怪物と英雄の狭間で 作:伝説の一般元ブロリスト
新アニメ………よかった、特に、特に………うぅ、またお声を聞きたいです………。
「――まあ、そういうわけで。昨日期末試験の担当だった俺以外の先生方は、体の回復のために少しの間お休みをすることとなった。覚えておくように」
『そりゃそうだ!!』
1年A組の教室に、生徒たちの息の合った総ツッコミが響き渡った。
教壇に立つ相澤は、目薬を差しながらだるそうに息を吐き出す。相澤自身も全身に湿布の匂いを漂わせ、目の充血が引ききっていない満身創痍の状態だったが、他の教員陣に比べればまだ動ける方だった。
「なお、ミッドナイト先生に関しては肉体的な負傷というよりは……精神的な理由で有給を消化中だ。深く詮索するな」
『(絶対昨日のアレだ……)』
モニター越しに試験の一部始終を見ていた生徒たちの脳裏に、スーツを破いてブロリーに抱きついたミッドナイトの姿が一斉に過り、教室に気まずい沈黙が流れた。
「話を戻す。期末試験の総評だが、筆記での赤点組も含め――林間合宿には全員参加だ。『合理的な虚偽』ってやつだな。ただし、基準点に満たなかった連中には、合宿先で本番以上の地獄の補習が待っていると思え」
『よっしゃぁぁぁぁ合宿行けるぅぅぅ!!』
「補習があっても行けるだけで嬉しいぃぃ!!」
歓喜の声を上げる生徒たち。
相澤はそんな騒ぎをやれやれと思い見つめながら、合宿へ向けての準備や注意事項を淡々と黒板に書き進めていく。
(――すごく、見られてる)
そんな賑やかな教室にいる1人、ブロリーだけは二つのとてつもない視線に対して、少し困っており、左右から尋常ではない殺気と怨嗟の視線が、レーザーのように突き刺さっていたのだ。
一人目は峰田実。
机に両手を突っ張り、血走った両目から今にも血の涙を流しそうな形相で、ギリギリと奥歯を噛み鳴らしている。
『ミッドナイト先生の超絶密着ラッキースケベを一身に浴びておきながら、何食わぬ顔で無傷で帰ってきた大罪人』を見るその目は、もはや純度百パーセントの嫉妬と怨念そのものだった。
そして二人目は爆豪勝己。
背もたれにふんぞり返り、ポケットに両手を突っ込んだまま、額に青筋をビキビキと浮かべてブロリーを睨みつけている。
指先からはパチ……パチ……と苛立ちの火花が漏れ出ており、プロヒーロー教員陣全員を一人で、しかも誰一人傷つけることなく完封してみせた規格外の力への屈辱と闘争心で、今にも噛み殺さんばかりの獰猛な眼光を放っていた。
嫉妬の怨念と、剥き出しの殺意という名の敵意。
二方向からの極端すぎるプレッシャーに挟まれ、世界を滅ぼしかねない怪力を持つブロリーは、見ないようにしよう必死だ。
「―峰田に爆豪、いつまでそれやってんだ」
「だっ、だってよ相澤先生ぇぇぇ!!」
指名された瞬間、峰田が机をバンッと叩いて立ち上がった。
「ブロリーのことはすげぇ奴だって尊敬しているしいい奴だってのは間違いないけど……けどさぁ!!許せねぇよ!! あのミッドナイト先生の! あんな破廉恥なダイブを真正面から受け止めておいて! 『苦しくなかったですか?』じゃねぇよ!! そこ代われよチクショウ!! 全男子の敵だオメーはよぉぉぉッ!!」
「峰田、動機が下らなすぎて論外だ。即刻座れ。これ以上騒ぐならお前だけ、強化合宿の内容を十倍厳しくするぞ」
「ひぃっ!?」
相澤の冷徹な一喝に、峰田は涙目で椅子へと沈み込んだ。
そして相澤は、いまだに視線を逸らさず、ギラついた赤い瞳でブロリーを射抜き続けている爆豪へと目を向けた。
「それと、爆豪。……お前の苛立ちの理由は察しがつくが、ブロリーに八つ当たりしたところで昨日の結果は変わらんぞ」
「…………」
普段の爆豪なら、「あァ!? 八つ当たりなんぞしてねぇだろが!!」「ぶっ飛ばすぞ!!」と机を蹴り飛ばして怒鳴り散らしているところだった。
だが、今の爆豪の口からは――一切の言葉が出てこなかった。
机の下で握りしめた拳は、爪が手のひらに食い込んで白く鬱血し、全身の筋肉が軋むほどに硬直している。
カチ、カチ、と微かに鳴るのは、噛み砕かんばかりに食いしばられた奥歯の音。
呼吸すら浅く、荒い。
罵倒する言葉も、喚き散らす怒声も、今の爆豪の胸中に渦巻く感情の前ではあまりにも軽すぎた。
(……超えてやる)
教員陣全員を一人で、誰一人として傷つけずにねじ伏せたあの圧倒的な規格外。
自分とデクが二人がかりで、ボロボロになってようやく勝ちを拾ったオールマイト以上の絶望的な現実。
逃げ出す気など毛頭ない。諦める選択肢など最初から持ち合わせていない。
ただ、ただ――何が何でも、死んでも、あの高みを引きずり下ろし、この手で超えてみせる。
(絶対に……絶対に、てめェを超えて、一番になってやるからなぁ……ッッ!!)
言葉の代わりに、全身の毛穴から吹き出すような気迫。ギラつく赤い瞳の奥に宿る、底なしの執念と剥き出しの闘争心。
「か、かっちゃんが……怒鳴りすらしない……!」
「声も出ねぇくらい本気配(ガチ)じゃん……! 逆に怖ぇよ……!」
切島や上鳴が青ざめて息を呑む中、緑谷もまた、爆豪の横顔を見つめて拳を握りしめていた。
爆豪のあの表情の奥にあるもの――絶望ではなく、途方もない壁にぶつかったからこそ燃え上がる、狂気じみたまでの上昇志向を痛いほどに理解していたからだ。
「…………」
相澤は、一言も発さずに殺気を滾らせ続ける爆豪を、じっと赤い目で見据えた。
(―まあ、ある意味これも成長に必要なことか)
相澤は短く鼻を鳴らし、それ以上爆豪を咎めることなく黒板へと向き直った。
「その有り余る気合は、合宿で嫌というほど発散させてやる。……席に着け、授業を始めるぞ」
チョークの硬い音が教室に響き始める。
爆豪は一度だけ荒く息を吐き出すと、視線を逸らすことなく、ただ静かに――ブロリーの背中を、その脳裏へと焼き付けるように見据え続けていた。
時刻は昼休み。
A組の生徒達は教室で話をしていた。
「まぁ何はともあれ全員で行けてよかったね」
「な。やっぱ揃わねぇと寂しいしな」
「一週間の強化合宿か!」
「結構な大荷物になるね……」
話題は当然林間合宿。
しおりを見れば川で泳いだりする時間もあるらしい。面白そうで何よりと思う反面、雄英の林間がそれで終わるのかな……と若干の不安をある様子だった。
「ナイト用のライトとか、虫除けスプレーとか、色々買い足さなきゃいけないもの多すぎだろ!」
上鳴が配られたしおりを指で弾きながらぼやくと、切島も腕を組んで頷いた。
「だな! 俺、アウトドア用の大容量リュックとか持ってねぇし、靴も頑丈なやつ新調しねぇとダメかもな」
「私は水着を新しく買いたーい!!」
芦戸が机に身を乗り出して目を輝かせると、葉隠もポンポンと両手を弾ませて同調する。
「わかるー! 川遊びあるなら可愛い水着着たいよね! 浮き輪とかも持ってっちゃう!?」
「いやけど、雄英の林間だろ?……絶対ただのバカンスで終わるわけないと思うけど」
「合宿の初日からいきなり山に放り出されて『走って宿まで来い』とか言われてもおかしくないしね……」
尾白が苦笑いを浮かべ、耳郎もイヤホンジャックを弄りながら肩をすくめた。
「うぐっ……あり得そうで否定できねぇ……!」
生徒たちがワイワイと盛り上がる中、飯田が眼鏡をクイッと押し上げ、特大の身振り手振りを交えながら口を開いた。
「油断は禁物だが、備えあれば憂いなしだ! 合宿先で万全のパフォーマンスを発揮するためにも、必要な装備は今のうちに揃えておくのが賢明というもの! 各自、リストの確認を怠らないように!」
「委員長、相変わらず気合入ってんなぁ」
そんな賑やかな輪の端で、ブロリーは特注のしおりを巨大な両手で大切そうに広げ、じーっと文字を追っていた。
学校行事のお泊まり。みんなと一緒に遠くへ行くこと自体、今までの人生で一度も経験したことがない。不安もあるけれど、それ以上に胸の奥がじんわりと温かくなるような楽しみが勝っていた。
そんなブロリーの様子に気づき、緑谷が机の横へ歩み寄ってくる。
「ブロリーくん、合宿の荷物とか、もう準備できてる?」
「え? えっと……」
ブロリーは困ったように眉を下げ、太い人差し指で頬をポリポリと掻いた。
「着替えは……父さんが用意してくれた大きいシャツがあるけど……。リュックとか、靴とか……山に行く用のやつは、持っていないかも……」
「あー、そっか!」
芦戸が手をポンと打った。
「ブロリーくん、体が大きいもんね! 普通のスーパーとかじゃ、ブロリーくんが入るサイズの大型リュックとかアウトドアウェアって売ってないんじゃない!?」
「うっ……確かに……!」
切島が唸る。
「俺たちのサイズなら近所で適当に買えるけど、ブロリーの体格に合うやつとなると、専門のデカい店じゃないと無理だな!」
「どうしよう……お父さんに聞いてみようかな……」
申し訳なさそうに身を縮める巨漢を見て、葉隠がパッと両手を広げた。
「あ! じゃあさ、じゃあさ! 明日学校休みだし、みんなで一緒に買い出し行かない!?」
「お、それ名案じゃん!」
瀬呂がニヤリと笑う。
「どうせみんな色々足りてねぇんだろ? まとめて行った方が早いぜ!」
「いいねいいね! どこ行く!?」
「でしたら、木椰区のショッピングモールなんてどうでしょう!」
八百万が上品に手を添えて提案する。
「あそこなら専門店街も非常に充実しておりますし、大型のスポーツ用品店やアウトドアショップも多数出店しておりますわ。八木さんのサイズに合うお品物も、きっと見つかるはずです!」
「木椰区のショッピングモール!!県内でも最大級のモールだな!」
飯田がビシッと手を挙げて賛同した。
「決まり決まりー! みんなで行こう!」
芦戸が盛り上がり、麗日が嬉しそうに緑谷へ視線を向ける。
「デクくんも行くよね?」
「う、うん! 僕もまだ全然揃ってないから、助かるよ!」
「ブロリーくんも、もちろん行くよね!?」
葉隠や切島に一斉に笑顔を向けられ、ブロリーは驚いたように目を丸くした。
「え……オレも……みんなと、行っていいの?」
「何言ってんだよ、当たり前だろ!」
切島がブロリーのたくましい腕をパシンと軽く叩いてニッと笑った。
「クラス全員で行くから楽しいんじゃねぇか! ブロリーのデカいリュック、みんなで最高のやつ選んでやるよ!」
「みんな……」
胸がいっぱいになったように、ブロリーの顔にふわっと優しい笑みが広がった。
「うん……! オレも、行きたい!」
「よっしゃ、決まりだな!」
期末試験の緊張から解放され、目前に迫る林間合宿へ向けて――明日、A組全員でキヨシワードショッピングモールへ出かける約束が、こうして賑やかに決まったのだった。
――一方その頃。
「なんでだ……アイツと俺で何が違う。気に入らないものは全部ぶっ壊していいはずだろ、そのための強い力なんじゃねえのか――わからねえ…わからねえ…!!なんなんだ……くそっ……!!!!!!」
1人の男が、一つの難題に対して、必死に答えをだそうとしていた。