怪物と英雄の狭間で 作:伝説の一般元ブロリスト
少しの休憩話というか、日常みたいなやつです。こっからまたいろんなことが起きるので。
今回発目ちゃんに関してのオリジナルな過去みたいなのがありますので、ご了承ください
「―――おぉ!スッゲェカッケェデザイン!!」
「ポインターシューター!またまだ試作段階で、完成までもう少し時間がかかりますが、楽しみにしておいてくださいね!」
「おう!!マジでありがとう!」
「上鳴、よかったな」
「それじゃあ、次はブロリーさんの番ですね。色々と調べるので、サポートアイテムを一度外してください」
「わかった」
カチリ、と小さな金属音が響き、ブロリーの太い首元からチョーカー型の黒いデバイスが取り外された。
ブロリーは体育祭の時から風呂を入る時以外はずっと身につけていて、ないと逆に違和感を少し覚えるようにとなっていた。
「はい、お預かりしますね!うーん、やっぱりいつ見ても美しいフレーム設計……!」
発目は受け取ったデバイスを作業台に置き、即座に工具を手に取ると、カチカチと手際よく背面のカバーを開けて専用の端末へとケーブルを繋いだ。
「発目……そこ、開くのか?」
「――あっ!ごめんなさい!いうのを忘れていましたね!!今後も強化されていくであろうブロリーさんに負けないようなベイビーを作っていくにあたって、必要なデータを取れるようにしておいたんです!!」
「そうなのか…」
ピピピ、と高速で画面にログデータが流れ始める。発目はゴーグルを額に押し上げ、十字の光が灯る瞳で画面を凝視した。
「――凄いですねブロリーさん!!初めてこれをつけた時よりも、体の中にあるエネルギーがどんどん増えていっています!!」
「……増えているのか?」
「はい!日に日に増えていっていますね! しかし暴発する感じはないですね………これは…そうですね、ブロリーさん自身の肉体が、日々強くなっているエネルギーを抑え切れるように進化していっている……みたいな感ですね!」
「そうか……強く、なってるのか」
静かに零れ落ちたその言葉の響きは、決して自分の成長を喜ぶ少年のものではなかった。
ブロリーは自身の大きく節くれだった掌をじっと見つめ、痛みに耐えるように眉を八の字に下げる。その瞳の奥には、どこか己の内に巣食う底知れない怪物を恐れるような、暗く切ない影が落ちていた。
強くなっている。
それはヒーローを目指す者にとっては喜ばしいはずの事実。だが、かつてその制御不能な力によって孤独と恐怖の底にいたブロリーにとっては――己を飲み込みかねない怪物の檻が、いつ軋みを上げて壊れるかわからないという、言い知れぬ不安そのものだった。
「…………あ」
画面から目を離し、得意げに次のデータを説明しようとした発目が、ブロリーのその横顔を見てピタリと口を止めた。
普段は空気を読まずにマシンガントークを繰り広げる発目だったが、その十字の瞳は極めて鋭く、観察眼に長けている。彼がなぜこのチョーカーを必要としているのか、その根底にある痛みに無神経に触れてしまったことに気づき、珍しく「やってしまいました……」と言わんばかりにバツの悪そうな顔をする。
重く沈みかけた工房の空気。
そこに――。
「あーーーッ!! そ、そういえばさ発目!!」
パチンッ! とわざとらしいほど大きな音で手を叩き、上鳴が割って入った。
「お、俺のポインターシューターのさ! さっき言い忘れてたんだけど、もっとこう……イナズマっぽくビカビカ光る発光ギミックとかつけらんねえ!? ほら、やっぱりヒーローアイテムっつったら男の子心をくすぐる電飾っしょ! ピカピカッて! シュバババッて光るやつ!!」
「……は、はいっ!? 発光ギミックですか!?」
突拍子もない上鳴の割り込みに、発目が目を白黒させる。
上鳴はブロリーの視界を遮るようにその大きな肩にぽんと腕を回すと、ニッと歯を見せて笑いかけた。
「あとさブロリー! 俺、急にめちゃくちゃ腹減ってきちゃってさー! これ終わったらさ!!近くのコンビニ売ってある限定カツサンド買いに行かねえ!? あそこのパン、マジで美味いんだよ! 三人で半分こ……いや、お前が半分以上食っていいからさ!」
「え……カツサンド……?」
突然の食べ物の話に、ブロリーがパチクリと目を瞬かせる。
「つか、俺買ってくるわ!!ちょっと待っててな!!」
「上鳴?!」
上鳴はその場から急いで立ち去り、急いで近くのコンビニへと走っていった。上鳴の動きに少しの笑いが生まれ、工房の場の空気は緩くなる。
嵐のように走り去っていった上鳴の足音を聞きながら、ブロリーは開け放たれた扉をぽかんと見送った。
「行っちゃった……。走って買いに行くなんて、本当にそんなにお腹が空いてたのかな」
「ふふっ、上鳴さんらしいですね。購買じゃなくてわざわざコンビニまで行くなんて、よっぽど食べたかったんでしょう!」
笑いながら、発目は手元に視線を戻し、小型のドライバーでサポートアイテムのネジをキュッと締め直した。
金属の触れ合う小気味いい音が工房に響く。
ふと、発目は作業の手を止めずに、ぽつりと口を開いた。
「……さっきはすみませんでした」
「え?」
「私、ベイビーことになると、周りが見えなくなっちゃう悪癖がありまして」
「気にしていないから、大丈夫だ」
「そう言ってもらえると助かります。でもブロリーさんが自分の力が強くなるのをあまり好きではないと、教えてもらっていたのに…」
発目は作業台の上で小型のドライバーを動かしながら、少しだけ伏し目がちに言った。
カチカチと金属の触れ合う乾いた音が、静かになった工房に小さく響く。
「ううん、謝らなくていいよ。……オレ、自分の中にまだどれくらい力が眠っているのか、本当は全然分かってないんだ。だから、発目がそうやってちゃんと数字で見て教えてくれるのは……怖いけど、ありがたいんだよ」
ブロリーは首筋にそっと触れ、どこか居心地悪そうに視線を落とした。
「みんなは……強くなったら、もっと人を助けられるって胸を張って喜ぶのに。オレは、強くなればなるほど、いつかまた周りを全部壊しちゃうんじゃないかって怖くなる。……昔から、オレだけがみんなと違って、変なんだ」
ぽつりと零れ落ちた、少年の孤独な本音。
それを聞いた発目は、作業の手を止め、工具を作業台の上にコトッと置いた。
そして、作業用の丸椅子をくるりと回し、ブロリーと真正面から向き合った。
「みんなと違う、ですか。……それなら私だって、昔から筋金入りの変わり者でしたよ」
「発目が……?」
「ええ」
発目は作業台の隅に置かれた、年季の入った工具箱を懐かしそうに指先で撫でた。
「小さい頃、周りの子たちはみんな、テレビにかじりついてオールマイトの必殺技を真似したり、キラキラした可愛いヒーローのグッズを集めたりして盛り上がってました。……でも私、ヒーローそのものには全然興味が湧かなかったんです」
「ヒーローに……?」
「はい。私が釘付けになったのは、ヒーローが身につけてる『サポートアイテム』の方でした」
発目の瞳に、どこか遠い日を思い出すような光が宿る。
「あのブーツの衝撃吸収材にはどんな新素材が使われてるんだろう、とか。あの射出装置のギア比はどう設計されてるんだろう、とか。録画した戦闘シーンをコマ送りにして、ヒーローの顔じゃなくてヒーローが身につけているアイテムにばっかり必死に見てました。家にある目覚まし時計や家電も、片っ端からドライバーで分解しては元に戻せなくなって、親にめちゃくちゃ怒られて」
苦笑い混じりに語る発目だったが、その声は少しだけ静かなトーンを帯びていた。
「同年代の女の子たちがする流行りのアニメの話も、アイドルの話も、何一つ合わせられませんでした。『明ちゃんは変わってるね』『明ちゃんと話していても面白くない』って言われて……。悪口を言われたわけじゃないんです。ただ、どうしても話が噛み合わなくて、少しずつ、少しずつ……周りから人が離れていきました」
「…………」
ブロリーの胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
理由は違えど、「誰とも分かり合えず、一人でポツンと取り残される恐怖」を、ブロリーは痛いほど知っていたからだ。
「……寂しく、なかったのか?」
「正直、そこまででしたね。私にはベイビー達を作っていく方が楽しかったので!」
「え……?」
ブロリーは目を丸くした。
自分なら押し潰されてしまうかもしれない孤独を、目の前の少女は事も無げに笑い飛ばしてしまったからだ。
「もちろん、変人扱いされて悔しいと思ったことは少し(数ミリ)ありました。でも!、他人にどう思われるかを気にしてベイビー作りをやめるくらいなら、私は変人のままでいいやって思ったんです。だって、設計図を引いて、金属を削って、新しいアイデアが形になる瞬間――あれ以上のワクワクなんて、世界中どこを探したってありませんから!」
発目は自慢げに胸を張り、ニッと白い歯を見せて笑った。
その表情には陰りなど微塵もなく、ただ己の情熱に対する絶対的な誇りと自信だけが満ち溢れている。
「だからブロリーさん、周りと違うことを『変だ』とか『化け物』だなんて思っちゃダメです! 周りと違うってことは、それだけブロリーさんにしかできないことがあるってことですよ!。その規格外のパワーでしか救えない命が、これから先、絶対にあります! ブロリーさんが力を怖がっているのは、それだけ誰かを傷つけたくないって思ってる優しい心の証拠です。暴れるのが好きで力を振るってるわけじゃないことくらい、私にだって分かりますよ」
発目は作業台のサポートアイテムを指先で持ち上げると、カチャリと軽く振ってみせた。
「それに!ブロリーさんのエネルギーが増え続けるのは、技術者の私にとっても最高に燃えるシチュエーションなんです! 普通の人間じゃ扱えないエネルギー、普通のアイテムじゃ壊れちゃう負荷――それを御せる最高のベイビーを作れるのは、世界中で私だけってことですからね!」
「発目……」
「だから、強くなることを怖がらないでください!ブロリーさんがどれだけ強くなっても、私がそれ以上のベイビーを作って、絶対に八木さんを支えてみせますから!」
カラッとした、けれど芯の通った少女の熱意。
グラントリノの厳しくも温かい教えとはまた違う、同じ目線で隣に立ち、背中を押してくれる仲間の存在。
ブロリーの胸の奥底に澱のように沈んでいた冷たい不安が、すうっと温かいものに溶かされていく。
「……そっか。ありがとう、発目」
ブロリーの顔に、いつもの純朴で柔らかな笑みが戻った。
「ふふん! お礼なら私のベイビーを大事にすることで返してください! はい、メンテナンス完了です。つけてみてください!」
差し出されたチョーカーを受け取り、ブロリーは慣れた手つきで首元へと装着する。
カチリ、と心地よい金属音が響き、首筋にピタリと馴染んだ。
デバイスから伝わる冷たい金属の感触が、今はどこか、とても温かく頼もしく感じられた。
その瞬間――。
「はぁッ……はぁッ……! 買ってきたぞォォォッ!!」
ガララッと勢いよく工房の扉が開き、上鳴が息を切らしながら飛び込んできた。
その手には、高々と掲げられたコンビニの袋。
「……アレ?なんか俺、おじゃまだった?」
「いえいえ!!むしろ大歓迎です!!――あっそうです!せっかくなら上鳴さんの話も聞かせてください!」
「俺の話…⁉︎」
「ええ!食べながらいっぱいお話をしましょう!」
夕暮れの茜色が差し込む工房の中で、三人は温かいカツサンドを分け合いながら、放課後の穏やかな笑い声を響かせていたのであった。