勇者です。VRMMOと偽って日本のみんなに異世界救ってもらおうと思います。 作:カロン救世委員会
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「どーもこんにちは。ペンギンです。シリーズ『カロン探検隊』ということで、今我々探検隊はヨクト大森林に来ておりぃ、ますっ。と今回、調査のきっかけはとある掲示板に遺されていた、とある人物の最後の書き込み「ある日、森の中、デュラハンに、出会った」というね、
:とある人物だれ
:いや掲示板の書き込みなんだろ?
:とある人物が誰かわかってねえだろ
:勝手に死んだことにするな
:勝手に事件にするな
「デュラハンとは何者か。今宵これを暴いていきたいと、そう思っております」
:書き込みの人物とやらはもうどうでもいいんだな
:今宵……
:まだ午前中だが?
:ヨクト大森林どこ
「あ、ヨクト大森林は大陸の反対っ側、最初の街のね。西側の海まではいかないけれど、ってくらいのところにあります。それではさっそく行ってみましょうかね! 森は美しく暗く深い、だが私には守るべき約束がある。眠る前に行くべき道がある──R.フロストなんつってね。僕は今日気になるあの子とデートの約束があるんでね。サクサクやっていきたいと、そう思っております」
:死ね
:がんばれデュラハンこいつを殺せ
:やっっっっておしまい!
:狂気になるあの子?
:お、サイコホラーの実況クル?
「はいはい、集中しろってみんな。そんな無駄なコメント拾ってる暇はないからね。今日の僕には」
:お前が集中しろ
:あーあ
:浮かれやがって
:死ね! 死ね!
「さて、薄暗いですね。起伏はわりとなだらかです。日の光が入ってこないからか、下草は短いです。岩や倒木は苔むして、滑りやすくなっておりますので、十分に、お気をつけください? あ、我々『ペンギン・ウィ・ズー』略してペンギンズのカロン公式チャンネル『ペンギンと動物園』では探検隊メンバー7人のカメラを任意で切り替えてお楽しみいただけますのでよろしくお願いします」
:あい
:はーい
:ウィ
:ウィ
:ウィ。ヨクト大森林はどうなん? 実際。難易度的には
「はいはい、はい。ヨクトの難易度としては〝高め〟と言えるでしょう。モンスターが多く、予習しとかないとすぐやられます。と、さっそく巨大ナメクジがいますね」
:でかい
:きもい
:150センチくらいあるな
:ぬるぬる
:ヌメットル
「そうですね。ヌメットルというモンスターです。なんと物理も魔法も滑ってしまって有効なダメージをなかなか与えられません。塩か砂糖で退治できますが、それなりの量と時間がかかるので、錬金術師の粉洗剤なら少量かつ素早く退治できるのでオススメです。でも倒したところでうまみは少ないですね」
:へー
:旨みか
:食べるのか?
「食べません。そういううまみじゃないの、ね? ということでヌメットルは無視して迂回します」
︙
︙
「さて、何度か戦闘をこなしてきましたが、デュラハンにはなかなか出会えませんね。位置的にはまだ浅層かと思うので中層との境くらいまで行きたいと思います」
:今んとこエンカしたモンスは
アブダクター、スライム、サンダリオン、
大物はラスカルとモーティピード
:シャンブラーウッドもいたろ
:ラスカルw
アライグマしか思い浮かばん
:横文字だけだと想像し難いのはわかる
:誘拐虻(血ぃ吸うたろか)
軟泥(ボヨンベチャシュワワ)
履物虫(おしゃれは足元から)
牙骸(食べるとこ無し)
死足虫(人面ムカデ。本当にムリ)
妖ろめ木(よろめき歩く木)
:ありがとう(^-^)
:まあ浅層って感じ
大物ってもデカイだけだし
「モンスターの補足ありがとーう。あ、また違うのいたね。やっぱり最初の3種ばかりじゃ飽きるもんね。おっとアイボールフィーラーだ」
:目玉触鬚めだましょくしゅ
:目玉が生えた草ね
:草か
:草だ
:草
「こいつは目玉がデカいほど、もしくは目玉が多いほど厄介だと言われてる。ぶどうみたいに房になってたり、葉っぱにヒクほど連なってたりするとやばいらしい。あとバレーボールくらいあったらマジやばい。ソフトボールでもやばい。今回のはピンポン玉より小さいのが3つなので問題なしでーす」
:さっくり終わったな
:問題なしだから
:やばいのに遭ったことある?
「僕らはないね。小さい目玉が10個くらいのはあるけど、それくらいなら大したことなかったよ」
:アイボールフィーラーは育つと魔法を使う。デカイ目玉は攻撃的で直接的な魔法を使う。目玉の多い奴は精神を汚染してくる。どっちも危険だが、目玉の多い奴は目玉を収集する傾向にあるから、下手を打つと目玉をくり抜かれることになる。
:え、こわっ
「え、マジかぁ。情報通ニキありがとう。気を付けるわ」
︙
︙
「……──はい。中層を歩いてきた訳ですけどもね。中層でも奥までは行ってません。死んじゃうからね。中層だとだいぶモンスターの様相も変わってくるね」
:マイコノイド=化け木の子
ジュラタランチュラ=大森蜘蛛
スケルトン=骸骨
ウルフブライヤー=茨狼
シミアンブローラ=喧嘩屋猿
シルバーゴーレム=銀塊魔像
グラッジ=呪霊
:グラスカ(大牙獣)もいたけど流石にやり過ごしたな
:小さい森だとグラスカがボスになってたりするからなぁ
:シルバーゴーレムとか、銀鉱脈でもあるんか?
:ほぼ捨ててかなきゃならんという、もったいなー
「そうそう、ハト隊員が解析で調べてくれたところ、シルバーゴーレムの核を覆っていた魔法銀は、
:にゔるにうむ
:いや違うぞ、ニルヴニウムだw
:ややこしい
:掲示板で言ってた気がしたけど忘れたな
:なんだかんだ危なげなくここまで来れてんな
:ちゃんと実力あるんだよなー
「おおっありがとう褒められちゃった」
:腹立たしいことにな
:ウザいよ
:調子にのるな
「ひどい。なんでだよ素直に褒めろ」
:ボスって話で気になったんだけど、ここのボスってなんだろう?
:気になるけど、深層に何がいるかなんて判明してるのか?
「それなんだけど。おそらくあれだろう、と言われてるのがいて
:おお、よし見に行こう
:特攻だ!
:ペンギンのちょっといいとこ見てみたい
「行かないよ。絶対行かないよ」
:ブーブー
:なんでだよ行けよ
「さてそろそろ? お待ちかねの? デュラハンが出てきてくれてもいいんだよ?」
︙
︙
「はい。ということでね。森に入って12時間経ちました。すっかり夜です。現実時間では今午後1時を回ったところくらいでしょうか。そろそろね。出てきてくれないとね。デートに間に合わなくなっちゃう訳ですよ。……スゥ──……そんなわけでえ! よろしくっ! おぉ願いしまあーすっ!」
:叫びおった
:危ないことをw
:もうやけじゃんw
:草
:待ち合わせの女の子に怒られればいいんだ
:むしろ振られてどうぞ
:草
:草
「ああーっ! コメントで草とか言うから、アイボールフィーラーが現れたじゃん!」
:なんだよw
:人のせいにすんなw
:www
:3体来たwww
:笑
︙
︙
「……はい、ということでね……あのぅー、あれだ。また2時間、経った訳ですけども……」
:やる気なくしとるやんw
:おい、真面目にやれやw
:これはフラれたな、よし
「もう今日は帰ってもいいんじゃないかって、そう思ってますけども? ダメ? ダメ……えーメンバーが何故かいい笑顔でダメって言います。こいつらもデートを妬んでやがります。世界が敵色だぜ」
:ざまぁ
:仕方ないね
:お前が幸せになることを、俺たちはゆるさない!
:そうだ!
「もうやだこいつら……そうやって、ん……? シぃぃ……。あれ! あれ見てあれ」
:え
:あ
:あ
:えー
:あれそうっぽい
:なんだと?
「だよねだよね。ついに……見ィィィつけたあああアアアア────ッ!!」
:怖い怖い怖い
:うぉ速ぇ
:飛び跳ねるあの動きよw
:蛮族かな?
:浮かれっぷりがもうゴブリンなんよ
:デュラハン今びくってなってたやんけw
:デュラハンかなり強い、んだよね?
:メチャ強いよ
:それなのに……デュラハンかわいそう
:でも倒したところで経験値もあんまりおいしくないから
:鎧は割といい物だから売れるけど、嵩張るんだよね
:倒した人かわいそう
:そういやデュラハン馬に乗ってるとこ見たことないな
:そうなんだよな馬とセットだと思ってたのに
:へーそうなんだ
:あ、もう倒した
:なに気にパーティとして優秀なんだよなぁ
:腹立たしいことに
「はい! 倒しましたー。さっそくヨロイの中身はぁー? ……空ッ! これはやはり従来の予想通り、悪霊系憑依型動く鎧亜種のアンデッドだったということかっ?」
「いや」
:え
:だれ喋ったの?
:ベアさんだ
:他の隊員しゃべるんだ
:おっと?
:剣を突き下ろしたが
:なんかある?
:なんか刺さってる
:何あれ?
:さあ?
:白っぽい心臓?
:きもぉいぃー
:説明してベアさん!
「うぇ、なにこれ? え、ああ、なるほどねこいつが本体で間違いないっぽいよ。鎧の中に菌糸を張り巡らせて操っていたようだ」
:え?
:デュラハン? お前……
:あ、もしかしてだから経験値低いんか!
:なる! 本体を取り逃してたワケだ!
:ほえー
「うんうんたしかにそれならなっとくおとく」
:お得ではない
「つまるところ、デュラハンはマイコノイドの仲間、植物系モンスター。きのこの怪人と、そういうコト? はーん。頷いてるんでそういうことみたいだよ、みんな」
:デュラハンさん?
:お前きのこやったんか
「あー、そういや先日、クオン島の探検動画の中でさ、着物を着た奇妙なモンスターがいたんだよね。着物を着たきのこのモンスター。マイコハン。たぶんあれがデュラハンと同属なんじゃないかと思う」
:そんな配信あったんだ
:マイコハン……
:www
:舞妓はん
:マイコノイド+ハンか
:ハンってなんだよ
:親しみを込めた呼び方だよ、マイコノイドハン
:マイコノイドハンウケるw
:じゃあデュラハンもそうなの? デュラさんなの?
:www
:デュラはデュラスチールから来てるらしいぞ
:軽くて丈夫な合金だから動かしやすかったんかな?
:じゃあ、ハンってなんだよ
:親しみを込めた呼び方だよ。デュラスチールハン
:w
:だからそれは違うだろって! 結局、ハンってなんなんだよ
:おい! 聞いてるだろ!
「さあ! 今日もやってまいりましたシリーズ『カロン探検隊』ですが! 怪異デュラハンの正体に迫る! てことで見事正体を突き止めました! どうぞ高評価お願いしぃ、ますっ!」
:あれ? そういう導入だったっけ?
:おつー
:おつ!
:おい、ハンは!
:ここで終わる?
「はい。今日はここで配信を終わりにします。これからダッシュで帰ってデートに行きます。現実時間で4時! まだ間に合う!」
:おいおいおいもうちょっとゆっくりしていけや
:おい、ハンは⁉︎
:低評価入れました
:死ねばいいんじゃないかな
:確かに死ねば一瞬で帰れるな
:荷物全部ぶちまけるがそれもやむなしだよな
:何日かインできないけどそれもやむなしだよな
:そうだな。では逝け
:逝け
:逝け
「ゆっくりしてられないから。低評価やめてー? やむなしじゃないんだワ。死なんから僕! 僕は死にましぇん! それじゃあみんなばーい、センキュ──あ! ほらぁ、みんなが変なこと言うからモンスター来ちゃったじゃん」
:ウケる
:ざまあ
:よし逝け
:え
:あれ
「──え?」
:ベアさん!
:首落ちたア
:えっぐ
:なにあれっなんなん?
:飛んでる虫系モンスか?
:黒いもや? でよく見えん
:2メートルくらいあるぞ
:デュラハンよりデカい
「ハト! 解析!」
「な⁉︎ ダメだ! 表示がバグってる⁉︎」
「不具合かッ?」
「わからないって!」
「くそ」
「ガッ⁉︎」
:うわ、またやられた!
:おい! そいつ排外蟲だ! なんでこんなとこに!
:イルカさーんッ‼︎
:排外蟲? 排外蟲なにっ?
:錆色の甲殻が張り付いたデメキンみたいな目の翼竜型
翼は蛾のように毒々しく、不自然な角度で5、6枚背腹手脚などについてる
排外蟲の一種で
威力偵察を行なってるってウワサの種類だ
:めっちゃくちゃ詳しい
:グランドクエストの敵だったっけ
:おいペンギン聞いたか?
:あー世界の脅威かーこれかー……キモいな
:ちょっと戦いたくない部類だよなー
:あ、ハト!
:うわっ口吻みたいのに貫かれて木々の間に消えた
:ひえっ
:悲鳴が聞こえ……
「く、そぉっ!」
:そうだ逃げろ逃げろ
:あー、離脱。結果だけおせーて?
:急げ急げ
:ひえ
「──ッ!!」
:カバさんやられた!
:給食の鍋ぶちまけたの思い出した
:トラウマんなるてぇこれぇ
:久しぶりにグロ耐性テストはじまた
:これはアカン
:待ってグランドクエストのバグって何体いんの?
:1体でこれ? 上位種だよね? さすがに
:術士クラスがいなかったのも痛かったな
:あぁ……また
:あ2人反転した!
:一矢報いるつもりか!
:うおおお
:やれ!
:がんばれ!
:やっちまえ! ペンギン! ハシビロコウ!
:メンバーの中でハシビロコウだけ長いんだよなあ!
:あ
:ブラックアウトした
:今さぁー
:うん、言わんでいいよ
:顔面、貫かれてなかった?
:うん、言わんでいいて
:エッグ
:はいはい、卵みたいにね
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夢を見ていた。
いつも同じ何人かにちょっとお邪魔して、ちょっと彼ら彼女らの生活を覗き見る。
ああ、これは──と気づく。
これは、わたしの力を継いだ者たちだ。
わたしの不甲斐なさから、願わくばと。
強制するわけではない。しかし、願わくば世界のために戦ってほしいと思ったのは事実。
未練か、後悔か。そうなのだろう。
もう少し、もう少し早く勇者さまに出会っていれば──……。
そう思ってしまう。
魂まで投げ渡したくせに今さらなにをと思う。
それでも、もう少し早く出会っていたら……。
共に戦っていけただろうか。
最後まで一緒にいられただろうか。
少しずつ、少しずつ。この宝珠に蓄えた力がわたしの最後の戦う力だ。
できるだけ多くのバグを道連れに、できるなら、バグの中枢に致命打をと溜めてきた力だ。
勇者さまがこの世界に呼んだ英雄たちと逆侵攻をかける日には届かないかもしれないけれど、なんとか対神霊として生み出されてしまった
「リリルリ様。ヴァズ教に潜入してるフクから連絡がきました」
翼をたたみ、膝をついた
「どうでした?」
念話の結果を尋ねる。
十分な力があれば人を介す必要もなかったのだが。
「ヴァズ教は神域と定めた山を中心にぃ、周辺諸国を巻き込んで隆盛著しいよう、だそうです」
「人間上位の社会ですか」
「昆虫人に対しては相変わらず苛烈な迫害を続けているようです。カイ教門下の神霊たちについては狐狸・虎狼の
思わずため息が出た。
「ヴァズ教の神格者たちは3人もいてなにをしてるのです? まさか先頭に立って混乱をもたらしているわけではないでしょう?」
もはやそうであってくれという希望でしかなかった。
「修行と称し、門下の神霊たちにさえしばらく姿を見せていないようです。今は彼らの中の上位者にまとめさせているようです」
思わず眉間を揉みほぐしたくなったが、籠手が鎧をごんと叩くのみだった。
しかし、最悪の事態は免れた……だろうか。
「一体、彼らはなにをやっているのでしょうか」
どうするべきか。
鳥人のイスカが急に立ち上がった。困惑と焦燥。
「リリルリ様。フクが狙われたようです。途中で連絡が途絶えました」
軽口を叩く小さなフクロウの姿を思い描く。
「どの辺りかわかりますか?」
「はい。おおよそは」
「ではフクを迎えに行ってください。わたしは話をしに行ってきますから」
「お一人でですか?」
「大丈夫です。姉弟で話し合うだけです。それと、勇者さまから魔道具を1つお借りしましょう」
イスカと共に勇者さまの工房へと行き、お留守の工房内から魔道具を拝借する。
「コムリンクと言っていましたか、これで念話のように連絡が取れます。一つ持っていてください。使い方は耳にかけて、2回タップすればこっちにかかります、都度、連絡をお願いします」
「はい」
「では、フクをお願いしますー」
城のベランダに出る。
バックパックの2本のタンクから炎を噴射し、飛び上がった。
シュゴォォオオ──と空を駆ける。
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そこは、地上世界から見れば峻険で厳しく人の住むことの叶わぬ山々だった。
が、帳を越えた向こうには、荘厳な神殿の数々と神々の華やかな世界が広がっていた。
振り返れば雲海を越えて自由に下界を見ることができる。
「ようこそ。神の園へ」
柔和な笑みを浮かべた男が出迎えた。
「神の園?」
「はい。人は死ねばその魂は精霊の導きを受け、ここ神の園に昇るのです」
「あ、そう。弟たちは? なにしてるの?」
あえて弟という言葉を使った。
「今の時間は瞑想をなされておられる頃合いかと」
「わざわざ会いに来たので通ります」
「承知いたしました。ご案内いたしましょう三貴神の元へ」
「……三貴神」
自分たちで名乗ったのだろうか。三貴神。
「はい。尊いお方です」
はい。まあいいけど。
「あなたは?」
「クレイスと申します。霊聖の位をいただいております」
「霊聖……」
「はい」
「他にもあるんです? その位というものが」
「はい。霊大、霊超などさまざまございます。私どもは偉大なる三神の下〈
「そ、そうですかー」
やがて、針のように鋭い黄金の尖塔が青空に伸び、中央には煌めく山のように巨大な神殿がそびえていた。
まあ最初から見えていたけども。あまりにキラキラしくて。
廊下を歩き、アーチをいくつか潜り、庭園を横目に三神の巨像が迎える広間へと辿り着くと、1人の若者に迎えられた。
「ようこそ。姉上」
「うえぇ」
ここまで案内してきたクレイスが一礼して下がっていく。
「お前が言い出したことだろう」
若者は苦笑して言った。
どうやら入り口のやり取りも見ていたらしい。
ヴァレリー。これで下界でキャーキャー言われていることを知っていた。勇者さまは「おお、アイドルみたい。いやそのものか」と言っていたけれど。
気を取り直して言った。
「他の2人はどうしました?」
「会う必要がないってさ。感謝してよ? 俺はわざわざ顔を出してあげたんだから」
ヴァレリーは前傾で、子供へ言い聞かせるように指をさした。
「あなたたちは、なにをしているのです?」
「なにって、世界を統べる準備をしているよ」
「バグは、どうするのです?」
「あんな羽虫など」
「本気で言っているのですか?」
「だって実際お前たち程度の力で食い止められているじゃないか。100年もさあ。100年祭とかやっちゃう? あ、勇者にとっては30年とかそんなものだっけ? アレがいろいろ企んでやってるんだろう?」
全部知っているとでも言いたげに。
「ヤバくなったら俺たちが助けてあげてもいいし。ちゃあんとさ、その時は俺たちの足にすがってお願いしてよ? あのお前たちの道具で記録してあげるから」
「勇者さまは元の世界でご自身の存在を消してまで、この世界のために必死にがんばってくれているのです。どれほど苦労して、世界が危機にあっても動こうとしない超生物たちを引き入れ、今の防衛戦を構築したか、あなたたちも知っているでしょう。勇者さまは、わたしたちの尻拭いをしてくれているのですよ?」
「知らないよ、そんなの」
苦しみ悩んだ決断を、その一言で片付けるのか。
「なぜ一つにならなければならない時に、世界を守ろうとしている同胞を害するのです?」
ヴァレリーは軽蔑を隠そうともせず、息を吐いた。
「いい加減にしろ。我々こそが一つの世界を実現しようと骨を折っている。人々をまとめ上げているだろうが。なにを言っている。ああ、もしかして亜人種のことを言っているのか? それこそ馬鹿なこと。アレらは人ではない。昆虫人? フンッ、バグだろう。どう違う? バグは消す。お前たちもやっていることだ」
これまでにも多くの仲間たちが死んだか、消えた。
見てきたはずだ。お前たちにもいたはずだ。
不快だった──心の底から。
「おまえは」
「バグと貴様らで潰し合えば、この世界もだいぶんスッキリするだろう?」
「なるほど。それを狙っていましたか」
「おっと喋りすぎたかな、はっは。貴様はここに留まってもらう。もはや大した力も残ってなかろう。わずかな余生をここで楽しく暮らしたらよい。同じ神として、最後の情けだ。感謝せよ──ぷげらぁっ⁉︎」
ゴツい鎧の拳がヴァレリーの顎を捉えた。錐揉みしながら飛んでいく。
沈黙の魔法で激烈な噴射音を地味に消しての一撃だった。
「ロケットパンチ、デス」
「ざけんヴァア!」
ヴァレリーが血だらけの顎を抑えながら叫んだ。
「わたしもあなたたちに相応しい呼び名を与えましょう。三貴神なんかよりずっといい。これからは
「ふざけるなッ!
柱の陰から、扉の奥からぞろぞろとヴァズ教門下の神霊たちが現れた。
「神兵たちよ!」
ヴァレリーがそう発した。
その彼らの背後から、君臨するようにヴァレリーが頭上に浮かび上がる。
神兵たちは足並みを揃えて前進した。
神霊だ霊聖だ神兵だなどと言ったところで、詰まるところ彼らは未だ──人間だ。
リリルリは、揺るがずに立った。
霊獣に騎乗した神兵たちが先陣を切り、正義をもたらすべく剣と槍を構えて駆けた。
彼らの鎧は機能性よりも装飾を重視していた。黄金の武器で武装した神兵の列がその攻撃に続き、リリルリの防御に激突した
上からヴァレリーの声が降ってくる。
「お前は長い間、その辛さと、その妄想に囚われてきた。その結果、お前の可能性は喰い尽くされてしまった。今残るのはその哀れな壊れた抜け殻だけだ」
背後から黄金の槍が飛び込んできた。稲妻を撒き散らして鎧の背を貫いた。
「あーあーあー、情けないねえさんだなー。このくらい見えていると思ったよー」
リリルリは混沌たる状況下を、意に介していなかった。神兵の剣が、槍がリリルリの鎧を引っかく中、リリルリは一つの宝珠を握った。握ると胸の奥が痛んだ。
宝珠が手の中で解け消えた。周囲で世界がよろめいた。
リリルリが翅を広げると、白色のエネルギーの衝撃が放たれた。
神兵たちが薙ぎ倒される。
白い光の塊は、小さな妖精の形を取っていた。他に顔や服装など判別できるものはなにもない。ただ白く、内から外へとエネルギーの粒子が流れている。
【
最古参の神兵たちはリリルリの姿に言葉を失った──かつて怖れすら抱いたその象徴たる拳がそこにあった。プレイヤーの拳術スキルを監修したリリルリの魔法の拳が。
「其方たちの行いがどういうことかを知りなさい」
白く腐敗したこの巣穴を叩く。
ヴァレリーが唾を飛ばし、裏返った声で喚いた。
神兵たちがリリルリに殺到する。
リリルリは旋回し、男の脇腹に拳を叩き込んだ。輝く鎧も肋骨も砕けた。
背後に迫る槍兵は睨みつけただけでその場に凍りついた。
1人の剣士が人波を割って前に出る。神兵にさえ振るえないような重く巨大な武器を振り下ろしす。獣じみた悪意の唸りが、轢き潰してやると予告していた。
それを、無造作に掴んで放り投げた。
落下地点の三人がその武器の重みに耐えかねて潰された。
リリルリの攻撃は人間には捉えられない速度で、また受け流しも同様だった。拳と剣が繰り返し交錯するも、手の動きがぼやけるように舞って拳が一方的に叩き込まれた。
猛攻は危険で容赦なく、和睦や交渉の余地はもうなかった。
神兵たちはもはや問題ではなかったし、どうでも良かったが、彼らは既に悲惨な姿になっていた。想定よりも簡単だった。
三神の居城の床は血で濡れていた。
ヴァレリーは逃げ出した。ヴァレリーは誰よりもその妖精の怒りを知っていた。
リリルリはそれを追いかけた。稲妻の速度で強襲した。ヴァレリーの鎧が軋んでその威力に胸がベコりと陥没した。
それでもヴァレリーは苦痛のうめきを発しつつ、笑いをこぼした。
「リリルリ、カロンは我々のもの──だッ⁉︎」
リリルリはヴァレリーの顔面を鷲掴みにして、続く言葉を黙らせた。
「我々で、統べるのが正しいことなのっ──ガァアッ‼︎」
掴んだ頭を床に叩きつけて続く言葉を黙らせた。
「わ、我々は! 我々は神な──」
落ちてた剣で首を刎ねた。
ヴァレリーの体が光に包まれ飛ぶように消えた。
そこには苦々しい満足感があったが、束の間以上に気に留めることはなかった──どうでもいい、そう気づいた。
宗教を信じたことはなかったし、神と会ってさえ神性を信じようとも思えなかった。
後に自分自身がそちら側に立ったとき、立ててしまったとき、感情は冷めてしまった。
顔を上げると、集まってきた無事な者たちが遠巻きに取り囲んでいた。
そう、これだ。
自分は独りだと、感じていた。
一番自分というものがどうでもいいと。
けれど、いつからか前方を照らしてくれる光が、そうではないと教えてくれた。
「リリルリ様!」
イスカや教区で情報収集に当たっていた者たちが迎えに来てくれた。
「フクは大丈夫でしょうか」
「はい。重傷でしたが、命に別条ありません」
「そう。よかった」
鎧に戻り、ふらつく身体を支えてもらう。
「帰りましょう、リリルリ様」
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ルーンフェイトの城下町が一望できるバルコニーで、柵の隙間に短い脚を通し、ぺたりと床に座る。
鎧が夕日を鈍く反射する。
貫かれて穴が空いた背中には、大きな絆創膏が貼ってある。
足音が聞こえ、上を見上げると勇者がいた。
「勇者さまー」
「うん」
勇者は横に座ると背中の絆創膏を優しく撫でた。
「勇者さまー」
「うん?」
「今までありがとうございましたー」
「……」
「わたし、たのしかったですー」
「……いくのか?」
「はい。残り滓が、ずいぶんと長く居座ったものだと思います。できれば見届けたかったですが、贅沢というものですね。これでお別れです」
「……」
「……」
「……寂しいよ、リリルリ」
籠手が覆う分厚いミトンのような手で、リリルリはそっと勇者の袖をつまんだ。
「っ、ぅぅ…………ほんとうは、……もっと! もっといっしょにいたかったです! ずっと! いっしょに……」
「うん」
「勇者さま……」
「うん」
「いやだよぉ。消えたくないよぉ……勇者さま────……」
鎧が後ろに倒れていくのを、勇者はそっと支えた。