傭兵「黒鼠」は休業中 作:ハイパー・ボーン
『昨夜の
「昨日そんなことが起きてたんだ。知らなかった」
「あら、アナタは酔っぱらってすぐ寝てたから知らないだろうけど。SNSじゃ大騒ぎたったのよ」
「ママ、お茶入れて」
俺は温泉宿の食堂で朝食を食べていた。何でも昨夜、マスコミが止まろうと大騒ぎしたお詫びらしい。
……………何か悪いことをしている気がする。おばちゃんが米をよそいに来た。すみません。
「しかし、本当にいいんですか?昨日は疲れてて寝てしまっていたので。気付きもしませんでした」
「あら、いいのよ。こんな古い宿に泊まってくれるお嬢さんはいないから、少しサービスがあった。くらいに考えてくれて」
ならいいのか?ご厚意に甘えることにしよう。それに、「伝書鶏」の部下のバーテンダー君から連絡来たし、いろいろ話さなきゃな。まずは英気を養うために食べるとするか。
「ありがとうございました。またの来館をお待ちしています」
「こちらこそ、ありがとうございます。食事おいしかったです」
温泉宿を出る。いやーたまに行こうかな。スマホを見ると数列が送られていた。えーと、これはこうだから。
「伝書鶏」のやつ国家魔術犯罪対策局の隣に場所移したのか……………まあ、あいつらしいと言えばそうか。
『えー次の駅は大鎌荼。右側の扉が開きます。穂凡線のご利用の方は乗り換えです。The next station is Okamada.The doors on the right side will open.Please change here for the Hohan Line』
「ここで降りるのか」
俺は読んでいた新聞を畳み、ゆっくりと見えてくる駅のホームを見る。三駅前まではガラガラだったのに、今では立っている人の方が多い。まあ、大都市に近づいてきたからか。
俺がホームに降りると、昨夜のことを話している人がちらほらいた。ただの殺人鬼の信奉者の事件に話す内容なんてないだろうに。階段に向かいながら、大したこと書いてなかった新聞をゴミ箱に捨てる。新しく知れた情報は犯人の名前くらいだった。
「あれ、切符どこにやったっけ?……………そうだ、カバンに入れてたんだ」
今時、切符とか使うかと思ってネットで予約しようとしたんだけど、難しくてやめた。なんだよ同じ経路同じ電車なのに金額変わるとかわけが分からん。そんなことより、「伝書鶏」に会いに行こう。
「国家魔術犯罪対策局まではバス一本で行けるのか……………タクシー使おう荷物あるし」
「千五十円です」
「どうぞ」
タクシーって結構高いな。国家魔術犯罪対策局の門の前を通り過ぎ、隣の建物に目を向ける。バー「gallo viaggiatore」これだな。伝書鳩のもじりだし。閉店中と書かれたプレートが掛けられている扉を開けると、髭を剃った「伝書鶏」がいた。
「髭無くなってるじゃん」
「うるせえ、子供に汚そうって言われちゃったんだから仕方ないだろ」
ウケる。まあ、ピザ食った時にソース付いてからな。よく見るとバーテンダーの格好して髪もワックスかけてる。似合わねぇ~。
「髭のことはいいだろもう。………「黒鼠」、お前の事についてなんだが。お前ネットとか見ないよな。今偉い騒ぎになってるぞ」
「ああ、そのこと。「黒鼠」は休業する。別の名前で再出発するよ」
「知ってんのかよ。まあ、賢明な判断だけどさ、仲介人である俺に昨日から依頼、何件来たと思う?一時間に一万件だよ、ほとんどがいたずらの依頼。マジでやってられん。古い付き合い以外からは依頼来ないようにしているけど。裏でバーテンダー君がてんてこ舞いだよ」
何か大変なことになってるな。まあ依頼くれればどうでもいいし。こいつは何が何でも俺との繋がりを死守するだろうから俺は何もしなくてもいい。
「「黒鼠」の依頼、一日に三件くらいあるよ。これは信用できる奴らからの依頼だから断るなよ」
「……………わかった。どのくらいの期間だ」
「二か月。でも妹ちゃんの治療費はこれで完済できるよ」
再出発はもう少し後になるか。……………でも一日三件か。クソ面倒だな。
「で、何時からやるんだ?」
「今、着替えと槍は用意してある。とっとと行け。土まみれの装備は置いておけ、クリーニングに出す」
あ、昨夜のこともう知れ渡ってるんだ。まあ、いたことは隠そうともしてないし、当然と言ったらそうなんだけど。
「分かった。移動は?」
「酒運んでくる車に乗れ、つーか今回から休業までそれ使え」
服を一通り調べる。針も発信器も細工もない。ほつれとかもない。トイレで着替えるか。
着替え終わって、槍を貰う。こっちも大丈夫だな。そうしていると、見知らぬ男が酒瓶の入ったカゴを持ってきた。
「ちわーす。反封酒店です。届けに来ました。……………この人ですか」
「うん、そう。「黒鼠」。丁重に扱ってね」
「はい!」
店の裏手からワンボックスカーに乗る。ちょっと狭いし座席も硬い気がする。もしかして俺って結構VIP待遇だったの?
「なあ、酒屋の兄ちゃん。傭兵って送迎役とかいるのか?」
「まさか、今回の「黒鼠」さんみたいに有名になりすぎた人が移動中に絡まれないように使うのはありますけど。普通は現地集合現地解散ですよ」
いやちょっと待てよ。俺、四年くらい送迎役いるんだけど。現地集合なんてほとんどやったことないぞ。
「俺は四年くらい前から送迎役がいたんだが……………」
「そんなことほぼほぼあり得ませんよ。企業の重役の護衛くらいですよそんな扱い」
「そうか」
えっと、送迎役が付いたのは……………あの依頼からだよな。マフィアが豪華客船ハイジャックしたのを制圧する依頼。誰も死なせず成功させたとか言ったら「伝書鶏」吹いてたな。
「まあ、「伝書鶏」さんも結構、子飼いに手厚い方ですからね。っと、そうだ今日の依頼なんですが暴力団の撃滅です」
「何人だ?」
「分かりません。二つの暴力団が合併するんで、その合併会場にいる全員ですね。まあ無関係な人は警察が入らないようにしてます。あとこれが場所の見取り図です」
無関係な人いないなら、多少乱暴にしてもいいな。それと見取り図見た感じ、出入り口一つしかない、侵入者対策か。つまりここ潰せば出られない。
「撃滅って話ですけど、別に全員逮捕ができればいいので。まあ、ここだけの話ですけど依頼者、地主の連合です。みかじめ料結構きついらしくて」
面積的に多くて八十人。結構狭いところあるな、ここは直剣で対処するか。見張りもいるだろうし、先ずはそいつらから。
急に車が止まった。窓の外を見ると警察の検問がある。大丈夫なのか?警察の人が近づいてきた、そして運転手の窓を叩く。
「今、検問をしていて中を確認してもよろしいですか」
「ちょっと困りますよ急にそんなこと言われたら。一回電話させてくださいよ……………はい、反封酒店です、そう運んでいる途中に検問があって。はい、お願いしますよ、今度いい酒来たら伝えますんで、はい。……………ありがとうございますほんとに」
警察の人の無線から、この車を通すようにという連絡が聞こえる。警察の人は頭を下げて道を譲る。
「ふう、地主の人が依頼人なんでこういうとき楽なんですよね」
しかし、口が軽いなこの人。喋りすぎは良くないと思うけど。
まあ「伝書鶏」が採用しているならそれなりに
「十二時ぴったりから二分間。警察の目が目的から離れます、その間に侵入してください。脱出は庭にマンホールがありますので、そこから北の行き止まりまで進んでください。近くの自然公園にたどり着きます」
「わかった」
俺を乗せたワンボックスが目的近くの居酒屋の駐車場に止まる。運転席から出た酒屋の兄ちゃんが幾つかビールが入った巨大な缶を持って居酒屋に入っていく。カモフラージュのためか。
十二時まで、六六三、六六二、六六一……………
警察の人たちが入れ替わるために動く音がする。あとちょっとだ。四八、四七、四六、四五……………
結束バンドの数を確かめる。三百個あるな。
……………三、二、一、〇。行くか。車の扉を開け、すぐさま閉める。ワンボックスのエンジンがうなりを上げ動き出した。
俺は駆け出し近くの塀を踏んでいっきに目的の場所に飛び込む。そして、煙草をふかしながら談笑する男たちに槍を叩き込む。ちょっと顎が砕けるだけだ。死にはしない。
「一人目、二人目」
「な」
「三、四人目、五人目」
俺の姿を見て、腕を動かそうとした人に落ちていた石を投げる。鳩尾に命中。倒れた四人の手足を結束バンドで縛り、庭の低木に隠す。もがき苦しむ人を締め落とし、縛る。息はしている、よし。無線の先は宴会でもしているのか?呑気だな。
唯一の扉を開けて室内に入り込む。そして少し蹴りを入れる。歪んだな。ちょっとやそっとで開きそうにない。これで逃げられないな。
扉が歪む音を聞きつけ、廊下に入ってきた奴の顎にアッパーを入れる。六人目。こいつは靴箱の下にでも隠すか。いや、玄関に置いておこう呼吸が少し変だ。
玄関から一番近い扉を開ける。地図じゃトイレだった所だ。中に人は三人。小便器にいる男の口に洗面所にあったペーパータオルを押し込み締め落とす。七人目。そして少し上が開いている個室に催涙玉を投げ入れる。
「うぇげごっ」
「なんじゃあ、敵しゅ」
えずく男の側頭部を天井に張り付き直剣の先で小突く。八人目。個室の扉が開き、出てきた男の頭頂部に直剣を振るう。これで九人目。ズボン履けよ、汚い尻が出てるぞ。トイレにいる奴を全員同じ個室に入れる。
煙幕弾をトイレの扉に仕掛け、トイレから出る。次は厨房にいくか。
「まったく、合併だなんで信じられないわ」
「旦那もお金減りそうだと言ってました」
「あら、若いんだからそれくらい我慢しなさいよ」
いるのは四人、いやこっちに向かってる人いるな、五人か。少し待とう。
「お酒足りない。ある?」
「これ持って来なさい。あの人たち短気だから」
「ありがとう、急がなきゃ」
この人は後回し、……………よし出て行ったな。近くのフライパンを遠くの人に投げ、一番近い人を掴んで二番目に近い人に投げる。そして三番目に近い人に接近する。
「がっ」
「きゃっ」
殴って気絶させる、十人目。後の二人は口にタオル詰め込んで手足を縛る。十一、十二人目。叫ぼうとした人の喉に石突で声を封じ、締め落とす。十三人目。制圧した四人を厨房の調理器具入れにしまう。近づいてくる人いるな。冷蔵庫の影に隠れる。
「料理遅えぞ……………どこいぃ」
ゴッ パリン
醤油の瓶を胸郭に投げて、息を詰まらせる。十四人目。
……………そろそろ人がいなくなってることに気が付き始めると思うし突っ込むか。
「すーはーすーはー」
魔力を練り上げる。出すべき場所は背中と足、体の前面は固定化する。人の場所を確認する、この方向なら死人は出ないな。よし。
キュィィィィィィィィ ドンッ
魔力によって増幅された衝撃が壁を焼き菓子のように粉砕し、熱を帯びた鉄骨が蜘蛛の糸のように焼き切れていく。浮かれて酒を酌み交わしていた男たちが笑顔のまま壁に激突する。十五から三十二人目。
一番先に反応した奴の肩に短剣を投げる。刺さったことを確認したら机を蹴り上げ魔力噴射で射出する。酔っぱらっていた男に命中し机が砕け散る。三十三人目。刀で切りかかってきた女に拳を叩き込む。刀身が砕け、そのまま女を吹き飛ばした。三十四人目。
「敵襲だ!!急げ!!会長をお守りしろ!!」
肩に刺さった短剣を抜いて男が叫んだ。まあ判断は間違っていないけど、俺から視線逸らすなよ。こめかみに槍の石突を叩き込む。三十五人目。
キュキュキュキュキュキュ バツン
魔力の奔流を十本の細い線に分け、銃を構えた腕へ叩き込む。三十六から四十五人目。
「腕がおれのうえがぁあ」
「が……………はぁ」
まだ動ける人を確認する。あと十二人、ほぼほぼ戦意を喪失している。まあ、こんなことされたら仕方ないか。
「ぶ、無礼者、明日を貴様生きてられると思うな」
「お嬢様、にげてくさせえ、ここは私が」
キュ バンッ
なんか言ってたやつに魔力放出を打ち込む。四十六人目。へえ、それなりにできるなお嬢様とやら。魔力もそれなりにある。身体能力も………まあ及第点。武器もかなり金がかかっている奴だな。長巻だっけあの武器、それを俺に突き付けてきた。
「黄道蠍会の組長のむす」
「敵の前で瞬きをするな」
黄道蠍会の組長の娘?の腹に回し蹴りをぶちかます。組長の娘が壁に激突して倒れこむ。四十七人目。戦いの途中に瞬きしちゃだめだよ、こうなるから。
パァン
「うっ」
俺に向かってくる銃弾を槍ではじき、撃った人に返す。……………やべ、腹にあてちゃった。四十八人目。
後は、縮こまっている老人たちを片付け────
シュュュュュュュゥゥゥゥゥゥゥ ピンッ
「ゲフッ」
壁を突き破ってきた薄墨色の蒸気が俺の右胸郭を消し飛ばす。なくなった部分に魔力を大量に注ぎ込み再生させる。着ていた服が蠢き、少し寸足らずにはなるが無くなった部分を補完する。
「フム、殺せたと思ったガ。そうか、自己修復機能搭載手術を受けていたのだナ」
「おいおい、聞いてないぞ、まったく」
蒸気が薄れ、壊された壁の向こうが見えるようになった。
青空に機械鎧が蒸気を脚から放出している。敵でなければじっくり見てたのによ。
「ソレはこちらの台詞ダ。何故「黒鼠」がここにいる」
「仕事だ」
「こちらもダ」
逃げようとする人たちに魔力放出をぶつけ気絶させる。五十三人目。
「国家魔術犯罪対策局第六部隊隊長スモークマン、ダ」
「あー俺も一応名乗っておく「黒鼠」。独立傭兵。ってか本名じゃないだろ」
スモークマン、蒸気男って直球すぎるだろ。ネーミングセンスないな。こうバベッジゴーレムとか捻れよ。
「そうだが何か問題でもあるのカ?」
「ないな」
「私はそれらの逮捕の為にここに来タ。どいてもらえるとありがたイ」
仕事は達成できてるし、ここは譲ろう。逃がすとも思えないしな。でも、俺を捕まえに来たんじゃないのか?
「俺のことはいいのかい?」
「アア、いきなり攻撃して悪かったナ」
「別に、人違いで攻撃されることはよくある」
俺は庭にでてマンホールに入る。そういえば、子供の頃は秘密基地にしたかったなマンホールの下。
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マンホールに入った「黒鼠」が消えたのを確認してから私はため息を吐く。
「ハア、とんだ貧乏くじダ。お祓いでもしたほうがいいのカ?」
向こうに敵意がなくて良かった。巨大な魔力反応に三カ月分の魔力をつぎ込んだ蒸気砲を当てたはいいものを生きていた。今の手持ちのリソースの大半を使い、それで足止めできたのは、わずか二秒。自分の才能の無さを突き付けられたような気がする。
「耐久も異常だナ」
まあいい、この連中を捕まえることにしよう。