怪物と英雄の狭間で 作:伝説の一般元ブロリスト
特大の鍋いっぱいに作られたシチュー
山のように積み上げられた巨大な肉塊のソテー
そして、丼鉢にマンガのように高く盛りつけられた大盛りの白米。
それらがテーブルの隙間を埋め尽くすように所狭しと並んでいる。コレらの料理は大人数で食べるように用意された物ではなく、全てブロリー1人のために用意された料理。
逆に父親であるオールマイトの料理はとても少なめで、尚且つ喉を通りやすく噛むこともほとんど必要とされていない柔らかいものばかりだった。
『いただきます』
席につき一緒にそう告げた後、各々のスピードで夜食を食べていく。激しく豪快に用意された食事を平らげていくブロリーに対し、細々とゆっくり食べていくオールマイト。真反対な2人だが、2人の間に壁なんてものは存在しなかった。
ブロリーは先ほど起きた出来事を正直に話していた。ブロリーは親であるオールマイトに対して嘘はつけないし、隠すこともできないのだ。
「そんなことがあったんだね……凄いぞブロリー!人の命を救うだなんて、とても素晴らしい事だ!持って胸を張って誇ってもいいんだよ?」
「ただ、子供を守ろうとした…当たり前のことをしただけ………お父さんみたいに。今日のオレは…お父さんみたいなヒーロー…だったのかな」
「当たり前さ。自分の身を顧みず、一つの命を守ろうと走り出し、見事救い出した…これをヒーローと呼ばずなんと言うのか!間違いなく君は、小さな男の子とそのお母さん、一つの命を奪いかけていた運転手の方や周りにいた人々にとって、最高のヒーローだったはずだ!」
父親に大絶賛され、ブロリーは顔を赤くしながら、照れくさそうな仕草をする。ブロリーにとって父親に褒めてもらうと言う事は、どんなことよりも嬉しく、どんなことよりも幸せな事、今食べている食事以上に、父親に褒められると言う行為だけで彼の腹は膨れていた。
食事を進めていく中、オールマイトが息をつき、真剣な声と表情でブロリーに告げた。
「蕗利、大切な話があるんだ」
「……大切な話?」
「実はね……今年の春、私は雄英高校で新任教師として働くことになったんだ」
「――教師…?」
突然の話にブロリーは手を止め、目を見開きながらオールマイトを見る。少しの静寂の後ブロリーはあわあわとした感じの口調で話す。
「それって……つまり……―ヒーローは、もう、引退?」
「えっ…?…あ、あー!違う!違うよ? ヒーローオールマイトととして動きながらも! 雄英の教師八木俊徳として働く!そんな感じさ」
「…良かった。でも、お父さんの体、もう限界を超えてる…一日動くだけでも大変なのに……どうしていきなり?」
「前々からお話は来ていたんだ、雄英高校…多くの名のあるプロヒーローを排出しているエリート高校、そこの教師に君はぴったりだ!!ってね……それと、そろそろ本格的に始めなければいかないんだ――後継者探しを」
「………」
平和の象徴オールマイト…その身に宿している個性の名は『
それは他者に譲渡できる能力(個性)と、力をストックする能力が融合して生まれた個性。長い年月をかけて受け継がれて来た力であり、オールマイトは八代目に値する。
その力を使い彼は平和の象徴として長年動いていたのだが、とある巨悪との戦いでオールマイトは呼吸器官半壊・胃の全摘出と言った重傷を負っており……その体はもう限界を超えていた。だからこそ彼は探していた、自分の力を受け継いでくれる存在を―次の象徴を。
「優秀な若者たちが集うその場所になら、きっと現れるはずなんだ……平和の象徴となる存在が」
ブロリーは握りしめた箸を静かに置いた。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられるように痛む。
(お父さんを超える存在なんて……世界中どこを探したって、いるはずがない……)
ブロリーにとって、
そんな父親の代わりになれる人間なんて、世界のどこにもいるとは思えなかった。
――そして、それと同時に。
強烈な申し訳なさと自責の念が、ブロリーの胸を激しく苛む。
(オレが……もっと、しっかり……ちゃんとしていれば……この力だって…‼︎)
もし、自分が普通の存在だったのなら……もし自分が、どこにでも居る平凡な個性を持っている存在だったのなら、自分が『後継者』になって、ボロボロになったお父さんの代わりに世界を守り、お父さんをゆっくり休ませてあげられたのに。
膝の上で拳を強く握りしめる。俯いたブロリーの視線が、悔しさで細かく揺れていた。
「オレがもっとしっかりちゃんとしていれば……お父さんに、そんな苦労……させずにすんだのに」
ぽつり、と消え入りそうな声で絞り出された言葉。
その言葉に込められた痛切な罪悪感を、俊典が見逃すはずもなかった。
「……蕗利」
オールマイトは優しく目を細め、静かに席を立った。
ガリガリに痩せた頼りない足取りでブロリーの隣へと歩み寄ると、その大きくて力強い息子の肩に、温かい手をそっと置く。
「そんな風に自分を責めるんじゃない。君は……何一つ間違っていないし、不甲斐なくなんてないんだよ」
「でも……オレは、お父さんの力になれてない……。お父さんを……助けてあげられない……恩も、返せない」
「馬鹿言っちゃいけない」
オールマイトはふっと柔らかく笑い、ブロリーの頭を、愛おしそうに優しく撫でた。
「君が毎日元気にご飯を食べて、誰に対しても優しく笑って生きていてくれる。私にとって、それ以上に助けられていることなんてないんだよ。私を『お父さん』にしてくれたのは、他でもない君なんだから」
「お父さん……」
「それにね、蕗利。君の力は誰かを傷つけるためのものじゃない。今日、君が自分の意志でトラックを止め、小さな男の子を救ったように……君には君の、立派な心の強さがある。無理に私の跡を継ぐ必要なんて、最初からどこにもないんだ」
父親の包み込むような温もりと真っ直ぐな言葉に、ブロリーの目頭が熱くなる。オールマイトは彼を目を見ながら、大切なことを告げた。
「蕗利、私は蕗利の意見を尊重するよ。君がヒーローを目指すにしても、他の道を進むにしても、私は全力でサポートする!君の人生は君だけの道なんだから、私のことは心配せず、自分の道を進んでいって欲しい!」
「自分の……道」
ブロリーは深く考える、自分の道を…進みたい道……上鳴や先生には力仕事・工場系を目指すと言った。それが一番誰にも迷惑がかからない道だったから……だが父親は、自分の進みたい道を進めと言ってくれた。
「……もう少し、色々と考えてから…相談する」
「分かった。焦らなくてもいい、ゆっくり、ゆっくり自分の気持ちと向き合うんだ」
「…ありがとう。お父さん―ごちそうさまでした」
全ての料理を平らげていたブロリーは、その後洗い物を手伝い、風呂に浸かり、自室で寝ることにした。
(――どうしよう)
ブロリーは父親との会話、今日の出来事、友達の上鳴の言葉などが頭の中でぐるぐると巡っていた。
周りのことを考えれば確実に作業員の道へと進んだほうがいい、しかし父親の言葉を聞き動くのするのならば……自分が本当は進みたいであろう道、ヒーローへの道を歩むべきだ、けれど自分の個性のことを考えると……などなど、とにかくブロリーはとにかく考えに考えた。
「――ダメだ……頭が…クラクラする」
そして考えすぎた結果、脳が沸騰しそうになっていた。そこでブロリーは、友達を頼ることにした。
『おおーブロリー!どしたん?なんかあった?』
「上鳴、こんな時間に…すまない……その、できればでいいんだが……相談に乗って欲しい」
慣れない手つきでスマホを触り、上鳴へと相談するブロリー。そんな彼に対して上鳴はいつもの明るい感じで答える。
『何遠慮してんだよ〜ブロリー!そんな申し訳なさそうにする必要なんてないだろ? オレとブロリーは親友なんだからさ!』
「そう……だな、ありがとう」
『おうよ!どんな相談でもばっちこい!―あーでも!オレの答えが助けにならなかった時はごめん!』
「いや、こうして、相談に乗ってくれるだけで……助かる」
ブロリーは上鳴に、自分の今の気持ちを正直に相談した。父親がオールマイトでありその個性や雄英教師になるやらのことはさすがに話せないが、その他のことで、彼は大いに上鳴に相談した。
ブロリーの本音を、心の中の全てをストレス無く話せるのは、この世に上鳴電気以外存在しない。少し夜遅くまで、ブロリーと上鳴の会話は続くのであった。
そして翌日―――ブロリーの運命を変える出来事が起きる。