怪物と英雄の狭間で 作:伝説の一般元ブロリスト
時は流れ、6月最終週。
期末テストまで残すところ一週間を切っていた。この期末テストはただのテストではなく、夏休み期間に行われる林間合宿に行けるかどうかの大事なテストだった。
「――なんで上鳴が15位なの!!?おかしくない!!?」
「酷くね!!?俺だって頑張ってんだけど!?」
「同類だと思ってたのぃ!!どんな裏技使ったの!?」
「ブロリーと勉強してだけだって!!」
「ブロリー君って一緒に勉強しやすいもんねー」
ブロリーは普段から予習復習を心がけ、わからないことがあれば誰かに聞くことを決めている。上鳴とはよく放課後残り、一緒に問題を解きあっていた。
「芦戸さん!に青山君! 頑張ろうよ!」
「うむ! 勉学は学生の本分だ!」
「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねえだろ」
「うぐっ……!」
「グサッときた……!!」
轟の天然かつ容赦のない正論ナイフに、胸を押さえて床に膝をつく赤点組。
だが――そんな彼ら以上に、尋常ではないプレッシャーに呑み込まれている巨漢が一人いた。
「……ん? なんか揺れてる音しねえ?地震か?」
瀬呂が天井の蛍光灯を見上げる。
だが、揺れているのは校舎ではなくある一つの机と椅子。
そこに座るブロリーはまるで生まれまでの子鹿のような感じで、尋常でハイくらいに震えていた。。
「……期末、怖い。――震えるな、この足め……!」
「ブロリーくんが小刻みに震えている!?」
緑谷が思わず素っ頓狂な悲鳴を上げた。
保須の地獄のような戦場で巨大なトラックを片手で軽々と放り投げ、あの『ヒーロー殺し』と正面から拳を交えた男が、怯えて生まれたての小鹿のように震えているのだ。
「ブロリー君、テストが怖いん?」
「テスト……じゃなくて、それで、落ちるのが…怖い。落ちて――みんなと一緒に、林間合宿に行けないのが……怖い」
「ブロリー!!」
「おまっ…おまほんと…!!」
「そうだよな!!せっかくならみんなで行きたいよな!!」
「当たり前だろブロリー!誰一人欠けずに、20人全員で行くんだよ林間合宿!!」
「そうだそうだ! みんなでキャンプファイヤーして、カレー作って、肝試しするんだから! ブロリーくんがいなきゃ寂しすぎるもん!」
「漢なら全員で壁をぶち破るぞ!! お前を置いていく奴なんて、このクラスに誰一人いるわけねえだろ!!」
上鳴が、芦戸が、切島が、机を取り囲んで熱い拳を突き上げる。普段なら怪力でヴィランをねじ伏せる男が、ただ「みんなと林間を楽しみたい」という一心で震えている。そのあまりに純粋で健気な言葉に、教室中のハートが鷲掴みにされていた。
「―あの、皆様!」
パチンッ、と澄んだ拍手の音が響き渡った。
立ち上がったのは、クラス不動のトップ・八百万百。
その切れ長の瞳は、かつてない使命感と情熱でらんらんと輝いていた。
「ブロリーさんのその純粋なお気持ち、そして皆様の熱い友情……わたくし、深く感銘を受けました! 我がクラスから赤点による補習居残り者を出すなど、あってはなりません! もしよろしければ今週末――我が家で勉強会を開きませんこと!?」
『勉強会きたぁぁ!!!』
教室中が歓声で沸き立った。
芦戸や耳郎、瀬呂が「神降臨!」「家庭教師ヤオモモ!」と拝み倒すように駆け寄る。
「皆様の苦手分野を洗い出し、わたくしが基礎から完璧に叩き込んで差し上げますわ! お母様にも頼んで、美味しいお茶とお菓子も用意いたします!」
「うむ! 素晴らしい提案だ八百万くん!」
飯田が腕を直角に振り回しながら力強く前に出た。
「僕も委員長として、緑谷君たちと共に教室での放課後自主勉強会をフルサポートしよう! 教える側にとっても、知識の再確認となり双方に利がある! 目指すはA組全員合格、完全勝利だ!!」
「うん! 僕もノートならいくらでも貸すし、分からないところは一緒に考えよう、ブロリーくん!」
緑谷がびっしりと書き込まれたノートを胸に抱えて笑いかける。轟も静かに「俺も、分かる範囲なら教えるぞ」と頷いた。教室の隅々にまで広がっていく、全員で困難を乗り越えようとする圧倒的な熱気だった。
その後、切島は『爆豪!色々と教えてくれ!!』と元気いっぱいに頼み込んで爆豪が教え殺してやるから覚悟してとけなどと言ったり、八百万がプリプリルンルンしていたりして、その日は終了した。
勉強会当日。
八百万の家に、芦戸、梅雨、葉隠、尾白、耳郎、ブロリー、上鳴、八百万、瀬呂が集まり、そこでお互いに助け合いながら勉強を行なっていた。
八百万家の規格外に広大な客間では、豪奢なシャンデリアの下に置かれた大きな机を囲み、真剣かつ和やかな勉強会が進められていた。天井が高いとはいえ、山のような巨躯を誇るブロリーが高級感あふれる革張りの椅子に恐縮しきりで浅く腰掛ける姿は、それだけでどこか微笑ましい光景を作り出していた。
「――トラック背負いながら勉強!?」
「人差し指で逆立ちをしながら勉強!?」
「1人の時はそれで、勉強をしてた。でもこうやってみんなでやった方が、やりやすい」
「それならよかったけど」
「筋トレをしながらの勉強……やってみようかな」
「俺真似して死にかけたからやめといた方がいいぞ?」
そして勉強の合間、彼らの元へと運ばれてきたのは、名門の風格漂う極上の紅茶と、三段重ねの豪奢なアフタヌーンティースタンドを埋め尽くす色とりどりの焼き菓子やサンドイッチだった。
常人であれば数日分とも思えるような贅沢なスイーツの山だったが、育ち盛りで代謝も規格外なブロリーの胃袋にはうってつけであり、八百万の歓待に目を丸くしながらも、彼は差し出されたスコーンやパウンドケーキを両手で大切そうに持ち、口いっぱいに頬張っては至福そうに頬を緩ませていた。
他の皆も同じような笑みを浮かばせながら食べていき、それからしばらくの間、ブロリー以外の皆は普通の焼き菓子やサンドイッチが物足りなくなってしまったそう。
八百万が用意した一人ひとりの弱点に寄り添う丁寧な特製レジュメと、的確極まる解説。それに誰よりも真剣な眼差しで食らいつき、巨大な指先で器用にシャープペンシルを走らせるブロリーの姿に引っ張られるようにして、上鳴や芦戸らも弱音を吐くことなくペンを走らせ続けた。
差し込む陽光が茜色に染まり、机の上に広げられたノートがびっしりと理解の痕跡で埋まる頃には、ブロリーの胸を満たしていたテストへの底知れぬ恐怖はすっかり消え去り、仲間たちと共に林間合宿の地を踏むという確固たる自信と前向きな熱気へと変わっていた。
「――たっか!!?」
「ケロ…新鮮な感覚ね」
「ブロリー?重くねえの?」
「全然平気だ」
「これは、貴重な体験ですね…!」
戯れで、ブロリーの背や腕に乗せてもらい、軽く空を飛んだりもして、勉強会はとても良い感じで終わっていくのだった。
そして演習試験当日。
「――おるぁぁぁいったぞぉぉ!!!!」
「赤点回避!!合格!!」
勉強会の成果が存分に発揮され、ブロリー達は1人もかけることなく筆記試験は完全に合格……あとは演習試験のみ。筆記とは別の実技でのテスト、これにクリアすれば、はれて林間合宿に行ける。
生徒達のほとんどは入試試験のような内容と思っていたが――実際はその何倍も厳しい物だった。
「諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!!」
相澤の首にある布から出てきた校長先生の話を聞けば、ロボとの戦闘訓練は実戦的ではなく、ヴィランが活性化している今はもっと対人戦闘、活動を見据えた実戦に近い教えを重視することにしたそう。
保須で起きた大量の脳無による事件、あれの事も考えれば、当然とも言える。そして肝心の相手は――雄英高校の教師。
教師側はハンデとして自分の体重の半分くらいの重さのあるサポートアイテムを、両腕と両足につけるということになっている。
そして、チームアップが発表された。
轟・八百万 VS イレイザーヘッド
緑谷・爆豪 VS オールマイト
芦戸・上鳴・切島 VS セメントス
青山×麗日 VS 13号
口田×耳郎 VS プレゼントマイク
蛙吹・常闇 VS エクトプラズム
瀬呂・峰田 VS ミッドナイト
障子・葉隠 VS スナイプ
飯田×尾白 VS パワーローダー
発表された結果に、生徒達全員が驚きを隠せずにいる。オールマイトが出るということにもびっくりだが、それ以前に、三人一組のチームがあり、ブロリーがそのチームアップにいないという点に皆は驚いていた。
「あ、あの。先生…?ブロリーさんの名前がないようなのですが…?」
「それについて今から説明をする……ブロリー、お前の実力ははっきり言って俺たちの倍だ。そんなお前と他1人のペア、どう転んでもお前が1人で全てを片付けてしまって、試験にならない」
「ヌルゲー化しちまうってことか…」
「――というわけで」
相澤先生の首元の布から出ている根津校長が、声を少し大きくして告げる。
「ブロリーくんには、他の全生徒の演習が終了した後、最終特別試験としてグラウンドβ全体を使用した単独試験を受けてもらうよ。その相手は――」
校長はぐるりと周囲の教師陣を見渡し、獰猛なまでの笑みを浮かべた。
「緑谷くんと爆豪くんの相手を務めるオールマイト―――彼を除く、ここにいる雄英高校教師チーム『全員』さ!!!」
『全っっっ員ーーーーーーッッッ!!!???』
「そして、教師側はハンデである重りはなし!――つまりは本気だね!!」
「――本気」
教師、根津校長も合わせた九人vsブロリー……それは単純に本気のプロ九人と相手をすることとなる。そうしなければいけない、そうではないと、ブロリーの試練にはならない。
かくして、規格外の少年に課せられたのは――雄英史上初、前代未聞の期末試験だった。