ!?」
「違う……! オレは、ただ」
「黙れよ……!!」
爆豪の怒号が夕空に響き渡る。悲痛な叫び、ブロリーは何か言葉を口にしようとしたが、グッと堪え、彼の言葉を待つ。
「聞いたよ……教室の外から全部聞いてた。そこで確信したよ…お前まだ、力の…半分どころか、一割も出してねえって…!!あの建物の事を考えずに動かれてたら、俺は瞬殺されてたって…!!!」
「…」
「負けたんだよ俺は……完膚なきまでに…!!お前とチームだったデクにも…負けちまった…!!あの、いつも俺に負けてたアイツに…!!俺は!!」
己の胸を強く打つ爆豪。
保健室で目が覚めた時、全身に残る衝撃の感触と、気を失っていたという事実が彼を襲った。
そして教室に戻れば、自分を完膚なまでに叩きのめした男の力とその決意を聞いた。そこで彼は壁が見えてしまった――ヒーローを目指す者としての壁を。
「俺は負けたんだよ……! 入試でも、個性把握テストでも、今日の訓練でも……! 俺はてめぇにも……あのクソデクにも……完全に負けたんだよぉっ!!」
喉を破壊されんばかりの叫びを発し、悔し涙を拭う爆豪。爆豪の心は一度、ボロボロになってしまった。
だが、爆豪勝己という男の折れかけたプライドは、ただ打ち砕かれて終わるような軟弱なものではなかった。
爆豪は両手を強く握り締め、胸中の爆炎を全て燃やし尽くすかのようなギラついた眼光で、ブロリーを真っ直ぐに射抜いた。
「――だがなぁ……! 俺はここで終わるような男じゃねえ……!! 負けたまんまで終わってたまるか!!!」
「……ッ」
「いいか……! いいか八木蕗利!!お前を叩き潰すのは、この俺だ! 誰にも手出しはさせねぇ……!! 泥水すすってでも這い上がって、お前を…お前をぶっ飛ばしてやる!!」
夕空を打ち破るような、圧倒的な誇りと咆哮。
「お前のその『規格外なチカラ』も、『理不尽な成長速度』も……全部叩き潰してやる!!」
「………」
「デクにもだ…!アイツに…アイツに追いつかれるなんてことは…絶対にさせねえ…!!!俺が、絶対に前に出続けてやる…!急に個性に目覚めただかなんだか知らねぇがそんなの関係ねぇ!!」
爆豪は少量の涙を流しながらも、強く、大きな声で告げた。
「俺は…!お前や、デク…クラスの奴らすらも超えて…超えて!!――俺が正真正銘のNo. 1ヒーローになってやる!! 覚悟してやがれぇぇぇぇッ!!!」
言いたいことだけを全て吐き出すと、爆豪は二度と振り返ることなく、夕暮れの街へと力強い足取りで歩み去っていった。
その背中を、ブロリーはただじっと見つめていた。
(強い……。やっぱり爆豪君は……すごく強い)
どれだけ打ちのめされても、絶望の淵から何度でも立ち上がり、前だけを見据えて爪を研ぐ。そんな爆豪の圧倒的な執念と不屈を、心から称えた。
「――お前は、強いぞ。爆豪」
静かに呟いたブロリーの言葉は、夕暮れの風に乗ってそっと消えていく。
敗北を知り、より一層凶暴な芽を吹かせた爆豪の背中を見送りながら、ブロリーもまた、彼に応えられる自分であるために強くなろうと、大きな拳を静かに握り締めるのだった。
次回
マスゴミ、恐怖する
お楽しみに