怪物と英雄の狭間で 作:伝説の一般元ブロリスト
よくよく考えたら超ブロリーの首輪を使ったパラガスってめちゃくちゃすごいんだなって思いました。
「成程……これがブロリーさんの肉体……!!」
煙の中から現れたピンク色の髪を持つ少女――発目明は、煤だらけの顔のまま、スコープのような瞳をカチカチと収縮させてブロリーへと猛烈な勢いで詰め寄った。
「おお…!何と言う…!」
発目はブロリーの足元から胸板、肩周りなどの逞しい肉体をペタペタ、バシバシと遠慮なく叩き、撫で回し始めた。
「…………(近い……)」
あまりの距離の近さに、ブロリーは困っていたが。発目は構わずぐいぐいと顔を近づけ、その皮膚や筋肉を至近距離で観察し続けた。
「 扉が吹き飛ぶほどの直撃爆発を受けても表皮に火傷も打撲痕も一切なし! 筋肉の繊維密度、骨格の太さ、見ただけでわかる生物としての格の違い!!いやぁ…!貴方の様な人は初めてです!」
「ほ…褒めてくれている…?」
「さぁ!!早速こちらの装置を付けてみてください!!さぁさぁ!!―あっ、あと発目って呼び捨てで大丈夫ですよ!!」
「あ、あの…」
「コラ発目!!先に謝罪だろう!」
工房の奥から、小柄な教員――パワーローダーが慌てて割って入り、発目の襟首を引っ張って引き剥がした。
「すまないね、八木くん。怪我は……全く無いね、でも本当にすまない……ほら、発目!」
「アッハハ…ごめんなさい」
「怪我はしてないので、大丈夫です。…あの、サポート、アイテムの…設計って?」
「なんだ、相澤先生から聞いてないのかい? それじゃあ、一から説明するよ」
パワーローダーは作業台の上に積まれた何枚もの分厚い書類の束を指差した。そこには、国内トップクラスのサポートアイテム開発会社の名がずらりと並んでいた。
「相澤先生から一つのお願いをされていてね。君の個性『無限臨界』の暴走……それを止めるための『制御装置』の開発依頼だ」
「制御装置……」
「最初は、大手サポート企業十数社に極秘で開発を依頼して回っていたらしいんだがね……」
パワーローダーが苦い顔で首を横に振る。
「『観測された推定エネルギー出力が高すぎて、既存のどんな金属や耐衝撃素材でも耐えられない』『万が一の暴走時、装置ごと粉々に吹き飛んで逆に破片が本人を傷つける』『理論上、物理的な拘束具や制御回路では制御不可能』……どこもかしこも、匙を投げて断ってきたのさ」
大手企業が総出で「不可能」と突き返した現実。
ブロリーは自分の身体を見つめ、申し訳なさと不安でギュッと拳を握りしめた。やはり自分の力は、この世界の常識ではどうにもならないものなのだと、胸が重くなる。
「相澤先生があらかじめ君にこの話をしていなかったのも、それが理由だよ」
パワーローダーは静かに、ブロリーの顔を見上げて言葉を継いだ。
「『全部の大手から無理だと断られたなんて事前に聞かせたら、あいつはきっと自分をもっと追い詰める。だから、今は黙っておきます………まぁ、はげましのサプライズで、と言うのもありますが』、そう言っていたよ。君に余計な絶望やプレッシャーを与えたくなかったのさ」
「相澤先生が…!」
「ついでに!『過去に無理やり着けられていたような、ブロリーを縛り付けるための冷たい拘束具じゃない。ブロリー安心して自分の足でヒーローとして立つためのサポートアイテムを使って、俺はアイツに…ヒーローになって欲しいんで』とも言ってましたよ!」
自分をただ危険視するのではなく、どこまでも一人の生徒として、未来あるヒーローとして気遣ってくれていた先生の真意。
ブロリーの目頭が、じんわりと熱くなる。
そして――そんな湿っぽい空気を一撃で吹き飛ばすように、発目明の声が工房に響き渡った。
「で!す!の!で!!相澤先生のそのお気持ちに答えるためにも!未来のヒーローであるブロリーさんを支えていくためにも!この私発目明が、さいっっっこうのベイビーを作って見せます!!」
「発目はウチの中じゃ群を抜いて技術と情熱がある。大手企業が『常識』と『既存の理論』で諦めた壁を、規格外のアイデアでぶち破れるとしたら、コイツくらいのもんだろう。もちろんサポート課も全力で協力するけどね」
「大手が無理、不可能と言った発明を作り出す――サポート課として燃えないわけがありません!!」
発目はドンと胸を張り、眩しいほどの笑顔でブロリーを見上げた。
「ブロリーさん! 改めてお願いをさせてください……この私発目明に、貴方のヒーロー活動を支えるアイテムを作らせてください!」
「―こっちこそ、よろしく、お願いします」
ブロリーは力強く頷き、発目に向き直って深々と頭を下げた。発目は目を輝かせながらガッツポーズを決め、ブロリーの両手を強く握りながら笑顔を見せ続ける。
「――それじゃあ早速!!先に私が作り出したベイビー達をどんどんを試していきましょう!そしてその結果を元に、最高のベイビーを作り上げるんです! あっ、お時間大丈夫ですか?」
「大丈夫だ…!」
「それならよかったです!それじゃあブロリーさん!一緒に!最高のベイビーを作りましょう!!!」
「ああ!!」
こうして発目とブロリーは早速、ベイビーことサポートアイテムの制作に取り掛かるのだった。
放課後の運動場を借り、初日は既存のアイテムを色々と試してみることにした。何かあった時のためにパワーローダーとミッドナイトもそばにいる。
発目が作り出した数多のサポートアイテムをふんだんに使い、ブロリーのパワーの制御ができるかどうかを検証していた。
体を無理矢理縛り付ける装置や、エネルギーが一定量溢れてしまったら即座に爆破、もしくは電撃を作動させる首輪、そしてエネルギーを無理矢理抑え込む冠などをたくさん試したのだが。
「いやぁ…!まさか惨敗とは!!大手の人達は拒否をするわけですね!」
「全部、壊しちゃった……ごめん」
「別にブロリーさんが悪いわけじゃありませんので、お気になさらず!」
ものの見事に惨敗、体を縛った際はすぐさま装置が千切れ、爆破は無傷で耐え電撃はむしろ逆にマッサージになってしまった。
エネルギーを抑える冠もブロリーのエネルギーに耐えきれず粉々になってしまい、発目が作ったブロリーのためのサポートアイテムはこれで全滅。
「物理的な力で抑え込むのがダメ、ショック療法も逆効果……なら、どうすれば……」
運動場の地面に散らばった鉄くずの山を前に、発目は腕を組み、唸り声を上げながら手元の端末に視線を落としていた。
「ブロリーさん、暴走しそうになる時って、ご自身ではどんな感覚なんですか?」
「えっ……と……」
ブロリーは少し考え込むように指先を顎に当て、自分の内側にある感覚をゆっくりと言葉にしていった。
「怒ったり、力が溢れそうになると……頭にカァッと血が上って、目の前が真っ赤になって……自分でも止められなくなるんだ。でも、無理やり力で押さえつけられようとすると、身体が勝手に『敵だ』って思って、余計に力が強く湧き出ちゃう気がして……」
「なるほど……! 外部からの暴力や拘束に対して、生体エネルギーが無意識に防衛反応を起こして跳ね返しちゃうわけですね!」
「うん……だから、力づくで止めるんじゃなくて……なんというか、ふっと肩の力が抜けるような、頭が冷えるようなものがあれば、落ち着けるかもしれない……」
「力技の対抗ではなく、内面から精神と自律神経をリラックスさせるアプローチ……!」
発目は顎に手を当てて「うーん、うーん」と激しく思考を巡らせる。
薬物による強制鎮静はドーピングや副作用のリスクがある。アロマやリラクゼーションでは即効性が足りない。即効性があって、身体に害がなく、高ぶった神経を直接鎮静化させる手段――。
「……あ」
発目のスコープのような瞳が、カチカチッと音を立てて拡大した。
その視線の先――腕を組んで心配そうに見守っていた、ミッドナイトへとピタリと照準が合わされる。
「ミッドナイト先生ぇぇぇぇぇッッッ!!!!」
「な、何よ急に!?」
いきなり指を差されたミッドナイトが驚いて後ずさる。
「先生の個性、『眠り香』です!!自身の肌から放たれる香りによって、吸い込んだ周囲の者を眠らせる力…その力ならばもしや!!
「私の個性……? 確かに男性には特によく効くけれど、八木に、私の香りが効くかしら……?」
「物は試しです! ブロリーさん、少しだけミッドナイト先生の香りを吸い込んでみてください!」
「は、はい……!」
ミッドナイトはコスチュームのタイツ部分を少し破き香りを発生させる。ブロリーはおずおずと顔を近づけ、その香りをスーッと鼻から吸い込んでみる。
その瞬間――。
「……っ……ふぁ……ぁ……」
ブロリーの大きな瞳が、トロンと頼りなさげに細まった。
「あ、れ……? なんだか……身体の芯が、ポカポカして……力が……ぬけ、て……」
天井を突き破るほどの怪力を誇る大男が、まるで大きな熊のぬいぐるみのように、ゆらゆらと身体を左右に揺らし始めた。
完全な昏睡にまでは至らないものの、凄まじい睡魔が全身を包み込み、さっきまで張り詰めていた筋肉がふわふわと柔らかく弛緩していく。
「お、落ちる……! でも、完全に眠っていないのは……やっぱりタフすぎるわね……!」
「いえ、これで十分すぎます!!」
膝から崩れ落ちそうになったブロリーをパワーローダーが慌てて支える横で、発目は歓喜のあまり飛び跳ねた。
「完全に眠らせて無防備にする必要はないんです! 怒りで頭に血が上った瞬間、この眠り香を首元から微量に吸入させることで、強制的に副交感神経を優位にして脳をクールダウンさせる!!」
発目は猛烈な勢いでメモを取り続けていく。
「首元にフィットする頑丈な『チョーカー型ベイビー』! 内部にはミッドナイト先生の眠り香を濃縮・精製した特殊カートリッジを内蔵! 心拍数や体温の異常上昇を感知した瞬間、適量の眠り香を噴霧し、ブロリーさんの暴走を優しく鎮静化させる……名付けて、『バイタル調律型・リラクゼーションチョーカー』です!!」
「おお…」
「私の力で八木君を止められるのなら、いくらでも手を貸すわよ?」
「決まりです!! 素材の選定、カートリッジの小型化、噴霧タイミングのプログラミング……やることは山積みですが、体育祭本番までに最高のベイビーをお届けしますからね!!―さあミッドナイト先生!!早速協力してもらいますよ!!」
発目はミッドナイトの手を引っ張り、サポート課の工房の方へと向かった。まさしく嵐、あまりにも早すぎる展開に、眠気に襲われているブロリーはポカンとしていた。
パワーローダーはヘルメットの上から頭をぽりぽりと掻き、やれやれと深い溜め息を吐いた。それから、少しとろんとした目を擦りながら立っているブロリーを見上げる。
「八木くん、眠気はもう大丈夫かい?」
「あ……はい。少しぼんやりしますけど、もう平気です」
「そうか。……あいつのペースに巻き込まれて、疲れちまったろ。悪かったね」
「いえ」
ブロリーは慌てて首を振った。
「最初は……すごく近くて、ちょっとびっくりしましたけど……。でも、発目は…すごいです。オレの身体や力を見ても、化け物みたいだって怖がったりしないで……『すごい』って、笑ってくれて……」
ブロリーは自分の大きな手のひらを見つめ、少しはにかむように口元を綻ばせた。
「大手の人たちも無理だったのに、諦めないで……オレのために、一生懸命考えてくれて。すごく、嬉しかったです」
「……そうかい」
パワーローダーは口元を緩め、作業着のポケットに手を突っ込みながら、夕焼け空を見上げた。
「あいつはな、見ての通りの開発バカだ。隙あらば爆発を起こすし、人の話は聞かねぇし、自分のベイビーをアピールすることしか頭にないように見えるかもしれん」
「…………」
「だがな……あいつの発明の根底にあるのは、ただの自己顕示欲じゃない。『自分の作ったアイテムで、ヒーローをより強く、より安全に輝かせたい』っていう、純粋で強烈な情熱なんだよ」
パワーローダーはブロリーに向き直り、優しい目を向けた。
「普通なら尻込みするような君の規格外のパワーも、あいつにとっては『最高のヒーローを支えるための、最高の挑戦』でしかないのさ。だからこそ、君を恐れることも、諦めることもしない」
「発目さんの……情熱……」
「あいつは中途半端な物は絶対に作らない。絶対に、最高のサポートアイテムを作ってくれるはずだ」
先生の力強い言葉に、ブロリーの胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……さて、俺たちも向かうか――の前に掃除だな」
「すぐに、済ませます」
ブロリーはささっと、壊れたアイテムの残骸を集め袋に詰め込んだ後、パワーローダーと共に工房へと向かうのだった。
―――体育祭まで残り二週間。
………ぁぁ緊張する、体育祭編……ああ緊張する!!!!