怪物と英雄の狭間で 作:伝説の一般元ブロリスト
やり過ぎました。
ここから色々と進んでいきますので、お楽しみに。
耳郎響香・八百万百。
彼女らはヒーローを目指すため、並大抵ではない覚悟を持って雄英高校の門をくぐった。
これから先、どれほど強大な『個性』を持つ相手と対峙しようと、どれほど凶悪なヴィランが立ちはだかろうと、決して怯まず、揺るがずに立ち向かう。知恵を絞り、己の力を尽くして人々を救う――そう心に誓っていたはずだった。
だが、今。目の前で起きている現象は、彼女たちが想定していた『戦い』や『強敵』という概念の、遥か外側にあった。
「ゔゔぅ"がぁ"ぁ"ぁ"っ!!!」
「……ッ」
耳郎は思わず両手で自分の耳を強く塞ぎ、その場に膝をつきそうになっていた。
誰よりも研ぎ澄まされたその聴覚が、プラグを地面に差すまでもなく、大気が悲鳴を上げる『異常な音』をダイレクトに拾い上げてしまったからだ。
耳を貫くのは、ただの心音ではない。巨大な大砲を至近距離で連射されているかのような重低音の衝撃波と、全身を駆け巡る血流が濁流となって血管を削る音。さらに、膨れ上がる緑の闘気が周囲の空間そのものを軋ませ、引き裂く不快な超高周波のノイズ。
全身の筋肉が軋む音すら、硬い鋼鉄を無理やりねじ曲げるような異音となって響いていた。
(―これが、ブロリーさんの……!)
八百万もまた、戦慄に息を呑み、動けないでいた。
持ち得る膨大な知識と冷静な分析力をもってしても、目の前の現象を言語化できない。計算も、戦術も、相性も、何一つ成り立たない。ただそこに存在するのは、ヴィランを容易く粉砕し尽くす『絶対的な暴力』そのものだった。
いつも硬い表情をしながらも、誰よりも優しく紳士的だったブロリーが…自分たちへの侮辱と悪意に触れ、怒りの檻を解き放ったその姿。
味方だと分かっている。
自分たちを守るために怒ってくれているのだと、頭では痛いほど理解している。これが彼の本性ではなく個性のせいであることもわかっている。
それでも
肌を灼くような濃密な闘気と、五感を容赦なく叩き潰す破壊の予感を前にして、二人の背筋を冷たい悪寒が駆け上がった。
理性よりも先に、生物としての本能が警鐘を乱打し、喉の奥を締め付けるような「根源的な恐怖」となって身体を竦ませていた。
「聞いてねぇ―こんなバケモンがいるなんて聞いてねえよ!!!」
「アイツら!!嘘つきやがったな!!ここには、素人のガキしかいないって言ってたくせに!!!」
「こ、こんな奴の相手なんてしてられっか!!俺はここで降りるぞ!!」
ブロリーに蹂躙されていく同業者を見て怖気ついたヴィラン達は次々にその場から離れようと逃げ出す。
「何処…へ…い"く"…んだ!!!」
「―ぁ、ぁぁ」
「他の……み"ん"な"を……襲う気か…!!!」
「ち、ちがう…!違う!!俺たちはもう!」
「う"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」
だが、すでに敵と認定された彼らに逃げ道は無い。一瞬のうちに分かり込まれ打撃を喰らわせられる、重機が突っ込んできたかの衝撃に誰もが耐えられず一撃でアウト。
先程まで余裕の態度をとっていたヴィラン達は絶望の底へと沈む。
「お…おしまいだ……勝てるわけがない……!!」
「真面目に……生きればよかった……!!!」
ブロリーの力と迫力にヴィラン達は完全に戦意を喪失、上鳴達はそれに少しの安堵を覚えていたが……次の瞬間、地面から一人のヴィランが現れる。
「とったぁ!!!」
(し、しまった…!ブロリーにしか集中していなかった…!!)
「耳郎!!!」
「耳郎さん!!」
地面に潜んでいたヴィランが手を伸ばし、そのまま耳郎を捕まえ人質にしようとした――だがそれを許すブロリーでは無く、勢いよくヴィランの方へと飛び出しそのまま顔を掴んだまま壁へと押しつけた。
「ガベッ、ガアッ…!!」
「お前…!耳郎に…!!!」
「わ…わるかった!!わるかった!!許して、許してくれ!!頼む、頼むって!!」
そうヴィランは大声で叫ぶが、ブロリーは止まらない。そのまま手の力が強くなっていき、ミシミシと鳴ってはいけない音が鳴っていく。
「ブロリー! やめろ!! もういい、そいつはもう戦えねぇ!!」
「ブロリーさん! 私なら無事です! おやめになって!!」
「ブロリー……っ! ブロリー!!!!!」
耳郎達の叫び声が、暴走しかけていたブロリーの耳朶を真っ直ぐに貫いた。
「……っ!?」
ハッと我に返ったように、ブロリーの瞳から凶暴な光が一瞬だけ揺らぐ。
掴んでいたヴィランの顔からパッと手を離すと、意識を失ったヴィランの身体が力なく地面へと崩れ落ちた。
「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ……」
肩を大きく上下させ、荒い息を吐き出すブロリー。
恐る恐る自分の大きな両手を見つめ、それから背後の三人に視線を向けた。
そこにいたのは、安堵しながらも、まだ恐怖と衝撃の色を隠しきれずに震えている耳郎と八百万の姿だった。
(オレ……また……)
胸の奥底を冷たい刃で貫かれたような感覚。
助けたい一心だったはずなのに、怒りに任せて相手を攻撃し、何より守るべきはずの仲間たちに、こんなにも恐ろしい思いをさせてしまった。
(オレがここにいたら……いつか、三人まで傷つけてしまう……!)
自分の制御できない力への激しい恐怖と自己嫌悪が、ブロリーの全身を苛む。
「み、みんな……怪我は、ない…?」
「え……あ、うん。あたしなら平気だけど……ブロリー、あんたこそ平気なの? ちょっと休んだ方がいいんじゃ……」
「……ごめん。オレ……ここにいちゃ、ダメだ」
「ま、待ってくれブロリー!俺達は―」
上鳴の制止も聞かず、ブロリーは大地を強く蹴り上げ一気に空中へと跳び上がる。
三人をこれ以上危険に晒さないため、そして何より――胸の奥でずっと警鐘を鳴らし続けている、あの嫌な気配の元凶……一人で戦っているはずの相澤先生を助けるために。
(相澤先生はあの量のヴィランを一人で相手をしていた…でもその中に、明らかに、雰囲気が違うやつがいた…!!!相澤先生……! どうか、無事で…!!!)
風を切り裂き、中央広場へと視線を向けたブロリーの目に飛び込んできたのは――あまりにも無残で、信じがたい光景だった。
「……っ!?」
それは広場の中央、血だまりの中に巨大な体を持つ脳がむき出しになっているヴィランの大きな手に頭を掴まれている相澤の姿だった。
両腕はありえない方向にへし折られ、頭部からは夥しい血が流れ出ている。
――息が止まった。
あの強くて頼もしかった担任が、ピクリとも動かず、ただ血を流して倒れている。
そして、その少し先の水辺――。
「本当にカッコいいぜ……イレイザーヘッド」
手を顔につけているヴィランが、水難ゾーンの浅瀬にいた蛙吹梅雨の顔面へ向けて、その凶手を容赦なく伸ばしていた。
「梅雨ちゃん……ッ!!」
緑谷が恐怖に顔を歪ませながら、渾身の力で飛び出そうとする。
だが、その速度では絶対に間に合わない。手のヴィランの指先が、蛙吹の肌に触れようとした――まさに、その刹那。
「やめろ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!!!!!」
『!!?』
ブロリーが凄まじい音量の叫び声を上げる、それに驚愕した手のヴィランは思わず動きを止めてしまう。ブロリーはそんな彼に対して突撃するが、すぐさま前に脳のヴィランが立ち塞がった。
ブロリーの突撃をくらい、脳のヴィランは後方へと飛ぶ。まるで何かに弾かれたかの様な動き、手のヴィランは黒いモヤのヴィランによって守られながら脳無のそばへと逃げる。
「死柄木弔!お下がりを!!」
「っなんだ…あのガキは…!!おい黒霧!!なんなんだあのガキは…!!」
「私にも、さっぱり」
黒いモヤのヴィランの名が『黒霧』、そして手のヴィランの名は『死柄木弔』…脳のヴィランが『脳無』。ここにきて三人の名前が判明したが――そんなことブロリーはどうでもよかった。
「相澤先生…!!三人とも!!」
「ブロリー君…!!ありがとう…!!お陰で助かったよ!!」
「おぉぉおブロリー!!!俺、オレェ!!!!」
「ありがとうブロリーちゃん……本当に」
ブロリーはすぐさまその場にいた緑谷・峰田・蛙吹、そして相澤に声をかけ安否を確認。緑谷は腕を負傷している様だが他は無事、峰田・蛙吹は5体満足……だが相澤は……瀕死の重傷をだった。
「相澤…先生…」
血の海に横たわる相澤の身体に、ブロリーは震える手で触れた。
呼吸はある。だが、あまりにも浅く、弱々しい。全身の骨を砕かれ、顔面を容赦なく破壊された恩師の無残な姿に、ブロリーの胸が激しく締め付けられる。
「緑谷……相澤先生を……二人と一緒に、後ろへ……!」
「ブ、ブロリー君……!?」
ブロリーはゆっくりと立ち上がった。
その背中はいつもよりずっと硬く、張り詰めていた。緑谷、梅雨、峰田を背後に庇うようにして、前方に佇む死柄木と黒霧、そして何事もなかったかのように起き上がってきた脳無を真っ直ぐに見据える。
「……どうして……」
重く、低く、震える声がブロリーの喉から紡ぎ出された。
「どうして……こんな事を…!!!」
純粋で、やり場のない問いかけ。
それに対し、死柄木弔は鬱陶しそうにボリボリと乾いた音を立てて首を掻きむしり、歪んだ口元を吊り上げて笑った。
「どうして? ……ハハッ、バカかよお前。理由なんて単純だろ。『平和の象徴』を殺すためだよ」
「どうしてだ…!オールマイトに、なんの恨みがある!!」
「恨み……そうだなぁ――気に入らないんだよ…あんなやつが世界にいるってのが。だからあの偽善者の象徴をこの、オールマイト専用のヴィランである『脳無』で叩き潰して、正義気取ってる社会のルールを全部ぶっ壊す……今日はそのためのイベントだったんだが……肝心のボスがいない。だから…へし折ることにしたんだよ、アイツの希望を――同僚と生徒の死でな…!!」
命を、人を、仲間を。
ただのゲームの駒やオモチャのように語る理不尽な悪意。
「………………」
ブロリーの視界が、真っ赤に染まっていく。
大切な父の命を奪うという言葉。
自分たちを命がけで守ろうとしてボロボロになった相澤先生の血。
今も危険な目にあっている仲間達。
――許せない。
胸の奥底、決して開けてはならなかったはずの重い檻が、内側から激しくぶち破られた。
ドクンッ……!!
心臓が、大砲のような激しい鼓動を打ち鳴らす。
全身の血管を流れる血液が、マグマのような熱量を帯びて沸騰し、暴れ狂い始めた。
「――ぅ…ぁぁ…!!!ぐぅぅぅぅ…!!!」
「…?(なんだ……アイツ…急に―)」
「―があ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!!!!」
USJ全域を揺るがす、天地鳴動の地響き。
ブロリーの足元を中心にして、強固なコンクリートと大地がクレーター状に陥没し始める。
「なっ、なんだぁ!!?」
「うぐっ…!!」
「USJ全体が…揺れている…?」
あまりの突風と風圧に、峰田が悲鳴を上げて吹き飛ばされそうになり、緑谷と梅雨が咄嗟に相澤を抱えて地面にしがみつく。
立ち昇る煙の中から吹き荒れたのは――空気を極限まで圧縮し、大気そのものを発光させるほどの、禍々しくも眩い『緑色のオーラ』を纏っているブロリーの姿だった。
「はぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」
「な……ッ!? なんだこの圧力は……ッ!?」
黒霧のモヤが激しい風圧に吹き散らされ、死柄木も思わず腕で顔を覆って後退した。
そのオーラの中心で、ブロリーの身体に異変が起きていた。
ミシッ……ミシミシミシッッ!!
骨が軋み、筋肉がさらに隆起していく。元より巨大だった体躯が一回りも二回りも膨張……それ以外に変化はないが――それだけで十分だった。
今のブロリーに名を付けるのならば――
ブロリー・パワー25%解放状態。
「殺せ…!!脳無!!!」
死柄木が吐き捨てるように命じた瞬間、漆黒の怪物が爆発的な踏み込みで大地を砕いた。オールマイトを殺すためだけに用意されたヴィラン『脳無』
平和の象徴に匹敵する超パワーを秘めたその黒い巨腕が、空気を圧縮しながらブロリーの顔面へと真っ向から振り抜かれた。
直撃。
凄まじい衝撃波が後方の水面を激しく割り、周囲の瓦礫を吹き飛ばす。
――だが。
「……な……っ!?」
死柄木が息を呑んだ。オールマイトとやり合えるほどのパワーを持っているはずの脳無のパンチを受けたのにも関わらず―ブロリーはガードすらせず、ただ仁王立ちのまま、顔面でその直撃を受けた。
微動だにしない。首ひとつ傾ぐことすらなく、足元の土ひとつ動いていない。
「―――ッ!!」
脳無が無機質な雄叫びを上げ、休む間もなく両腕をマッハの速度で振り回す。
ドガガガガガガッ!! と肉体を殴打する凄まじい連打音が連続して轟き、衝撃波の嵐が周囲を破壊し尽くしていく。胸板へ、腹部へ、顔面へ、百発を超える本気の超重量級パンチが叩き込まれ続ける。
「ゔゔぅぅ…!!」
しかし――ブロリーの身体には、赤みひとつ、掠り傷ひとつ付いていなかった。
「嘘……だろ……? 脳無のパワーを……棒立ちで……!?」
死柄木が震える声で呟いた、その刹那。
「ら"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」
ブロリーの右拳が、ただ一撃、下から振り抜かれた。
「――ッ!?」
理不尽なまでの破壊力。脳無の体はまるでボール様に宙へと浮く、脳無には『ショック吸収』『超再生』という二つの個性が備わっていたのだが……そんなものなかったかの様に上へと吹き飛んでいき、打ち上げられた脳無が重力に従う暇すらなかった。
緑色の閃光が弾けたかと思うと、ブロリーは既に脳無のさらに上空へと先回りしていた。
「うがぁ"ぁ"ぁ"ッ!!!」
空中で体勢を崩した脳無へ、容赦のない拳の嵐が叩き込まれる。
「ははぁ"っ!!だぁ"!!お"ぉ"ぉ"う"あ"!!!」
視認すら不可能な速度で繰り出される連撃が脳無の肉体を四方八方から滅多打ちにし、最後は両手を組んだハンマーパンチが、脳無の体をへし折らんばかりの勢いで振り下ろされた!
「な……なんて、パワーだ…!!?」
「ふざけんな――ショック吸収は…超再生はどうしたんだよ!!え"ぇ"!!?」
高空から垂直に叩き落とされた脳無が中央広場へと激突し、巨大なクレーターを作り出し、大量の土煙が舞い上がる中、ブロリーは音もなくクレーターの底へと着地した。
ピクリと動こうとする脳無。
だが、ブロリーはその太い足首を、万力のような太い腕で無造作に掴み上げた。
「ぐ……る"ぁ"ぁ"ッ!!」
ドッシャァァァンッッ!!!!
ドッガァァァァンッッ!!!!
ドッシャァァァンッッ!!!!
まるで雑巾を振り回すかのように、巨大な脳無の身体が左右の地面へ、何度も、何度も、激しく叩きつけられる。
叩きつけられるたびにUSJ全体が激震し、岩盤が砕け、噴水の石垣が粉々に吹き飛ぶ。怪物の身体が地面を穿つ凄惨な破壊音が、広場に絶え間なく反響した。
「な……なんなんだよ……あいつは……ッ! なんなんだよあのバケモンはァッ!!」
死柄木が頭を抱え、狂乱の叫びを上げる。
十数回にも及ぶ叩きつけの後、ブロリーは掴んでいた脳無の足を上空へと力任せに放り投げた。
「……!!!!」
無残に放り出され、空中に投げ出された脳無。
それを見上げたブロリーは、深く腰を落とし、喉の奥をカッと大きく開いた。
「ゔゔゔゔゔゔ…!!―あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
そして、ブロリーの口から極太の破壊光線が放たれた。
放たれたエネルギーは大気を焼き焦がしながら上空の脳無を正面から呑みながらUSJの天井を突き抜け――遥か上空で爆発。
ドガァァァァァァァァァンッッッ!!!!!!
緑色の光が、空を覆い尽くした。
「う"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"っ!!」
そして……怪物の雄叫びが、USJ全体へと、なりひびくのであった。
今のブロリーは大猿化の前のブロリーということでお願いします。