怪物と英雄の狭間で 作:伝説の一般元ブロリスト
とっても長くなりました………そして遅くなりました。そろそろ映画も終わりです、最後までどうぞお付き合いくださいませ。
「―――う"お"ぉ"ぉ"っ!!」
「ァァァァァァァァ!!!!!!」
互いの咆哮が激突し、フロアの空気がビリビリと震える。
脳無は獣のように身を屈め、両腕に生えた金属質のスパイクを突き出しながら、怒涛の連続攻撃を繰り出した。常人のヒーローであれば、掠っただけでも肉を抉られ、即死免れ得ない凶悪なラッシュ。
しかし、その暴力を真っ向から受け止めるブロリーの瞳に、焦りは微塵もなかった。
「ガァァァァッッ!!」
「……ッ!!」
ガガガガガッ!!と、硬質な音が連続して響き渡る。
脳無のスパイクパンチがブロリーの強靭な肉体に直撃しているはずだった。だが、ブロリーはその巨体を一歩も引くことなく、分厚い胸板や丸太のような腕で打撃を『受けて』いた。
否、受けているのではない。
脳無の金属のスパイクがブロリーの皮膚に触れた瞬間、パキリ、と嫌な音を立てて次々に砕け散っていくのだ。
「ギ……ッ!?」
知性のないはずの脳無の巨大な眼球が、信じられないものを見るように見開かれた。
ブロリーの肉体強度は、USJの時に戦った脳無の『ショック吸収』などという次元ではない。ただそこにあるだけで、一切の攻撃を寄せ付けない圧倒的な『生物としての格の違い』。
70倍に跳ね上がった潜在パワーは、力を抑え込んでいようとも、その肉体の頑強さまでを隠し切ることはできなかった。
「う"う"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!!!」
ブロリーの雄叫びがタワー内に響く。
それは怒りに任せた暴走の叫びではない。己の内に渦巻く途方もないエネルギーを、タワーを壊さないように、目の前の敵『だけ』に叩き込むための、気合いの咆哮だった。
ブロリーは、スパイクの砕けた脳無の右腕を、巨大な手でガシッと掴み取った。
「ガァッ!?」
「――ふんッ!!」
ミシミシと、脳無の太い腕の骨が軋む音が鳴る。
そのままブロリーは、自分とほぼ同じサイズの巨体である脳無を、いとも容易く片腕で持ち上げた。足が宙に浮き、じたばたと暴れる脳無を、まるで子供の玩具のように軽々と振り回す。
「うおおおおおッッ!!」
ブロリーが脳無の身体を床に叩きつけた瞬間、フロア全体が大きく波打った。タワーの基礎構造を壊さないよう、極限まで威力を『床の表面』だけに留めたにも関わらず、脳無の身体は鋼鉄の床に深々とめり込み、その岩石のような筋肉が衝撃でひしゃげる。
「ギ……、ガァ……ァ……」
「………」
ブロリーは脳無を見ながら、少し考える。口から体液を吐き出し、痙攣する脳無。
それでもなお、痛覚すら存在しないかのように、虚無の眼球をギョロつかせて無理やりに体を起こそうとする。その異様でおぞましい姿を見ても、ブロリーの瞳に嫌悪の色は浮かばなかった。
(もしかしたら……こいつも…、いや、他の脳無達も……オレと同じで、自分の意思もなく、ただ暴れさせられてるだけなのかもしれない)
自分自身が、その計り知れない力ゆえに「化け物」と呼ばれ、恐れられてきた過去がある。
だからこそ、ブロリーは目の前で命令されるがままに立ち上がろうとする存在を、決して化け物とは呼ばなかった。
「……お前も、本当はこんなこと、したくないのかもしれないけど」
ブロリーは静かに見下ろし、立ち上がろうとする脳無の顔面を巨大な掌で優しく触れる。
「……ごめん。これ以上は、上に行かせるわけにはいかないんだ」
その後すぐに拳を作り、顔に拳を振り上げ、少し強く振り下ろす。抗うことのできない絶対的な力の差に、ついにその四肢から力なくダラリと崩れ落ちた。
『超規格外』の巨人の前では、底知れぬ力を持つはずの異形の敵すら、足止めにすらならなかった。ブロリーはすぐさまその場を移動し、緑谷達の元へと向かうのであった。
「オールマイトと……ブロリーのため…?」
「あの二人のために、こんなことをしたって言うんですか……?」
「ッ博士は奪われたものを取り返しただけです! 機械的に個性を増幅させる、この画期的な発明を!」
「個性の増幅…!?」
緑谷が目を見開きながら言うと、サムが話を続ける。
「ええ、まだ試作段階ですが、この装置を使えば薬品などとは違い人体に影響を与えず個性を増幅させる事ができます。しかし、この発明と研究データはスポンサーによって没収、研究そのものも凍結させられた。これが世界に公表されれば、超人社会の構造が激変する。それを恐れた各国政府が、圧力をかけてきたのです。だから博士は…!」
サムは、研究を取り戻す為の手段をデヴィットに話した。
それは、自分達が雇ったヴィラン役の者達と協力して、ヴィランに研究を盗まれた事にするというものだった。
研究を取り戻した後は別の場所で研究を続けるつもりだった―――どんな手を使おうとも、二人は自分達の研究を取り戻したかったのだ。
そして計画の為の準備を整え、タワーの休みとなるI・EXPOのプレオープン、関係者が唯一一堂に会するレセプションパーティーの開催と同時に作戦を開始する事にした。
二人が裏で手引きをし、敵ヴィランがI・アイランドを乗っ取ったように見せかけるというのが作戦の全貌だった。
「そんな…嘘でしょパパ…? 嘘だと言って…!」
メリッサは、サムの言う事が信じられずに必死にデヴィットに訴えかける……だがデヴィットは、メリッサから目を逸らしながら言った。
「嘘ではない」
「こんなのおかしいわ! 私の知っているパパは、絶対そんな事しない! なのにどうして!? どうして!?」
「さっき、オールマイトとブロリーのためって言ってましたよね……どう言う意味ですか」
轟の問いかけに、デヴィットは絞り出すように言った……それはまさしく、その場にいる者達の思考を止めるほどの……事実。
「お前達は知らないだろうが、彼の個性は消えかかっている」
「…………は?」
「――オールマイトの個性が……消え掛かって…?」
「ッんなわけねぇだろ…!!個性が人の体から消えることなんざ…そんな事例聞いたこともねえ!!…しかも、オールマイトだぞ――あのオールマイトに限ってそんなこと…あるわけねえだろ!!!」
「…事実だ、彼にはもう…ヒーローとして動ける時間は……もう、ほとんど残されていない…!!」
デヴィットの言葉に、緑谷だけはハッとしていた………自分が彼の個性を引き継いだ、それ故に、オールマイトの体に残されている力は、残りわずか。
オールマイトの個性やその事実に対して知らない爆豪達からすれば、信じられるわけもない。
「…だが、私の装置があれば、元に戻せる! いや…それ以上の能力を彼に与える事ができる。No.1ヒーローが…平和の象徴が…再び光を取り戻す事ができる! また多くの人達を、助ける事が出来るんだ!」
デヴィットは、誇らしげにそう言った。
彼は、古くからの友人であり、平和の象徴であるヒーローとしての『オールマイト』を延命させる事に必死で、その為ならどんな犠牲でも払う気でいた。デヴィットは、サムからアタッシュケースを受け取ってメリッサに訴えかける。
「頼む! オールマイトにこの装置を渡させてくれ! もう作り直してる時間は無いんだ! その後でなら、私はどんな罰でも受ける覚悟も…『ふざけてんじゃねえ!!!』…!」
「かっちゃん…」
爆豪が叫ぶと、デヴィットが目を見開く。爆豪はもう我慢できなかった、オールマイトが個性が消え掛かっている事が頭に残り続け混乱しつつあるものの…デヴィットの行いに、デヴィットの言葉に、オールマイトに憧れ、彼を超えるヒーローになろうとしている爆豪は本気で怒っていた。
「オールマイトの個性が消え掛かっている…!……仮に……百歩譲ってアンタの言うそのイカれた話が事実だったとしてだ!」
爆豪は一歩、また一歩とデヴィットに詰め寄り、ギリッと奥歯を噛み鳴らした。
「アンタがやったことは、この島の人間全員を人質にして、ヴィランとグルになって起こしたテロ行為だ! そんな汚ねぇ犯罪まがいの真似で手に入れた機械を差し出されて、あのオールマイトが『ありがとう』って笑って受け取ると思ってんのか!!」
「それは……」
デヴィットの顔から血の気が引く。
爆豪の言う通りだった。オールマイトは、誰よりも正義を重んじ、自己を犠牲にしてでも他者を守る平和の象徴。決して他人の犠牲の上に成り立つ力など望まない。
「アンタはオールマイトを見くびってんだよ! オールマイトは、たとえ力がなくなろうが、平和の象徴なんだ! こんなもん……テメェの勝手なエゴの押し付けでしかねぇんだよ!!」
爆豪の激しい糾弾に、デヴィットはアタッシュケースを抱えたまま、反論すらできずに押し黙ってしまった。
その隣で、轟も静かに、だが確かな怒りを込めて口を開いた。
「……爆豪の言う通りだ」
轟は、右半身から微かな冷気を漂わせながら、冷たくデヴィットを見据えた。
「あんたは『オールマイトとブロリーのため』と言ったな。……オールマイトの話は百歩譲ったとして、ブロリーのためってのはどういう意味だ」
「……ブロリー君の力は、年を重ねていくごとに……さらに強くなっている。このままいけばいずれ、彼の力は暴走し……誰にも止められなくなる。彼が怒りや悲しみで我を忘れ、あの無限の力を解放してしまった時……彼を殺さずに、力でねじ伏せて抱きとめてやれるのは、この世界でオールマイトただ一人なんだ!!」
デヴィットの目には、狂気にも似た切実な涙が浮かんでいた。
「もしオールマイトが力を失った後に彼が暴走すれば、世界は彼を『大災害』として排除するしかなくなる。彼自身も、望まない破壊を撒き散らし、人殺しの怪物として生きるか……あるいは殺されるしかなくなるんだ! そんな運命からあの親子を救うためには、オールマイトにどうしても力を取り戻してもらい、彼の『絶対のストッパー』であり続けてもらう必要があったんだ!!」
それが、デヴィットが道を踏み外した最大の理由だった。
平和の象徴の延命。そして、親友の愛する息子を『化け物』に落とさないための、狂気に満ちたセーフティネットの維持。
「――だからって、あいつが喜ぶとでも思ったのか」
デヴィットの悲痛な叫びを、轟の底冷えするような声が切り裂いた。
「あいつは、自分の力で周りを壊すことを何より恐れてる。……もし、あいつが今の話を聞いたらどう思う? 自分が暴走した時の『首輪を繋ぐ者』を用意するためだけに、あんたが犯罪者になって、島中の人間が命の危機に晒されたって知ったら……あいつは、一生自分自身を許せなくなる――あんたは、親友とブロリーを救いたかったんじゃない。……自分が安心したかっただけなんじゃないのか」
轟の冷徹な指摘が、デヴィットの胸を深く抉った。
「ふざけんな……」
ギリッ、と爆豪が歯を食いしばり、両手から小さな爆破の火花を散らす。
「アンタとブロリーにどんな関係があるかは知らねえけどな……!アンタはアイツを、誰かに手綱を握ってもらわねェと生きられねェバケモン扱いしてんのか!?…いいか、アイツはな……ブロリーはな!!テメェら大人が思ってる以上に、自分で必死に牙を折ろうと足掻いてんだよ!!」
爆豪の怒号は、デヴィットの身勝手な保護欲を真っ向から否定するものだった。
今日、力を抑えながら戦う道を選んだブロリーの背中を見た爆豪だからこその、不器用だが確かな「ライバルへの信頼」だった。
そして――今まで黙ってその話を聞いていた発目が、ギリッと強く拳を握りしめ、震える声で口を開いた。
普段の飄々とした態度は完全に消え失せ、その十字の瞳には、かつてないほどの怒りと悲しみが浮かんでいた。
「――デヴィット博士。あなたが作り出したサポートアイテムは全て、とても、素晴らしいものばかりです………私は、サポート科の人間として、あなたのことを心から尊敬しています」
「………」
「―――でも、こんなのはあんまりです!」
発目の悲痛な叫びが、制御ルームに響き渡る。
「サポートアイテムは、ヒーローを助け、彼らが安心して戦えるようにするためのものです! それを……オールマイトさんを、ブロリーさんを力でねじ伏せる『鎖』にするために復活させるだなんて……そんなの、発明でもなんでもない、ただの呪いです!!」
「私は……私はただ、彼を救うためのシステムを……!」
「ブロリーさんは、いつか爆発する時限爆弾なんかじゃありません!!」
発目は、先ほど下の階で、必死に自分の怒りを抑え込もうと震えていたブロリーの太い腕の感触を思い出していた。誰よりも力が強くて、誰よりも優しくて、自分が周りを傷つけることを何よりも恐れている、心優しい巨人。
「彼は誰よりも自分の力を怖がって……誰にも迷惑をかけないようにって、必死に足掻いている一人の人間です! 大先輩として本気で尊敬していましたけど……こんなの、あんまりです…!」
発目の、発明家として、そしてブロリーの友人としての心からの怒りに、デヴィットはアタッシュケースを抱きしめたまま、ただ崩れ落ちるように膝をつくことしかできなかった。
緑谷もまた、唇を噛み締め、やりきれない思いで俯いていた。デヴィットの気持ちはわかる。だが、その手段と彼ら親子に向ける視線は、あまりにも間違えすぎていた。
そしてついに、メリッサが叫ぶ。
「……命懸けだった、捕われた人達を助けようと! デクくんやクラスメイトの皆が、ここに来るまでどんな目に遭ったと思ってるの!?……ブロリー君だってそう…!大勢のヴィラン達を相手に、一人で戦ってるのよ!?子供に向かって銃を使える、そんなヴィランを相手に!!」
「……どういう事だ!? ヴィランは偽物、全ては芝居のはず…!!」
デヴィットは、話が違うと言いたげな様子でサムを見る。そこで心操が冷静に、事を告げる。
「デヴィットさん、あのヴィラン達はさっき俺たちに向かって銃弾や個性で攻撃してきた。偽物の演技にしては殺気に満ち溢れていた……アレは、絶対に本物だ」
「――そう、そこのガキの言う通りだ」
『!!』
制御ルームの入り口から、低く、ねっとりとした声が響いた。振り向いた一同の目に映ったのは――銃を構えた数名のヴィランたちを従え、悠然と歩みを進めてくる、このテロ事件の首謀者と思しき男・ウォルフラムの姿だった。
「テメェ…!」
爆豪達が個性を使ってヴォルフラムに向かって行こうとしたその瞬間、ウォルフラムはドアに触れ金属部分を操り、まず先に緑谷を攻撃、緑谷はワン・フォー・オールの力を使ってそれを避ける――しかしその先には麗日とメリッサ、そして発目がいた。
「危ない!!―グア!?」
心操が動き、二人を押して避けさせるも、心操は操られた金属によって壁に叩きつけられる。
「心操君!!」
「心操さん!」
メリッサと麗日と発目はすぐさま心操の元へと駆け寄る。
「何してんだテメェ!!」
「好き勝手にはさせねえ…!」
「二人とも、合わせて!!」
緑谷・爆豪・轟の三人が連携してウォルフラムを攻撃する。だがヴォルフラムにとって今この場所はまさしく最高の戦場……地面に手を触れ、死角から爆豪と轟を攻撃。
「チィッ!!」
爆豪は空中で即座に爆破を起こし、死角から迫る鋭い鋼鉄の杭を吹き飛ばすと同時に、その反動を利用してウォルフラムの頭上へと回り込む。
「死ねェッ!!」
両手から放たれる強烈な爆炎。しかしウォルフラムは床を波立たせて分厚い金属の盾を形成し、それを防ぎ切る。だが、休む間もなく轟の氷結が床を這い、盾ごとウォルフラムを凍りつかせようと迫った。
「氷か。だが……!」
ウォルフラムが壁に触れると、壁面がうねり、巨大な鉄の槍となって轟の氷を打ち砕いた。
「なら、こっちはどうだ!」
轟はすかさず左半身から灼熱の炎を放ち、迫り来る鉄の槍をドロドロに溶かし落とす。爆豪の圧倒的な機動力と破壊力、轟の氷と炎による広範囲の制圧。互いの隙を完璧に補い合う、プロ顔負けの見事な連携だった。
「……なるほど。流石は雄英のガキ共だ、聞いてた以上に優秀じゃねぇか」
ウォルフラムは忌々しそうに舌を巻く。ただの学生とは到底思えない戦闘センスと火力の高さだ。
「スマァァァッシュ!!!」
そこへ、フルガントレットを装着した緑谷が、ワン・フォー・オールの力を解放して壁を蹴り、一気にウォルフラムの懐へと肉薄した。
「なっ――」
ウォルフラムが慌てて何重もの金属の壁を展開するが、フルガントレットによって威力を底上げされた緑谷の拳は、分厚い鋼鉄の壁を紙屑のようにへし折り、ウォルフラムの身体を後方へと大きく吹き飛ばした。
「やった!」
「いや、まだだ……!」
緑谷が着地して叫ぶが、轟が鋭く警告する。
吹き飛ばされたウォルフラムは、口の端から血を流しながらも、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべていた。
「確かにテメェらは強い。……だが、ここをどこだと思ってやがる」
ウォルフラムが両手を床に叩きつけた瞬間、制御ルーム全体が地鳴りのような音を立てて震動した。
壁、床、天井、そして巨大なサーバー群――この部屋を構成するすべての『金属』が、一斉に生き物のように蠢き始めたのだ。
「な、なんだこれ……!?」
「クソッ、逃げろ!!」
爆豪が空中に飛び上がろうとするが、天井から伸びた無数の鋼鉄の触手が、四方八方から爆豪の手足を絡め取る。
「離せクソがァッ!!」
爆発で引きちぎろうとするが、千切ったそばから新たな金属が巻き付き、物量で押し切られた爆豪はついに空中で完全に磔にされてしまう。
「爆豪!―ッ!しまっ…!!っぐ!!」
轟も炎と氷で周囲の金属を溶かし、凍らせて防ぐが、床全体が波打ち、足元をすくわれる。体勢を崩した一瞬の隙を突かれ、太い鋼鉄の帯が彼の胴体と両腕を拘束し、壁へと縫い付けた。
「轟くん! かっちゃん!!」
緑谷が二人を助けようと駆け出すが、その背後から、大蛇のような極太の鉄柱が襲い掛かる。
「ぐあッ……!」
フルカウルで躱そうとしたものの、逃げ場を塞ぐように張り巡らされた金属の檻に捕らえられ、緑谷もまた、ギリギリと締め付けられるように空中に拘束されてしまった。
「デク……!!」
「クソッ……抜けねぇ……」
彼らの強さは間違いなく本物だった。しかし、この場所にある無尽蔵の金属という圧倒的な「地の利」、そして何より、躊躇いなく殺意を向けてくる本物のヴィランの容赦のなさに、若きヒーローたちは完全に動きを封じられてしまった。
「さて、鬱陶しいハエ共はこれで片付いたな」
ウォルフラムはゆっくりと歩み寄り、絶望的な表情を浮かべるデヴィットを見下ろした。
「少し大人しくしていろ。サム、装置は?」
「こ、ここに!」
ウォルフラムが尋ねると、サムはデヴィットから装置の入ったアタッシュケースを奪ってウォルフラムに渡す、デヴィットは、裏切られたショックで目を見開し叫んだ。
「サム…! まさか最初から、装置をヴィランに渡すつもりで……騙したのか⁉︎」
「騙したのは、あなたですよ。長年あなたに仕えてきたというのに、あっさりと研究は凍結、手に入れる筈だった栄誉、名声…全て、無くなってしまった…!せめてお金くらい貰わないと、割が合いません!」
サムが言うと、デヴィットは目を逸らす。
長年共に研究をしてきた仲間に裏切られたショックもあったが、自分の不甲斐なさのせいで仲間を裏切らせてしまった事が悔しかったのだ。
「よし、よくやった。――これは約束の謝礼だ」
そう言ってウォルフラムはサムに拳銃の銃口を向け、容赦なくサムの肩を撃った撃たれたサムが倒れると、デヴィットとメリッサが目を見開く。
「サムさん…!」
突然撃たれたサムは、訳が分からずウォルフラムに尋ねる。
「な、何故…!? 約束が違う!」
「約束? 忘れたな。謝礼はこれだよ」
そう言ってウォルフラムは再びサムを撃とうと引き金を引く。――しかし。
「ぐぁ…!!」
ウォルフラムが放った銃弾はサムには当たらず、代わりにサムの前に飛び出したデヴィットの肩に当たった。
「博士、どうして…!?」
「に、逃げろ…!」
自分が裏切ったデヴィットに庇われたサムは、何故庇われたのか分からずデヴィットに尋ねる。するとデヴィットは、肩を貫かれた激痛に顔を歪めながらサムに逃げるよう言った。
「パパぁああ!!!」
「来るな!!」
メリッサが叫びながらデヴィットに駆け寄ると、デヴィットがメリッサを止めようとする。しかしウォルフラムが容赦なくメリッサの首を掴み、そのまま投げとばす。
「やめてください…!今すぐに…!!」
「ッ離れろ!鬱陶しい!!」
「ぃ"…!!」
発目も我慢できずウォルフラムに向かって近くに転がっていた鉄と破片を持ちながら突っ込むものの、すぐさま武器を落とされ、拳で殴られてしまった
「メリッサさん!発目さん!!」
「っくそ…!!!!」
「息が……!!…畜生…!!!」
壁に拘束された緑谷は、みんなを助けるため全力で拘束を振り解こうとする。爆豪や轟も同様に、しかし拘束されている力はより一層強く、強く締め付けられていく。
その時、ウォルフラムが倒れているデヴィットの背中を踏みつける。
「今更ヒーロー気取りか? 無駄だ。どんな理由があろうと、あんたは悪事に手を染めた。俺達が偽物だろうが本物だろうが、あんたが犯した罪は消えない。俺達と同類さ。あんたはもう科学者でいる事も、研究を続ける事も出来やしない。ヴィランの闇に堕ちていく一方さ。フハハハ…!!」
「今のあんたに出来る事は、俺の下でその装置を量産する事ぐらいだ。おい! 連れて行け!」
「返して…!」
「ん?」
ウォルフラムがデヴィットを連れて行こうとすると、メリッサが訴えかける。
「メリッサさん…!」
「パパを返して!」
メリッサが涙を流してウォルフラムを睨みながら叫ぶと、ウォルフラムは不敵な笑みを浮かべる。
「そうだなぁ! 博士の未練は、断ち切っておかないとなぁ」
ウォルフラムは、そう言ってメリッサに銃口を向ける。そんな光景を見た瞬間、緑谷・爆豪・轟はなんとかして拘束を解き、ウォルフラムに向かおうとする。しかし、ギリギリ間に合いそうにはない……。
「―――けて……」
その時、メリッサの口から、弱々しく、声が漏れる。
「――助けて……!ブロリー君……!!!」
メリッサが必死の思いでそう叫んだ――刹那。
「――グッハァッ!!?」
ヴォルフラムのそんな声が聞こえ、激しい轟音と共に彼の体は壁に叩きつけられた。
「――もう、大丈夫だ、メリッサ」
メリッサの前に、一人の男が立っていた。
「―オレが、来た」
「――――ッ…ァグッ…グスッ―ブロリー君…!!!」
八木蕗利、最強の助っ人が今現れた。
問題です。
デヴィットが撃たれている+泣いているメリッサ+傷だらけの緑谷達+殴られている発目=は⁇