ヒーローアカデミアの喰種   作:きりっと果実

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第4話 【登校初日】

 

 

「実技総合成績出ました」

 

暗い部屋で大きな画面に映し出される映像を雄英の教師たちが眺めていた。

得点のリザルトから、受験生たちの映像へと画面が切り替わる。

 

救助P(レスキューポイント)0で1位とはなあ!!」

「『1P』や『2P』は標的を捕捉し近寄ってくる。彼の個性は派手な分、後半で他が鈍っていく中も寄せ付け迎撃し続けた…タフネスの賜物だな」

 

汗をかきながらも仮想敵を爆発し続ける少年から、オロオロと周囲を眺めている少年へと映像が切り替わる。

 

「対照的に敵P(ヴィランポイント)0で8位」

「大型敵に立ち向かった受験生は過去にもいたけど…ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね!」

「俺も思わずYEAH!って言っちゃったからなぁ!」

「それに比べて……」

 

白髪の少年が仮想敵を薙ぎ倒しつつ周囲を手助けする映像に切り替わった。

 

「2位の子は随分とバランスがいいね」

「1位とのポイント差はたったの1…途中で仮想敵を無視して助けに行ったのが仇になったな」

「バランスは良いがちょっと救助(レスキュー)に偏ってるな!」

「でも悪いことじゃないでしょう、それを教えていくのが我々の仕事です」

「俺はとにかく8位のやつに早く教えてえな!気に入ったぜ!!」

「YEAH!って言っちゃったしな────」

 

 


 

 

雄英高校からの封筒が届いたのは七日後の夕方だった。

待っている間何度も郵便受けを覗きに行った自分を思い出すと少し恥ずかしい。

台所のテーブルでゆっくりと封を切る。

中から出てきたのは書類の束と金属の円盤だった。

 

「……えっと、なんだろうこれ…」

 

困惑していると、突如として映像が映し出された。

映像には雄英の校長、根津が写っており僕は合格を通知された。

あまり期待せず落ちることも視野に入れていたのだけれど、どうやら救助P(レスキューポイント)なるものがあったらしい。

天下の雄英がまさか救助を全く考慮しないなんてことは無いようで安心したのも束の間、それを遥かに超える安堵が胸に満ちた。

少し戸惑いながらも僕は1度書類を封筒に戻した。

 

「ふぅ〜……」

 

僕は…雄英高校に合格したのだ。

 

***

 

入学までの日々はあっという間だった。

 

制服が届いた日、一度袖を通して姿見の前に立った。

グレーのブレザーに赤いネクタイ。

鏡の中の僕は思ったよりちゃんと高校生をしている。

この様変わりした白い髪も、制服が半分くらい馴染ませてくれている気がした。

 

教科書とは別で参考書を近所の書店で買ってみたりした。

参考書コーナーには「ヒーロー科進学者向け」なんて棚まであって…この国のヒーロー熱を実感する。

ノートなどの筆記用具。生活用品の類も一通り新調した。

一人分の買い物は誰かと分け合う楽しさとは反対の静けさがある。

それでも今はその静けさが前よりも随分と軽く感じた。

買い物袋を提げて帰る道すがら、妙にそわそわしている自分に気づく。

…こんな気持ちはいつぶりだろうな。

 

赫子の訓練は引き続き河川敷で続けたけど根を詰めるのはやめた。

入学目前で体調を崩したら元も子もない。

それに、赫子の操作については既に完全に近い。

手足同様、生まれた時からあったかのように好きに操れる。

ただ、赫子の強さ…頑丈さや筋力といえば分かりやすいかな。

そっちの方はまだまだ天井は遠そうだ。

 

入学前夜、制服をハンガーにかけたまましばらくそれを眺めていた。

…雄英はどんなところだろう。

友達はできるかな?

出来るといいな…特に切島君とは仲良くしていきたい。

明日からの高校生活…楽しみだ。

 

***

 

雄英高校の坂道は桜が満開だった。

真新しい制服の襟がまだ少し硬くて、肌に触れる度ムズムズする。

校門を見上げるとやはり普通のそれよりずっと大きくて一瞬足が止まった。

 

行き交う新入生の顔はみんな少しずつ緊張しているように見える。

不安そうな顔、自信ありげな顔、やたら気合の入った顔。

僕もきっとそのどれかと同じような顔をしてるんだろう。

 

「金木ー!!」

 

聞き覚えのある声に振り向く。

切島君が大きく手を振っていた。

 

「切島君!やっぱり受かってたんだね、良かった…」

「おうよ!俺もお前が受かってて嬉しいぜ!ま、俺が受かってお前が落ちることはねえよ、凄かったからな!」

「あはは、嬉しいけど恥ずかしいな…」

 

軽口を叩きながら校舎への道を並んで歩く。

緊張していたはずの足取りが、いつの間にか軽くなっていた。

 

「あ、そうだ!連絡先。入試のとき交換しそびれたよね?」

「おお!そうだよ、ごめんな俺から言ったのに」

 

端末を出し合ってようやく交換を果たした。

 

「今度クリムゾンライオットの資料送るからな!」

「よく覚えてたね…でも君がそこまで言うならすごいヒーローなんだろうな、楽しみにしてる」

 

途中の廊下で緊張した様子の緑がかった黒髪の生徒とすれ違った。

見ているこちらもドキドキしてしまうくらいに緊張している。

特に話し掛けたりはせず、すれ違いざま会釈だけ交わして僕らは教室へ向かった。

同じクラスだったら改めて話しかけよう。

 

***

 

一年A組の扉は想像以上に大きかった。

 

「でっけえな…さすが雄英!」

「校門があのサイズなの考えたら妥当だね」

 

切島君と並んで開けると、教室の中はもう半分ほど埋まっていた。

頭文字から考えて前後の席かと思ったけど、惜しくも間に1人いた。

…残念とか思うのは間の人に失礼だな、うん。

 

前の席には尻尾の生えた男子生徒がいて「よろしく」と会釈を交わした。

隣の席は右が肌がピンクの女子生徒。

左は耳たぶからプラグが生えている女子生徒だ。

右の子は入試でも見かけた気がするな。

どちらとも軽く挨拶をするだけに留めた。

 

それだけのやり取りが妙にくすぐったい。

中学生の時は別の生き物を見るような目で見られてたし、個性が分かってからも可哀想な子を見るような目で見られた。

ただの自分でいられるってことがこんなに居心地がいいなんて、すっかり忘れてたな。

 

落ち着いて周りを見渡すと2つ左の席で目つきの鋭い金髪の生徒が早くも机に足を乗せて周囲を威嚇している気が付いた。

朝から元気のいいことだ。

 

しばらくして眼鏡をかけた生徒が教室に入ってきた。

歩き方から姿勢までやけにキビキビとしていて、見るからに真面目そうな雰囲気を纏っている。

その眼鏡の生徒が机に足を乗せたままの金髪に気づいて入口から早足で近づいていった。

 

「君!一体何をしているんだ!?」

「あ?」

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ!てめーどこ中だよ端役が!」

 

君の発言の方がよっぽど端役っぽいことは言わない方がいいんだろうか……

一触即発の空気が生まれる。

眼鏡の彼…飯田天哉君の自己紹介に次ぎ、ガラの悪い彼の「ブッ殺し甲斐」とかいうトンデモワードにドン引きしていた頃、教室の入口に新たな人影に気が付いた。

 

緑がかったモジャモジャの黒髪。

さっき廊下ですれ違った彼だ。

やけに遅かったな……もしかして道に迷ってたとか?

声掛けてあげればよかったかな。

ぼけっと眺めていると飯田君がモジャ君にキビキビと歩み寄っていった。

 

「(知り合いなのか。まぁ、僕と切島君みたいにある程度仲良くなる人はいるか…)」

 

まあ、何はともあれこういう賑やかさを眺めているのも悪くない…

モジャ君も飯田君もいい子そうだし、友達になれたらいいなぁ

というか、みんな全然喋らないな…普通はもっと自己紹介とか……

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

そんな僕を戒めるような低い声がして教室の入口を見やると、黄色い寝袋に入った小汚いおじさんがヂュッとエナジーゼリーを飲み切っているのが見えた。

 

「(寝袋!?廊下で!?なんで!?誰!?)」

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました…時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

すごい…さすが雄英、教師の格好まで多様性が…!

 

「担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

こんなくたびれた人が担任と聞いて教室中が騒めく。

 

「早速だが…」

 

相澤先生が寝袋をゴソゴソと漁り出し、体操着を引っ張り出した。

 

体操服(コレ)着てグラウンドへ出ろ」

 

入学式やオリエンテーションは?…と一瞬思ったが、ここは天下の雄英。

教育に関する事も尋常ではない…かもしれないと考えると不思議じゃあない。

 

「(でも寝袋から出てきた体操服は嫌だなぁ…)」

 

「あぁそうそう…各々の体操服は机の中に入れてあるから。時間は有限、遅れないように」

 

あぁよかった…と安堵したのは多分僕だけじゃないだろう。

 

***

 

体操服に着替えて グラウンドに整列すると相澤先生は淡々と告げた。

()()()()()()()

簡単に言えば中学までの体力測定の個性使用が許可された版のようだ。

 

「実技入試成績のトップは…爆豪だったな」

「おう」

「中学の時のソフトボール投げ、何メートルだった」

「…67メートル」

「じゃあ()()使ってやってみろ。円から出なければ何しても構わん」

 

先生はそういうと爆豪君を円の中に入れると「はよ」と急かした。

 

「んじゃまぁ…」

 

なるほど…確かに個性使ってヒーローになるための学校なんだから、それが一番合理的なのかも…でも個性によっては記録が変わらないこともあるんじゃないか?

実際僕も持久系は……

 

 

死ねえ!!!

 

 

クラス全員おそらく同じようなことを思っただろう。

 

『(…()()?)』

 

死ねって言った?およそ体力測定…いや個性把握テストで出るとは思えない言葉なんだけど。

 

 

いやでも…彼の個性、なんだろう?

手元で爆発?が起きていた…掌を爆破させる個性かな。

個性を上手く使う技術力もさることながら、威力も申し分ない。

凄いな…あんな態度になるのも理解できる強さだ。

 

そんな彼の記録は先生の手元にある端末によると705.2m

確かに記録がこれだけ伸びるなら個性把握テスト…充分どころかほぼ必須だ。

従来の体力テストで分かることなんかたかが知れている。

 

 

「700超えたってマジかよ……」

「なにこれ!()()()()!!」

「個性思いっきり使えんだ!!流石ヒーロー科!!」

 

「やりがいがありそうだね、切島君」

「あぁ…想像以上だぜ…!」

 

しかし底冷えするような声で相澤先生が言う。

 

「………面白そう、か…」

 

……マズい、誰かの言葉が先生の地雷を踏んだみたいだ。

確かに、今までとは違う環境でちょっと浮かれすぎていた。

 

「ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、()()()()としよう」

 

 

…嘘だろ…!?

 

 

『はああああ!?』

 

 

グラウンドの空気が一気に張り詰めた。

…少なくとも僕が最下位になることはない、と思う。

もしもこのクラスの大半が身体能力を強化することができるなら話は変わってくるけど……

 

隣では切島君が「ま、マジかよ……」と固まっている。

でも、三百倍近い倍率を勝ち抜いた生徒を初日で切るのは学校運営として合理的じゃない……

よって、これは僕達に発破かける為のただの脅し…と思いたいが雰囲気は()()だ。

脅しにしても本気にしても、やることはひとつ。

 

全力を出す。それだけでいい。

 

***

 

グラウンドを見渡すと個性の種類は千差万別だと改めて思い知らされる。

中学の教室での僕は異物だった。

ここでは異物という言葉が意味をなさない。

全員がそれぞれあの試験を掻い潜ってきた規格外だ。

手を抜くなんて選択肢はまるで無いな。

 

 

 

50m走

 

赫子は使わず、素の身体能力だけで地面を蹴る。

 

「ちょ、まじか!?」

 

隣を走っていた切島君が後方から驚いた声を上げた。

 

記録は3.6秒。

やっぱり(喰種)の身体能力は化け物だな。

人の体でここまでの出力が出るなんて…

 

「君…すごいな!あと少しで追い越されてしまうところだった…」

「えっと、飯田君…だったっけ。ありがとう」

「あぁ!君の名前はなんて言うんだ?覚えておきたい!」

「金木研。金木でも硏でも好きに呼んで」

「金木君か…わかった、よろしく頼む!」

 

 

 

握力測定

 

これも素のままでいい。

計器の針がビンッと跳ねて隣の子が二度見していた。

本気で握ろうとしたが、計器がミシ…と嫌な音を立てたので途中で止めた。

 

「記録は…1400kgか。」

 

計器の形を見るに9999までは想定してそうだけど、思ったより耐えなかったな。

 

「ヒェー!お前すんげぇな!?」

「それほどでも…いや、あるね。ありがとう」

「おー、新しいタイプの謙遜かぁ?にしてもすげぇな!」

「一応、調整できるまでまあまあ苦労したんだよ」

「まぁそうだろうな…大したもんだぜ!」

 

いや、実際本当に苦労した。

我が家のドアノブは今でもいくつか歪んだまま放置されている。

誤って人にこの力を向けない為の戒めとして。

……あぁ、でももっと手加減すればよかったかな。

せっかくの初めましてなのに、握手するにも怖がられちゃうだろうな。

 

「お前たしか金木だろ?俺、上鳴電気な!よろしく!」

 

そう思っていたのに、目の前の彼は手を差し出した。

 

「…!上鳴君か、よろしく!…名前教えたっけ?」

「飯田に自己紹介してんの聞いたからさ、お前身体能力たっけぇのな!」

 

 

 

 

立ち幅跳び

 

膝をゆっくりと曲げ、足に力を入れると同時に思いっきり跳んだ。

 

 

ドッ!

 

 

「うおっ!?」

「普通に砂場越えやがった!」

 

砂場のはるか遠くで、メジャーが延びてくるのを待つ。

我ながらよく跳んだものだ……

まぁ、あの漫画の原作でも喰種は飛んで跳ねて戦闘してたしこれくらい跳べても不思議じゃないな。

 

「…ケロ、35mね」

「ありがとう、ごめんねこんなとこまで……」

「いいのよ。でも、筋力凄いのね。地面が足の形に窪んでいたもの」

「あぁっ…やりすぎたかな、どうしよう……」

「ケロ、先生が「気にするな、って伝えとけ」って言っていたわ」

「何から何までありがとう…!」

 

 

 

反復横跳び

 

またグラウンドを破壊しちゃったら良くないな。

本気でやってるみんなにはすごく失礼だけど……今度は手加減しよう。

グラウンドを壊して迷惑を掛けたくない…

 

「えっと…60回だな」

「ありがとう切島君」

「いや、いいんだけどよ……なんか動き方が等速すぎて気持ち悪かったぜ」

「あはは…」

 

 

次の種目は…と考えているとこちらへ先生が近寄ってきた。

 

 

「…金木、お前手加減しただろ」

「先生!…すみません、迷惑を掛けたくなくて…」

「気にするな、と伝えたはずだ。真面目にやらなきゃ個性把握も何も無いだろうが。…()()()()()

「はい……」

 

 

…怒られてしまった。

あ〜…失敗したなぁ…再測定に時間を取らせる羽目になっちゃった……

 

 

「ごめん切島君…」

「いや、気にすんな!本気じゃねえんだろうなとは思ってたんだ。ほらもっかいやろうぜ!」

 

 

再測定の結果、記録は194回。

僕がステップした地面が踏み固められツルツルピカピカになっていた。

 

…僕の横で血涙を流して唇を噛み締めているこの人は誰だろう。

 

「えっと……何かな…?」

「…なんでもねえよ…!なんでもな…!」

「あ、あはは…そう……」

 

気まずさからそそくさとその場を離れたけれど、持ち前の五感の良さで後ろから「オイラの唯一自信があった記録を…!!顔もいいくせに……!」云々聴こえてきてしまい結局気まずさからは逃れられなかった。

 

僕の後に測定していたピンク肌の女の子が、僕がツルツルにした地面を上手く利用して素早く個性で滑りながら反復横跳びしているのをみて驚かされた。

女の子は(したた)かだなぁ……

 

 

 

ボール投げ

 

ボール投げの番が来て、ここではじめて赫子を使った。

円の中に入り、ボールを軽く真上へなげる。

その直後に腰のあたりから赤黒い赫子を二本伸ばしてボールを思い切り弾き飛ばした。

 

パ ァ ン !

 

「うおお!?何だ!?」

 

「なに?ボール割れた?」

 

ボールは弧を描いて飛ぶ様すら見えず、予想以上の速度で飛んでいった。

 

「うわ、すご……何メートル出た?」

「えーっと…サッ!?31,600mゥ!?」

 

あまりの記録にその場がドッと湧いたが、その後に無限とかいう訳の分からない記録が出した女の子がいて僕の記録の印象は薄れてしまった。

無限て……凄いな。

上には上がいるものだ。

 

 

***

 

 

…しかし、モジャモジャ頭の彼…大丈夫かな。

なにやら思い詰めた顔をしているけれど……

 

46m

「なっ…!?」

 

トータル成績最下位は除籍…確かにヒーローは過酷な仕事だし、ついていけない子が脱落してしまうのは頷ける。

でもこんな序盤でなんてあまりにも……

 

「彼が心配?僕はね……全っ然」

「ダレキミ…」

 

「指導を受けていたようだが…」

 

「除籍宣告だろ」

 

「(…いや、多分違う。モジャ君の様子がさっきとは……)」

 

 

二度目の測定、彼は先程とは違う様子でボールを構えた。

そしてボールも先程までの彼とは全く異なる勢いで飛んで行った。

 

 

『おお!!』

 

 

これには思わずといった様子でクラスメイトの声が重なる。

やがて彼の投げたボールがグラウンドの随分と先の方で落下した。

おそらく、彼の記録の中で唯一ヒーローらしいと言える記録だろう。

それに、僕の記憶が間違っていなければことある事に彼を()()()と罵る爆豪君よりも僅か0.1m上の記録だ。

 

投げ終わった後、彼の右手の指が明らかに不自然な形に腫れているのが離れていてもわかった。

それでも彼は歯を食いしばって真っ直ぐ前を見ていた。

誰かに助言を求める素振りもなく、ただ自分の力で答えに辿り着いた。

そんな顔だった。

 

「先生……!」

 

ボールを投げ、真っ赤に腫れた指ごと手を握り締めた彼が先生を見る。

 

まだ……動けます

「こいつ……!」

 

相澤先生が期待に満ちた表情をしてる…

さっきのやり取りがどうだったのか知らないけど、この先生にこんな表情させるなんて…彼はすごいな。

 

***

 

種目の合間、一度だけ相澤先生と目が合った。

先生の視線は僕の動き方や種目ごとの判断のほうに向いているように見えた。

 

出し惜しみをするかしないか。

どこで無理をしてどこで力を温存するか。

 

そういうところを静かに見られている気がした。

何を測られているのかはわからない。

 

……ただその視線は、僕だけじゃなくて全員に向けられていた。

答え合わせを保留にされている目だ。

何の答え合わせなのかは今の僕にはわからない。

やはり本当に誰かが除籍されるのだろうか……

 

***

 

残りの種目もつつがなく終わった。

ボール投げの彼は痛みに顔を歪めながらも一度も泣き言を漏らさなかった。

自分の弱さを誰のせいにもしなかった。

 

彼のそんな姿を見ても、僕は余計な言葉はかけなかった。

かける資格もないと思ったし…それに彼はもう自分の足で立っていた。

ただ、その姿にヒーローという言葉の輪郭を少しだけ近くに感じた。

 

***

 

全種目が終わって空中に投影された成績表をみんなで見上げた。

自分の名前は思っていたより上のほうにあった。

上の方っていうか……がっつり一位だ。

 

「金木、記録えぐかったもんなぁ……」

「チッ……!」

 

でも反対にボール投げの…緑谷君は最下位、これでは除籍だ。

 

せっかく一位を取ったのにクラスメイトが早速減ることに悲しんでいると、相澤先生は表を静かに消して言った。

 

「ちなみに除籍は嘘な」

「!?」

「(え?)」

 

「君らの最大限を引き出すための合理的虚偽」

 

 

「は━━━━━━━!?」

 

 

「あんなのウソに決まっているじゃない……ちょっと考えれば分かりますわ」

 

「(嘘!?合理的虚偽!?)」

 

やはり雄英高校ヒーロー科……末恐ろしいな…!

 

 




持久走はクラス中位、上体起こしは最上位、長座体前屈は中の上くらいです。

色々調べて原作の描写や情報から、喰種からかけ離れすぎないくらいに弱体化までさせてもなおこの優秀さでした。
金木研、強すぎる……(懊悩)
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