傭兵「黒鼠」は休業中 作:ハイパー・ボーン
山を越え、屋根の上を走って
マスコミの車が山道で渋滞してる。先頭辺りを見てみるとスリップしてら。
「警察の人が滅茶苦茶キレてる。かわいそ」
バレないように獣路に入る。暗いな、明かりもないし当然か。魔力を軽く放射して周囲を把握する。へぇイノシシの足跡ってこうなんだ。獣路を進む。……………バレてないよね?
木々の合間から白い建物が見える。山荘はあれか。中にいるのは十人。気配だけじゃどいつが立てこもり犯なのかが分からんな。メガホンを持ったスーツのおじさんが山荘に近づく。相手銃持ってるのによくやるよ。
「先ほども伝えた通りだが
『無命は死んでいない。彼の力を恐れたお前ら警察が、死刑にしたと言い張っているだけだ。今すぐ彼を解放しろ』
「彼は確実に死刑にされている。火葬も行い、海上に散骨もした」
あいつ、「私に弔いなど不要。只、戦火のみが己を焼き尽くす」とか言ってたのに火葬されたんだ。いい年して何言ってんだとか思ったな。
「ということは、あいつの捕縛依頼の依頼者って国側の人だったんだ。道理でなんか変だなとか感じたのか」
『我々は彼を迎え入れ、真に強い国家にするために活動を行う。この国は戦う力を持ちながらそれを放棄する弱者だ。無命は言っていた、「戦火こそが国を強くする」と。だからこそ彼は死んでいない』
いや、只の子供の送り迎えしていた主夫とか部活動で全国行けそうだから夜遅くまで努力していた高校生とか殺した殺人鬼の言ってること神格化すんなよ。まあ、極端な思想に賛同するやつは必ず出てくるけどさ。流石にそれはないだろ。
『いい加減目を覚ませ。弱者のままでいいのか。だからこそ彼は警鐘を鳴らした。弱いままだと凶刃に倒れると。このままでは彼に殺された者の価値が無くなってしまう』
恋と信仰は盲目というがここまでだったとはな。それに殺された人達の価値を貶めているのはあいつとおまえらだと思われるが。
『この国を弱者にしてはならない。そのために何が必要かなのかを無命は誰よりも理解していた。そのための行動だ』
そういう目的なら選挙に出たほうが良かったと思うぞ。いや、あいつは戦う理由でそう言ってただけだとさ。うん?スーツのおじさんが仮設のテントに入った。ダーツ型有線盗聴器はこれか。よし。
「────れで柳垣 無命はどうなってる」
「今でも病院で昏睡状態ですよ。裁判も受けられないから、民衆のために死刑にしたとなってますけど。まったく困ったものです。どこから漏れたのか」
「警察関係者にも彼の信奉者がいた。殺人を犯してからはめっきり聞かなくなったがな」
いや、生きてたのか死刑にしたんじゃないのかよ。昏睡状態ってことは、公判手続停止か。そこらへんはちゃんとしてる。それに、昏睡状態で解放してもそのまま死ぬだけだろ。
「犯人たちはマスメディアを居させることも条件にしています。それに彼が生きていることは公表できませんし……………どうしましょう」
「もう一度私が行ってみる。君はここに居ろ。先月、子供ができたのだろう。私の判断で子に親を失わされるわけにはいかん」
スーツのおじさん、あんた良い人だな。なんかあったら助けてやるか。スーツのおじさんがテントから出てきた。少し腕が震えている。
「もう一度言う。柳垣 無命は死刑に処された。君らの要望を叶えることはできない」
『嘘をつくな。警察が捕らえたという発表も嘘だろう。本当は傭兵にやらせた。「黒鼠」という傭兵にだ。真の強者である彼の功績をお前らの面子のために隠したんだろう』
へぇー「黒鼠」って傭兵が捕らえたのか。…………………………うん、俺だね。クッソ、この名前気に入ってたのに変えなきゃじゃん。また下積みからやるのか……………やべ、しばきあげたくなってきた。
久しぶりに赤い鴉(現Y)でも見るか。……………クロネズミがトレンドに入ってるな。
『傭兵なんてこの国にいるの?』
『裏社会が気になるヒトに特別な情報があります。ココをタップ』
『クロネズミは小さい子供だよ』
『クロネズミって言う千年生きるバケモノの噂聞いたことある』
『柳垣無命は全国魔術戦闘大会で三連覇したこともある殺人鬼だぞ それをクロネズミ一人で倒したなんてデマ』
うーん大した情報なんてないな。デマが八割、知っている情報が一割、アフィリエイトが一割。SNSはそんなものか。
『強者こそが尊ばれるべきだ。それなのに弱者は多いというだけで強者を踏みつけにする』
「ここはあなたたちの宣伝の場所ではない。人質を解放したほうがいい」
しゃーない、「黒鼠」は休業するか。もうクロネズミに関するインプレッションは一億いってるし、仕事にならんからな。
槍もってきてなくて良かった。流石に本命の武器使うことになるのは避けたいし。
『ふざけるな我々を侮辱する愚者に鉄槌を下す』
パァン
あら、嫌だわ。狂信者はすぐ自分が気に入らないことがあるとこれだ。スーツのおじさんを抱えてテントに入り込む。
「なっ」
「大丈夫そうだね。ダメだよ銃持っている相手に丸腰なんかじゃ。おっと、自己紹介がまだだったな。俺は今ネットで最もホットな傭兵「黒鼠」だ。よろしく。銃突きつけるなよ、仮にも人助けをしたやつにさ」
テントの中にいた警察官が俺に拳銃を突き付けてきたので、魔力で刃先延長した短剣で使用できなくする。まあ、拳銃壊れたら面倒な書類書くことになると思うけど、ごめんね。
「まずは、助けてくれてありがとう。……………何故「黒鼠」さんがいるのでしょうか」
「観光中に近くで珍しいモンが起きてたから野次馬してた。で、俺が倒した柳なんちゃらのために立てこもりなんか起こした連中はなんか言ってたの?そんで状況は?」
「そうですか。彼らは柳垣 無命の解放を望んでいます。彼は死刑されていることになっていますが。裁判の前に自殺を図り、現在まで昏睡状態です。人質になっているのは山荘にいた、合宿に来ていた中学生五名と引率の教師二名。中学生は七人が何とか逃げることができました。」
なるほど。……………いやこれ言った方がいいのか?言うか。情報は多いほうがいいし。そうしよう。
「多分だけど教師のどっちか犯人だわ。さっき近づいて気が付いたんだけど。子供五人と大人一人が縛られて同じ場所にいる。男二人と女一人が山荘の中を動いてた。放送ができるとこに一人居たからそいつが交渉してるんじゃない」
「……………何故そうと言い切れるのですか」
「さっき助けた時に盗聴器投げ込んだら、人質の生徒が「田辺先生どうして」とか言ってたから」
テントの中の空気が重くなった。いや、知れたのが速いだけで後で気が付くと思うよ。サーモで見たらすぐにわかることだし。というか真っ先にするものだろう。
「山荘内部の熱源探知してないの?」
「いえ、山道で足止めされていて……………まだでした。そのほかの資材も人力で運んでいます。ですが、夜の山道を登るのはどうしても時間がかかり、上空も風が強く、ヘリも飛ばせない状況でして」
あー確かに山道渋滞してたな。そりゃ資材も人員も少ないわ。よくやってるわホントに。国家魔術犯罪対策局あたりならどうにかできそうだけど。
「国家魔術犯罪対策局は使わんの?」
「犯人たちは魔力を使っていません。なので出動許可が下りないんです。魔術犯罪ではないので、このようなただの立てこもりは私たち警察が行うことになっています」
そうだった。確かに魔力は戦闘には使えない人しかおらんな。立てこもり犯のくせに法の管轄利用してんじゃないよ。
俺にできることは何だ。作戦でも立てるか?
作戦その一。「私は通りすがりの無関係な傭兵です。特に理由はないがあなた達を倒す」作戦
作戦その二。魔力放出で山荘だけ壊す作戦
作戦その三。警察のふりをして中に侵入する作戦
作戦その四。俺が立てこもり犯の仲間のふりをして国家魔術犯罪対策局をおびき寄せる作戦
作戦その一は、警察の面子潰すことになるし。そしたら面倒なことになるか、却下。その二は、犯人たちが人質を殺す可能性があるし。人質は二階にいるから変な連鎖反応して死にかねないな、却下。その三は、顔さらす羽目になる、却下。その四は、仕事しづらくなるから、却下。
仕掛けた盗聴器に反応が?なになに?
『マスメディアはどうだ』
『うまくいってる。よく考えたな、テレビカメラを警察を監視するために使うなんて』
なるほどな。警察の動きを把握するためにマスコミがいることを条件にしたのか。そうすれば正面から入ることは防げる。いや、待てよ。別に正面から入る必要はない。人質を一人殺すまであと六時間二十分くらいか。つまりだ、穴掘って地下から入り込む時間はあるってことだ。こう実は山荘には秘密の隠し通路があって、それ使って警察の特殊部隊が入ったとか言えば、皆ハッピーじゃん。
「警察署に土嚢用の袋とスコップってある?」
「災害が起きた時に一時的に対処する用はありますけど、何するんです」
「掘る」
変な生き物を見る目で見ないでほしい。三者得をする作戦だぞ。
俺の作戦を話すと、スーツのおじさんがどこかに電話をかけ始める。すると俺に頭を下げてきた。
「志戸警察署に土嚢用の袋とスコップを用意させた。お願いする。赤いキャップの男がいるその人の所に行ってほしい」
「やけに手際がいいな。何か取引でもしたのか」
「私はこの件のあと辞職をする。君は人を殺したことはないとはいえ傭兵、犯罪者だ。そんな君に助けを求めることは許されていなくてね。私が責任を取る、この現場を預かる者として」
くくく、嫌いじゃないよその在り方。よし、警察署に行って道具取ってくるか。テントから出ると、雲が出ていた。月の明かりが無くなり、山荘を照らす明かりだけが唯一の光だった。魔力噴射をして一気に山を駆け降りる。
警察署に着くと、大量の土嚢袋とスコップを持った人が立っていた。赤いキャップ付けてるしこの人か。
「君が例の」
「ああ」
「これは独り言です……………頼みます」
スコップを貰い土嚢袋を背負う。後、五時間五十七分。急がなきゃな。
山荘の裏手、二百メートルくらいの少し崖になっている場所に俺はいた。ここでいいかな、木が隠してくれる。やるか。
ガガガガッガガガガガガガッガガガ
穴を掘り土を土嚢袋に入れる。そして遠くに投げる。二時間あれば行けるな。魔力放出で土を固めることも忘れない。向こうはちゃんと引きつけしてるだろうし。俺は俺の仕事をする。遠くからスーツのおじさんが交渉する声が聞こえる
「約束して欲しい。十時間経つまでは人質を殺さないでほしい」
『我々はお前らの様に嘘はつかない』
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ガガガガッガガガガガガガッガガガゴン
「おし、着いた」
思ったよりも時間かからなかった。一時間半くらいか。近くには……………いない。床板を外すと厨房だった。あれま、カレーが零れてる、もったいないな。窓には板が張ってある。見られる心配もないと。
犯人は二階に二人、一階に二人。あれ人質が一人別室にいる?
「だ」
「一人目」
ふう、危ない危ない。華麗な侵入がバレるところだった。足音を立てず二階に上がる。放送できるとこにいる人は後回し。まずは多い方を助けるか。人質がいる部屋の前に立つ。犯人は椅子に座っている奴か?いや、壁ぶち抜くか。
「警察だ手を上げろ」
バゴンッ
縛られていない人はブラフ。縛られていそうでいない女に拳を叩き込む。そして隣室の壁を破ると、女の子に男が覆いかぶさっていた。クソがよ。
「うっ」
「二人目と三人目。あー安心しなもう大丈夫」
男のなにも履いていない下半身を蹴りをぶち込む、天井でバウンドして落ちてきた所にさらに蹴り。窓を突き破って植え込みに落ちた。泣いている女の子にコートを被せる。土だらけだけど我慢してね。流石にほぼ全裸はまずい。
床に震脚をしてぶち抜く。最後の一人を片付けるか。
「我々の思想に賛同する者たちよ。今こそ立ち上がるときぃ」
四人目。よし、合図送るか。変声器をちょっと弄って。良い感じの声にする。
「制圧完了」
急いで厨房の穴に飛び込む。上の方で機動隊がバリケードを壊し山荘に入る音が聞こえる。あっ、お気に入りのコート渡したままだった。あれ「黒鼠」のトレードマークの一つだったのに……………いいか、休業するし。
掘った穴から抜け出し、テントの方に行く。マスコミのカメラは山荘の方に向いているから大丈夫。
「終わったぞ、じゃあな」
「「黒鼠」。ありがとう。私たちでは犠牲が出ていた」
「ありがとうございます」
「こら、在田。犯罪者に礼などいうな」
あー土だらけだ。風呂入り直すか?いや、あれ十二時までだっけ。間に合うか?いや、間に合わせる。