傭兵「黒鼠」は休業中   作:ハイパー・ボーン

2 / 6
不殺の心得その一 相手に勝てないと思わせれる

 今日の仕事は足止めらしい。「伝書鶏」が珍しく電話で俺に仕事を振ってきた。あいつ引っ越しでもするのか?通勤渋滞にはまった車の中でそんなことを考えていた。

 

「それでどんな奴の足止めだ?」

「あの「不壊」です。国家魔術犯罪対策局の」

「そうか」

 

 国家魔術犯罪対策局はニュースでよく見るから知ってる。「不壊」は聞いたことがない。二つ名持ち出し多分強いんだろうけど。そういえば俺って今まで裏社会の連中としか戦ったことないな。「伝書鶏」の奴が選んだ仕事はそういうモノしかなかったからか?

 

「田中さん。申し訳ありません渋滞にはまってしまって、「例の物品」の運送が遅れそうです。はい、はい……………十時には必ず完了します。はい。はい、すみません……………チッ、はやく進めよ」

 

 送迎役の人が電話なのに頭を下げてる。社会人って世知辛いな。裏社会だけど。

 

「焦らなくていい。事故にあうともっと面倒だ」

「申し訳ありません。見苦しい姿を見せました」

 

 この人長生きはしなさそうだな。ほら、裏社会の人たちって短気だし、些細なミスで殺してくるじゃん。

 

「なに、見ての通り子供でね。おっと全身隠してるんだった。まあ、俺も礼儀ができてるとは言い難いし。次は失敗しなければいい」

「はい……………子供だったんですね。噂では千年生きていたと」

「自分が化け物と言われているのは知っている。だからと言って千年は生きていないぞ」

 

 送迎役の人が愛想笑いをしている。……………おかしいな。「伝書鶏」には受けてたんだが。

 静まり返った車内に車の暖房の音だけが響く。そして車が左の小道に入っていく。そろそろつくか?

 

「そろそろ到着します。第八寒川ビルの屋上で待機してください。これは屋上の鍵です」

「そうか」

 

 鍵をもらい、車から降りる。ここら辺来たことなかったけど、結構さびれているな。第八寒川ビルはそこか。

 

「人が入らないようになって半年ってとこだな。張ってあるポスターは一年前の選挙のやつだし。管理会社の張り紙も半年前の日付のままだ」

 

 時折光が差し込む階段を上る。電気はもう通ってないらしい。ここが屋上かな。少しさび付いた扉を開ける。ここで待っていればいいのか。始まりの合図は戦いが始まってからだし道具の点検でもしよう。

 

「槍、問題なし。直剣、短剣も問題ない。靴も綻びなし。信号弾も劣化してない。複素暗号器も初期化できてる。よし」

 

 あとは準備体操でもするか。ラジオ体操の音源ってスマホに入ってたっけ?

 入ってない。そうか、前のに入れてたんだ。仕方ない。

 

「ふーふふ、ふーふふ、ふーふふー、ふふ」

 

 まずは背伸びの運動から。いち、に、さん、し、ご、ろく。

 

 

「すーはー。すーはー」

 

 深呼吸して準備体操が終わった。ここら辺、人いないな。車とかの出入りもない。時計を見る限りあと十分から二十分ってとこか。そういえば、「伝書鶏」から場所に着いてから開けろって言われたモンあったな。どこ入れたっけ。あったこれか

 封筒を開ける、中には一枚の紙が入っていた。

 

「黒鼠」へ

これを読んだら直ぐに焼け。燃やしても煙が出ないような紙で作ってある。

この仕事は俺の信用を失墜させるための仕事だ。だからお前に頼んだ。

お前に言いたいのは三つ。一つ、捕まるな。二つ、俺含めて誰も信用するな。三つ、勝て。

次逢うときはほとぼりが冷めてから、バーテンダー君から連絡する。俺からの連絡は無視しろ、罠だ。

 

 火を近づけると、軽く小さい破裂音がして紙は消えた。きな臭い話だ。

 

「まあ、やることは変わらんか」

 

 道具を纏め、扉の向こうに置く。埃っぽいから嫌だけど、俺も中に入る。短剣をベルトに仕舞い、直剣を佩く。槍のカバーを外す。準備はできてる。一、二、三、四……………

 

 

 ……………八七一、八七二。時計の針から目を離す。車の隊列が入ってきた。そろそろ始まるか。俺はビルの屋上に出た。

 

 ドォォン

 

 爆発音からして重火器。ロケットランチャーでも撃ちこんだのか。周りのビルから何人かの同業者が隊列に襲い掛かった。だが緑青色の障壁に遮られる。あれが多分「不壊」だな。行くか。

 

「よっと」

 

 ビルから飛び降りる。車の中から出てきた人たちを無視して、障壁が一番硬い車に向かう。来るよな。

 

ゴォィィィンン

 

 頭の上から緑青色の大剣が貫こうとしてきたので、槍で弾く。そして後ろから声を掛けられた。

 

「あなたの相手は私です。お間違えないように」

「そりゃ、どうも」

「っつ。いきなりそう来ますか」

 

ボヒュュュュウゥゥ

 

 俺は後ろを向いたまま、「不壊」さんに魔力放出を喰らわして、とりあえずここから引きはがす。「不壊」さん一人で同業者たちは全滅するし。魔力噴射で「不壊」さんを追う。

 

「急な誘いは淑女たちに嫌われますよ」

「生憎とこっちは。下賤な傭兵なんでな。そういったことは縁がない」

 

 しっかし、硬いな。まるで水鉄砲でコンクリの壁撃ってるみたいだ。

 

「あら、その強さなら引く手数多でしょうに」

「引く手数多だけどな。それでも下賤な傭兵を選んだんだ」

 

 キュュュゥゥゥゥ ボッ

 

 「不壊」さんをビルの屋上から地下駐車場まで叩き落す。ビル一個貫通したのに無傷か、槍でやらんとダメだな。

 砂埃の向こうから緑青色の矢がいくつも飛んでくる。形も速度も自由自在か、厄介だな。叩き落せたはいいものの組打ち中にやられたらキツイ。

 隣のビルの屋上に着地する。後ろから来た鞭の攻撃を避ける。

 

「今の技は魔力放出でしょうか。随分優秀な増幅系能力ですね。倍率は少なくとも百倍はありますね」

「おっと、人の秘密を暴くなんて感心しないぞ」

 

 下から回り込んだのか。その考察は外れだ。まあ魔力放出使うやつなんて増幅系しかいないだろうし。そもそも魔力放出自体が魔力だけ優秀な奴が使うもんだ。

 

「で、俺はお前さんの足止めが仕事なんだが、おしゃべりで時間潰すのはどうだ」

「もっとデートの誘い方を練習してから言ってくださいね」

「断られちゃった……………なら力ずくで止めさせてもらう」

 

 槍と障壁がぶつかり合う。「不壊」さんの魔道具は手に持ってる柄だけのやつか。剣にも鞭にもなれる。能力との相性もいい。

 

「あら、速いですね。魔力を噴射して速度を出しているのですね」

 

 障壁は本人に近づくほど硬くなるのか。それに障壁同士で干渉はしない。それに障壁の変形も自由自在。

 ────マズい下からくる。逃げようとしたら緑青色の棘が俺の体を貫いた。

 

「げふっ」

 

 あー痛い。肺に穴が開いた。魔力放出で辺り吹き飛ばさなかったら捕まってた。クッソ、槍も取られちゃった。

 

「……………あら。あなたの槍、魔道具じゃありませんね。回路が刻まれていません」

「どーも。俺みたいな傭兵は魔道具なんか買えなくてね」

「よほど、能力が優秀なのですね。国家魔術犯罪対策局に興味はありません?」

 

 滞空しながら体に刻まれた自己修復機能の刻印に魔力を注ぎ込む。体が修復していく。

 ……………ぶっちゃけ興味はある。昔、ヒーロー番組好きだったし。でも花のために、金が必要。

 

「生憎と金が入用でね。そっちは金欠だろう」

「ええ、魔道具代と治療費が予算をかなり使いますので、給料はあまり良くはありません」

「そうか。残念だ」

 

 キュュュゥゥゥゥ ボヒュュュュウゥゥ

 

 さらに遠くに「不壊」さんを吹き飛ばす。無傷でも、戻ってくるまで数分かかるだろ。その間に体直さないと。

 

「あっちは。……………負けてんじゃねえか。行くっきゃねえ」

 

ボッボッボッ

 

 体の背面で魔力を爆発させて、車の隊列に突っ込む。あークソ痛い。窓ガラスの破片が体に突き刺さる。

 

「なにっ、し────」

「「黒鼠」がで────」

「応援はま────」

 

 直剣と短剣を抜いて、同業者を縛り上げていた対策局を気絶させる。剣で切らないようにするのは意外と大変だけど殺しちゃまずいし。そして同業者たちを解放する。ありゃこっちも気絶してる。そんなすぐ負けるような奴らじゃないんだけどな。────やったのはこいつか。見た感じ高校生くらいか。子供がこんな殺し合いの場所に来ちゃいけませんってな。

 

ガィィンン

 

 超高速の突きを短剣で逸らす。速いな、「不壊」さんよりも。

 

「おいおい、ガキいたぶる趣味はないってのに」

「君も大概小さいだろうに」

「生憎と千年生きてるんでね」

 

 さて、こいつの身体能力は意外と低いぞ。加速系か?でも使えて十回ってとこか。今の魔力量と出力からみて魔力量の残りは三割程度、だいぶ消耗してるな。

 

「で、おガキさん。俺は「黒鼠」って名前で傭兵やってる」

「天ヶ崎結人。天ヶ崎流剣術師範代。あなたの事は良く知っている。兄弟子である柳垣 無命を倒した人物。弱者とは思わない」

「誰だそれ」

 

 ……………マジで誰だ。というか、こいつの使う剣術は初めてみるぞ。一応聞いてみるか。

 

「有名な奴かそいつは」

「殺人を犯し破門されたが、とてつもない才能の持ち主だった。「黒鼠」に殺されたと聞いている」

「知らんな。俺は人を殺さん人間だ。まあ、俺に負けて仕事を失敗した奴が、その後殺されることはあるだろうが」

「知らないならいい。この一撃で終わらせる」

 

 おっ、抜刀術か初めて見るな。いや、全部の魔力使うんじゃないよ、ここ戦場だよ?

 

「天ヶ崎流奥義、春雷一せ────」

 

 ばきん

 

「悪いね。もうかまってあげられん」

 

 まだ鞘に半分くらい収まった剣を短剣で横から叩き折る。見えなかったけど、タイミングさえ掴めば剣が来る場所に攻撃を置ける。

 

「まあ、速かったよ。避けられたけど。……………聞こえてないか」

 

 緑青色の塊をサイドステップでよける。もう少しゆっくり来て欲しかったけど。

 

「結人!結人、大丈夫ですか」

「あー魔力欠乏で気絶しているだけだ」

 

 「不壊」さん、俺を無視して結人くんに向かった。まあ攻撃しても通らないし。

 

「「黒鼠」。「緑青壁(ろくしょうへき)」の名においてあなたを倒します」

「……………えっ。「不壊」じゃないの?」

「「不壊」はそこに倒れている者ですが」

 

 俺が倒した男の人を指さす「不壊」さん、いや「緑青壁」さん。

 …………………………まいったなあ。

 

「……まさか、私が誰か知らずに戦っていたのですか?」

「国家魔術犯罪対策局の「不壊」だと思っていました」

「……普通、戦う相手の名前くらい確認するものでは?」

 

 くくく、俺もそう思う。でもなぁ、一番強いのが「緑青壁」さんだったし。多分この人だろうと思ってた。

 

「一番、厄介な相手と聞いていたからな。……………それと槍返してください」

「……………あ、はい。どうぞ」

 

 やってられるかこんな仕事。信号弾を打ち上げる。周りの人たちがそれに気を取られているうちに、同業者たちを担いで逃げる。

 

「初めて、仕事で失敗したな」

 

 しばらく逃げ回り、同業者たちを目についた路地裏に投げる。どうなっても知らん。

 

────

────────

 

ピッピッピッピ

 

 僕は見慣れた魔対局*1の医務室で目を覚ました。ベットの隣の椅子で、杉菜さんが緑青壁であやとりをしている。杉菜さんがこっちを見た。

 

「結人。目が覚めたのですね」

「はい」

「例の物品は無事送り届けることができました。結人がいなければ奪われていました」

 

 杉菜さんが僕に頭を下げる。確かに僕は傭兵たちに勝つことができた。そしてそのあと。

 

「「黒鼠」は。彼はどうなったんですか」

「逃走しました。現在、第三部隊が捜索しています。しかし、見つからないでしょうね」

 

 杉菜さんが首を横に振る。そして僕に天乃刃技(あまのはぎ)を手渡してきた。抜こうとすると、鞘から剣の破片がこぼれてきた。そうだ、僕は「黒鼠」に剣を折られた。

 

「剣の魔力回路の劈開面を垂直に叩くとこうなるそうです。結人が殺されなかったのは奇跡としか言えないですね」

「僕は彼に遊ばれてたってことですか」

 

 とてつもない屈辱と自らの不甲斐なさに叫びそうになる。杉菜さんが少し口を閉じた。

 

「……………そうなります。でも結人はまだ子供です、これから成長していけば」

「来年には成人するんです。成人になったら天ヶ崎流剣術を背負わなければいけないんです。天ヶ崎流剣術に負けは許されない。杉菜さんにふさわしい男にもなれないんです」

 

 涙が目から零れる。涙は流さないって決めたのに。杉菜さんがハンカチを渡してくる。

 

「結人。成人したからといって、大人になれるわけではありません。大人のふりをしなければいけないだけです。ここだけの話ですが、実は今でも母親に髪を結ってもらっています」

「……そうなんですか」

「ええ。いまだにうまく結えないんです。ナイショですよ。…………私は「黒鼠」のことについて報告に行かなければなりません。安静にしていてくださいね」

 

 杉菜さんが医務室から出て行く。そして、扉を閉めるとき何かを呟いた。僕がその言葉を知ったのはもう少し後になってからだ。

 

「まさか「黒鼠」が少女であったなんて。これは結人には言えませんね」

*1
国家魔術犯罪対策局

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。