怪物と英雄の狭間で 作:伝説の一般元ブロリスト
職場体験編の終わりです…‥まじで早かった。
次回は、期末試験編の開始!!!!
お楽しみに
保須の事件の後、残された職場体験の数日間は――変わらずの地獄の特訓の日々だった。
グラントリノの宣言通り、緑谷は朝から晩まで休む間もなく跳び回り、フルカウルの持続と呼吸の乱れを徹底的に叩き直された。ブロリーもまた、どんな極限状態でも感情に呑まれず、己の力を制御し続ける特訓を続けた。
そして、職場体験最後の日。
「―か……体が……痛い…」
緑谷が大きなボストンバッグを肩にかけ、疲労困憊といった様子でそう呟く。その隣では荷物を軽々と背負ったブロリーが、どこか名残惜しそうにホームに立つ小柄な老ヒーローを見つめていた。
「短い間でしたが、お世話になりました!!」
「お世話になりました」
「おう、お疲れさん」
「所で……この衣服はいつ頃脱げば…?」
「寝る時や風呂入る時以外は基本的に着ておけ」
「授業中もですか!?」
「心頭滅却すれば火もまた涼しって言うだろ? 慣れれば楽だ楽」
「そ、そんな………いや、でも、頑張ります!」
「その意気だ――さて」
グラントリノは一歩前へ進み出ると、緑谷を真っ直ぐに見据えた。
「おい、緑谷出久」
「は、はいッ!」
「誰だ君は?」
「えっ!?いや、さっき―――」
突然のグラントリノの問いに、緑谷は一瞬困惑するもの前を向き、はっきりと告げる。
「―デクです!ヒーローの、デクです!」
「なら、その名を腐らせんよう、学校へ戻っても精進せい――頑張れよ」
「はいッ!!」
力強い返事を聞き届けたグラントリノは、続いてその視線を、隣に立つ巨漢――ブロリーへと向けた。
「蕗利」
「…おじいちゃん」
ブロリーは大きな身体を小さく丸め、グラントリノと目線を合わせるように深く腰を折った。
グラントリノはその無骨な手を伸ばし、ブロリーの頭へと無造作に乗せると、くしゃりと荒々しい黒髪を撫でた。
「ワシからお前に言うことは一つ、『自分の力に誇りを持ち、自分をあまり責めず、自分を愛し、自分を許し、自分自身を怖がるな』」
「…」
「……自分を、愛して……許す?」
反芻するように呟いたブロリーの瞳が、微かに揺れた。
溢れ出す力に怯え、『オレは化け物なんだ』と自らを呪い、誰にも触れられないよう殻に閉じこもっていたあの日々が、胸の奥をかすめる。
そんな少年の頭を、グラントリノはもう一度、ポンと力強く叩いた。
「そうだ。お前は優しすぎるがゆえに、己の怪物を恐れ、何かあればすぐ自分を責めようとする。だがな蕗利、保須の大通りで見せたあの救助、そして友のためにステインと対峙した勇姿――お前は最後まで己を見失わず、誰かを救うために力の手綱を握り締めてみせた」
鋭い瞳が、慈父のような温かな細まり方を見せる。
「胸を張れ。お前がその身に宿すものは、災厄の力なんぞじゃない。……誰かを温めるための、立派なヒーローの力じゃよ」
「うん……! ありがとう、おじいちゃん……! オレ、もっともっと自分を信じて、頑張る!」
「素直でよろしい。……それとな、俊典のバカを頼むぞ。あいつは昔から自分の命を削ってばかりの頑固者じゃ。息子のお前が、しっかりケツを叩いて長生きさせんとな」
「おとうさんにも、ちゃんと、言っておく」
ブロリーの顔に、曇りのない満面の笑みが広がった。
かつて世界を拒絶し、怯えていた少年の瞳には、いまや仲間と師から受け取った確かな温もりが灯っている。
「そろそろ行かないと、ブロリー君」(鼻声)
「緑谷、どうした?」
「う、ううん。ちょっと感動しただけだから、大丈夫」
二人は揃って歩き出し、最後に振り返り頭を下げる。
『ありがとうございました!!』
二人は前を向きそのまま駅へと向かう、グラントリノはそれを見送った。二人の背中は、まるでオールマイトの背中を感じさせるようであり、グラントリノは優しい笑みを浮かべているのだった。
職場体験が終わった日の翌日、職場体験を終え、久しぶりに顔を合わせたA組の生徒達は、活気に満ち溢れていた。
「マジか!! マジか爆豪!!」
「ひーーー!! 8:2!! 8:2になってやがる!!」
「笑うな! クセついちまって洗っても直んねえんだ!!」
「ぶっっはははははは!!」
「おい笑うなぶっ殺すぞ!!」
「やってみろよ8:2坊やぁ!! アッハハハハハハ!!!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
爆豪はいつもの髪型からびっくりするくらい整った髪にされており、それに対して切島や瀬呂から大爆笑されていた。そんな時、ガララッと教室の後ろの扉が開き、登校してきた二つの影が教室に入ってきた。
「おーっす! みんな久しぶ……ぶっ!? うわ、なんだその頭! 爆豪、お前マジでどうしたんだよそれ!?」
上鳴がカバンを放り出しそうになりながら指をさして爆笑する。その後ろから、ブロリーがのっそりと教室へ入ってきた。
「おはよう、みんな……?――」
ブロリーの視線が、ピチッと固められた見事な8:2分けのまま、全身から怒気と湯気を立ち上らせている爆豪の頭頂部でピタリと止まった。
じーっと、丸く大きな瞳で爆豪の髪型を凝視するブロリー。
瀬呂と切島が「おいおい八木まで固まってんぞ!」「そりゃそうだろ、あの爆豪が七三……いや八二分けだぞ!?」と腹を抱えて涙を流す中、ブロリーはふっと表情を緩めた。
そして――一切の濁りもない、太陽のように純粋で真っ直ぐな笑みを爆豪へ向けた。
「爆豪、髪型、似合ってるな。かっこいい」
「―――」
(――褒めた!!)
(割としっかりと褒めた!!)
(まずいこっちも腹が痛くなってきた)
ブロリーは煽りでも、皮肉でも、からかいでもない心から『ビシッとしていて格好いい』と思って出た、純度百パーセントの称賛を口に出した。
「………………」
それを聞いた爆豪の動きが、完全に停止した。額には太い青筋がピキピキと音を立てて浮き上がり、頬の筋肉がピクピクと痙攣している。
(コイツ……! 煽ってねェ……! 本気で、本気で心の底からそう思ってやがる……ッ!!)
悪気など微塵もないことは、嫌というほど分かっていた。
悪意がないからこそ、真正面から殴りかかる大義名分すら奪われる。だが、自分が一番屈辱を感じているこのクソ真面目ヘアーを『かっこいい』とド直球で褒められた事実が、爆豪のプライドを内側から猛烈に削り取っていた。
殺意を爆発させるわけにもいかず、かといって素直に礼を言えるはずもなく。
怒りと屈辱とやり場のなさが臨界点に達した爆豪は、奥歯がギリギリと軋む音を響かせながら、般若のような形相で顔を引き攣らせ、必死に拳を震わせて耐えていた。
「…………あ゛? ……ンなわけ……ねェ、だろが……ッッ」
地獄の底から絞り出したような、プルプルと震える掠れ声。いつ爆発してもおかしくない限界ギリギリの形相に、瀬呂と切島は『耐えてる……!』『あの爆豪が必死に堪えてやがる……!!』と机の下に隠れて必死に笑いを噛み殺していた。
話の話題はそれぞれの職場体験の先で何をしたかと話になり、皆それぞれ良い経験をしたと口々に話し、自分たちにされなりの変化があったと言い合っていた。
「――所でブロリー君! 見たよ、保須での活躍!!」
「ホント凄かったよね〜!ヴィラン達をこう、やっ!とりゃ!!って感じで倒していって! 瓦礫を片手でどかしたり燃え盛る家の中に飛び込んで行ったりして人を助けたりしてて!ほんとうにかっこよかった!」
「しかもヒーロー殺しまで倒しちまったんだろ!?やっぱ一番すげぇよなブロリー!」
「流石は俺たちのブロリー!世界一かっこいい男よ!!――それでさ」
ブロリーをひとしきり褒めた後、上鳴は真剣な表情で聞く。
「実際、どうだったんだ? ヒーロー殺し」
「……許せない奴だった、どんな理由があっても、どんなにそう思ってたとしても、人を傷つけ殺したりするのはダメだ―――でも、信念はあった」
「……信念、か」
上鳴が息を呑み、教室のざわめきがふっと途切れた。
いつもなら「怖いヴィランだったよ」と眉を下げて困ったように笑うはずのブロリーが、見たこともないほど深く、重い眼差しをしていたからだ。
「あいつの言ってることは、本当に…めちゃくちゃだ。勝手に人を偽物って決めつけて、命を奪って……そんなの絶対に間違ってる」
ブロリーは自らの大きな掌をじっと見つめ、ゆっくりと握りしめた。
路地裏で肌を裂くように吹き荒れていた、あの狂気じみた殺気。
骨が折れ、肺を貫かれ、血を吐きながらも、ただ己の信じる『正しさ』のためだけに立ち塞がり続けた男の姿が、鮮明に思い出される。
「でも……あいつは、自分の得のために人を襲ってたんじゃない。自分がどうなってもいい、命を落としても構わないって本気で思って……あの狂った考えのためだけに、命を削って立ってたんだ。……だからこそ、すごく……怖かった」
「…………」
ただの暴力や悪意ではない。
歪みきっているからこそ、一切の迷いがない純度100%の狂気。
実際に戦闘を交え、その魂の底を覗き込んだブロリーの言葉には、ネットのまとめ動画やニュースの切り抜きでは絶対に分からない、現場の生々しい重みが宿っていた。
「ブロリー……お前がそこまで言うなんてな……」
切島がごくりと喉を鳴らす。
「ネットじゃ『一途でちょっとカッコいい』なんて持て囃す奴もいるけど……生半可な気持ちで触れちゃいけない奴だったんだな」
上鳴は気まずそうに頭を掻いた。
「ああ。あれは……憧れていいものなんかじゃない」
静かに言葉を重ねたのは、轟だった。
目を僅かに細め、ステインが最後に放ったあの地獄のような威圧を思い起こすように腕を組む。
「あいつは確かに覚悟を決めていた。だが、結果として撒き散らしたのはただの破壊と傷跡だ。……ブロリーがねじ伏せなきゃ、プロも、緑谷達も、全員あの路地裏で殺されていた」
「うん、ブロリー君が助けにきてくれなければ……今頃」
緑谷が頷く。
そして――それまで静かに聞き入っていた飯田が、すっと背筋を伸ばして一歩前に出た。
「ブロリーくんの言う通りだ」
その声には、迷いも濁りもなかった。
眼鏡の奥の瞳には、過酷な痛みを経て、己の未熟さを真っ直ぐに受け止めた者だけが宿す、静かで澄んだ光があった。
「どんなに強い信念があろうと、暴力で他者を蹂躙し、恐怖で世界を塗り替えようとする行為を肯定してはならない。……僕は、憎しみに目を奪われ、あいつと同じ『暴力による制裁』の闇に呑まれかけた」
飯田は包帯で覆われた自らの左腕をぎゅっと握りしめ、クラスメイトたちを見渡した。
「ステインの影に引きずられ、道を踏み外す者がこれから現れるかもしれない。だからこそ――僕たちは揺らいではいけないんだ。理不尽な悪意に屈せず、誰もが安心して笑える社会を守る……それこそが、僕たちの目指すべき『本物のヒーロー』なのだから!」
ビシッと空気を切り裂くような、委員長の力強い言葉。その堂々たる姿に、教室の空気がパッと明るく引き締まった。
「……おうよ! 飯田の言う通りだぜ!」
「さすが委員長! やっぱこうでなくっちゃな!」
切島と上鳴が顔を見合わせて笑い、女子たちもホッとしたように胸を撫で下ろす。
ブロリーもまた、その大きな瞳を柔らかく細め、眩しそうに飯田の横顔を見つめていた。
(飯田……前を、向けたんだな)
路地裏で流した涙も、背負った傷も、すべてを己の血肉にして歩み出そうとしている友の姿。
それが何よりも嬉しくて、誇らしかった。
ガララッ――。
「席に着け。ホームルームを始めるぞ」
前方の扉が開き、相澤が、相変わらずの様子で教壇へと入ってきた。
死線の恐怖と信念の重さを知り、より一層絆を深めたA組の日常が、新たな覚悟を胸に動き出そうとしていた。
次回
?『シュワット!!』
?『バァカァナァアアアア!!?(敗北)』
?『ブロリーさん……どこへ行くんですか?』
お楽しみに